巴短編6
「私、思うの。私が桜田くんに夢中なんじゃなくて、 桜田くんが私に夢中なのよ。きっと。 これ、みんなには秘密よ」どうやら、柏葉の頭が、ある次元にまで達してしまったようだ。断りなく僕の膝の上に座る柏葉を思い、僕は言いようのない同情の念に駆られる。「桜田くん、そっち向いて座っていい?」抱っこじゃないか。それは。紛うことなき、抱っこじゃないか。それは。言うが速いか柏葉は既に僕の腰へと腕を回していた。「座っちゃいました」気持ちよさそうに僕の胸に顔を埋める柏葉を、 僕はコーヒーカップのハンドルよろしく回転させてみる。「桜田くんったら、私の身体をそんなに強く掴んで…」指摘されて始めて気付いた。単に、柏葉の思うままになるのが癪だったから天邪鬼してみただけだったので、 特に構うこともなく後ろから柏葉を抱き締める。──いいや。たまにはこんな日も。いつの間にかこちらを向いて、 呼吸を乱し、抱っこの体勢をとっている柏葉の、 うっすらと産毛の茂ったうなじの匂いが、ひどく僕の劣情をかきたてた。
「おはよう、桜田くん。どう?私のおっぱい、柔らかい?」頭のネジが緩んだ幼馴染がいると、 おちおち昼寝もできたもんじゃない。目が覚めたら布団の中で幼馴染と同衾していました、 なんて、外聞もへったくれもあったもんじゃない。けれども、 むぎゅっと抱き締められるのは僕としても悪い気はしないので、 今後も保守的な僕であろうと思う。「…桜田くん…」幼馴染──柏葉が、 おずおずと、多少恥じらいを見せながら問うた。「勃起した?」何だこの娘。この娘こんな娘だっただろうか?とりあえず、ありのままを伝えるべく、 柏葉の胸に抱き留められたまま、首肯した。「桜田くんのスケベ」言いながら柏葉が、 今度は脚で僕の腰を挟むようにして固定する。それはさながら、昆虫の交尾のようで。そして何故か、 身体全体を拘束されているというのに、妙な安息感があった。──柔らかな感触に神経を侵されたまま、 僕の意識は再び夢の中へと落ちていった。
「…桜田くんのTシャツ……」本人の目の前で、 フローリングに放ってあったTシャツの匂いを嗅ぐその姿勢には、感服せざるを得ない。恍惚の表情の内で、一体どんな思考が渦巻いているのか、 リコーダーに付いてくる、細長い棒の存在意義と同じくらい気になる。「これ、貰っていい?」「……いや、別に構わないけど、何に使うんだ?」途端、頬を上気させて、伏目がちになったのを認め、「一人え──」Tシャツを掠め取る。──姉ちゃん、もうそろそろ洗濯する頃かなぁ。「桜田くんのいけず」そして、不満を垂れながら頬をげっ歯類ライクに膨らまし、 僕の胸に顔を埋め、大げさな音を立てて嗅ぎ込んで一言。「やっぱり本体いるからいいや」左様か。
膝枕から見上げる、幼馴染の、柏葉の、顔。「重くないか…?柏葉」「重いよ」遠慮するでもなく、本音をぶちまけてくる。それでも、表情が弛緩し、穏やかな面持ちとなっている柏葉は、 本当に僕のことを大切に思ってくれているのだろう。──恥ずかしいから、僕はちょっと抵抗あるけど。「重いけど…桜田くんの、一番大切で、 気をつけて扱わなきゃいけない場所を預けられてると思うと、 言葉にできないくらい、胸が暖かくなるの」この幼馴染は、時々どうしようもなく恥ずかしいことを言う。臆面もなく。うららかな春の陽気のような笑顔で。 「柏葉…──僕のこと、好きか?」訊かなければ、ならない。そんな気がしたのだ。「──愛してます」全てを包み込むかのような、柔らかな微笑に乗せて、紡がれる睦言。それでも。それでも僕らは恋人じゃあない。「柏葉」それは。「──そろそろ、頭を外側に向けたいんだけど」「却下」笑顔のまま、セクシャルハラスメントを継続する気満々な、 柏葉の、倒錯し、歪み切った愛情表現に問題があるわけで。「これは流石にマズいと思うんだけど。 色々、絵面的に」「今日は、穿いてない日だもんね」──僕と柏葉は、いつまで純粋な関係でいられるだろうか。
「桜田くん、抱っこ」
言うが早いか、幼馴染──柏葉は、 僕の膝へ座し、腰へ手を回した。いつもは何処かネジの緩んだ発言をした後、 どさくさにまぎれて、 このように過度なスキンシップをとってくるのだが、 今日は少し違った。──なんだ…?やけに今日はストレートだな…?
