~薔薇獄陰陽伝~第六話
リビングに降りてくると、水銀燈はいつもの巫女装束に着替えていた。……ちょっともったいないな…なんて思ってないからな…「ねぇ~…早くぅ」「はいはい…すぐできるから椅子に座って待ってろ」「はぁい♪」そう言ってちょこんと椅子に腰かけ、既に準備していた茶碗を箸でカチカチ鳴らしている水銀燈。大人っぽい容姿とは対照的な子供っぽい仕草に、自然と笑みが漏れる。 さて…お腹を空かせた姫様のために、今日はオムライスでも作るかな。できあがったばかりのふわふわのオムライスをテーブルに置き、自分も席につく。「いただきまぁ~す♪」「いただきます」……うん、我ながら上出来だな。トロトロした玉子とパラパラのご飯の相性が抜群だ。水銀燈もお気に召したのか、もう大半をたいらげている。と言うより、もう終わりそうだ…僕まだ半分も食べてないんだけど……
「あ、そうそう」最後の一口を食べ終え、コップのお茶を飲み干した水銀燈が言う。「これ、持っておきなさい」差し出されたのは小さな朱色の長方形の紙。確かこれは…「霊符?」「あら、知ってたの?」「当たり前だろ…これでも由緒正しき櫻田家の末裔なんだから」霊符…それは名のある陰陽師なら誰でも使っている、霊気のこめられた札のことだ。そしてこれは、使う者によりその性能が異なる。例えばある者は周りに強力な結界を張ることができ、またある者は荒れ狂う風を呼び出すことができるという…「そう。じゃぁ説明は不要よね。何かあった場合…いや、貴方に何かあった場合はもちろん私が助けに行くんだけど……」そこまで言って何故か口をつぐみ、それから不満そうな顔になる水銀燈。…僕何か悪いことしたか?「どこかの誰かさんが『がっこーにはついてくるな』なんて言うものだから、四六時中貴方を守る…なんてことができないわけ」わかる?と、むくれながら指をつきつけてきた。
「う…」だって学校になんか連れて行ったら、この前の薔薇水晶のときみたいにまた何かややこしいことになりそうじゃないか。「仕方ないだろ?ただでさえお前は目立つのに、学校みたいな人のたくさん集まるとこなんかに連れていけるかっての」「むー……」水銀燈はまだ不機嫌な様子。だがしばらくすると先ほどの真面目な表情にもどった。「というわけだから…もし貴方が私のいないところで襲われたときには、私が駆けつけるまで自分の身は自分で守らなければいけないの」「確かに…ん?でもお前の見えないところで僕が襲われてるのに、僕がどこにいるかとかわかるのか?」「えぇ、これでも動物の精霊だからね。匂いでわかるわ。それに…貴方に危険がせまると感知できるようにもなってるの」なんせ式神だからね。と胸を張る水銀燈。そんなことしたらただでさえでかい胸が強調されて……「というわけだから、もし何かあった場合には、私が貴方のいる所に着くまでなんとかこの霊符で自分の身を………って、聞いてるの?」「きっ、聞いてる聞いてるっ!!」
「…(じーっ)」「えーっと…あ、そうそう!霊符って普通は青か灰色だろ?なんでこれは朱色なんだ?」動揺を隠そうと必死にごまかすが、彼女は未だジト目で僕を睨んでいる。「はぁ…まぁいいわ。それで、どうしてこの霊符は朱色なのか…だったわよね?」「そっ、そうそう!」ふぅ…なんとか話を反らせた…「それはね…貴方と同じよ」「………どういうこと?」やれやれ…なんて顔をしてる水銀燈には悪いが、さっぱりわからない。「はぁ…つまりこれは普通の霊符とは違う。貴方の先祖が使っていたもの…といえばわかるかしら?」ふむ…さすがにここまで説明されると水銀燈の言いたいこともわかるぞ。「つまり、普通の陰陽師には使えない…僕や僕のご先祖さまのように、特殊な霊力を持つ者にしか使えない。そういうことだろ?」「そういうことよ。私が認めた者だけが使えるものだから、効果も普通の霊符よりずっと上」ただし、と彼女は付け加える。
「特殊なものであるがゆえに、何が起こるかわからない…という危険もあるわ。もしかしたら、今の貴方じゃ制御できないほどの大きな力が溢れてくるかもしれない…」 「お、脅かすなよ……」「ふふふ…そうは言ったけどきっと大丈夫よ。貴方の先祖も使えたのだから、全く同じ霊力を持つ貴方が使えないはずないわ」僕を安心させるためか、にっこりと微笑む。その台詞が軽くプレッシャーになってるんだけど……「ま、まぁそのときになったらやるだけやってみるよ。それでも……できるだけ早く助けに来てくれよ?」「もちろんよぉ♪」笑顔でそう言い残し、水銀燈はテレビを見るためにリビングに戻って行った。「………皿の片付けくらい手伝えっての」
「ふぅ……」皿を洗い終わり、風呂も済ませ、今は自分の部屋のベッドに横になっている。水銀燈はと言えば、今テレビでやっている「愛の割烹着」という料理番組に夢中だ。CMの合間に僕のPSPをやりながら。……アイツ本当に狐なのか……?「霊符…か」先ほど水銀燈から手渡された札を見ながら呟く。「……僕に使えるのか?」水銀燈はあぁは言ったが、まだ自分に宿る霊力を感じとれてもいない僕としては不安不安で仕方がない。「……今こんなことを考えていてもしょうがないか。これはあくまで緊急用だしな」そう。水銀燈と初めて出会った日以来、物の怪に襲われるということは皆無だ。だから心配する必要はないはずなんだ。「んー…なんだか眠くなってきたな…」普段考えごとなどしないのに脳を使ったから疲れたんだろうか。時計の針は10:30をさしている。「少し早いけど、今日はもう寝ようかな……」『寝る』と口にすると、眠気が格段と増してきた………
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