水銀燈の野望 烈風伝 ~播磨侵攻編~
<あらすじ>時は戦国の世。備前国に「薔薇乙女」と呼ばれる8人の姉妹がいた。天下統一の野望を抱く長女・水銀燈は、謀反によって一躍戦国大名にのし上がる。謀将・宇喜多直家を攻め滅ぼし、一国の主となった水銀燈の次なる目標は播磨国。天下統一という果てしない夢を追い、薔薇乙女たちの戦いは続く――<本編に登場する主な史実武将>○赤松義祐(あかまつ よしすけ/1537~1576)美作国新庄山城主。父・晴政を追放して赤松家当主となる。衰退した赤松家の再建を図り織田信長と同盟するも、浦上宗景との争いに敗れてさらなる衰亡を招く。本編では姫路城主であり、播磨、美作の二ヶ国の領主である。○別所就治(べっしょ なりはる/1502~1563)播磨国三木城主。もとは赤松家臣の家柄だが独立し、主家を凌ぐ隆盛を築いた。――年は明けて、永禄四年正月。天神山城の大広間。薔薇乙女家の家臣たちが一堂に会して新しい年を祝った。薔「……明けまして」雪「おめでとうございます」家臣一同「おめでとうございます」銀「おめでとぉ……と言いたいところだけど」ジ「新年早々資金不足だな」金「あんまりめでたくないかしら……」翠「正月の祝い酒も慎まにゃならんとは、とんだ貧乏大名家ですぅ」雪「兵糧だけはふんだんにあるのが唯一の救いですわね」モッキュモッキュ銀「去年皆が開墾に励んでくれたおかげよぉ……だから腹八分目くらいにしといてね?」薔「姉上の八分目は……常人には計り知れないけど」雪「モッキュモッキュ」銀「……」翠「とっとにかく! 早いところ打開策を打ち出さなくてはならんです!」銀「あら。打開策ならもう決まってるけどぉ?」翠「へ?」銀「方法はひとつ……播磨の姫路城を奪い取るのよ」巴「遂に隣国へ攻め込むのね」ジ「まさに山賊……いやなんでもないでs」翠「し、しかし、時期尚早ではないのですか? 真紅も蒼星石もまだ岡山城にいることですし……」銀「姫路城の守りは手薄だし、あの子たちが居なくたって大丈夫。それに、戦をするだけが城を取る方法ではないのよぉ」雛「戦わないで、どうやっておしろをいただくの?」銀「まぁ私に任せなさぁい。じゃ、ちょっと行ってくるわねぇ♪」ジ「……嫌な予感がする」――播磨国、姫路城。年賀の挨拶と称して姫路城に乗り込んだ水銀燈は、播磨国主・赤松義祐と相対した。銀「明けましておめでとうですわ、赤松殿」義祐「これは水銀燈殿。わざわざのお越し痛み入る」銀「聞きしに勝る立派なお城ねぇ」義祐「いやいや、もはやこの城も古くなっておりましてな。そもそもこの城は南北朝時代、我が祖先である赤松円心公が……」銀「気に入ったわぁ♪ 私にちょうだぁい?」義祐「……は?」思いもよらぬ水銀燈の言葉に、居並んだ赤松家重臣たちの顔が青ざめる。義祐「い、今なんと……」銀「このお城ちょうだいって言ったのよぉ? そうすれば……命だけは助けてあげるからぁ♪」義祐「の、のこのこやって来て何を言い出すかと思えば……皆の者! この小娘をひっ捕らえよ!!」銀「あらぁ、くれないのぉ? それは残念……金糸雀!」金「はいなのかしらー!」水銀燈の命で密かに天井裏に隠れていた金糸雀が、煙幕を投げつける。たちまち広間は煙に包まれ、水銀燈たちの姿が覆い隠された。赤松家臣A「ごほっごほっ」赤松家臣B「げほん……むぅ? 何処へ消えた!?」銀「おとなしく渡したほうが身のためなのに……仕方ないから力ずくで頂くわぁ。では、ごきげんよう」煙幕に紛れ、素早く城を抜け出す水銀燈と金糸雀。義祐「おのれ、逃すものか! 皆の者、であえであえー!!」しかし、義祐の怒号は城内に虚しく響くばかり。混乱する赤松家臣たちを尻目に、水銀燈らは無事備前国へと帰着した。http://rozeen.rdy.jp/up/vipww25716.jpg――天神山城、城主の間。ジ「……無茶苦茶だな」翠「まったくですぅ」銀「何よ、揃いも揃ってその白けた顔は……いいじゃない、私だってタダで城が手に入るなんて思ってないわぁ」巴「じゃあ、わざわざ喧嘩を売りに敵地まで?」銀「もちろん、それもあるんだけどねぇ。金糸雀、首尾はどぉ?」金「ばっちりなのかしらー!」細やかに書き記された姫路城内の図面を、誇らしげに掲げてみせる金糸雀。ジ「なるほど。そういうわけか」雛「さすが水銀燈なのー」銀「それだけじゃないわ。きらきー、ばらしー?」