ずっと傍らに…激闘編 第五章~ジュンside~
心臓がバクバク言っている。今こそ引き篭もりたいのに、適する場所が思い浮かばない。…僕は覚悟を決め、2階へ上がることを選択した。2階へ上ると廊下の奥で翠星石が力なく座っていた。ねーちゃんは既に自分の部屋に入っていたようだった。水銀燈は僕を真顔で見つめ、口を開いた。銀「ジュンくんの部屋で話してもいい?」ジ「…はい」銀「そ~んな緊張しなくてもいいのよ?」水銀燈はそう言うが、僕は態度を緩めることはしなかった。僕と水銀燈は僕の部屋へ入る。散らかっていた座布団から2枚選んで、それを敷く。正座で一対一。まるで親に叱られるかのような雰囲気だ。やっぱり翠星石のことで叱られるのかなぁ…銀「ジュンくん」ジ「はい…」銀「のりや翠星石から聞いたわ…」ジ「え…」銀「…今朝、のりとは殆ど何も話さなかったんですってね」ジ「…」そっちを聞いてきたか…僕は何も返さなかった。というより返したくなかった。少し間が空き、水銀燈はまた話し始めた──銀「──上の子ってのはね、下の子の事をいつも気に掛けてるものよ」ジ「…」銀「もし、ジュンくん様子が急に変になったら…のりはどうなると思う?」そんなこと、いきなり言われても…僕が返事を渋っていると、水銀燈は少し表情を曇らせた。銀「はぁ…今日は私もそうだったわぁ」ジ「…」銀「蒼星石が何にも話してくれなかった…」ジ「…」銀「ジュンくんのこと。昨日から知ってたみたいなんだけど…」ジ「…」銀「翠星石にも話さなかったらしくてねぇ」ジ「…」銀「まぁ、あんまり広がるとジュンくんにも迷惑がかかると思ったんでしょ。確かにそれは判るわぁ」ジ「…」銀「でも…」ジ「…」銀「そんなことされるとね、距離が生まれた感じがして…」ジ「…」銀「姉としてはつらいのよ。とても…」ジ「…」暗いトーンで話す水銀燈に、僕としてはどう反応していいのか判らなかった。だが、ここで水銀燈はフッと微笑んだ。銀「だから、これからはのりに優しくしてあげなさい」ジ「…」銀「ちゃんと話すべきことは話す。そうすればきっと相談に乗ってくれるだろうし──」ジ「…」銀「いや、それが姉としての役目なんだから」ジ「うっ…」銀「辛いことがあるなら全部ぶちまけなさぁい…」ジ「…」銀「家族は、あなたにとって一番の味方──」ジ「…」銀「人ってね、1人では生きていけないのよ…」気がつけば、僕は涙を流していた。1回拭う…もう1回拭う…だが、ボロボロと零れ落ちていく──くそっ!…水銀燈はそんな僕を見て、クスッと笑って足を崩した。大事な話ってのもここまでなんだろうか──僕もゆっくりと足を崩す。銀「はぁあ~…」声も混じるほど大きな溜息。これで一気に緊張がほぐれた気がした。銀「ジュンくんが3年早く生まれてきてくれてたらなぁ」ジ「…な、何の話?w」泣いているのが恥ずかしくて、笑って誤魔化そうとしてしまう。銀「今頃付き合ってたかもしれないわねぇ」ジ「ぶw」僕は噴き出した。銀「もしかすると、今も…」ジ「えw」銀「だって、ジュンくん可愛いんだもん」ジ「…」ドキドキするんだか可笑しいんだか…銀「こんなこと言ったら、怒るかしら…」ジ「…」そこでふと思い出した。幼稚園卒業の頃に水銀燈に「だっこぉ!だっこぉ!」ってせがんで、翠星石や蒼星石と取り合いしたことがあったな…──ねーちゃんの時も取り合いになったっけw2人とも、当時は小学3年だったかな…抱き上げるなんて無理だよな…今、改めて明確に思い出すと──うっ、鼻血が出そうだ…銀「──あっはははwなぁに照れてんの?」