ずっと傍らに…激闘編 第十七章~ジュンside~
僕と水銀燈は例の公園の入口まで走った。…そして僕はくたばった。水銀燈はすぐに僕を負ぶって走り出す。ジ「先に水銀燈だけ行っててよ」銀「そんなこと出来るわけないでしょ~? あんたまだ追われてる身なのよ! さっきの子がまた戻ってきたらどーするの?」ジ「いや…追われてるっていうよりは、 逃げてきた…ようなもんだし…」水銀燈はピタッと足を止めた。。銀「…ちょっと、それどういうことよ…」ジ「…」銀「早く答えなさぁい…」ジ「…」顔は見えないが、その口調からは苛立ちの念がしっかりと感じ取れる…。銀「怒らないからぁ…」…もう怒ってるでしょ…。ジ「…怖いから…翠星石が喧嘩売られてるところで逃げた…」銀「…」水銀燈は無言のまま再び走り出した。何だろう…イヤに空しいな…。──僕たちはどんどん公園に入り込む。そして再び深まる恐怖──ジ「やっぱ…行きたくないよ…」銀「あんたは翠星石に頭を下げなさい!」ジ「だって怖…」銀「だって…ですって?…」ジ「…」銀「そんなんだからナメられて…苛められるのよ!」ジ「…」銀「女の子を捨てて逃げ出すとか…はぁ…ホンッと──」ジ「…」銀「翠星石に嫌われてなければいいけど…」ジ「いや、厳密に言えば翠星石に追い出されたのも…あったり…」銀「えぇ?」うっ…。もっと早めにはっきり言っておけば良かった…。銀「いいわ。後で家に帰って話聞くから…」ジ「…」…言葉のひとつひとつが刺々しい…。日が傾いていくのが怖い…な…。銀「どのみち、話したいこともあるし──」ジ「…」銀「──さ、行くわよ。何も怖がることなんてないの。 いざとなれば私がついてるんだから、安心なさい──」ジ「…」~~~~~──公園の中心に近づくにつれ、グラウンドが見えてくる。向こうの方に…4人…?それ以外は人影が見当たらない。何とか見えたが、誰かぐったりしてるな…。不安になりつつも、だんだんクッキリ見えてくる全貌。──翠星石らしき服装の人が全速力で誰か1人を追っかけている。残り2人は足を抱えてもがき苦しんでいる。翠星石のことだから、きっと脛でも蹴られたんだろう…。ジ「…」銀「…」そして、最後の1人が追い詰められ、頭からバタンと倒された。僕にはそいつが誰かという細かいのは見えないが、水銀燈と2人で、その様子を固唾を呑んで見守っていた。ジ「…」銀「…」水銀燈はゆっくりと僕を降ろした。銀「──行きなさぁい」ジ「…え?」水銀燈はグラウンドの方を見ながら微笑む。銀「…」ジ「…うん」僕は階段を降りてグラウンドの土を踏み、一歩一歩、翠星石の方へ歩んでいった。遠くの翠星石が僕に気づいたのか、ずっと僕の方を見てるように見えた。そして走ってくる。僕は立ち止まってそれを待った。翠「……ジュ~~~~ン!!」どんどん近づいてくる翠星石。僕はそれを待ち構える。──だんだんとハッキリ見えてくる翠星石の表情。両手を大きく広げて近づいてくる。何でそんな嬉しそうなんだよw翠「ジュ~~~ン♪」ムギュジ「…」翠「…」めいっぱい抱きついてくる翠星石。そんなに勢いつけて来なくてもいいだろ!倒れそうになったじゃないか…w翠「…勝ったですよ。勝ったんですよ!あいつらに!」ジ「…」何だかまだ言ってることを飲み込めないんだけど、ひたすら嬉しそうに話す翠星石。翠「ほら、まだ誰も起き上がってないですよ?」翠星石が指を差す方では、3人はしっかり倒れたままだった。翠「ジュンをイジめるなって約束で勝ったです!」そんなことして戦ってたのか…。でも、約束を遵守するような奴らじゃないんだと思うんだけどな。──まぁ、翠星石が幸せなら、今はそれだけでいいや。心からのお礼を言いたい。ジ「…ありがとう」僕は翠星石を抱き締め返す。こいつ、喧嘩っ早いところさえなければホントイイ奴なのに。ったく、甘えんぼの翠星石め…。──しかし、僕はそんな翠星石を抱いたまま黙っていた。3人がゆっくりと起き上がり始めたことを…。…僕は振り返った。水銀燈は手を腰に当ててやれやれといった感じで僕たちを見ていた。僕は目で合図を送った。水銀燈はグラウンドの向こうの方を見て、暫くじっと見つめた。そして何かに気づいたように、向こうをキッと睨みつけ、ひとこと言うのであった──銀「帰るわよ!」…その後、3人がこちらを凝視するかのように立っているのを、僕は見逃さなかった。~~~~~銀「──うぅぅぅ…中指立てられるなんてっ!」