第七章『正義と正義』
コンコン「はぁ~い、今行きます」カチャ「あっ」く「のりさんでしたね、ちょっとジュンくんにお話があるんですが…」「ジュンくんですか?今出かけてますが」警部「お邪魔してまっていてもいいでしょうか?」「え、ええっと。」く「じゃあ、お邪魔します」「ちょ、ちょっと!」もう四月も終わるというのに、風がすごく冷たい。「ジューン!見るです、ヒトデですぅ!気持ちわりーです」「ほら、翠星石。あんまりはしゃぐと危ないよ」「二人ともとても仲が良いのね」「性格が違うといっても、双子だしね」僕らは近くの海にきている、ちょっと季節が早いが砂浜を散歩するのはとても気持ちがいい「風が冷たいわ」「もうすぐ雨が降るかもね」「…ジュン、いつまでもこうしていられるといいわね」「…」「今の生活にとても満足しているわ。友達も出来て、ジュンとこうしていられる、これほど幸せなことは無いわ」「僕は…」言ってしまいたかった。僕が何をしたのか、僕がどれだけ弱い人間か、…全部言ってしまいたかった。
「た、ただいま。誰か来てるの?」玄関には見慣れない靴が二足あった「あー、ジュン君お帰り。あのね、刑事さんと探偵サンが…」姉の後ろに見覚えのある人影が二つ。くんくん探偵と太った警部。まずい、何かが告げる。全身から血の気が引くのが分かる。「な、何かようですか?」く「叔父さんは何者かによって殺されました」ねぇちゃんの顔を覗く、不安そうな顔だく「犯人の目星はついているんですが、彼にはアリバイがあるんですよ」「へ、へぇー。病死じゃなかったんですか。犯人は誰なんですか?」く「あくまで白を切るか、それもいいだろう。ずばり言うよ、犯人は君だ!」探偵の指が僕の顔を指す。今にも口から飛び出そうな心臓を必死に抑え、反論する「でも、僕が帰ってきたときには叔父さんはく「学校なんていつでも抜け出せる!大方保健室にいくとでも言って抜け出したんだろう。」「で、でもっ!叔父さんは病死だったんでしょう!!」警部「それは私が説明するよ。」そう言って警部は書類を手にとる。どうでもよかった、どうせ全て分かってるんだろ。警部「警察側としてはとても恥ずかしいことなんだが、くんくん探偵が有ることに気付きましてね―…」再調査の結果、叔父は窒息だということが判明した、という内容をだらだらと説明する。仕方ない、僕には無理だったんだ。覚悟はしていたが、とても痛いな。姉を守るどころか、犯罪者の姉にしてしまった。
く「君が犯人だと思った決め手は…」「もうやめてください!ジュン君がそんなことするわけないわ!」姉は今にも泣きそうな顔つきで二人に詰め寄る「…ねぇちゃん、いいんだ。もういいんだ…。」く「?」「僕がやりました。」姉が視界の片隅で泣き崩れる。警部は意外だという目を向ける。楽になりたかった。何が正義だ、僕は無力じゃないか…。く「ありがとう、僕も君を追い詰めたくは無かったんだ。」「やっぱり、法が正義ですよね…。ははっ、僕なんて無力だ」く「…それは違う、探偵の僕からはこれ以上はいえないが。確かに法律は正義だ。でもそれは万人のための正義、君の正義も立派な正義だよ」「…」警部「時として正義と正義はぶつかる。そういう時は私たちは法律という正義を貫く。それだけだ」「…」長い沈黙。「あの、明日、明日僕に時間をくれませんか?」く「いいだろう、君を信じる」警部「決して逃げ出したりせぬようにな」「はい…」
その夜は姉といろいろな話をした。姉は気付いてたそうだ、叔父を殺したのは僕だと。そして叔父は肝臓に病気を抱えていてもう長くなかったのだと。ジュン君は悪くない、寝るまでそう言ってくれた。まぶしい。夜の間ずっと降り続けていた雨はすでにやみ、まぶしい日光が降り注いでいた。この教室ともお別れか、一ヶ月も経たないうちに…翠星石に蒼星石、一年と一ヶ月かもっと長く一緒にいた気がする。僕がいなくても、平気だよね。
ガラッ「どうしたの?こんな朝早くにこいだなんて」「あっ、真紅。おはよう」「まったく、今何時だと…ぁっ」抱きしめる、強く。「い、いきなりは卑怯だわ!」そっと真紅を離し、正面に立つ「真紅、今日はお別れを言いに来た」「そう…。そんな気がしたわ」「当分戻ってこれない」「えぇ…」「人を殺した」「そう…」「仕方なかったんだ。僕は、僕は…」「ほら、泣かないで、私まで悲しくなるわ」いつのまにか泣いていた。何で泣いているのか分からない。感情が押さえきれない「…ジュン、今度は私の番だわ」真紅が抱きしめてくれる。とても優しく、小さな体で僕を包み込む。「もう会えないわけではないのでしょう?私は待つわ、あなたが戻ってくるまで…」
どれぐらいそうしていただろう。外が賑やかになってくる。「そろそろ皆が来るわ」「もう、行くね」「…気をつけて」「絶対に迎えに来るよ、真紅」「まってるわ」さよならを交わし、校門から入ってくる生徒の波に逆らい進む。「あっ、チビ人間。おはようですぅ♪」「おはようジュン君。忘れ物でもしたの?」ああ、二人にも会えなくなるんだな…「おはよう、二人とも。」挨拶をして、彼女たちとは反対方向に駆け出す。「?どうしたんですかね、ジュンは」「…翠星石、ジュン君泣いてたよ…」
叔父を殺してしまったことは後悔していない。後悔しているのは、この生活を自分の手で壊してしまったこと…一つだけ願いがある。それは犯罪者の僕には許されない願いかもしれないけれども…―また幸せな生活を持てるだろうか?―…きっとそれは難しいことではないよね 僕には待ってくれる人がいるんだから………『僕だけの正義』 Fin
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。