ジ「…あ、いや…まぁ…」銀「うふふ…ほ~んとカワイイ♪」ジ「…そ、そんな」銀「…何か、思い出しちゃった」──げっ…まさか…銀「抱っこしてあげよっか?」──これには盛大に吹いた。それから、ぴょんぴょん飛び跳ねて大いに笑った。いきなり何を言い出すんだ…苦しい~苦しいw銀「いやぁ~ん、そんな喜ばないでぇ♪」ジ「いや喜んでないってばw」銀「じゃあ何でそんなに顔が赤いのぉ?」ジ「この年になって抱っことか恥ずかしいよw」銀「ウソつきなさい!」ジ「ウソなんかついてない!」水銀燈はスッと立ち上がった。…笑いすぎて怒らせてしまったのだろうか──銀「──ふん…」ジ「何でまた…」だが、僕の問いは受け入れられなかった。水銀燈はすぐさま僕を抱き上げようと両手を伸ばしてきた。サッとかわしてベッドの上に逃げる僕。そしてまた走って逃げる。水銀燈も走って僕を追いかけてくる。だが、ドアが閉まってるので外に出るのに僅かながら時間が掛かる。出ようものならすぐ捕まるだろう。──さて、部屋の中をグルグルと回り続ける僕と水銀燈。僕たちは果たして何歳の子どもなのだろうか…まぁ、今は別にどうでもいいか…銀「待ちなさい!」ジ「イヤだ!」銀「あ!…じゃあもう捕まえたら、でこピン一発!」ジ「え?そんなの聞いてないよ!」銀「追加ルールよ!」もはやお互い本気だった。銀「このっ!」ジ「そうは簡単に捕まらないよ」調子に乗ってフェイントを掛けながら煽る僕。もう後戻りは出来ない。だが、ちょっと油断して、ベッドの横に膝をぶつけて、ベッドにうつ伏せに倒れこんでしまった。これぞチャンスとばかりに僕の上に圧し掛かってくる水銀燈。おまけに、僕の首に腕まで絡めてきた…怖い…でも、このままだと呼吸が出来ないので、僕は顔を左に向ける。…と、水銀燈の顔が目の前に現れた…恐怖の笑みを浮かべて──銀「ふは…ふはははははは…」──目が、笑ってない…ジ「ぎゃぁぁぁぁ!!!」銀「さぁて、どうして差し上げましょうか…」ガチャッ!バタン!!翠「ジュン!!」ドアが勢いよく開く音が聞こえ、僕と水銀燈はその方向を見て一瞬にして固まった。そこには、溜息をつき、腰に手を当てて仁王立ちで構える翠星石が…さらに、その後ろには心配そうな表情で様子を窺うねーちゃんの姿が見える──銀「…」ジ「…」翠「…お、おめぇら…ドタバタうるせーです!ばらしーたちと変わんねぇじゃねーですかッ!」ジ「あ、いや…」翠「言い訳は無用です。さ、何してたんです?」水銀燈はゆっくりと立ち上がり、僕に右手を差し出した。僕はその手を握り、引っ張り上げられるようにして立ち上がった。それから、水銀燈は1つ咳払いして僕にこう言った。銀「ジュンくん?」ジ「?」銀「なっ…何キョトンとしてんのよ?…おばかさぁん」ジ「…あっ…今日翠星石が泊ま──」銀「そ~いうことじゃなくてぇ~」ジ「?」水銀燈は僕を抱き締めた。銀「頑張るのよ」そして背中をポンポンと軽く叩かれる。あぁ…翠「水銀燈!尋問はまだ──」水銀燈は僕から離れ、翠星石の方を見ずにボソッと言った。銀「翠星石、早く帰りましょ」翠「えぇぇぇ?」水銀燈は翠星石をスルーするように、ねーちゃんのいる方へ向かった。そして、ねーちゃんと合流した後、何か話しながら視界から消えた。僕と翠星石はしばらく棒立ちだったのだが、翠星石が先に口を開いた。翠「…じゃあ翠星石も帰るです」ジ「あ、そうか。それなら僕も下に下りるよ」そう言って僕は部屋を出ようとした。が、翠星石に通せんぼされた。
