第百九話 JUMと放課後 前編
「一つ屋根の下 第百九話 JUMと放課後 前編」
「はい、そこまで。答案を後ろの人から回収しなさい。」一斉にペンを置く音と安堵の息が教室中に漏れる。さて、僕は一番後ろだから答案集めるかな。席を立って答案を貰っていく。あ、やばい……あそこの答え違ったかな。まぁ、クラス一の秀才と答えが違うんだから僕が間違ってるんだろう。やれやれ、早くも減点かぁ。「JUM!!終わったな!俺達自由を手に入れたんだよな!」「ん、ああ。まぁ、そうだな。大袈裟だけど。」「はっはっは、もっと喜べこの野郎!」テストから開放されてナチュラルハイなべジータが僕の顔目掛けてゆっくり襲い掛かってくる。とりあえず僕はそれを回避するとカウンター気味にべジータの腹部に拳を入れた。「げふっ!?……へっ、いいパンチしてるな……それよりJUM、ナンパにいかねぇか?」「はぁ?僕は別にいいよ。お前一人で行けば?」そもそもコイツとナンパに行って成功するはずがない。なんせ口説き文句が『俺と一緒に精神と時の部屋で修行しながらお茶してサタデーナイトフィーバーしない?』なんて意味不明だし。「へっ、そうかいそうかい。どうせお前は家に帰って麗しきお姉様方といちゃいちゃするんだろ?そうなんだろ?くそっ、羨ましくなんかないからな!見てろよ、明日にはお前のとこのお姉様方を超えるナウでヤングな子猫ちゃんを見せてやるからな!」勝手にしてくれって思う。大体、ナウでヤングなんて今時使わない。それに、自分の姉ながらそう簡単に姉ちゃん達を超える美人を見つけれるとも思わない。まぁ、美人云々はその人の感覚にもよるだろうけど。さて、僕もそろそろ帰ろうかな……そう思っていた矢先教室のドアから一人の金髪の少女が飛び込んできた。「JU~M!ヒナと一緒に遊びに行くのよ~!」ヒナ姉ちゃんは僕に向かってダイブ。僕も慌ててそれを受け止める。やれやれ、相変わらず騒がしい人だ。「っとと……ヒナ姉ちゃん飛び込むと危ないから。それより、どこに行くのさ?」「う~とね、巴と一緒に喫茶店にパフェ食べに行くの!甘いもの食べたいの~。」甘いものか。それはいいかもしれない。なんせテスト明けだし、脳が甘いものを欲しがってる気もする。「だったら……ウチに来て……これ、割引券あげるから……」鞄に荷物を詰め込んでいた薔薇姉ちゃんがヒョイっとチケットのような物を僕達に差し出した。
「薔薇姉ちゃん、これは?」「ラプラスの割引券……使えば最終的に四割引になる……今日は私シフトだから……来て……」薔薇姉ちゃんはそれだけ言うと教室を出て行く。そう言えば、今日は薔薇姉ちゃん自転車通学だったな。ラプラスは学校から少し遠いせいか、薔薇姉ちゃんはバイトの時は自転車通学だ。「四割引か。これは行くしかないね。それじゃあ、柏葉は?」「トゥモエは下駄箱で待ってるの~!じゃあ、一緒に行こ。」ヒナ姉ちゃんはそう言って僕の手をギュッと握り締める。相変わらずヒナ姉ちゃんの手は小さいな。最もヒナ姉ちゃんの背丈で手が僕くらいあったらアンバランス極まりなくて怖いけどね。階段を降りて廊下を歩き、下駄箱へ。その下駄箱には柏葉とキラ姉ちゃんが居た。「トモエ、JUMも行くって~。」「そっか。私もさっき雪華綺晶に会ったからつい誘っちゃった。いいよね?」「そりゃいいだろ。それよりさ、薔薇姉ちゃんに割引券貰ったんだ。特に行きたい所なかったらラプラスにしない?」僕はピラッと貰った券を柏葉とキラ姉ちゃんに見せる。「まぁ、いいですね。それじゃあ行きましょうか。ラプラスに着く頃には程好くお腹も空いていそうですね。」そんな訳で、僕等はラプラス目指して歩き始めた。しかしまぁ、女三人に男僕一人って他から見たらどう見えるんだろうか。しかも、三人ともS級の美少女だ。僕としてはもちろん、悪くない気分だけどね。「いっちごパフェ~♪いっちごパフェ~♪あんま~くて美味しいいっちごパフェ~♪」ヒナ姉ちゃんは超が付くほどご機嫌のようだ。そんな笑顔を見てると何だか僕まで気分が良くなってくる。「そうだ、折角割引券貰ったし、今日は僕が全部奢ってあげるよ。」そのせいかな、そんな大盤振る舞いすらしてもいい気がした。「いいのかな。私は自分の分くらいは……」「別にいいよ。そんな沢山食べないだろ?ああ、キラ姉ちゃん以外ね。」「ええええ!?な、何故ですか?私に何か落ち度がありますか?」「いやさ、だってキラ姉ちゃんの食べる量は尋常じゃないし。」間違いなく財布がスッカラカンになるのは目に見えてる。いや、空になっても払えればいいよ。下手したら白崎さんに土下座でもして未払い分を働く事になりかねないし。
