もしローゼンメイデンのポジションが逆だったら R 第2話ー3
「させない!」 再びめぐのメスが真紅へと狙いを定める。だがその前に、真紅は意を決した。「分かったわよ! すればいいのでしょう!」 真紅はジュンへと駆け出し、そのままジュンの指輪へと口付けた。 その瞬間、ジュンの体を縛っていたチューブは弾け飛びその場に飛び降りた。「しまった…!」「形勢逆転だな」 正式に契約した事で力を得て、刀を構えるジュン。そしてそのまま一気に間合いを詰める。 めぐはその速度に対応しきれず、防御もとることが出来ない。「終わりだ!」「きゃああぁぁ!」 その掛け声と共に腹に二本の刀が直撃し、そのままめぐは後ろへと吹き飛ばされていった。 吹き飛ばされためぐは地面に倒れこんだまま動かない。「…こ、殺したの…?」「いや、みね打ちだ。死んではいないはず…」 しばらく倒れていためぐだったが、やがて腹を押さえてよろよろと立ち上がってジュンを睨む。「…情けを掛けたわね…!」「別に、殺したら夢身が悪くなるだけだよ」「…今度こそ…」「もう止めとけよ。無駄な足掻きだ」「そんな事…!」「それに…幾らなんでも力使いすぎだ。そんなんでミーディアムは大丈夫かよ…?」「っ!? まさか…水銀燈!」
「水銀燈ですって!?」 ジュンに言われて、めぐは慌てて空間に扉を開いてその中へと消えて行った。 真紅は水銀燈の名を聞いて激しく動揺する。「ジュン、水銀燈ってどういうこと!?」「…詳しい事は分からないけど、めぐのミーディアム…簡単に言えば契約主だ。僕で言う真紅だな」「じゃあ、水銀燈も私と同じってこと…?」 水銀燈までローゼンメイデンと一緒だったなんて全く知らなかった。「だろうな。…僕たちドールはミーディアムから力を貰って動いたり能力を使ったりしてる。ミーディアムがいなくても力は使えるけど、いない時と比べれば劣る」「…力を貰って…? そういえば、なんだか疲れた気が…」 真紅は急に疲れを感じ、その場に座り込んでしまった。「気じゃなくて、実際体力使ってるんだ。僕が力を多く使えば、その分ミーディアムの体力も減る」「じゃあ、水銀燈は…追い駆けましょう!」 言うや否や、真紅は駆け出してめぐの消えた扉の中へと飛び込んでいった。後に続いてジュンも飛び込んだ。
「水銀燈、しっかりして!」 二人が行きついた先は水銀燈の部屋。 その真ん中で水銀燈は青白い顔をして床に倒れており、めぐが縋り泣いている。「水銀燈!!」 慌てて真紅が駆け寄り抱え起こす。すると、少しだけ水銀燈の目が開いた。「真…紅…? どうしてここに…?」「良かった、生きてる…!」 とりあえずホッとすると、そのまま抱き上げて水銀燈をベッドに寝かせつけた。 その光景を、ジュンとめぐは黙って見ていた。「……め…ぐ…」「っ…、なに?」「…あの歌聞かせて…お願い…」「歌…? 分かったわ…」 めぐは目を閉じて息を吸うと、静かにあの歌を歌い始めた。
…からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ……からたちのとげは痛いよ 青い青いはりのとげだよ…
静かに、それでもしっかりと心を込めて歌う。 自分が勝手に暴走して、水銀燈を苦しめてしまったことを後悔と謝罪しながら。
