Summer names illusion-Rozenkristall-
日本の夏はこうも暑いものなのか?いや、別にここだけじゃない・・・と言うか、今が特別暑いのだろうけど。あの春は、もう昔のことになってしまったんだ・・・私はあの桜が散った後も、ひそかに彼のことを思い続けた。その思いは、この夏の暑さに負けないくらい。私は彼の幸せを望んだ-自分の幸せは?彼は今幸せだ。彼と彼女の仲を引き裂くようなことは私にはできない。でも・・・Summer names illusion-Rozenkristall- 「・・・暑い」「それはわかってる」「・・・お茶の一杯でも」「それは違う」「・・・ならあいs」「あのなぁw」「・・・むぅ」「ってか、何で当たり前のように家にいるんだ?」「・・・監視?」「誰に雇われたんだよ?w」「・・・お姉ちゃん」「うそつけw」「・・・暑い」「エアコン入ってるだろ?」「・・・アイス食べたい」私は相変わらずだ。と言うか・・・変われそうにない。だってまだ、彼のことが好きだから。「・・・だめ?」「ダメって言っても無駄なのは知ってる」「・・・だったら?」「ん?」もし、私がここで「好き」と言えば?「何がいい?」自分の本当の気持ちをここでぶちまけようか?「・・・好きなのは」この後、JUNと云うことができれば?「何だよ?」私は何も言わずに彼の顔を凝視した。「・・・」「・・・バニラ?」心底、自分の勇気の無さが厭になる。結局、悪魔と化した平凡な日常には勝てない自分。「わかった」冷凍庫から彼はアイスを取り出してくれた。ハーゲンダッツとかかれたそれはバニラの、とても香りの良く決して甘すぎないアイスクリームだった。その甘さが、私を苦しめる。「好き」という甘い言葉の前には「愛」の重みが立ちはだかる。彼の彼女への-私の姉、水銀燈-「愛」の重み。それを第三者として、誰よりもよく知っているはずの自分。同時に、彼のことが好きで好きでしょうがない自分。私はどうすればいいのだろうか?「・・・さすがダッツ。ぶぃ」「そらなぁ。うまいよ」「・・・そういえばもう12時だね」「で?」「・・・おなか空いた」「アイス食べただろw」「・・・元をたどせば液体」「ごもっともだがその手には乗らん」「・・・ピザがいいなぁ」「おい、話聞けよwまさかもう頼んであるとかじゃねーだろうな?」「・・・さぁ」ピンポーン「・・・おい?」「・・・これは予想外。今回は頼んでない」じゃあ誰だろう。「こんにちわぁ~♪」「お、珍しい」「珍しい?そうかしらぁ?」「だっていつも僕から行ってるからね」「そういえばぁ?」「うん、まぁ上がって?暑いっしょ?」「お邪魔しま~す♪・・・って何でばらしぃちゃんがいるのぉ?」「あぁ、2日に1回は来てるんだけど」「ふ~ん」「・・・お姉ちゃん、お腹すいた」「だからお前は・・・」「ねぇJUN~?」遮るようにして、水銀燈が言う。「・・何?」「私もお腹すいたわぁ」「なんでやねんw」彼が思わず突っ込んだ。「で?またこの展開?」「・・・うまー♪」「人におごってもらったごはんっておいしいわぁ」お姉ちゃん、実は鬼?「水銀燈、頼むから2000円は持ってくれ。マジ破産する」「や~よぉ♪私よりばらしぃといる時間の方が最近長いから♪」軽いノリで発せられた言葉の中にある、言葉の重み。お姉ちゃんは知ってたんだ。私が最近JUNの家にしょっちゅう行っているのも。たとえ、JUNが言わなかったとしても。お姉ちゃんはわかってたんだ。「ん~言われてみればそうなるな・・・」「でしょ?だから罰として・・・」「?」「明日から同棲よぉ」「・・・はいぃ!?」お姉ちゃんは時にとんでもないことを言う。