ずっと傍らに…激闘編 第二章~ジュンside~
『うん、潰しに行って来る』──柏葉の言葉が頭の中で木霊する。こんなことを、まさか柏葉が言うなんて…柏葉は剣道部だ。とはいえ普段は普通の優しい子だし、翠星石みたいに短気な子でもない。でも蒼星石ほど冷静さを保てるかといえば、どうだろう…もし学校で乱闘騒ぎになったら、きっと柏葉は校長室に呼び出されるだろう。それだけじゃなくて、万が一、向こうに怪我でも負わせたら…僕のせいだ。僕が昼休みにあんなもの描いたから。裁縫にハマッてしまったから。他人はみんな優しい人ばかりだと思ってたから。初めて…他人を怖くなってしまったから──そういえば、あれからずっとベッドに横になりっ放しだ。ふと枕元の時計に目を遣ると、11時54分と示されていた。もう昼か…それにしても、今ごろ柏葉は何してるんだろうなぁ…柏葉にメールで聞いてもはぐらかされる予感がする。あ、じゃあ翠星石に聞いてみるか…でも、あいつなら「学校に来れば分かるですよ~」とか言いそうだ。それはイヤだ。それなら蒼星石に聞いてみるか…いや、昨日から不気味に連絡が途絶えてるところに送るのは気まずい。まぁ、結局は聞かなければ済む話。何かで気を紛らわせて、さっさと忘れよう──僕は朝から開けっ放しだった窓を閉め、柏葉の発言を無理やり忘れるために1階に下りて何か暇つぶしになることを探した。1階に下りると、僕は愕然となった。味付け海苔の奴がリビングのドア開けっ放しで高校へ行ってる。床の上からテーブルの上までやたらと散らかっている。酷い荒れ様である。…僕がいきなり引き篭もりになったからだろうか?それでも…やっぱり仕方ないことなんだ。学校へ行けばクスクス笑いが待っている。僕を排除しようとする空気が流れている。そうさ。どうせみんな僕の姿を冷めた目で見てくるに違いないんだ。特にクラスの奴らは…はぁ…ま、せっかく下りて来たんだし、テレビでも見よう…とテレビをつける。…平日のこの時間にしか見れない番組を見ると、今日は祝日のように思えてくる。いや、平日なんていう概念は僕の中からは消えたんだ。毎日が休日だ!素晴らしい!──せめてこういう所だけでもプラス思考でいこう……そう決め込んだ。午後2時になっても飽きることはなかった。昼ドラも終わっても、次はワイドショーが始まる。実は晩の番組より昼の番組の方が面白いかもしれない…とさえ感じた。午後4時。夕日が差し込んできた…そろそろ帰宅時間帯である。真紅とか金糸雀とかの小学生軍団が来そうな予感がする。何だか今は顔を合わせたくない。ややこしいことになりそう。ツッコミどこと満載だもんなぁ…リビングは散らかってるし学校行ってないし──僕はそそくさと2階の自分の部屋へ引き揚げ、ドアを閉めた。まぁ、絡みたくない気分だったから…2階もまた陽がいい感じで差し込んで差し込んでいて、暖かかった。このまま寝てしまいたいぐらい心地よかった。今日このまま寝たら明日の朝まで起きずに済むかなぁ──ピーンポーンおっと。やはり予想通りあいつらが来たようだ。外から「ジューン!ジューン!」と僕を呼ぶ声が聞こえるが、出ないことにする。しかし──ピンポンピンポンピンポンピンポン!!翠『ドアを開けるです!話があるです!』ピンポンピンポンピンポンピンポン!!──声の主は短気にも程があった。馬鹿かよ…しかし、それに対して何故か笑ってしまう自分がいた。連打したらインターホンが潰れるだろ!とでも注意しに行くか…そう思いつつ1階へ下りる。そして何の躊躇もなくドアを開けた。ガチャ…と、その直後、翠星石はいきなり僕の胸に飛び込んできた。モフッ!──というより、むしろタックルに近かった。その勢いで僕はバランスを崩し、玄関に倒れこんでしまった。それでも僕を放さない翠星石。あまりに突然過ぎて「何なんだよこの性悪!」の一言も口に出せず、まごつく。翠「…」ジ「…」翠「…」少し心が落ち着いてきたところで、過去の記憶の一部が呼び起こされた。こいつ、幼稚園の頃は人見知りが激しくて、そのくせ寂しがり屋だったよなぁ。誰かが来れば僕や蒼星石の後ろに逃げて背後から抱きついてたもんだったな…最近はそこまで抱きついて来なくなったんだけど…そんな風に思い耽ったところで、僕は翠星石に声を掛けてみた。ジ「なぁ」翠「…」それでも何も話そうとしないから、もう一度声を掛けてみた。ジ「なぁ…」翠「やっと会えたで…あ…」ジ「…」こいつ…寂しかったのか…翠「いやいや、別に気にすんな!です」無理しやがって…よし、ちょっと元気付けてやるか──ジ「…それにしても、お前の寂しがり屋は相変わらずだなぁ~」翠「やっかましいです!」抱き締めたままにしろ、こういう事には反射的に返事する翠星石。すぐいつも通りになったな。良かった。ジ「で、今日は何の用なんだ?」翠「…」翠星石は無言で僕から離れ、スッと立ち上がった。何をするのかと黙っていたら、翠星石は玄関の方へ向き直り、ドアの鍵とアームロックの両方を閉めだした。僕は呆気に取られてポカンと見ているだけだった。まさか僕を監禁?…なんてことも一瞬だけ思ったけど、引き篭もりを監禁しても…ねぇ。ポカンと暫く見ているうちに、翠星石はこちらへ向き直った。どんなギャグが待ち構えてるのか…でも翠星石は真顔で僕を見つめてくる。いつもより妙に色気立ってる翠星石の様子に僕は息を呑んだ…翠「翠星石も…引き篭もるですぅ…」──まさかの発言に思わず笑ってしまった。だが、翠星石は眉間にしわを寄せた。翠「…ほ、本気ですよ?」──呟くようにして言うのがまた恐ろしい。とにかく、こんなのはいつもの翠星石じゃない。翠星石も学校で奴らにやられたのか…?翠星石の言うことはまだうまく飲み込めなかった。
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