『好きな子にいじわるしちゃう心理』
…自分のベッドにいつのまにやら先客がいても、彼、桜田ジュンは動じなくなっていた。「薔薇水晶ー。何度も言うけど、人んちに入るときは一言断ってからにしろよ?」ジュンと先客…薔薇水晶は特に恋人だとか、幼馴染だとかそういう関係ではない。強いて言うのならば、ストーカーとその対象。──ただ、それだけ。「………なんか、最近のジュンの反応…つまんない」「何だよ。お前、愉快犯だったのか?」極めて冷めた…いや、ナチュラルな口調。一方通行な愛でベッドを暖めていた不法侵入者は、ならばと切り出す。「…そ、そんなこと言ってると、脱いじゃうよ?アッーだよ?」「ウチ、暖房無いぞ。それでもいいなら好きにしろ」「…むぅ……」──薔薇水晶には、ジュンを犯したいだとか手篭めにしたいだとかそういう欲望は特になかった。ただ彼の驚く顔が、照れる顔が見たいだけなのだ。…脱ぐか否かを考えている中、台所の方からジュンの声が響く。「これ、お前が作っといてくれたのかーっ?」
大声。だが怒りではなく、ただただ“普通”。家族と話すように。友人と話すように。「そーだよーっ!もしかして、食べて来ちゃったーっ!?」こちらも大声。彼がそうしたように、“普通”に接する。…まぁ、会話の内容自体は夫婦のようなものなのだが。「いーやっ、まだだっ。サンキューっ」「え…あ……うんっ」不快ではない。むしろ望んでいるやりとりだ。そもそも、彼が好きだからこんな犯罪まがいなことまでしているのだ。───でも、何かが足りない。贅沢かな、と思いながらも薔薇水晶は少し憂っていた。「美味かったよ。ありがと」「あの……ジュン?」「?」薔薇水晶が、凄く、すごーく疲れた表情で言う。
「私… 帰る。何か、変…」「え?何で?」仮にもストーカーとその対象なのに、家の中にいることは問わず、帰ることを問う。実におかしな会話だった。「いや、でも…迷惑でしょ?」「だから言っただろ。ウチ、暖房無いの」「……は?」「おかしいな。何でいつもお前は俺のベッドにいるんだ?」問いに問いで返し、更に問いを問いで返す。全てを薔薇水晶が理解したのは、数秒後。「……良いの?」「いつも勝手にいるだろ。許可なんかいらないよな」「………私、これでも嫁入り前だよ?生娘だよ?」「ストーカーなら、警察に突き出す。僕の抱き枕なら…不問」
「…ねえ、ジュン?どういう心境の変化……?」「お前さー… 毎晩隣で寝られて、何も意識しない奴がいると思うか?」──ストーカーは対象の腕の中で顔を赤らめていた。──対象はストーカーを抱き締めながら顔を赤らめていた。「…何だかんだでお前僕の面倒、見てくれてるし」「……だよ………」「は?」強引なのは、私の特権だよ…。小さく文句を呟きながらも、こんなのも悪くないとストーカーは思っていたり。『好きな子にいじわるしちゃう心理』
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