翠「言いやがれです。さっき水銀燈としたことを──」ジ「鬼ごっこだよ」翠「…翠星石にはそうは見えなかったですよ?」ジ「あ、最後のはだな…その…」翠「…ま、ど~でもいいですけどぉ?」翠星石はツンと言い放ち、僕の部屋から出て行った。…まぁ、どう説明しても翠星石には理解してもらえないだろう。僕は溜息をついて部屋を出て玄関へと下りていった。~~~玄関。水銀燈と翠星石はそれぞれの荷物を持ち、帰り際に僕たちと少しばかりの会話を交わしていた。の「それで、翠星石ちゃんは泊まってくの?」翠「え?泊まってい…」銀「ダ~メ。泊まるのは週末だけにしなさぁい。それに今日は──」翠「……わ、判ったです。さっさと帰るです」の「そう。それじゃ仕方ないわね」ジ「あ、あと…」忘れないうちに言っておかなくちゃ…と思った。ジ「ねーちゃん?」の「…え?……何?」戸惑っているねーちゃんを見ていると、やっぱり言いにくい…けれど、今しかチャンスはないはずだ…ジ「朝はごめん」の「…」そうだ。ねーちゃんだって心配してくれてたんだ。僕のことを…の「ジュンくん…」銀「ふふ」ジ「ま、そういうことだから…」…でも強制的にこの流れを終わらせたくなってしまう。何だか、顔が熱を持ち始めたような気がした。銀「さ、姉弟のすれ違いも解決したみたいだし…」水銀燈…さすが空気を読める姉貴…心の中で2つの事を感謝した。銀「それじゃ、また明日ね」翠「──あの…」銀「ん?何か言いたいことでもあるのぉ?」翠「…お前の服、待ってるですよ」──翠星石…。ジ「あ…あぁ。わかった」笑みを浮かべる翠星石。奴らに絡まれてからは、もうやめてやろうかとも思っていたけれど、そう言われると、まだまだ夢を追いかけることが出来そうな感じがした。翠「あと、時々お前を見に来るです。朝に起こしに来たり、クッキー焼いたり、ああ…それと…」銀「ばっかねぇ…これからずっと会えないってわけじゃないんだから」の「そうよ~。来たい時にいつでも来ていいのよ」翠「…そ、そうですね…あはは…」ジ「まぁ、好きにしろよ」翠「…」急に無口になる翠星石。…え…僕が何かした?また泣き出すんじゃないかとヒヤリとしたのだが、水銀燈はそれをスルーするかのように玄関を開けた。銀「それじゃ」の「うん、またね」翠「…」ジ「な…何だよ、元気ないな」まだ外に出ようとしない翠星石に僕が声を掛ける。しかし、僕に一瞥を投げかけると、プイっとソッポを向いた。翠「…そんなことねーです。お前こそ元気出しやがれです」ジ「…そうだな」──やっぱり、いつもと変わんねーなw良かった。翠「それじゃ、また明日~です」ジ「あぁ」の「また来てね~」バタン…玄関の扉が閉まった。ねーちゃんと2人きり…か。の「それじゃ、今から夕御飯つくるから」ジ「あ、うん」ねーちゃんはキッチンの方へと向かった。僕はいつもなら2階へ上がるのだが、今はリビングに居たい気分だった。些かぎこちない足取りでリビングに入る。の「ジュンくん…どうしたの?」ジ「あ、いや…まぁ、そういう気分なんだ…」の「そう…」キッチンの方からねーちゃんが聞いてきた。僕は水銀燈に言われたことを思い出す。親が仕事で海外へ行ってから暫く実感を持てなかった『家族』の存在…。だけれども、ねーちゃんも『家族』の1人であるというのは変わらない。さらに、周りにはこんなにも僕のことを心配してくれる人がいる。そんな幸せを胸に抱きながら、僕はソファに腰掛けた──
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