苦難 二番目
前回、異形の者達に囲まれ危機的場面にて歴史担当教員 桜田潤は 己の正体を明かし、異形の者達を真の姿にて屠った。 潤の求める「平穏」が、一歩遠のいた事と同時に 日本を誇る退魔八乙女の一人。銀乙女の水銀燈にその正体を知られてしまう。 潤の求める「平穏」が、一歩遠のく依然に、瓦礫となって崩れるのだった。
「残念ながら。桜田先生は、本日急病で休みだ」 と、副担任の梅岡がそう告げるとクラス中が、少々煩くなる。 無病無欠勤で有名なあの歴史担当教員で担任の桜田潤が、病で休んだのだ。 煩くなるのもしょうがないのかもしれない。 ちなみに、病と言ってはいるが……前回の水銀燈の一撃が、思いのほか響いてるだけである。「と、言う訳でこの時間は自習になる。一応桜田先生から、自習用プリント…… っておーい。皆話を聞きなさい……まぁ、やりたい人だけやってくれって言ってたからおいておくぞ。 そうそう……今度の歴史テスト範囲がこのプリントから約八割だされるらしいなぁ……」 じゃ、プリントおいておくから自習。静かにな。と、梅岡は教卓の上にプリントの束をおくとさっさと教室を出て行ってしまった。 すぐさま生徒全員が、プリントに群がったのは言うまでも無い。 「ふん……」 プリントを、眺めながら水銀燈は頬杖をつき詰らなさそうに窓から見える外の風景を眺める。 まさか、自分の担任が祓うべき異形の者。しかも、鬼だなんてねぇ……などと昨日の出来事を思い出す。「っ?!」 と、昨日の出来事を思い出すと同時に……例のアレも思い出したのか、少々赤面してしまう。 クシャリとプリントを握りつぶしてしまう水銀燈。「どうしたんだい? 水銀燈」 不意に後ろから話しかけられ首だけを後ろに向ける水銀燈。 後ろに立っていたのは、同じ退魔八乙女の一人で蒼乙女の蒼星石である。 そんな蒼星石に、なんでもないわよぉ。と、右手をヒラヒラさせながらまた頬杖をつき外を眺める水銀燈。「桜田先生が、休みで残念かい?」「っ!? べ、別にぃ~……そう言う蒼星石こそ残念なんじゃなぁいのぉ?」 残念だね。と、口元に片手を当ててクスリと笑う蒼星石。 そんな蒼星石を見て……もし蒼星石が桜田潤の正体を知ったらどうするのだろうか? と、考えてしまう。 いや……八乙女全員に教えたら……やっぱり、祓うのだろうか? あの巨大な鬼である桜田潤を……あぁ! 考えるのやめ! と、水銀燈はグッと一度伸びをした後また外を眺める。 「そういえば、昨日桜田先生と一緒に帰ったんだって?」「なっ!?」 なんで知ってるのよ! と、大声を上げそうになる水銀燈だったが……なんとか声を抑えてギロリと蒼星石を睨む。「金糸雀から聞いたんだ。金糸雀は翠星石から聞いたって言ってたけど」 蒼星石が言った名前は、二人とも退魔八乙女であり……金乙女の金糸雀。翠乙女の翠星石の二人である。 蒼星石の口から出た名前に、水銀燈はしかめっ面をした後、ギロリとその二人が居る方を睨むが…… 金糸雀は、同じ退魔八乙女桃乙女の雛苺と一緒にプリントと睨めっこしてわからないかしらーとか言って居る。 翠星石に至っては……潤が病欠の為かむっつりとした表情で、怨敵の様にプリントを睨んでいた。 理由は無いけど……おしゃべりは潰さないとだめよねぇなどと、危険な光を瞳に宿す水銀燈。「まぁ……程ほどにね?」 なんとなく水銀燈の考えている事がわかったのか、蒼星石は苦笑を浮かべてそう言うのだった。 某所「うぐぁぁ……まさか……霊力込めた拳で力いっぱい殴られるなんて…… 使い物にならなくなったらどうしたものか…………うぅう…… 平穏な……平穏な生活よ……カムバック……」 桜田潤は、布団の中で股間を襲う激痛と戦いながらそう呟いたのだった。
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