『新説JUN王伝説~序章~』第29話
『新説JUN王伝説~序章~』第29話 年が明けて1月。ジュンが厳の元へ弟子入りしておよそ1ヶ月の時が流れた… ジ「てぇりぁあああっ!!」厳「つぁあああああっ!!」あれから一日も休むことなく修行に打ち込むジュン。静かだった山寺には今日も朝から日が暮れるまで拳と拳が激しくぶつかり合う音が響いていた ジ「覇ぁっ!!」ドン!厳「甘い!」ジ「なっ…ぐぁあっ!!」ジュンの放つ拳を受け流した厳は一瞬でその背後に回り込み肘打ちを見舞う。その鮮やかさたるや凄まじく、ジュンは防御をとる間もなく地面に伏した ジ「ぐっ…うぅ…」厳「長期戦になるとまだまだ技にスキがあるな。いかなる時も集中を怠ることなく“水の心”を忘れるな。…もう一度だ!」ジ「は…はい!」厳の声に泥だらけの体を起き上がらせ再び厳へと挑むジュンジ「ぐわぁ!」厳「どうした!もう終わりか!?」ジ「…くっ、まだまだ…っぁあああッ!!」その後もジュンは幾度となく地面に打ち付けられながらも立ち上がり厳に向かってゆく…この1ヶ月、常識を遥かに超えた特訓にときには限界を迎え何度も意識を失うこともあった…しかしジュンは時間の許す限りその厳しい修行を諦めはしなかった。その理由はジュンが誓った揺るぎない決意…ジ「ぐっ…ぅう…はぁ、はぁ…はぁ…」厳「立て!苦しい時には思い出せ!自分が今、何のために闘っているのかを!!」数時間にも及ぶ激しい組み手に膝を折るジュンに厳の怒声が飛ぶジ「…闘う…理由……」厳「そうだ。男はいつも独りで闘うんだ…自分自身と闘うんだ!自分に限界を決めつけるな。その向こうに己が追い求める強さがあると知れ!!」ジ「僕が…闘う理由…それは……」厳の言葉にジュンは拳を固く握り締めるジ「それは…この手で守りたいものがあるから!!」その固く握った拳を携え大地を蹴るジュンジ「うぉおおぉぉおおおぉおおぉおおおっ!!」そして咆哮と共にその拳を厳へと放つ。ーーバシィイイイッ!!響く衝撃音…やがて数秒の後に静寂を取り戻したその場にはジュンの拳を顔の前で遮った厳の姿があったジ「くっ…くそっ…」全ての力を使い果たしたジュンはその場に崩れる。だが厳はそんなジュンを見下ろしながら口を開いた厳「うむ、最後の気迫はよかったぞ。」ジ「はぁ、はぁ……え?」ジュンはその思いも寄らぬ言葉に疲れ切った顔を上げる厳「よい拳を打つようになったということだ…」ジ「え?そ…それって…」厳「いい気になるな、以前と比べてという意味だ。お前がまだまだ未熟であることに変わりはない!」ジ「で…ですよねぇ…。」珍しく厳に褒められたかと思った途端に飛んだ手厳しい意見にジュンは再びがっくりと顔を伏せる厳「今日はここまでだ。後は風呂に入ってゆっくり休め。」ジ「は、はい。ありがとうございました!」気付くとすでに陽は大きく傾き辺りには暗闇が迫っており、ジュンは厳と共に寺の中へと入っていった ジ「ふぅ…今日も疲れたなぁ。」夕食と入浴を終えたジュンは1人部屋で読書に勤しんでいた。だがこれも修行。読んでいたのは持ってきていた北斗神拳の巻物。日中は厳との激しい修行、そして夜は技を研究するための修行をジュンは毎日欠かさず行っている。他のことに邪魔されず修行のみに集中でいるこの環境の中、ジュンはこの1ヶ月で数多くの新たな技を習得していた。そして達人である厳との組み手で実際にその技を試し利点や問題点を研究しているのだジ「この技も、まだまだ威力を生かしきれてないような…問題は…いやいや、それより…ブツブツ…」こうしてジュンの一日は過ぎてゆくのであるジ「ふぅ…ちょっと夜風にでも当たってくるか。」夜も更けた頃、読書を切り上げたジュンは気分転換のため部屋を出て暗い廊下を歩き出した。そしてしばらく歩いたとき、ジュンはある光景を目にしたジ「…あれ、師範…まだ起きてるのか?」ジュンは長い廊下の脇にある厳の部屋に灯りがともっているのを見かけた足を止めるジ「いつもは9時にはもう寝てるのに…珍しいな。」気になったジュンは気配を殺してゆっくりと厳の部屋の障子の前に近寄ったしかし…厳「ジュンか…。」ジ(い゛ぃっ!)ビクゥ!厳の前では今のジュンがいくら気配を消そうとも無意味だったようである…厳「こんな夜遅くまで何をしている。早く寝ないと体に響くぞ…?」障子の向こうから響く厳の声。ジュンは観念したようにため息を付くとその口を開いたジ「す、すいません…でも、師範こそこんな遅くまで何をされていたんですか?」