ちょっと暑い、夏の日。
「暇ですぅ・・・」第一声がこれでいいのかとは思うが、どうしようもない。だって暇なんだもん。今日の夜には花火大会もある。なのに・・・「めっさ暇ですぅ・・・」エアコンの効いた部屋。外からはワシワシ、ミンミン蝉の声。ふとケータイに目をやる、着信もメールもない。年頃の乙女がこんなんでいいのか?「はふー・・暇ですぅ・・・」せっかく買った奇麗な翠の浴衣も、出番があるとは思えない。「誰か拉致られろですぅ・・」かたっぱしから友人に電話してみる。Trrrr・・・・Trrrrr・・・Trrrr・・・・「もしもしぃ~?どうしたのぉ?」「今日の夜暇ですかぁ?」 ってこいつが暇なわけはなく、「何言ってんのよぉ、今日は花火大会よぉ?暇なわけないじゃなぁい。おばかさ~ん」「いっぺんこの世から乳酸菌を消し去ってほしいですか?」「フフフ、とにかく私はだめよぉ」「わかったですぅ。じゃ、またですぅ~」「ばいばーい」電話の相手は水銀燈。彼氏といちゃいちゃしてる姿が目に見えて嫌になる。「はふぅ・・・」Trrrrr・・・Trrrrr・・・・Trrrrrr「もしもし?」「あ、真紅ですかぁ?」「どうしたの、翠星石?」「今夜暇ですかぁ?」「今夜?忙しいのだわ」「花火行くんですか?」「いいえ、水銀燈とダーツよ」え?水銀燈って花火行くんじゃないの?「あの子はこないだ別れたのだわ。だからって私まで巻き込むのは、迷惑なのだわ」「迷惑」とか言いながら迷惑そうじゃなく、電話の向こうで微笑んでるのがわかるくらいの声の感じだった。「あなたも来る?」「やめとくですぅ。ありがとです」「そう。またね」そうか、水銀燈振られたんだ。ってか花火行くとか言ってましたよね?「あの乳酸菌中毒めですぅ・・・」この後もこんな感じで、みな皆さん忙しそうで・・・「はふー・・・」時計を見ると午後3時。「とりあえずどっか行くですぅ」一歩踏み出すと、自分の行いをすぐに後悔した。それもそうだ。午後3時と言えども、気温も湿度もまだまだ高い。それを助長するセミの声は、耳を劈くような大音量。気温以上に、熱く感じるもの無理はなかった。あまりの暑さに耐えられず、近所のカフェへと避難。現代文明の恩恵を全身に感じることができた。「こんにちは。ご注文はお決まりですか?」「んー、抹茶クリーフラペチーノにするですぅ」「サイズはいかがいたしましょう?」「ショートでいいですぅ」最近の私はこれがないと生きていけない。抹茶の甘みとクリームがたまんないから。「お待たせいたしました、トールサイズの抹茶クリームフラペチーノです」「ありがとです~」適当に席を見つけて座り、目の前にあるお宝を堪能する。これがまたうまい。一息ついてぼーっとしていると、どこかで見たことのあるような顔が来た。いや・・・昔、近所に住んでいたヤツそっくりの顔が。彼もどうやら同じものを頼んだらしい。あまりにも私が目線をやるものだから、彼はこっちに気づく。急いで目をそらすも、なぜか彼は私の方を見ている。やっぱり、あいつなんですか?わからない。けど、彼がこっちに向かってくるのだけは分った。「あ、やっぱりそうだ」 どことなく大人になった彼の第一声は、私にとってはうれしかった。だって私を覚えていてくれたのだから。それでも素直になれない私は、「だ、誰ですかぁ?」なーんて答えてしまう。「あれ、人違いかな?いやさ、昔近所にいた子によく似てるなぁって」「ふーん。そうなんですかぁ」「よくいじめられたよ、昔は。今となってはいい思い出だけど。」「そりゃおめーがピーピー泣くからですぅ。翠星石はお前のポジションを最大限に守ってやっただけのことですぅ」あ、「・・・やっぱそうか」自爆した。「べ、、、べべ別におめーに気付かなかったわけじゃないですからね!勘違いするなですぅ!」「相変わらずだよなー、そーゆーとこも。」彼の名前はジュン。昔は真紅と3人でよく遊んでいた。が、彼が外国に越してからは真紅とも遊ぶ回数が減った。