「新説JUN王伝説~序章~」第22話
『新説JUN王伝説~序章~』第22話桃種市を離れ数時間、幾度もの乗り換えを繰り返したジュン達一行はとある温泉地の駅に到着した雛「うゆー、やっと着いたの~♪」雛苺を筆頭に皆ゾロゾロと電車を降りると改札を抜け駅の外出る。するとそこには温泉街らしく多くの観光客で賑わっていた翠「ふい~、座りっぱなしってのも案外疲れるもんですねぇ…」金「ふんふん…卵の匂いがするかしら~。…でも、なんか傷んでる匂いかしら…」銀「それは硫黄の臭いよぉ、お馬鹿さぁん。」雪「とりあえず何か食べませんか…?私さっきからお腹が空いて…」蒼「車内であれだけ食べてたのに…」薔「…ご当地アッガイ…ご当地アッガイ…♪」皆、ようやく到着した目的地に少しばかり浮かれている様子である。するとそこに真紅の声が響く…紅「貴女たち、それよりもまずは宿に行かなくては始まらないのだわ。」紅「こんなところでは落ち着いて紅茶も楽しめないじゃないの!」ジ「そこかよ…」紅「…というわけで、早く宿に行くわよ。ジュン、私のバッグをお願い。」ジュンの目の前に真紅が荷物を置くジ「おいコラ!自分のバッグぐらい自分で持て!」紅「レディに力仕事をさせるなんて無粋ね…男ならそれくらい当然でしょ?」銀「じゃあ私のもお願ぁい♪」ドサッ翠「ほれ、翠星石の荷物も運びやがれですぅ♪」ドサァッジ「お…お前らなぁ……」目の前に置かれた大量の荷物に口の端をヒクつかせるジュン雪「まあまあ、何もずっと持ちっぱなしというわけではありませんわ。じきに予約しているタクシーが…あ、来ました来ました。」雪華綺晶がそう言うなり一行の前に二台のタクシーがやって来て扉を開いたジ「ふぅ、安心したよ。さて………ん?」ふいにジュンの脳裏にある疑問が浮かぶ…ジ「ひぃ…ふぅ…みぃ……なあ?1人乗れなくないか?」雪「へ?」ジ「そのタクシーって…乗客は4人乗りだよな?僕らは全員で9人…1人乗れなくないか…?」雪「………あ。」そう、4人乗りのタクシー二台だと乗れる人数は合計8人。どう考えても1人乗れないのである雪「うっかりしてましたわ……てへっ♪」雪華綺晶は小さく舌を出しコツンと頭を叩いたが、ジュンは全く笑えないどころかとてつもなく嫌な予感を感じていた…紅「ジュン…分かっているとは思うけど…」ジ「皆まで言うな…言いたいことは分かっているから。」長い付き合いでジュンには真紅の言いたいことなどまるっとお見通しであった紅「よろしい。じゃあ私達は先に宿に向かうとするのだわ。」雪「ジュン様、一応宿までの地図は渡しておきますが道に迷われたらご一報くださいまし。」ジ「あぁ…」薔「ジュン…ばはは~い……」金「待ってるから早く来るかしら~♪」嫌な予感は見事的中し、置き去りにされたジュンはエンジンをふかし遠ざかってゆくタクシーを見ながら早くも泣きたい気分を味っていた…ジ「……はっ!もう一台タクシー呼んでくれればいいじゃないか!」…気付いた時にはすでに遅し。1人残されたジュンは仕方なく雪華綺晶から渡された地図に目を通すジ「なになに?…………っておい!ここから20キロ以上あるぞ!?」なんと地図に記された宿の場所は現在地から遠く離れた街の外れにあるようではないか!…ジュンは深いため息をひとつつくと、ご丁寧に置き忘れていかれた真紅たちの荷物を担いで歩き出すのであった……一時間後…ジ「おい…本当にここでいいのか?」20数キロの道のりを僅か一時間で駆け抜けてきたジュンは辿り着いた建物を見上げながら唖然とした。彼の眼前にはとても高校生の旅行で泊まるには相応しくないような歴史溢れる巨大な旅館がそびえ立っていた。ジュンは何度も建物を地図を見比べたが、何度確認してもやはりこの旅館で間違いないようであるジ「と…とにかく、入ってみるか。」ジュンは見事な錦鯉の泳ぐ池を横目に石畳を進む。そしてその先にある木製の扉をくぐると十数人もの従業員が頭を床に下げてジュンを出迎えた「ようこそおいでくださいました。<(_ _)>」ジ「いぃっ!?え…あ、その…」そのテレビの中でしか見たことがないような光景にジュンは完全に狼狽えていた。そんなジュンの前に一際目立った着物を着た女性が歩み寄り深々と頭を下げる女将「遠路はるばるようこそ当旅館へ…私がここの女将で御座います。」ジ「あ…ど、どうも……えっと…ここに僕くらいの女の子が8人来てませんか?」