MISSION no.3[懐古]
[ARMORED CORE BATTLE OF ROSE]MISSION no.3[懐古]『――次のニュースです。本日、午後5時頃、大手企業クレスト・インダストリアルが所有する、 倉庫、製鉄所、及び兵器生産工場が、特攻兵器「UNKNOWN」によって襲撃、破壊されました。被害は予想以上に甚大で―――』テレビ画面には、UNKNOWNによって叩き潰され、黒煙を上げている工場「だった」物が映されていた。黒い鉄塊となったその工場は見るも無残に破壊され、かつての面影はどこにも残されていなかった。「感謝するですよ、水銀燈!翠星石が助けに行ってなかったら、今頃おめぇはこの辺に映っているはずですぅ!」テレビ画面の左端辺りを指さしながら、そう言う翠星石。「…あんな無茶苦茶な操縦の後じゃ、感謝の気持ちも失せるわぁ…」「なにか言ったですか?」「なぁんにも。…あえて言うなら、首と腰が激しく痛むわね…。ついでに頭も…」首と腰の痛みの原因は、言うまでもなく翠星石のぶっとんだ操縦であるが、頭痛の原因はそれとは違っていた。「はぁ…。真紅の言った通り、私も堕ちたものねぇ…」と、コアだけになってしまった自分の愛機を見上げる水銀燈。そのコアも所々装甲が剥げており、ほとんど原型を留めていなかった。「修理代ってレベルの話じゃないわぁ…。AC一機丸ごと買い換えないといけないじゃなぁい…」「翠星石の予備パーツなら貸してやるですよ?」「パーツがあっても組み立てるエンジニアがいないわよぉ…。おばかさぁん…」ここは翠星石のガレージ。普通のレイヴンのガレージならば、ACの整備をする技師達が待機しているのが普通である。しかし、レイヴンとして活動してから、特に目立った戦果を上げていない彼女には、技師を雇う余裕などない。いくら一機とはいえ、UNKNOWNを木っ端微塵にする腕の持ち主である翠星石。なぜ、今までに大した活躍をしていないのか?「…どんな理由があっても、人が人を殺すのは間違っているですぅ…」「…はぁ?」―――翠星石がまだ幼い頃、彼女の住んでいた村には、一人のレイヴンがいた。そのレイヴンは余程の腕の持ち主らしく、たびたび飛来する特攻兵器を全て撃ち落とし、一度も村に到達させたことはなかった。そのレイヴンは、言ってみれば「英雄」だったのだ。しかし、善のみで構成された人間などいるはずもなく、そのレイヴンも「裏の顔」を持っていた。その頃、丁度バーテックスが崩壊し、再びアライアンスが「政府として」静かな統治を始めようとしていた。そう。そのレイヴンは、アライアンスの統治に反対する武装勢力―――つまり、テロリストだった。そのレイヴンはこう考えた。まだバーテックスによる混乱が収まってないアライアンスが、こんな辺境の村まで捜索する訳がない、と。そうして村を隠れ蓑に使い、今まで無事平穏にすごしてきた。だが、平穏はいつまでも続くものではなく、何とか平静を取り戻したアライアンスによって、ついに捜査のメスが入った。しかし、村にとってそのレイヴンは英雄であるため、村人達は何を聞かれても知らぬ存ぜぬを貫き通し、レイヴンの所在を言おうとはしなかった。ついに堪忍袋の緒が切れたアライアンスは、村を破壊してレイヴンを炙り出す作戦を決行した。そして、アライアンスのMTの大部隊が村に攻撃を開始し、森に火を放とうとしたその時―――。―――「英雄」が現れた。作戦通り。と、ほくそ笑んだアライアンスだったが、炙り出した後のことを考えていなかったのが運のツキであった。今まで、自分の内情を薄々知りながらも、自分によく接してくれた村人達。その村を破壊しようとするアライアンスに対して、そのレイヴンは憤慨し、容赦のない攻撃を浴びせかけた。40機いた部隊は、1分後には20機、2分後には10機、3分後には、5機しか残っていなかった。敗北を悟り、撤退を試みるアライアンス。だが、レイヴンはそれすらも許しはしなかった。MTを殴り、蹴飛ばし、引きちぎり、コックピットをACで直接叩き潰すレイヴン。凄惨なその反撃は、翠星石の心に大きなトラウマを植えつけた。「―――その時から、ACには絶対乗らない、絶対に人殺しはしないって決めたですぅ…」「ふーん…。じゃあ、なぜ今は乗っているの?」「……それは………その…………」「…いえ、いいのよ。無理に言う必要はないわ…」「………………」「………私にも、同じような時期があったしねぇ…」「…え?」「独り言よ…。気にしないでちょうだぁい。…でも、そんな中途半端な気持ちじゃ…。この先、死ぬわよ」「…で、本当にどうしようかしらぁ……」「アテがあることはあるです…。でも、あまり期待できそうにないかもですぅ…」◇―――翌日―――――ここは何処――? 『…………………』狭く、薄暗く、周りに計器類が沢山ついている。――ここは、ACのコックピット――?『……………と……』前方に見えるのは、薙ぎ倒される木々と、鮮やかな炎。そして、不気味な朱色の兵器。それと対峙する、燃えるような紅のAC。――あれは、もしかして―― 『…す………と……』互角に渡り合う2機。