Scene8:ポッケ村・その2
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ポッケ村に、静かに夕日が落ちようとしている。蒼天石の下で焚き火に当たるオババは、ほんの少し焚き火に当たる角度を変えようとして身じろぐ。その時、オババは見た。村の西側から入村してきた、4人の人影を。それは紛うことなく、ドスギアノス二頭の狩りを引き受けた、少年と少女たち。包帯を巻かれ応急処置されたトモエの胸と肩は、固まった血の色で染め上げられている。微笑む雛苺が手を振るのに合わせて、血で汚れたハンマーが背で揺れる。ジュンが不平と苦痛の両方を湛えて顔を歪めるその背では、ドスギアノスの体の一部だったものがずだ袋から溢れる。そして真紅はその右手に、自身らがハンター見習いを卒業した証を、高々と掲げオババに見せ付けている。ドスギアノスの首二つ。一つはトモエの『鉄刀』で両断された、その右半分。もう一つは、雛苺が致命打を与えたドスギアノスの、比較的原型を留めたもの。「ほう……上手い事やってのけたようだね」オババは、ドスギアノスの首を掲げる真紅を見て、思わず目を細めた。ハンター達が狩猟を成功させた証は、このようにしてモンスターの体の一部を依頼主に見せることで成される。その体の一部の中で最も信頼性の高いものは、無論そのモンスターの首級。その首を切断できれば、モンスターの死を最も確実に知らしめることが出来るためだ。「これでどうかしら、オババ様?」真紅は、オババの目前に誇らしげにドスギアノスの首級を突き出し、その一言を待つ。「ったく……今回ドスギアノスを倒したのはお前じゃなくて雛苺とトモエだろ」ジュンはあの後解体され、鱗の束や皮、爪などに分かたれた二頭分の素材をどっかと地面に置く。「えへへ……ヒナもいっぱい頑張ったの!」雛苺の満面の笑みは、やはり彼女がまだ幼い少女であることを可愛らしく証明していた。「雛苺、本当にあなたは頑張ったわ。いい子ね」しばらくはこれ以降療養が必要であろうが、トモエはこの体に残る傷の痛みに、ある種の誇らしささえ覚える。確かに、一同は決して無傷ではない。それでも、こうして4人は生きて、次の狩りにも問題なく出られるほどの傷だけで生き延びたのだ。これを、大勝利と呼ばずして果たして何と呼ぶのか。オババは、行きがけにもやったのと同様に、一同の顔を眺め回す。彼らの顔に疲労の色は濃い。彼らの狩りは、決して楽なものではなかっただろう。それでも、彼らの顔には疲労や恐怖を上回るほどの、強い思いが浮かび上がる。勝利の喜び。生き延びた喜び。たとえ手落ちはあろうとも、それを補って余りある団結の力で、彼らはこれを勝ち取ったのだ。この後彼らは素材を分配し、武具の手入れをし、狩りの反省を行いながら、祝杯を挙げることになるだろう。オババは確信して、一同にこう言った。「確かに。この依頼、達成を確認したよ」4人分の歓声が、夕闇迫るポッケ村に響いた。
第二話「白闇」へ
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