僕の右前方を、怒り肩でカツカツと歩く水銀燈。さっき目つきが変わったのはそういう事だったのか……あの距離からよく見えたなぁ。でもたぶん、その対象は水銀燈じゃなくて翠星石なんじゃないかな…と思う。いや、最初から翠星石にされた物として受け取ってるんだろうか。翠「うっぐ…」そして僕の左側には腕を絡ませて歩く翠星石。公園を出てからしきりにハンカチで涙を拭っている。翠「うぅ…今日は泣いてばっかりでゴメンですぅ…」ジ「いやぁ…まぁ仕方ないけどさ…」市役所を過ぎたあたりまでしか北上してないので、周囲の人通りはまだ少ないものの、何だか恥ずかしい…翠「だって、ジュンとまた一緒に学校へ行ける日が来るんだなぁって思うと…」ジ「…」翠「あぁもう…余計涙が止まらなくなるじゃないですかぁ!このおばかっ!…」銀「あんたたち、いい加減離れなさい!…恥ずかしいじゃないの…」急に振り向いて甲高い声を上げる水銀燈。ジ「ごっごめんなさい!」僕は驚いて翠星石の腕を振り解こうとしたが、翠星石も驚いたのか、必死で僕の腕にしがみついてきた。翠「ジュン!」そして怒鳴られた。耳元でやられたもんだから、ビビッて軽く飛び跳ねてしまった…。でも怒鳴った本人は何故か青ざめた顔をしている。ジ「…」翠「…いや…」ジ「…あの…」翠「…」翠星石は僕を突き飛ばすようにして手を離した。翠「あっは…何で翠星石がジュンに密着してるですかねぇ~。 ば…馬鹿馬鹿しいことこの上ないですっ!」──ま~た、始まった。ジ「何だと!自分から抱きついてきたくせに!」翠「あれは水銀燈の所へ行こうとしたら、そこにた~またまジュンが居たから、 あぁなっただけですよ?…ジュンが無事でホッとしたなんて…」ジ「へぇ~」翠「なっ…」ジ「…w」翠「ぶ、ぶっ飛ばされてぇんですかッ?」顔を真っ赤にして怒る翠星石。さっきはあんな顔してたけど、別に問題なさそうだなwジ「いや…遠慮する…w」翠「ムカつくですー!…ムカつくですムカつくですムカつくです…!」もうそこらじゅうにこの声が響き渡ってそうな勢いだ。地団駄を踏んで歯を食いしばってる、そんないつもの光景。ジ「いや、ごめんってw…でも翠星石、さっきは強かったからなぁ… そのうち翠星石に本気でやられそうだよ…w」翠星石は、ぷぅっと膨れた。翠「──翠星石がお前を本気で倒しに出るわけないじゃないですかぁ…」ジ「…」──沈黙が流れた。ちょっと違和感を感じる流れに僕も戸惑った…。翠「…ななな、何て事言わせやがるですかっ!」ジ「…いやいや、お前が勝手に言ったんだろ?」翠「もう知らんです!」ジ「おい!」翠「水銀燈~♪」ダメだこりゃ…。翠「ケーキ屋に行きませんかぁ?」ジ「あっ」そうそう、本来の目的をまた忘れるところだった…しかもちょうど水銀燈居るし。銀「…ケーキ屋?」さっきまで苛立ち気味だった水銀燈の表情がぱぁ~っと明るくなった。翠「今日の目的は水銀燈にケーキを買ってやるためだったんです」銀「…?」キョトンとする水銀燈。ジ「だって最近部活で忙しそうだし、家の前で突然怒り出すし…」銀「…」ジ「息抜きもろくに出来なさそうだし、街まで出る暇も無さそうだから… ってな感じで翠星石が考えてたから、僕もここに来たんだけど──」翠「こいつは翠星石が引っ張って連れてきたんですよ!このチビ人間!」自分で突っ込もうと思ったら翠星石の方が早かったか…。まいったwジ「でも今日は練習短かったんだ…」銀「…え…えぇ」翠「今日はケーキ屋の喫茶コーナーで決まりですね♪」銀「…」さりげなく目元をなぞる水銀燈。銀「…」翠「…」ジ「…水銀燈?──」銀「ありがと…」そしてまた少し上を向いて目元をなぞった──翠「…」ジ「…」銀「でも心配しなくていいのよぉ。私は別にまだ全然平気だから──」翠「…」銀「…なぁんだ。あんたたち、ただデートしに来ただけかと思ってたわぁ…」翠「だ~れがこんな奴とデートなんぞ!──」ブー、ブー…銀「あ…」ここで空気を読まずにバイブが鳴る。水銀燈は僕らから離れ、携帯を取り出して開いた。銀「のりから…」ボソッと言う水銀燈。ねーちゃん?…来るんだw銀「もしもし…?…何で…あ、そうなんだw…何やってんのよぉ… え?何?あ、ジュンくんと翠星石は無事よぉ~♪ うん。ん?…そうよ。泣いてるとこ。 ──ジュンくんと翠星石に泣かされちゃった…」ジ「…良かったな。