しかし、徐々に朱の機体が劣勢になる。――前にも、一度見た気がする―― 『……い…んと……』右手を突き出し、朱の機体を吹っ飛ばす紅のAC。――いけない、止めないと―― 『…す…ぎん…う…』止めを刺そうと、接近するAC。ACの右手が、朱の機体に触れる。その瞬間、相手の機体が強烈な光に包まれ―――「水銀燈ぉっ!!いい加減起きるですよぉっ!!」――耳が痛い。頭がモヤモヤする。夢を途中で遮られたからだろうか――。「…朝から元気ねぇ…。もう少し落ち着いたら――」「それどころじゃねぇです!!外を見るです!外をっ!!」「外ぉ?」翠星石の声の調子から、ただ事ではない事を感じ取る水銀燈。カーテンを開けて窓の外を見る。そこには―――。「…アレって…UNKNOWNじゃなぁい…!」「でも、人型じゃねぇです…。全部イナゴ型ですぅ…」青い空一面を埋め尽くすUNKNOWN。それは、さながら農作物を食い荒らして移動を繰り返す、イナゴの群れのようであった。西から東へ、朱色のカーペットのように飛行するUNKNOWN。幸い、ここは見かけの上では完全に民家。ガレージは地下にあり、そこへの入り口も洞窟に偽装されていた。そのため、ここに攻撃を仕掛けてくる様子は無い。「…おかしいですね…」「…えぇ。おかしいわぁ…」「…なんであのイナゴモドキは、海の方へ向かっているですか…?」なぜか海上へと移動していくUNKNOWN。これまでの経験上、UNKNOWNの標的は「戦力となるもの」だけのはずであった。しかも、この東の海は世界で最も広く、そのまま移動した場合、陸に着くころには世界を半周しているだろう。海上に軍事要塞が建設された記録もなく、かと言って艦隊等を攻撃するのには数が多すぎた。「もしかして、本当にイナゴの習性があったりするですかね?」「そんなワケないでしょぉ、おばかさぁん」「…あっ!海に向かって突撃したです!」今度は、一斉に海中にダイブしだしたUNKNOWN。ドォン、という爆発音と共に、小さく、鈍い振動が伝わってくる。恐らく、海中で自爆しているのだろう。「…イナゴの集団自殺ぅ?本当にワケがわからないわぁ…」「…一応、空にUNKNOWNはいなくなったですね…」「ま、危険がなくて良かったわぁ。…じゃ、おやすみぃ…」「なっ!まだ寝るつもりですか!」「『まだ』って…。今は朝の4時よぉ…?」「一回起きたんならずっと起きてろです!さもなくば、水をぶっかけスコーンを口に詰め込んでやるですよ!」「…わかったわよぉ。わかったから、ホースを引っ張り出すのはやめなさぁい…!」◇「さぁ、今日も一日元気に過ごすですぅ!」「はぁい………」翠星石に朝早くからたたき起こされ、眠気でフラフラしている水銀燈。10時間は睡眠をとらないと体が持たない…らしい。「で、昨日言っていたアテって言うのは?」「えっとですね…。南の山を越えた先に、小さな研究施設があるです。 表向きは『環境開発』ってことになってるですが、実際は生物兵器の研究が主流ですぅ。 翠星石も、よくそこで仕事をもらってるです」「仕事ねぇ…。例えば、どんな?」「色々あるですが…。例えば、真っ白い粉を運んだりとかですねぇ…」「いきなり危ないわぁ!!」「いえ、真っ白い粉は冗談ですが、主に物資の輸送ですね。 たまに盗賊まがいの集団が荷物を狙ってきたりするですから、そいつらを撃退したりもするです。 …当然、狙うのは脚と腕だけですよ?行動不能にしてやるだけですぅ」「ふぅん…。ま、行ってみる価値はありそうねぇ。いざとなれば、その生物兵器とやらのデータをかっぱらって…」「…本当にやりそうで怖いですぅ…」◇再び、コックピットのみで移動する水銀燈。実際に移動しているのは翠星石機だが。「ちょっと翠星石ぃ!もう少しゆっくり移動できないのぉ!?」「一日は短いのです!時は金なりです!一分一秒たりとも、無駄にはできないのですぅ!!」「結構な心構えねぇ!!でも一緒に移動する人の気持ちも考えてくれると、もっとありがたいわぁ!!!」普通なら、AC全体のアブゾーバーによって、OB使用時の反動はかなり軽減される。しかし、今の水銀燈にはコックピットしか残されていない。当然、ショックはほぼそのまま水銀燈に伝わる。そんなこともお構いなしに超高速で移動する翠星石。普段から使用しているので癖になっているようだ。「さっき言わなかったですか?この辺りはよく武装集団くずれのならず者が襲ってくるです。でも、高速で移動すればさすがに狙えないはずですぅ!」「襲われるより前に、私の頚椎が粉々になるわぁ!!」「―――おっと、着いたですよ!」「ぐぇっ!―――だから、急停止・急発進はやめなさぁい…。危うくムチウチになるところだったわ…」コックピットから降りる二人。目の前には、中程度の大きさの研究施設―――と言うよりは、普通の商社のような建物があった。入り口には、こう書かれた看板があった。『トライトン環境開発研究所』―――。To be continued...
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