厳「………」だが何故かジュンの言葉に厳の答えはないジ「あの…師範?」厳「入れ。」ジ「…は?」厳「部屋に入ってこいと言っているんだ。」改めて声をかけた直後、厳はジュンに自分の部屋へと入るよう言ってきたのだジ「え…あ…はい、失礼します!」突然の言葉に少々戸惑いながらもジュンは部屋の障子をスッと開く。するとそこには背中を向けたまま仏壇に手を合わせる厳の姿があったジ「あの…師範?」おずおずと声をかけるジュン。そしてしばらくの沈黙の後、厳はゆっくりと口を開いた厳「今日は俺が…決して忘れてはならぬ日なんだ。」ジ「…え?」厳「40年も前の事だ……俺は、生まれ故郷のみんなを殺した…。」ジ「なっ!?」厳の口から出た信じられない発言にジュンは言葉を失い驚愕するジ「そ…それは、どういう…」厳「…俺が18の時だった…。俺が生まれ育ったのは山間にある小さな村だった。そこで俺は父の開く道場で日々拳の修行を積んでいた。だがある日、平和だった村に野党が押し寄せてきた。」ジ「……」背中を向けたまま静かに語る厳にジュンはただ無言で耳を傾ける厳「俺は父と共に奴らに立ち向かい、そしてその首領を打ち取った。…だが、俺は泣いて許しを乞う奴の命を奪うことができなかった。……それが、全ての間違いだったんだ…!」ふいに厳の声が震え、その口調に激しさがこもりはじめる厳「それから数日の後、俺は用事で1日村を開けた。そして用事を終え村に戻った俺の前に広がっていたのは、地獄の炎に包まれた故郷だった!!」ジ「!!」厳「あの日見逃した野党が村に奇襲をかけ、一夜にして平和だった村は焼け果て、俺は故郷を…家族を、友や仲間を失った…。」ジ「そんな…」厳の口から語られたあまりにも悲惨な過去にジュンの頬には冷たい汗が流れ落ちた厳「俺の甘さが…村を滅ぼした…。俺が奴を野放しにしたばかりにみんなを死なせた…。俺が守れなかったために罪もない多くの命が失われた…。」ジ「それは、師範のせいでは…!!」厳「俺が殺したと同じだ!!俺の甘さが故郷を滅ぼしたんだ!!」ジ「…っ!」厳「それから俺は道場の焼け跡から奇跡的に残っていた獅子吼焔流の極意書を見つけ、鍛錬を積みながら復讐のために日本中を回った。…だが、奴の手掛かりは何ひとつとして掴めなかった…。はっきりしていることは、俺はその罪を一生背負い続けてゆかねばならないということだけだ…。」厳の背負う悲しみという重い十字架…彼はこの40年間それを背負い続けながら孤独と共に闘い続けてきたのだ。その孤独さえも力に変えながら…そう思うとジュンは厳の持つ強さの理由を痛いほどに理解できたジ(この人はそれほどまでの思いを背負いながら40年もたった独りで闘ってきたんだ…。)厳「ジュンよ…」ジ「は…はい!」ふいに名前を呼ばれジュンはビクリと体を震わせる厳「俺は…自分と同じ苦しみを、お前に背負わせたくはない。そのためには、わかるな…?」ジ「師範…」厳「お前は優しい男だ。だが、それ故に非情さがない…その甘さのために取り返しのつかない過去を背負うことになるかもしれないことを忘れるな。」ジ「言いたいことはよくわかります……でも……」厳の言葉…それは闘いにおいて非情に徹さねば誰かを守ることはできないという意味である。例え敵をとはいえ、その命を奪うことであっても…そうしなかったことで厳は長い間後悔し続けていることはジュンもわかっている。だが、果たして自分にそれができるのか?厳の言葉を受けたジュンの精神には他人を殺めることと誰かを守ることのジレンマが重い鎖となり絡みついていた厳「…そのことは、いずれ決断せねばならぬ時がこよう…。さあ、今夜はもう遅い。お前も早く寝ろ。」ジ「は…はい。失礼します。」そう言い残すとジュンは一礼し厳の部屋を後にする ジ(結局…闘うことの原点は…相手を殺すためのこと…でも、そうしないと大切なものを失う……何かを守るってことは、それだけの覚悟が必要なんだ…。それはどこかでわかっていた、でも僕は…罪を背負うことを恐れ、あえてそのことから目を逸らしていたんだ…。)ジュンは自室へと戻り床に入るもなかなか寝付けずにいた。厳に秘められた過去を知ったジュンはそのまま一晩中“守る”ことと“闘う”ことの意味を改めて自問自答するのであった…。 続く…。
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