今日はみっちゃんの給料日です
今日はみっちゃんの給料日です。
み「ふんふ~ん♪お給料も入ったし、今日のお夕食はちょっと奮発しちゃおっかな~。」みっちゃんが鼻歌混じりで夕暮れの帰り道を歩いていたその時であった『バッ!』み「あぁ!?」なんとみっちゃんのお給料袋が入ったバッグが後ろから来た自転車の男に引ったくられたのだ。みっちゃんの視線の先では黒いジャンパーを着た男がにやりと笑いながら去ってゆく…み「あ…あれがないと今月の生活が…返済と新しいお洋服が……!」そして何より自分を頼りにしてくれている金糸雀の顔が頭の中に浮かぶ。次の瞬間みっちゃんは両足のハイヒールを脱ぎ捨て走り出していた。
男「へへっ、ちょろいもんだぜ。これで今夜も美味い酒が…」
ーーぅぉぉぉぉおお…
男「ん?なんだ…?」男は突如として背後から聞こえてきた声に振り向く…み「ぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」男「なっ…なんだなんだぁ!?」するとそこにはポニーテールの髪を左右に靡かせながら物凄い形相で全力疾走してくる先程の女性が自分のすぐ近くにまで迫っていた。男「ひっ…ひぃいいいいっ!!」男は慌ててペダルを踏み込み再び自転車のスピードを上げる。
み「待ぁてやぁぁぁあああ、くぉるぁぁああああああああ!!」だがその女性は尚も凄まじいスピードで自転車のすぐ後ろにピッタリと張り付きながら追いかけてくるではないか!男は半ばパニックになりながらも更に必死にペダルを漕ぐと小さな路地裏へと逃げ込んだ。そして曲がり角をジグザグに曲がり、やっとの思いでその女性を振り切ると自転車を乗り捨てるとコンクリートの坪をよじ登りその裏に身を潜めた。男「はぁ…はぁ…な、なんなんだよ…あの女は……普通全力のチャリに追い付くかぁ!?」男は息を切らしながら先程からの信じられない出来事に驚愕していた。男「だ…だけどここまで来りゃあ流石に…」
「みぃ~つけたぁ…」
男「!?」男は突如として聞こえた声にぎょっとしてその声がした頭上を見上げる。するとそこには走っている途中でほどけたのか、長い黒髪をだらりと垂らした先程の女が坪の上から顔を覗かせにたりと笑っているではないか…それも薄暗い夕暮れ時も相まって男の目には女性はよけいに不気味に見えた。男「ひっ…ひぎゃあああああああああああ!!」恐怖…最早男の中にはそれしかなかった。男は立ち上がるともつれる足で再び逃走を開始する。
み「あっ!?コラっ!!」女性…みっちゃんは再び逃げ出した男を追って坪を飛び降りまた疾走を開始した。
ところ変わって芝崎家裏庭…おじじ「ふんふんふ~ん♪…よしっ、こんなもんかの。」芝崎元治は孫からプレゼントされた盆栽の手入れに勤しんでいた。おじじ「ふふっ、だいぶサマになってきたのぅ…可愛い孫から貰ったものじゃから愛情込めて……ん?」元治はふいに聞こえた物音に顔を上げた。悲劇が起きたのはそのときである。『ガシャーン!』おじじ「!?」なんと突然坪を飛び越え走ってきた男が盆栽を置いていた台をひっくり返して行ったのだ。盆栽の鉢は無惨に割れ植えてあった松は地面に放り出されてしまっていた。おじじ「ああっ…あああぁ!孫から貰ったものじゃったのに…蒼星石の思いが詰まっていたのに…ああぁ…」元治は地面に膝を付き松を拾おうとした…だが、『グシャッ!』おじじ「!?」み「あれ?なんか踏んだような…ってそんな場合じゃないわ!待てぇぇえええええ!!」その目の前で後ろから走ってきた髪の長い女性が盆栽をトドメとばかりに踏んでいったのだ……おじじ「の…NOOOooo~!!」元治の脳の血管が切れんばかりの絶叫が周囲に響くのであった。
それからどれだけの時間が流れたのだろう…?男はヘトヘトになりながら尚も女性から逃げ回っていた。背後にはまだあの女性が長い髪を振り乱しながら追いかけてきている。男「はぁ、はぁ…つ…捕まったら…殺される…ゼェ、ゼェ…」み「待ちなすわぁぁぁぁああああああああい!!」しかも女性はまだまだ諦める様子はない男「ひっ…ひぃいい!勘弁してくれぇぇえええ!!」男はついにみっちゃんから奪った鞄を道に投げ捨てた。み「!?」だがそこは街中を流れるコンクリートで整備された用水路であった。しかし、みっちゃんには微塵の躊躇いもなかった。み「はぁああッ!!」バッ!そしてみっちゃんは鳥のように空を跳んだ……
一時間後…み「た…ただいま…カナ……」金「み…みっちゃん!そんなびしょ濡れでどうしたのかしら!?」み「うん…ちょっとね……くちゅん!!」金「あぁ!もう、風邪引いちゃうから早く着替えてくるかしら~!!」み「うん…そうするね…くしゅん!」
必死の思いで何とかお給料を取り戻したみっちゃんだが、のちに桃種市で街中を時速100キロで走って追いかけてくる髪の長い女の都市伝説がまことしやかに囁かれるのはまた別の話である……
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