第六章『春風』
第六章『春風』ああ、快晴だ。遠くにうっすら雲がかかり、白と青とのコントラストが目に優しい。世間は花粉症だの叫んでるが、僕はこの季節が大好きなのかもしれない。ついさっきのことを思い出す。人を殺すってこういうことなのか?実感が湧かない。変に落ち着いている。授業には集中できるが、どこか上の空だ。キンコーンカンコーン「ジュン帰りましょう」「いいけどさ、真紅?帰りにちょっと付き合ってくれない?」「いいわ、何処に行くのかしら?」「デートだよ」「あら、ジュンから誘うのは珍しいわ。それじゃぁ、公園にでも歩きに行きましょう」第一発見者はおねぇちゃんが望ましい、僕は警察相手に演技するほど芸達者じゃない…。真紅を誘ったのは早く帰るのを避けるため…。卑怯だ、醜い、汚れてる…
ピーポーピーポー警部「おや?救急車だ。」く「パトカーのサイレンも聞こえるね。事件だろうか?」警部「私は行こうと思うが、君はどうするかね?」く「僕も行くとするよ、お邪魔じゃないならね」警部「なぁに、事件なら君が解決してくれるじゃないか」事件だろうか?それとも事故だろうか?事件だとすると、警部という肩書き上、また忙しくなるな。息子とはたまには遊んでやりたいもんだ…。警部「助手席にのりたまえ」く「お邪魔するよ」外に出ると女子高生やら子供やらが待ち構えていた。警部「またすごい人気だな。迂闊に外を歩けないんじゃないのか、これでは。」く「もうなれたよ」探偵は、これ以上ないうんざりとした様な声を出し、帽子を深くかぶるく「出してくれ」警部「人気が有りすぎるのも考え物だ」苦笑しつつ車を出す。
「…ただいま」「あっ、ジュンくん…」予想通り。玄関の前にはパトカーと救急車が止まっていた。姉が警察に囲まれ困った顔つきで僕に助けを求める。「何かあったの?」「それが…」姉は叔父のことについて話す。全て知ってた、警察も姉も知らないことまで知ってた。それでも、ショックを受けたフリをする。何も言えない、言ったらボロが出そうだった。全部言ってしまいそうだった…。警部「ボウズ、あんまり気を落とすな。」ビール腹を抱えた中年男性、警部と呼ばれていたっけ。慰めてるのだろうか?嫌にぶっきらぼうだ。
く「警部~、一通り見せてもらったよ。」「あっ!!」「どうしたのジュンくん?」何でくんくんが?ひどく動揺しているのが分かる。まずい、まずいまずいまずい!とりあえず落ち着くんだ。「えっと、その、本物のくんくん探偵はじめて見たから…」「おねぇちゃんもよ~♪わくわくしちゃう」警部「何かわかりましたか?」く「えぇ、彼はひどいアルコール依存症みたいですね。まだ断定は出来ませんが、病死か他殺かと聞かれたら病死の線が強いですね。」警部「解剖結果は明日には出るだろう。君にも送るよう手配しとくよ」く「それはどうも。とても助かるよ。」もしかして、ばれてない?キッ「!!!!!!」くんくんが僕を睨む(実際には見ただけなのだが)何もかも見透かされているような…。だめだ、目を見ていられない…。目をそらす、出来るだけ自然に見えるように努めて。警部「それでは、私たちは帰るとしよう」く「そうですね、長居しすぎました。」「いいんですよぅ。それより…」警部「大丈夫です。無縁仏として近くの集合墓地に埋葬されますよ」……………………………
ハァハァハァッ口と鼻を押さえる―ハァハァハァッ胸を圧迫し、胸部から空気を抜いていく―…やった、終わった!正義が勝ったんだ、これでこの屑は終わりだ…。後始末を終え、学校に戻るためドアのノブに手をかけるガタンッ!「!!!?」なぜ!?死んだだろ?動くなよ、動くなよ!!!勝手に動くな!迫る影。追い詰められる。「ぅ、ぅわっ!くっ、来るな!来るなああああああああああああ!!!!」・・・ガバッ「…?」汗がすごい、下着も寝間着もべたべただ。何だ夢なのか…。夢だと分かって安心したが、腕にはびっしりと粟が立っていた。
今日も昨日に引き続き快晴だ。一抹の不安はあるものの、今のところはばれていない…はず。あと、僕に出来ることは普通の生活を続けるだけだ。病死で片がつくまで「ちび人間、おはようですぅ!」「朝からうるさいんだよ、性悪!」「なっ!翠星石はちび人間が心配で…、その、最近元気が無かったから…。でも大丈夫みたいですね、いつものちび人間に戻ったですぅ!」「だからチビじゃないと何度要ったら…」心配していてくれたんだ、翠星石「まったく、翠星石は…。でも僕も嬉しいよ、いつものジュン君だから」蒼星石も…「まったく、引きつった顔でデートされても、楽しくなかったのだわ。」「悪い、悪い」真紅には迷惑かけたし、双子には心配させた。だめだな僕は、もっとしっかりしなきゃ。「今日は皆で遊びに行こう」桜もすっかり散ってしまった山からは、春を惜しむ風が吹いていた
「速達デース!印鑑くださーい」く「今行く」封筒を破り捨て、中身を取り出す。そこには数枚の書類が入っていた。く「なになに、内臓の一部に鬱血が認められるが、恐らく動脈硬化症による血流障害が要因、か」デスクに腰をかけ、パイプに火をつける。く「ふむ、血流障害か。だがどうだろう、静脈系統の鬱血は少ないじゃないか。これは…、窒息死ではないのか?」書類の束を掻き分け、昔ながら黒電話を取り出し、ダイヤルを回す。く「あー、もしもし警部?一通り目を通してみたんだが、いくつか気になることがあるんだ。明日そっちに行きたいんだが。」警部「あぁ、かまわんよ。署のみんなも大喜びだろ。しかし、気になることとはなんだね?」く「たいした事ではないんだがね、それは―…」第六章『春風』~完~
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