あったかなふたり
年の瀬の晴れた日のこと。私はお父様の車を洗っていた。帰ってきたらきっと、きっと喜んでくれる。そう考えただけで私の心はぽかぽかとしてくる。けれどさっそく私はつまづいてしまった。高い屋根の上をふくことができなかったのだ。仕方なくのそのそと車にあがりこみ天井に昇ろうとするのだが…水で濡れた表面にてこずり、すべり落ちてしまった。「薔薇水晶何してんだ?」びしょ濡れで地面までたどり着いたとき、往来のほうから声が聞こえて来た。「……じゅん……いらっしゃい……」ぺこりと頭など下げてもてなす。 いや別に遊びにきたわけじゃ、と言いながら門を開いて近づいてくる幼なじみ。そばまでくると倒れこんだままの私に手を差し出してくれた。「ほら、大丈夫か?…って、つめたっ!?」手を重ねると驚いたように声をあげるジュン。どうやら私の手はかなり冷たくなっていたようだった。水を使い続けていたのだ当たり前のことかもしれない。 「じゅん…あっためて……」そこに他意はない。今まで車を洗うことに夢中で本当に気付かなくて、気付かなかった分いっきに冷たさが押し寄せてきて、私はぶるぶると肩を抱いて震えだしてしまったのだ。「あーもう、馬鹿だなぁ。ほらこれつけてろ」慌てて手袋とマフラー、そしてコートを脱ぎさると私に次々と装着していくジュン。「………あったか……」ジュンのぬくもりをそのままに残したそれらは、防寒具の名に相応しい最高の暖かさをくれた。やれやれといった風に私を見ていたジュンが「さてと」と腕をまくる。続いてテキパキと足場となる台を用意しゴム手袋を装着、あれよという間に天井を洗い出す。 「じゅん……ばらしーも……何かする?」私も役に立ちたい、というよりジュンに全部やらせるなんて申し訳なさ過ぎる。だから私は精一杯の提案をした。ジュンのために何かできることはないだろうか、と。「うーん、そうだなぁ」と、少し考えて「じゃあ…落ちないように支えてて」と言ってジュンは微笑んでくれた。「はい…イェス…了解……!!」敬礼をするように背筋を伸ばしてそう言うや、返事は一つにしぼりなさいと笑うジュンの背にピタリとくっついた。「じゅん…あったか……ばらしーも……あったか」ぬくもりを分け合って、二人はふっくらほっこら暖かい気持ちに包まれる。ジュンは少し気恥ずかしげに「やりにくいぞコレじゃ」とつぶやいて…少しだけ鼓動を早めていった。
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