3.ハウトゥサバイブ イン 荒野
荒野を往く。その為には、忘れてはいけない心得がある。 3.ハウ トゥ サバイブ イン 荒野・Lesson1-水と食料は大切に-「ぷはぁーーー」薬の瓶から飛沫を豪快に飛ばしながら、翠星石が口元を拭った。ギラギラと照りつける太陽から逃げるように岩陰に停めた馬車の脇で、一向は地面に座り込んでいた。「ちょっと翠星石ぃ…それ、本当に飲んで大丈夫なのぉ…」「(多分)大丈夫ですぅ!背に腹はかえられん、ってやつですぅ。水銀燈も一杯どうですか?」そう言い翠星石は、髑髏にバツ印という、素敵なデザインの瓶を突き出す。「…遠慮するわぁ…」そう言い水銀燈は、ため息と共に空になった水筒をカラカラと逆さに振ってみせる。太陽はほぼ真上まで上り…日陰とはいえ、熱風が容赦なく体力を削っていく。蒼星石はテンガロンハットを目深に被り、体力の消耗を最小限に抑えようと微動だにしない。薔薇水晶は馬車の車輪にもたれながら「るーるー」と遠い目をしている。金糸雀は…干物みたいになって…風が吹くと力なくフラフラ揺れる。…あ…倒れた。とてつもなく地味だが、半端じゃないピンチ。それが、今の状況だった。翠星石は「ぅ~」と小さく唸り、洗濯物のように風に舞う金糸雀を指差した。「そ…そもそも!チビカナが変なもの発明しなかったら、こんな事にはならなかったですぅ!」 ・Lesson2-目的地をしっかり把握する-時間は少し遡る。「カナの発明した『じーぴーえす』があればバッチリかしら~!」金糸雀が懐から取り出した謎の装置を、天高く突き出した。「…本当に大丈夫なんだろうね…」蒼星石が怪しげな視線を向けてくるが、金糸雀は気にしない。「ふっふっふー」と不適な笑みを浮かべ、装置のスイッチを入れる。「これがあれば、カナ達の現在位置と、アジトの位置が 一 目 瞭 然 かしら~!」『ザーザザー』「……何も映らない…」薔薇水晶がボソッと言う。「故障かしら~!?」「こういうのは叩けば直るかしら!」喚きながら、装置を振ったり叩いたりする。と…『ザーガガ…ピー』「見るかしら!これで無事にお家に帰れるかしら!」得意満面の金糸雀が掲げる装置の画面には…光る点が浮かんでいた。…「で…」御者をしている蒼星石が、至ってクールな声を荷台の金糸雀にかける。「せめて…ここがどこか、教えてくれないかな?」熱で空気が歪んで見える。…見渡す限りの荒野が広がっていた。「そ…そもそも!蒼星石が追いかけようって言わなければ、こんな事にならなかったかしら!?」・Lesson3-無用な戦いは避ける-さらに時間は遡る。「ありがとよ…ゴロツキ共を追い払ってくれて」バーテンがそう言いながら、少ない報酬を手渡してきた。「悪いが…店の修理代は勝手に引かせてもらったぜ」バーテンは目で店内の様子を指す。…机は壊れ、ドアはちぎれ飛び、イスは原型を留めてなかった。蒼星石は受け取った報酬を見る。これから更に、アジトの維持費、今回使った弾薬の原料費を引き、それを皆で分ける…。かろうじて黒字ではあるが…気分としては、大赤字だ。店を壊した張本人…店の隅っこで正座してる(させた)水銀燈に声をかける。「追いかけよう。彼らには賞金が掛かっている。今ならまだ間に合うかもしれない」…「すっかり…見失っちゃったわねぇ…」水銀燈が、呟く。「それに…ここはどこかしらぁ?」微妙に、蒼星石にも聞こえる大きさの声で。「そもそも、水銀燈が後先考えずに暴れるからじゃないか…」ニヤニヤする水銀燈に、蒼星石がボソボソと答える。しかし、蒼星石も流石に諦めたのか、ポケットから方位磁石を出すが…それはグシャリと潰れていた。 ・Lesson4-無駄弾は撃たない-まだまだ時間は遡る。「ふふ…ちょっとした快感、ってやつねぇ…!」水銀燈が派手にサブマシンガン、メイメイをぶっ放しながら言い放つ。酒場の内装も派手に吹っ飛び…ゴロツキ達は裏口から逃げ出し…それでもハイになった水銀燈は高笑いしながらマシンガンを乱射する。…いや、酒瓶や無関係な人間には弾はかすりもしてない所を見ると、案外冷静なのかもしれない…。「と…とにかく…」蒼星石はこれ以上被害が…弁償代が増えない内に、水銀燈を止めに入る事にした。「水銀燈!やりす…うわっ!?」