頻度的には私ほどではないが私が言うことよりも破壊力はかなりあると思う。だって普段そんなこと言わないから。「同棲って・・どこで?」「ここに決まってるじゃなぁい、おばかさ~ん」「mjsk」「私は本気よぉ」「・・・お姉ちゃん。私のご飯は?」「ばらしぃもJUNを見習って一人で家事やんないとお嫁にいけないわよぉ?」「・・・言われてみれば」「賛同するんかいw」お姉ちゃんの言うことも最も。だってお姉ちゃんがいなきゃ私は家事に関しては何もできないに等しい。1週間はカップラーメンかな?「じゃあ準備するから私はいったん帰るわぁ」「・・・私も帰る」JUNに有無を言わさないあたりがなんともお姉ちゃんらしい。でも、私もある意味有無を言わさずなところはある。こんなとこで競っても仕方のない話だけど。競ったところで私はお姉ちゃんに勝てない。彼への、JUNへの「愛」の重みには。「ねぇ薔薇水晶?」帰り道、お姉ちゃんが話しかける-いつもの呼び名ではない。「・・・何?」「私はね、JUNのことが好きよぉ。この世界のだれよりも。 だから姉としてでなく、一人の女として聞くわぁ。」---JUNのことが好きなのね?お姉ちゃんは、多分、お姉ちゃんがJUNと付き合う前から知ってたんだと思う。だけど、今日まで言わなかった。「・・・だとしたら?」だとしても、私がJUNのことを好きなのに変わりはない。「お願いがあるわ」そう言うとお姉ちゃんは・・・私に抱きついてきた。「お願い・・・私のJUNを・・・私の一番大切な人なんだからぁ・・・」そんなことはわかりきってる。わきりきってるはずなんだけど・・・蝉がうるさい。アスファルトから上がる熱気に足元を取られそうになる。その熱気や蝉の声以上に、お姉ちゃんは、水銀燈は、彼のことを思っているんだろう。私は何も言えなかった。ただそこに、ポストみたいに突っ立ってることしかできなかった。「・・・いつから知ってたの?」「去年の秋ぐらいからよぉ・・」「・・・そうなんだ」やっぱり。お姉ちゃんは知ってたんだ。「・・・私はJUNのことが好き」「知ってるわぁ。それに私もよぉ」「でも、お姉ちゃんのことも好き」・・・だから、幸せになってね?「・・・JUNがお姉ちゃん泣かせるようなことしたら・・・」--しねーよ。振り向くと、やたらマジな顔をしたJUNがいた。 あぁ、この顔なんだ。この真剣な顔-私は初めて見た。「ってか、できねーよ。そんなこと」「・・・本当?」「本当」「マジ?」「マジ」「絶対?」「絶対」彼の真剣な眼差しに、嘘は見えない。見えるのは確かな想いと、愛。お姉ちゃんへと向けられた、確かな愛。「ちょっとJUN~?いつから見てたわけぇ?」「あー・・水銀燈が薔薇水晶に抱きついたあたりからかな」「ふ~ん。あと、私はちゃんと聞いたわよぉ」「あぁ」「嘘だったら、ジャンクにしてやるんだから・・・」アスファルトに落ちる水滴は、すぐに蒸発する-今日は本当に暑い。それでも山形で40度を超えようが家の中で熱中症になろうが避暑地が避暑地じゃなくなってようが私がどれほど彼のことを思おうが、あの2人に割って入ることはできなかった。 私は密かにその場から離れた。それが私にできる、JUNへの、同時にお姉ちゃんへの好意でもあるんだから。---夏は暑い。だれが決めたのかはわからない。平安時代から夏は暑いって決まってるらしいけど。なんだか、幻みたいな季節。でも、その暑さにも揺るがない確固たるものは・・・確かにこの世に存在する。あの2人を見れば、わかること。Summer names illusion-Rozenkristall-Fin.
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