雪「お命じの通り、姫路城の城門は叩き壊しておきましたわ」薔「ついでに城内の櫓も……」http://rozeen.rdy.jp/up/vipww25717.jpgジ「お前ら、いつの間に……」銀「良くやってくれたわ。これで姫路城はもう裸同然……戦う前から落城寸前ってワケよぉ」翠「わ、我が姉ながら恐ろしい奴ですぅ……」銀「じゃ、早速出陣準備に取り掛かろうかしら」――永禄四年、二月。水銀燈率いる薔薇乙女軍三千八百は、播磨国の本城である姫路城へ攻め込んだ。従う武将は翠星石、雪華綺晶、薔薇水晶、そして柏葉巴。銀「なーんか、楽勝な感じねぇ」姫路城主である赤松義祐は治水作業の最中で合戦には間に合わず、城方の総大将は小寺政職が務めていた。他の武将は名もない足軽頭のみ、総勢千二百ほどである。翠「城の危機に城主が留守とは、呆れたものですぅ」銀「手薄といえば何処も手薄なんだけど……一応敵兵の居ない北門へ回るわねぇ」雪「では、私も」翠「南門は翠星石に任せるですぅ。ばらしー、巴、ついてくるです」薔「……了解」巴「いよいよ、初陣ね」北門へ着いた雪華綺晶部隊は、早速城門の破壊に取り掛かる。しかし事前に破壊工作を行っていたとはいえ、城方も修復を急いだらしく簡単には城門は開かない。雪「さすがに一発で開門とはいきませんわねえ」銀「焦ることはないわぁ。本丸以外の敵は雑魚同然だもの」一方、南門からはしびれを切らした守備兵たちが打って出、巴の部隊に襲い掛かっていた。巴「向こうから出てくるとは……かえって好都合ね」戦の経験の薄い守備兵たちは翠星石、薔薇水晶、巴の三部隊に囲み撃ちにされ、あっという間に総崩れとなって逃げ散った。翠「烏合の衆とはよく言ったものです。さて、さっさと門をぶち破りますか」守備兵のほとんど居なくなった城内に、水銀燈と雪華綺晶は難なく門をこじ開けて侵入した。その後も城内の門を次々と打ち破り、容易く本丸まで辿り着く。銀「さぁ、覚悟なさぁい?」水銀燈と雪華綺晶の猛攻の前に、次々と討ち取られていく赤松軍の兵士。巴「すっかり取り囲んだわ。皆討ち取るのよ!」巴たちの部隊も到着し、完全に包囲された城方は遭えなく壊滅。総大将は逃亡した。銀「やはり楽勝だったわねぇ……巴の初陣にはちょっと物足りなかったかも」巴「確かに……」ボソッ翠「総大将を取り逃がしたのが残念ですぅ。後々厄介なことになったら……」雪「心配御無用ですわ。赤松家に名のある武将は数人しか居りませぬもの」薔「それに、この姫路城の兵力も手に入った……」銀「そうねぇ。このまま上月城を攻めて、一気に播磨統一と行こうかしら」――永禄四年三月。越後国主・長尾景虎は上杉憲政の養子となり、関東管領職と上杉姓を受け継いだ。これより景虎は「上杉政虎」と名を改め、後に「輝虎」、さらには「謙信」と号することになる。一方の薔薇乙女家。宣言どおり姫路城を手に入れた水銀燈は、間髪入れずに次の行動を開始した。銀「岡山城から真紅と蒼星石を呼び寄せるわ。来月には上月城へ出陣するわよぉ」翠「ちょっと急ぎすぎやしませんですか? 備前に残された兵力も僅かだというのに」巴「確かに、今背後を衝かれては厄介ね」銀「だから急ぐんじゃなぁい。お馬鹿さぁん」水銀燈が播磨統一を急ぐのには理由があった。幕府から播磨守護職に任じてもらい、薔薇乙女家による播磨支配を正式に認めてもらいたいのである。幕府のお墨付きがあれば水銀燈の名声も上がり、領国支配も容易になる。水(滅びかけの足利幕府なんて当てにならないけど…… 利用できるものは生かさないとねぇ。播磨守護職が空席になっていたのは好都合だわ)翌月、水銀燈は五千二百の兵を率い上月城へ出陣した。従うは真紅、翠星石、蒼星石、雪華綺晶、薔薇水晶、巴である。――永禄四年五月。薔薇乙女軍五千二百が上月城下へ着陣。上月城を守る赤松軍はおよそ二千五百、当主である赤松義祐が本丸を守っていた。紅「小さい城ね。容易に落とせそうなのだわ」銀「しかし、今度は当主の義祐が総大将よ。姫路城攻めのようにはいかないわぁ」蒼「翠星石と一緒に戦うのは、初めてだね」翠「そういえばそうですね。ま、蒼星石がもしもの時はこの翠星石が守ってやりますから、安心して戦うですぅ」蒼「ふふ。アテにしてるよ」いつもの如く、水銀燈は軍を二手に分けて城門へと迫った。一方は水銀燈、真紅、翠星石、蒼星石。もう一方は雪華綺晶、薔薇水晶、巴。手薄な城門に雪華綺晶隊が迫ったのにつられ、城兵たちが動き始める。