その女性…女将の挨拶にしどろもどろになりながらもジュンは本当に地図の場所はここで間違っていないかを問う。すると女将はにっこりと笑うとええ、先に部屋でお待ちですよ。と答えるのであった…女将「それでは、ご案内させて頂きますので私に付いてきてくださいませ。」ジ「あ…は、はい。」ジュンは言われるがままに女将の後を付いていく。階段を上り、長い廊下を抜けやっと辿り着いた部屋には大きく『鳳凰の間』と書かれていたジ「ここ…ですか?」女将「ええ、当旅館で最も広い客間でございます。では…何かありましたらまたお呼びくださいませ。ごゆっくり…」女将はそう言うと一礼し、今来た道を引き返して行ったジ「と…とにかく、入るとするか……」ジュンは襖に手を掛けスッと横に引く。すると眼前には畳が敷き詰められた広く見事な和室が現れその部屋の中には腰を下ろしのんびりとくつろいでいる8人の友人の姿があった。雛「あ、ジュンなのー♪」ジ「うわっと!」ジュンの到着に真っ先に気付いた雛苺がジュンに走り寄り体に飛び乗る翠「やっと来やがったですかぁ…。」紅「遅いわよジュン!紅茶を淹れなさい。」ねぎらいの言葉もなく真紅はいつもの調子でジュンに紅茶を要求したジ「あぁ…お前らが荷物を置いてかなきゃもう少しは早く着けたのになぁ…よっ!」ジュンは雛苺を下ろすついでに担ぎっぱなしだった真紅達の荷物を部屋に下ろす銀「お疲れ~♪ヤクルト飲むぅ?」ジ「いらん!」翠「男が細けぇことでイライラすんじゃねぇです。まったく…」ジ「こ…こいつら…人を見知らぬ地に置き去りにしといて……」ジュンの額にピクピクと血管が浮く…蒼「まあまあ、落ち着きなよ。ジュン君、お疲れ様。今緑茶淹れるからね?」そう言うと蒼星石は湯のみにコポコポと湯気の立つ茶を注いだ蒼「はい、どうぞ。落ち着くよ?」ジ「ああ…ありがと…」ジュンは差し出された湯のみを取るとゆっくりと口を付けるジ「…ふぅ、美味い……」蒼「お粗末様です。」ジュンは唯一自分を労ってくれた蒼星石の優しさに涙が出そうな思いであった紅「ちょっとジュン!?ボサボサしてないで早く紅茶を淹れなさい!」ジ(……こいつだけは本当に…!蒼星石の爪のアカでも煎じて飲め!)紅「ジュン!」ジ「へいへい…」ジュンは湯のみを置くと目尻をヒクつかせながら真紅に紅茶を淹れる用意を始めるのであった…ジ「ふぅ…」淹れ終わった紅茶を真紅に渡すとジュンはやっと畳に腰を下ろし一息を付いた。部屋の窓からは豊かな緑が覗き、先程飲みかけていた緑茶を啜りながらジュンは数時間ぶりの落ち着きを満喫するジ「いいとこだな…」雪「気に入っていただけましたか?」思わずポツリとこぼした独り言に雪華綺晶が話し掛けたジ「あぁ、それにしてもよくこんな立派なトコ泊まれたな。宿泊費大丈夫なのか?」雪「ええ。問題ありませんわ。だってこの旅館は私のお祖父様が経営しておりますから♪」ジ「ふ~ん…………って、えええぇ!?」雪華綺晶の口から放たれた衝撃的発言にジュンは声を上げる雪「ここは昔からうちの御先祖が代々訪れておりまして、以前あることで経営難に陥ったときにそのことを憂いた私のお祖父様がここを買い取られたんですの。ですから私の家の関係者はここの宿泊費は無料なのです。」ジ「そ…そうなんだ……」雪「それに、私達が泊まる間は貸切にしていますのでゆっくりとくつろげますわ♪」ジ「さ…さいですか…はは…ははは…」改めて雪華綺晶の家が持つ桁違いの財力を痛感したジュンはただただ渇いた笑いを上げるしかなかった…銀「そんなことより温泉よぉ、温泉♪せっかくここまで来たんだから温泉に入らなきゃ無意味じゃなぁい。」のんびりモードの室内に水銀燈の声が響く翠「ですねぇ、飯の前にひとっ風呂浴びてくるですぅ。」金「広いお風呂、楽しみかしら~♪」紅「えぇ、悪くないわね。」薔「ここのお風呂…久しぶり……」皆も待ってましたと言わんばかりに部屋に置かれた浴衣を取ると風呂の支度を始めるジ「それじゃあ、僕も汗を流すとするか。」そしてジュンもまた同様に浴衣を取ると支度を済ませ、皆揃って部屋を後にした。だがこの時、自分の背後で薔薇水晶と水銀燈の目が妖しく光っていたことをジュンは知る由もなかった…
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