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『夢うつつ』 穏やかに晴れ渡る、春の空の下……。薔薇水晶は自宅の窓辺に敷き詰めた布団の上で、黒猫と共に昼寝をしていた。閉め切った窓から射し込む温かな陽光が、微睡みを深い眠りへと誘う。なんて心地いいんだろう。眠気に誘われるまま、薔薇水晶の意識は薄れていった。 銀「まったくぅ……待ち合わせの時間になっても来ないと思ったら」その幸せそうな寝顔を眺めながら、水銀燈は微笑んだ。春休みも今日で終わり。みんなと待ち合わせて、目一杯、羽を伸ばす予定だったのに。もう、間に合わないなぁ――水銀燈は携帯を取り出すと、真紅に電話をかけた。 銀「あ、真紅ぅ……ええ……それが、お昼寝中なのよぅ。そう……ごめんねぇ」通話を切って、水銀燈は薔薇水晶の隣に、腰を降ろした。降り注ぐ日射しを浴びていると、なるほど、確かに心地よい。 銀「ふぅん? ちょっと、横になってみようかしらぁ♪」悪戯っぽく微笑み、薔薇水晶と背中合わせに横たわる。バランスを崩して身体がぶつかると、薔薇水晶は微かに呻いて身じろぎした。
銀(やっばぁ……起こしちゃったかしらぁ?)水銀燈の心配をよそに、再び健やかな寝息を立てる薔薇水晶。よかった……目を覚ます気配はない。水銀燈は安堵の息を吐いて、静かに瞼を閉じた。 銀「ふぁ~。なんだか……眠い……」昨夜は宿題を片付けるために、すっかり夜更かしていた。気が緩んだ途端、眠気が一気に押し寄せてきたらしい。睡魔の甘い誘惑に抗いきれず、水銀燈の心は、夢の世界へと墜ちていった。 執「おやおや、お嬢様たち。こんな所で寝ていたら、風邪をひきますぞ」たまたま通りがかった初老の執事が声を掛けたが、二人は目覚めない。春眠、暁を覚えず……というヤツだろう。執事は「仕方ありませんね」と呟くと、毛布を持ってきて、二人に掛けてあげた。 執「とても、疲れておいでなのですね。今は、ゆっくりとお休みなさい。 明日から、また……お嬢様たちの忙しない日常が始まるのですから」日溜まりで昼寝を楽しむ彼女達に優しい眼差しを向けて、執事は慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。これからも、薔薇乙女たちに更なる幸せが訪れんことを――
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