その動きを察した真紅隊はもう一方の城門に向け前進した。紅「よし、今よ」守備兵たちの放つ矢が降り注ぐ中、城門の破壊に取り掛かる薔薇乙女軍。二つの城門がほぼ同時に開き、薔薇水晶、巴、そして蒼星石の軍勢が城内に雪崩れ込んだ。蒼「てえぇぇい!!」蒼星石隊の猛攻を受け、たまらず混乱に陥る赤松軍。雪「今ですわ」薔「……覚悟」薔薇水晶、巴、雪華綺晶が城内の一部隊を包囲し、たちまち壊滅に追い込む。翠「こっちも行くですぅ!!」翠星石、蒼星石、真紅が代わる代わる攻撃を仕掛け、さらに一部隊が全滅した。城内に薔薇乙女の軍旗が次々に立てられる中、水銀燈が自ら本丸へと攻め込んでいく。上月城本丸はもはや薔薇乙女軍によって完全に包囲され、落城は時間の問題だった。銀「赤松義祐……その首頂戴するわぁ!」義祐「おのれ、小娘……」猛然と反撃する義祐隊だが、大軍に囲まれては成す術もない。程なく赤松軍は壊滅し、義祐は命からがら逃げ延びた。こうして、上月城は水銀燈の手に落ちたのである。だが赤松家は滅んだわけではない。上月城の戦いで生き残った義祐らは、美作の津山城へと逃げ込んだのだった。銀「さ、姫路城へ戻るわよぉ」蒼「え? ここで赤松軍の反撃に備えるんじゃないのかい?」銀「もちろん備えるわぁ。真紅と巴はこの城に残って守りを固めておくのよ」巴「承知」紅「二人だけとは少々不本意だけど、そうするわ」銀「兵力はある程度残していくから、よろしくねぇ。じゃあ姫路城へ凱旋するわぁ」翠「なんとも慌しい奴ですぅ」雪「播磨にはまだ、別所家の三木城が残っていますわ」蒼「そうか。赤松を滅ぼす前にまず、播磨の統一を目指すつもりなんだね」薔「それと、上洛への道固め……」銀「そのとぉり。播磨の先には摂津、そしてその先は……京の都よぉ」一方その頃。備前国内の政務を一任されていたジュンは、雛苺、金糸雀とともに街道の整備に取り掛かっていた。天神山城から岡山城、そして攻め取ったばかりの姫路城を結ぶ道を切り開くのである。ジ「この道が完成すれば兵站も楽になる……ってお前らぁ!」雛「うぃー?」金「何かしらー」ジ「何って……サボってないで少しは働けよな」金「金糸雀の本来の任務は諜報活動かしら。せっせと道作りしてる暇はないのかしら」雛「ヒナだって、こんな地味な作業ばっかりじゃなくて戦に出たいのー。そいで水銀燈や真紅やトモエを助けるのー」ジ「あのな。道作りは大事な作業なんだぞ? 水銀燈が他国を攻めたいと思ったとき、もし兵士や兵糧や武器が足りなかったらどうする?」雛「他の城に『送ってよこせ』って命令するのー」ジ「だな。んで、もしその時道が悪くて輸送部隊の到着が遅れたら?」金「それは……困るかしらー」ジ「だろ? しかも、こちらから攻める時ならまだしも、もしこちらの城が攻められて落とされそうになっていたとしたら……」雛「だいぴんちなのー」ジ「そうだな。逆にきちんと道が整備されていたら、水銀燈も心置きなく戦ができる。 だから、道作りはすごく重要なんだ。その大事な仕事を、水銀燈はお前たちに任せたんだぞ?」金「そ、そんな責任重大な任務だとは、不覚にも知らなかったのかしらー!」雛「サボってる場合じゃないのー! がんばるのー!」先ほどまでとは打って変わり、部下たちを叱咤激励し、自分でも作業を進め始める二人。ジ「……やれやれ」――翌月。永禄四年六月。ポルトガルの宣教師ルイス・フロイスが姫路城を訪れた。フロイス「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」銀「日本語でおk」蒼「……雛苺を呼んでこようか?」急遽、天神山城から雛苺が召喚された。雛苺は両親がヨーロッパに居た頃に生まれたため、南蛮人の言葉をある程度理解できた。フ「ry」雛「ふむふむ。薔薇乙女家の領内で『でうす』の教えを広めることを許可して欲しいって言ってるのー」銀「そう。そんなことなら、好きにするといいわぁ」フ「アリガトゴザマース」雛「( ゚д゚)」銀「……日本語しゃべれるんじゃないの」http://rozeen.rdy.jp/up/vipww25718.jpgフロイスと雛苺が帰った後、水銀燈は三木城を攻め取るべく出陣準備を始めた。播磨国の統一まで、あと一歩である。
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