今はそうでもないけど。だって、ジュンは真紅のことが好きだったんだろうから。「真紅は?元気にしてるか?」ほらやっぱり聞いてきた。「真紅なら元気ですよ。今日は水銀燈とダーツに行くみたいですぅ」「ふーん」「おめぇも行ってやるといいですぅ」「今日はいいや。それよりさ、翠星石今晩暇?」え?「す、翠星石はおめーみたいな暇人と違って忙しいですぅ」こんな時、自分の性格を恨めしく思う。なんで素直になれないんだろう、と。「・・でも、おめーのためなら空けてやってもいいですぅ」今日くらい、素直になってもいいかな?「なんだよそれwじゃあ、花火行くか」予想外。でも、彼と会った時僅かながら期待はあった。彼は大人になったけど、その優しさは変わらないみたい。でも・・・「真紅はいいんですか?」やっぱり素直になりきれない自分がいる。「だからいいんだって。お前さ、なんか勘違いしてない?」「何をですかぁ?どこからどう見たっておめーが真紅のことを好きなのは一目瞭然ですぅ。」「やっぱり」「何がやっぱりなんですか?」「僕は真紅のこと、そーゆー感情ではとらえてないよ。いい友達としてみてる。」なんか、自分が少しだけ嫌になった。「そーですか」「うん」「まぁいいですぅ。じゃ、7時に神社の前集合ですからね。遅れたら承知しねーですぅ」「おう。じゃ、あとで。」私は足早に家に戻り急いでシャワーを浴び、どこからともなく出てくる汗をぬぐった。それが何に起因するものなのかは、わからない。それでも浴衣を着れるチャンスが巡ってきたことの喜びは隠しきれなかった。「蒼星石ぃ~ちょっと来てくれですぅ」「どうしたの?姉さん?」「浴衣の着付け手伝ってくれですぅ」「いいよ。花火、誰と行くの?」「そこは突っ込まなくていいですぅ」なんだかんだ言いながら、妹に手伝ってもらって準備は万端。自分で言うのもなんだけど、結構にあってると思う。日も暮れ、いい感じの空になった。待ち合わせの時間まであと5分。「ちょっと早かったですぅ」でも、早いくらいがちょうどいい。待っている間の、思いを巡らせる時間。結構好きだから。「翠星石ー」どこからか聞こえる、声。その声の方を向くと・・・「よっ。待った?」「べ、別にですぅ・・・」彼は涼しい色の浴衣を着ていた。「浴衣、似合ってるな」その言葉が、私の心にしみこんでいく。「あ、ありがとですぅ・・・////」恥ずかしい。でも、うれしいの方が大きい。だって好きなんだもん。 「花火始まるまで時間あるし、あそぼっか」「そうするですぅ♪」つい、子供のように喜んでしまった。でもそれくらいさっきの言葉が嬉しかったから。金魚すくいに、わたあめ、いか焼きにかき氷。とにかく楽しんだ。花火が始まると、彼は私の方を見ていった。「お前ってさ、実はかわいいんだよな」「【実は】は余計ですぅ。翠星石はとーってもかわいいんですぅ。今更気づいたんですか?」「うん、今更。ってかさっき。マジでドキっとした。」そんなことを言われるとこっちまでドキドキする。だって、昔から好きな人が目の前にいて、一緒に花火を見ておまけにこんなことまで言われて・・・「んで今更言うけど、僕は翠星石のことすんごく好き。この世で一番」花火は、クライマックスのスターマイン。全く、罪な男を好きになってしまった。「付き合って?」「はいですぅ・・/////」そう答えた次の瞬間、私は彼の腕の中。 心臓がはちきれそうなくらいのスピードで鼓動を刻んでる。それは彼も同じだけど。「い、いきなり何しやがるですか!?」「嫌だった?」そう言われて、嫌と答えられるわけがない。むしろもっとしてほしいから。「・・嫌じゃねーです。もっとしろですぅ・・・///」私の優しい王子様は、私の唇を静かに奪った。この花火大会、最後の花火が夜空に咲いたと同時に。そのまましばらく、熱帯夜の中にいた。本当はもっと涼しいはずなんだけど。Fin.
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