急いで走った為、足元に転がっていたテーブルで躓いてしまい…この時コンパスが壊れたのだが、本人は水銀燈を止めるのに必死で、気付いてなかった。…「水銀燈!やりすぎだよ!」蒼星石は水銀燈をその場に正座させる。そして、ボロボロになった店内を眺めて…呆れた声で聞く。「…なんでこんな事になったんだい…?」「そもそも薔薇水晶が…。…ごめぇん…蒼星石ぃ…」ちょっと涙目の水銀燈。・Lesson5-不用意な発言はしない-時間は出発の時まで遡る。出発の準備を済ませ、水銀燈は部屋で銃の手入れをしていた。今回の仕事は、町に居座ったゴロツキを追い出す、という簡単なもの。適当に銃で脅せば、それこそ簡単にカタがつきそうなもの。その時…ノックの音と共にドアが開いた。薔薇水晶が両手いっぱいに箱を抱え、部屋の中に入り…水銀燈が座るソファーにちょこんと腰掛けた。座ったままジリジリと水銀燈に近づき…箱を手渡した。見るとその箱には…ギッシリと弾丸が詰まっていた。「…銀ちゃん…今回の仕事は派手にやろう…」薔薇水晶が、グッと力を込めた手を突き出す。「…一気に名を上げるチャンスだよ…?」「そぉねぇ…」確かに、弾代をそんなに気にする必要も無くなったし…それに、このサブマシンガン・メイメイの威力を計る良い機会でもある。「じゃあ、あなたから蒼星石に説明しといてぇ」ちょっと考えるも…結局、薔薇水晶のプランに乗ることにした。「…♪…♪…」これでカッコイイ銀ちゃんがいっぱい見られる。そうご機嫌になった薔薇水晶は…「どうしたんだい?薔薇水晶。そんなに浮かれて」廊下ですれ違った蒼星石に気付かず、そのままスキップでどこかに行ってしまった。「??何か良い事でもあったのかな…?」・Lesson6-仲間が居ても、所詮は他人。それを忘れてはいけない-時間は現在に戻り…太陽がギラギラと照りつけ、地面は熱で歪んで見える。真上まで登った太陽から少しでも逃れる為に、岩陰に停めた馬車。その傍らで…干物みたいになった金糸雀が、砂のようにサラサラと風に飛ばされている。「…はぁ…」蒼星石はため息をつき…「ほら…万が一の時の為に用意しといた水だよ」そう言い、全員分のコップを用意し、そこに水を注いだ。「流石、蒼星石ですぅ!用意がいいですぅ!」「…ありがとう…でも、私は銀ちゃん一筋だよ…?」「あ…危なかったかしら…川の向こうで手招きしているみっちゃんが見えたかしら…」「リーダーはやっぱり違うわねぇ…」「リーダーは君だろ?水銀燈」辛うじて窮地を一旦脱したものの…このままでは埒が明かない。「とりあえず…大まかな方向しか分からないけど、町の方に戻ってみよう」「そぉね…でも、それは日が沈んでからが良いわねぇ。星が目印になるし…」そこまで言い、水銀燈は雲一つ無い空を仰ぎ見る。「…それに…夜の方が涼しいわよぉ…」地面にぐったりと腰掛けながら、太陽が沈むのをひたすら待つ。…つまり…先程までと同じ状態。水銀燈と蒼星石はじっと体力を温存し、翠星石は鞄の中の薬で飲めそうな物は無いか物色し、薔薇水晶は遠い目をし、金糸雀は干物みたいになる。…あ…倒れた。時々、金糸雀を水戻ししながら時間を潰し…太陽はやっと西に傾いてきた。・Lesson7-町の中と違い、荒野には何も無い。だが…何が起こるか分からない-随分と長くなった影を見ながら、そろそろ出発の準備でも…そう思った時、薔薇水晶が声を上げた。「…誰か…来る…」皆、薔薇水晶と同じ方向を見るが…何も見えない。最も、薔薇水晶にだけ何かが見えるという事はザラで…それは霊感など曖昧なものではなく、単純に彼女の視力が異常に良い、という理由だった。地平線を眺め続けると…それは見えてきた。 ― 荒野の真ん中で、誰かに偶然出会う事など、滅多に無い ―「馬…かしら…」「人が乗ってるですぅ」 ― それでも…誰かに出会う。そんな偶然が起こり得る ―「あの荷物の量、行商人…かな…」「それにしては、護衛の一人もつけてないわねぇ…」 ― それは偶然か…それとも必然か… ―「……大怪我…してる…」 ― 荒野に吹く風は、何も答えてはくれない ―馬に揺られる男の体が大きく揺れ…地面に落ちた。
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