「でも、私にとっては普通ですよ?」「キラ姉ちゃんにとっては普通でも一般人には並……いや大盛り、特盛り以上だからね。」例えば僕らが標準サイズのカレーで満腹ならキラ姉ちゃんは間違いなく2000g以上だ。そんな訳で、ちょっとキラ姉ちゃんを突き放してみる。すると、珍しくキラ姉ちゃんは今にも泣きそうな顔になっていった。しまったな、ちょっと意地悪し過ぎただろうか。「ぐすっ……私だって男の人に……JUMに奢って貰うのが一つの夢なのに……ぐすっ……」柏葉とヒナ姉ちゃんの視線が突き刺さってくる。やれやれ、本当に仕方ないな。僕はとりあえずキラ姉ちゃんの頭を撫でる。柔らかい髪がどことなく気持ちいい。「しょうがないな、じゃあ一品だけだよ。一品だけにするなら僕が奢ってあげるからさ。」僕がそう言うと今までの泣き顔はどこへやら、満面の笑みを浮かべて僕に抱きついてくる。「うおわっ、キ、キラ姉ちゃん!?」「嬉しいです、JUM!だから好きですよ。」キラ姉ちゃんのほんのり甘い髪の匂いが鼻をくすぐる。そんな僕とキラ姉ちゃんを見て何だか不満げなヒナ姉ちゃんも次の瞬間には後ろから飛び掛ってくる。「雪華綺晶ばっかりズルイの~!ヒナもヒナも~!」前からキラ姉ちゃんに抱きつかれ。後ろからヒナ姉ちゃんに抱きつかれ。前後からおっぱ……もとい人肌を押し付けられて僕自身なんだか大変な事になりそうなのを押さえる。「分かった、分かったから!二人ともちょっと離れてよ。柏葉だって見てるし……って柏葉?」居ない。ついさっきまでヒナ姉ちゃんの隣に居たはずなんだけど。そう思ってキョロキョロしてると、僕の右腕に何か引っ付いていた。というより、僕の右腕が何かに挟まっていた。「って、何やってるんだよ柏葉?」「何となく……するべきかなと思って。」いや、何となくって。わざわざ言う事ないだろうけど、柏葉は僕の右腕を抱きしめていた。「ちょ、ちょっと巴!何をしているんですか?JUMの腕を胸に挟んで……」「いくらトモエでもJUMに色仕掛けしたらめーなのー!」キラ姉ちゃんとヒナ姉ちゃんは当然のように猛抗議。それにしても……改めて姉ちゃん以外にあんな事されると無茶苦茶ドキドキするんだな……そんな事をついつい思ってしまった。
「やっと着いたの。」さて、道中ゴタゴタがありつつも僕等はラプラスに辿り着いた。ドアを開けて店内に入ると、店長の白崎さんが出迎えてくれた。「いらっしゃいませぇ~。これはこれは、久しぶりですねぇ。おっと、こちらのお嬢さんはお友達ですか?」「そうなの。トモエはヒナの親友なのよ~。」白崎さんはフムと柏葉を上から下まで見る。何だか言い方がイヤラシイかな?「えーと、巴さんですか?今バイト等はしていますか?していなければ、この店とか如何でしょうか?時給には自信ありますし、週一回とかでもいいですよ?」そして早速勧誘。メイドさんのレベルが高い事で有名なラプラスだけど、どうやら柏葉は白崎さんの合格ラインに達したらしい。まぁ、普通に可愛いと思うしね、柏葉は。当の柏葉はいきなり過ぎてなんだか困惑気味。それを察した白崎さんはとりあえず自分の名刺を柏葉に渡して、『気が向いたら連絡を』と言ってる。う~ん、柏葉のメイド服か……似合うかも。さてさて、とりあえず席に案内された僕等。しばらくすると、薔薇姉ちゃんがメニューを持ってきてくれる。「や、来たね……これ、メニューだから……決めたらピンポン押してね。」薔薇姉ちゃんは、一般的……と言うのが適切かは分からないけど、俗に言うメイド服に身を包んでいた。白のエプロンにヘッドドレスが何だか眩しい。「へぇ……薔薇水晶の制服可愛いね……あれなら着てもいいかも。」柏葉がポソリと漏らす。多分、今の言葉を白崎さんが聞いたら速攻で雇われる気がする。「ん~……ヒナはこれ、ストロベリーパフェにするの~!」「えっと、私は……このチョコレートパフェにしようかな。」ヒナ姉ちゃんと柏葉はメニューを決めてしまったようだ。僕は何にするかな……パラパラメニューを捲る。「僕は……そうだなぁ、これにしようかな。ミックスパフェ。」大きさは前途のヒナ姉ちゃん達のパフェと一緒だけど、苺とチョコが半々になってるようだ。さて、問題は……「じゃあ、私はこれですね。ファイナルアトミックミラクルグゥレイトデンジャラスパフェ!」何ですか、その子供の好きそうな単語を並べた名前は。思わずメニューで確認する。そこには¥3000……と書かれてあった。なるほど、確かにグゥレイトな量。そして僕の財布がデンジャラス。「一つは一つ……ですよね?」そして満面の笑みのキラ姉ちゃん。まぁ、僕だって男だ。言った事は曲げないよ。でも、今度からは値段制限にしようと心に誓う。ああ、有難う薔薇姉ちゃん。割引券なかったら僕泣いてたよ。まぁ、とりあえず全員分決まったのでボタンを押すと置くから『は~い、今行きます』と声が。あれ?どっかで……「お待たせしましたご主人様。ご注文は……って、JUM君!?な、なんでみんな居るの!?」注文を取りに来たのは、やはりメイド服に身を包んだ蒼姉ちゃんだった。後編へ続く
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