…からたちは畑の垣根よ いつもいつもとほる道だよ……からたちは秋もみのるよ まろいまろい金のたまだよ…
やがて歌い終えて水銀燈を見ると、目を閉じてゆっくりと息をして眠っている。 水銀燈の枕元に立って、めぐは大粒の涙を零しながらその場に崩れ落ちた。「水銀燈…本当に…本当にごめん…! 私が…バカだった…!」「…めぐ…」
しばらくしてめぐが落ち着きを取り戻すと、ジュンは事の経緯を尋ねた。「…それで、どうしてこんな事をしたんだ? 一番温和で優しいお前が…」「それは…」 ジュンに聞かれてめぐは躊躇ったように口をつぐんだが、少しして口を開いた。「言われたの…水銀燈を元気にするには、誰かのローザミスティカを奪って得た力を水銀燈に与えろって…」「…そうか…誰に言われたんだ?」「それは…」 再び口を噤むめぐ。だが、めぐが答える前に別の声が鏡から響いてきた。「私よ、ジュン」「鏡から…!?」 三人は鏡の方を向き警戒態勢をとる。 鏡は波打って光り輝いていており、その中からゆっくりと人影が現れた。「…やっぱり巴の悪知恵か…」「悪知恵だ何て人聞きの悪いことを。せっかくやる気を出させてあげようと思ったのに」「巴…」「めぐ、やっぱりあなたはダメね。このジャンク」「っ…!!」「少しはやる気になったと思ったらこのあり様…元々ジャンクのクセに使えないミーディアムを持って…」「巴、お前…!」「水銀燈をバカにするのは許さない!」 怒りに身を任せためぐは水銀燈の机にあったカッターやボールペンを浮かび上がらせて、それを一直線に巴へと飛ばす。 巴はそれを軽々とステップしてかわし、背中の木刀を手に取った。
「せっかくだから教えてあげる。ローザミスティカがどうのこうのっての、アレ全部出鱈目よ」「何ですって!?」「腑抜けたあなたをからかって楽しんでやろうって思ったのよ。結構な見ものだったわ」「そんな…!」「てめぇ…ふざけやがって!」 あまりにも非道な行為にジュンも怒りを押さえきれずに怒鳴り、しまった刀を再び取り出した。「巴…! 絶対に…絶対に許さない!!」 めぐは怒りが頂点に達し、部屋の窓ガラス全てを割ると鋭く尖った無数のガラス片を巴へと向けた。 だが、巴は顔色一つ変えずに小ばかにしたような笑みを浮かべる。「いいの? そんなに力使っちゃって。その娘は大丈夫?」「っ…!」 巴にそう言われ、めぐは力を緩めて浮かべていたガラス片を全て床へと落としてしまった。 それと同時に、巴の手から木刀がめぐに向かって一直線に投げつけられる。「がっ…!」 めぐは避ける間も無くその攻撃を腹部に直撃してしまいその場に倒れてしまった。「めぐ!」「ジュンは後でゆっくり調理してあげる。その前に、そこのジャンクからローザミスティカを貰うわ」 更に第二、第三の木刀がめぐに向かって飛ばされる。「くそっ!」 その木刀がめぐに直撃する直前で、ジュンが糸を放ちそれを全て絡み取って巴へと投げ返した。 当然それは全てかわされたが、その間にめぐに肩を貸し立ち上がらせた。「めぐ、彼女との契約を破棄しろ!」「そんな!?」「今のままじゃ彼女の事が気になって戦えないだろ! 破棄すれば力を奪う事も無くなる!そうすればまだ幾らか戦いやすくなるはずだ!