泣いてまで喜んでもらえて…」翠「ちょっと水銀燈を驚かしたかっただけなんですけど…」銀「──あぁん…別に何でもないから…うん… じゃいつものケーキ屋に来てぇ~。うん …うん。じゃ、待ってるねぇ~。は~い」水銀燈は電話を切った。銀「もうすぐのりが来るわぁ♪」歩くスピードを速め、スキップでもしそうな雰囲気を醸し出してる水銀燈。さらには鼻歌まで歌い出す始末wよっぽどケーキ屋に行けることが嬉しいんだろう──だが、また何か思い出したように、ふと立ち止まった。銀「あ、そうそう、家にも連絡入れなきゃ」そうだよ!忘れてた…しかもそれ水銀燈に一番大事…的なことを言われたばっかだしw銀「もしもし?あ、お母様? ジュンくんと翠星石はちゃんといたわぁ。うん。無事無事。 …それで、ちょっとお願いがあるんだけど… 今日7時までに帰るから、ケーキ屋に寄ってっていい?」僕は無事にみんなで行けるように祈った。今日は僕自身がわがまま過ぎたかもしれないけど、こればっかりは…それに翠星石の一番の目的はそれだったんだし…。銀「のりも一緒だから大丈夫だってぇ。 2人も責任持って家まで連れて帰るわぁ。 うん。当ったり前よぉ…え?夕飯? 考えてるわよそんなこと。うん。大丈夫だから」──どうやら、上手くいったみたいだ。良かった…。ほっと安心。銀「うん。ありがと。じゃ、また~。は~い」水銀燈の表情は輝いていた。銀「さ、行きましょ!」僕と翠星石は密かにハイタッチを交わした。…けど心配だ。真紅たちは僕と翠星石の事をどう思ってるんだろ…。~~~~~ねーちゃんも駅から南下してるということで、ちょっと早歩き気味に移動する。そして、水銀燈のテンションが高すぎてさらに速くなる…w少し裏路地に入ったところにあるケーキ屋。ここが目的地だ。その大きな壁のようなガラス窓の向こうに、店内の様子が確認できる。喫茶コーナーは今日も満席…あ、テーブル席が結構空いてる。銀「あの席、さっさとしないと奪われるわ」水銀燈は大慌てでに店内へ入る。銀「早く来て!」ジ「あいはーい…w」翠「そんなに慌てなくても…」確かに、ちょうど列が途切れたところで、すぐにでも注文できる状態だ。でも水銀燈は急いだ。の「お~い!」──え?と思ったら、早速後ろから…ねーちゃんの声?…ねーちゃんの登場だ。で、いきなり僕を抱き締めに掛かった。の「ジュンくん…無事で良かったぁ…」ジ「最初から無事だよ…」翠星石が苦笑いしてるのが癪に障ったから、ねーちゃんからすぐに脱出した。ジ「…で、遅いよw」の「ごめ~ん…携帯を部室に忘れててねぇ。 それに、ジュンくんがいないのも、翠星石ちゃんのところに 遊びに行ってるからって思ってたから…」ジ「…」…言葉が出なかった。よくもまぁそんな有りがちな事を、しかもこのタイミングでいっぺんに起こしたもんだ…。の「それで、水銀燈は…?」翠「水銀燈はもう選んでますよ」棚の前で吟味してる様子の水銀燈。ねーちゃんが後ろからこっそり近づいていく。の「…わっ」ねーちゃんが後ろからワッと水銀燈の肩に手を乗せた。凄い勢いで振り向く水銀燈。銀「──の~~り~~ぃ!」あの2人、楽しそうだなぁ。ジ「蒼星石や柏葉も連れて来たかったなぁ」翠「それなら、お前もstuを誘えです」…そうだなぁ。友達同士、みんなで集まってワイワイやってみたくなってきたなぁ。学校って…実は結構いいとこなんだよな…。翠「それにしても…はしゃいでるですねぇ、水銀燈とのりは…」ジ「僕たちが入る余地もなさそうだね」『あのケーキ、ナッツがついてて美味しそうじゃなぁい?』『こっちのケーキも、イチゴがぎっしり詰まってて美味しそうよね…』──そんな会話が聞こえてきそうだ。というより、聞こえている。翠「あの…」翠星石が言いにくそうに口を開いた。ジ「…僕たちも入る?」翠星石はコクリと頷いた。翠「──デートの…続きでも…」ジ「やっぱりデートのつもりだったのか!w」翠「う、五月蝿いですね!男と女がこうやって外に出るだけでもデートなんです!」ムッキー!!…ってなってる翠星石。さっき水銀燈には否定してたくせにw──ならば面白い。僕もムッキー!!ってなって、蒼星石や柏葉の分までまとめて数え上げてやろうじゃないか。その定義のデートとやらの回数を──ジ「(じゃあこれ、何万回目のデートなんだよ!w)…はいはいw」──やはり僕はへタレだった。
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