桃紅
『桃紅』 ここは真紅の家。今日も今日とて、僕は下僕稼業に精を出している。「真紅~紅茶煎れようか?お前の好きなダージリンを買ってきたぞ」「…」本日のお嬢様は御機嫌が麗しくないようだ。「…おっ、『クイズ魔法学園』見てるのか。」「…」「この金髪の回答者、なんとなく真紅に似てるよな。(胸も小さいし)」「…」「…なぁ、いいかげん機嫌直してくれよ…」「!」鈍い衝撃が頭を貫く。「ぐあッ!グーで殴るなよグーで!」金髪で胸控えめなこのお嬢様は、拳を固めたままつぶやいた。「真紅はここにはいないわ」「はぁ?」「そう、私は……ピンク。ピンクよ。真紅じゃあないのだわ」「はァ~??」なるほど今日はピンクのTシャツを着てはいるが…安直すぎるセンスだが、韻を踏んでいて不思議に似合う名前だ。「それより喉が乾いたわ。紅ち…コーヒーを入れて頂戴」「今紅茶って言いかけダふッ!脇腹は勘弁しろよ…」あげ足を取る暇さえ与えてくれずに、突き刺すような視線でこう言った。「四の五の言わないでさっさとしなさい…!」もしかしてお月様ですか?喉元まで来ていた言葉だったが、口に出すまでには至らなかった。僕がお星様になってしまうからだ。
「ほい、できましたよっと」「あら。早いわね。」労いの言葉をかけもせず、御所望のできたてコーヒーを口に含む。「……ッ!ゴホッ!ゴホッ!苦いのだわ!苦いのだわ!」「あぁ、僕はいつもブラックだからそのままだしちゃッあべし!鳩尾は危険だろ…」「ほんとに!あなたは!鈍感すぎるのだわッ!!」「そ、そんなに怒るなよ。今砂糖持ってくるから…」「いらないッ!」「なんなんだよ…もう勝手にしろ!」つかのま、部屋に沈黙が訪れる。「……グスッ」沈黙を破ったのは、真紅の…「…泣いてるのか?」「泣いてないッ!」赤くした目でこちらを睨むと、ばふっと勢いよくソファーにうつ伏せになってしまった。そんな真紅を尻目に、僕はカマをかけてみることにした。「なぁ…まさか、今日学校で水銀燈と仲良くしてたから機嫌悪いんじゃ…」「ッ!うぅぅ~!グスッ」どうやら図星のようだ。「…ヤキモチか?」一呼吸置いてから、金色の髪が襲い掛かってくる。避ける間もなく、額にみみずをこさえてしまう。「自惚れるんじゃあないのだわッ!!」そう言い放った真紅の顔は、名前の通り真っ紅だった。いや、ピンクか。「わかったわかった。悪かったよ」自然と、笑みがこぼれた。「何を笑ってるのよ!」まだうっすらと涙を浮かべる真紅は、ずい、と僕との距離を縮めてくる。「安心したんだよ。」同時に、真紅の手を取り、一気に引き寄せる。その距離も一気にゼロとなる。「な、何をするのよ急に…!」離れようとする真紅を、力ずくで抑えつける。「ちょ…離しなさいって…」「僕が」「え…?」「僕が真紅以外の女の子に手を出すわけないだろう?僕が好きなのは、真紅だけだ。」「ジュン…」抵抗していた手が緩み、潤んだ瞳は一点に僕の目を見つめる。そして、その華奢すぎる体の全てが、僕に預けられた。「……っと、とうぜんよ!当然だわ!この私の魅力にかなう者なんて!」バッと僕から離れると、紅くしたままの顔で不自然なまでに大きな声でそう言った。「さっ!口直しに紅茶を用意なさい!」「ははっ。はいはい」どうやらいつものお嬢様に戻られたようだ。ふと、背中に柔らかい感触。「私、ジュンを信じてるからね…ありがと…」さて、今日もはりきって下僕を続けるとしますか。「(あててんのよ…わかりづらいかもしれないけど…)」
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