」
「でも…」「戦いの最中に相手を無視するなんて、いい度胸ね!」 二人の意識が話しに向いている間に、巴が勢いよく迫り寄って来ていた。 ジュンはめぐを弾き飛ばすと、刀で巴の木刀を受け止めてつばぜり合いの状態になる。「巴は僕が相手をしておく! その間に早く!」「ジュン…! 分かった!」 ジュンは巴から一旦距離を離すとそのまま間合いを詰めて斬りかかった。 それを巴は木刀で受け流し、足払いを掛けてジュンの足をすくう。「チィッ…!」 ジュンはバランスを崩したがすぐに体勢を立て直し、今度は腹目掛けて突きを入れる。 巴はそれを飛んで避けると、今度はジュンではなくめぐへと一直線に向かって行った。「!」「させないわよ!」「それはこっちの台詞だ!」 めぐまで後一歩、という所でジュンの放った糸が巴の足に絡みつきその突進を止めた。 絡め取った巴をそのままぶん回し、まだ光っている鏡台へと投げつける。「くっ!」「めぐ、先に行ってるぞ!」 そのまま巴は鏡の中へ吸い込まれ、ジュンも続いて鏡の中へ飛び込んだ。
残されためぐは鏡の方から水銀燈の方へと向き直ると、そのまま水銀燈の白い手を握った。「…水銀燈、ありがとう。私と契約してくれて…嬉しかった。…でも、これ以上あなたを巻き込みたくないから…」 白い指に着けられている指輪を愛しそうに二度三度撫でると、意を決したように唇を吸い寄せる。 やがて指輪にキスするとそれは瞬く間にひびが入り、砕けて粉々に消えてしまった。「…私も行かなくちゃ。巴だけは許せそうに無い…」 涙を拭うと睨むように鏡と向き合った。「待って!」 そのめぐを真紅は呼び止めた。「私も行く! ジュンが心配だわ!」 心底心配そうな真紅の顔。 だが、めぐは真紅に首を横に振った。「ダメよ。危険すぎるわ…」「だけど…!」「それに、ジュンも同じ事を言うはずよ。…あなたには水銀燈を任せるわ。お願い…」「…めぐ…。…分かったわ」 めぐに説得され、真紅はそこに残る事になった。 それだけかわすとめぐは鏡の中に消えていき、鏡は普通の状態に戻って行った。
その頃…。「胴ががら空き!」 隙が見えたジュンに、巴は強烈な掌底をみぞおちに打ち込んだ。「がっ…!」 まともに喰らったジュンは一瞬意識が遠のいた。 更に追撃として前かがみになったジュンに巴は木刀を思いっきり振り下ろす。 強烈な二発を喰らい、とうとうジュンは地面に手をついてしまう。「最初は油断してたけど、めぐとの戦いで疲れきってるあなたなんて私の相手じゃないわ」 侮蔑を帯びた目でジュンを見下ろし、ジュンの顔に蹴りを入れて吹き飛ばした。「うぐっ…!」 仰向けに倒れたジュンの腹を踏んで、木刀をジュンの顔の横に突き立てる。「命乞いでもする? 私の下僕になるなら考えてあげても良いわよ?」「けっ…誰がお前なんかに…」「まだそんな口がきけるのね。ボロボロのクセに」 クセに、を強調して力を込めて腹を踏みつけ、ジュンの口から呻き声が漏れた。「…めぐにジャンクって言ってたけど…お前のがよっぽどジャンクだよ…!」「何ですって…?」「その異常な性格…お前こそ本当のジャンクだ…!」
「…遺言として受け取っていいわね?」 無表情で、だが怒りに満ちた口調でジュンを見下ろしながら突き立てていた木刀を振り上げる巴。「ローザミスティカ、確かに受け取るわ」「させない!」 いざ振り下ろそうとした矢先、数本のメスが巴の手を掠めた。 手に握られていた木刀はメスにそのまま後ろへ弾き飛ばされ、巴はその場から一旦離れる。「くっ、めぐ!!」「ジュン、大丈夫?」「いって…ちょっと来るのが遅いって…」「ごめん、すぐ回復させるね…」 めぐは傷だらけになったジュンの体に手をかざし、緑色の光を出して傷に当てていく。「…後ちょっとと言うところで…」「めぐ、反撃開始だ」「ええ」 めぐのおかげでジュンの体の傷も癒えて、二人は臨戦態勢をとる。 だが、巴は後ろを振り向くとそのまま飛び上がってしまった。「逃げるのか!」「二対一じゃさすがに分が悪いわ。今度一人ずつゆっくり相手してあげる」「待ちなさい!」 めぐがメスや注射器を飛ばして巴を追撃しようとするが、それを全てかわして行く。 やがて扉が現れ、そこに逃げ込まれ見えなくなってしまった。 だが、巴の声が辺りに響いてくる。『馴れ合いだなんて下らないわ。傷をなめ合う負け犬みたいでかっこ悪い…』 「…巴…いつか必ず…」 やがて巴の声も聞こえなくなり、辺りに静寂だけが広がっていった。
第二話 終わり
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