「柏葉…僕、こういうの恥ずかしいって何度も──」「いいの」
ぴしゃりと、僕の言葉を遮るかのように言い放つ。いつも、こういった風に押し切られるのだ。
「あと三分、このままでいて。 ──…お願いだから」
柏葉の声色には、どこか真剣さが滲んでいた。僕とて朴念仁ではない。柏葉の好意になど、とうの昔に気付いている。しかし、それに気付いていて尚、 積極的に求愛してくる柏葉へ、行動を起こしていないのだ。僕も僕で、卑怯なことをしている自覚がある。だから、今、この時だけは、柏葉の温もりを預かろうと思う。
「……いいよ。 今だけは、柏葉を──」
刹那。戸の蝶番の軋む音。切り抜かれた、扉の向こう側の風景に、 赤い、紅い、赫々たる、真紅のひとがたが、陽炎を纏い、現れた。それは。僕の見知った人で。僕の見知った女の子で。
「──ジュン」
──「真紅」の、恒星の如く光り輝く右拳が、僕の眼前へと突き出される。
「桜田くん、いつもみたいに、抱いてくれるのね」
瞬間、真紅の拳が──────
「手を繋ぐと、 私と桜田くんの境界が溶けてなくなるような… そんな気分になるの」人と人には。ものとものには。決して一つとなれないように、 決して溶け合うことができないように、境界がある。これは、罪深き人間への、神からの罰。「…桜田くんの手、暖かいから」それでも人は、誰かと同一になろうとする。すがり合い、甘え合い、愛し合う。ひょっとすると、人間の、その貪欲なまでの「愛」が、 神の創った設計図の、唯一の盲点なのかもしれない。「柏葉…なんか凄く恥ずかしいこと言ってるけどさ…」温もり。人の、温かさ。融解する、境界。「僕はお前と手を繋いだことなんて一度もないぞ」
図書館へと続く途。半歩前を往く桜田くんの背中を眺め、私は物思いに耽っていた。──いつの間に、こんなに大きくなったんだろ。幼馴染。相生の仲。それなのに、よく見て初めて気付かされる、変化。──身長だって、もう私とかわらない。昔はよく、あの、口の悪い子に馬鹿にされて、私が慰めていたのに。──声だって───「柏葉」「ふぇっ?」突然の呼びかけに、思わず素っ頓狂な声が漏れ出る。どうやら、赤信号の横断歩道を渡りかけていたらしい。刹那、トラックが眼前を横切り、私は反射的に唾液を嚥下した。「危ないだろ」あなたのことを考えていて、 粗忽になってしまっていたなんて、言えない。あなたは引き止めただけのつもりの、 私の右腕を痛い程に掴むその掌の、 その温もりに心臓が早鐘を打っているなんて、言えない。
「…柏葉?」桜田くんの顰められていた眉が、憂慮するかのようにハの字を描く。──あ。変わってないんだね。その癖。自分は何も悪くないのに、そのくせ、 人のことを、自分のことのように心配して。「ううん。なんでもない。ごめんね」安堵するように息衝き、 青のランプの照らす歩道を歩き始めた桜田くんは、 まだ私の右手を掴んだままだということに気付いていない。「…桜田くん」──どうか、願わくば。「ずっと、一緒だよ」──少しでも長く、彼と、この腕で、繋がっていられますように。
?「ほら、貴方の話しが読みたいって」巴「そういえば私の長編もご無沙汰だしね…」?「貴方書いてみたら?」巴「無理よそんなの。まぁ、中の人にお願いはしてみるけど」?「ところで、一つ気になったんだけど」巴「え?何?」巴の左手「右手にヤな事言われたからってこれはどうなの?」巴「貴方も私を裏切るのね」
柏葉巴がモノホン(死語)の歯医者だったら巴「じゃあ口を開けて」J「あがー」巴「うん、削んなきゃダメね。麻酔かけますね。雛苺、押さえてね」雛「アイサーなの」ガキキン!!J「拘束具!?な、なんじゃこりゃー!!」巴「では、麻酔を投与します。口移しで」J「な、や、やめ…もがー!?」zzz...雛「トゥモエ…自分まで寝ちゃ意味ないの…」なんで歯医者で全身麻酔なのかは無視
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