この世に嫌われた女と、あの世に嫌われた男
この世に嫌われた女と、あの世に嫌われた男…あら、また来たの?「うっさい、また怪我したんだよ」今月に入って入院何回目?「通算3回。骨折が2回と事故による怪我が1回」そして、その3回、全部君と同じ部屋って何? いじめ?「いいんじゃねぇの? 多分おば看護婦の事だから仲がいいと思ってんだろ?」で、一体今度は何の怪我なの?「またラグビー」確か前回はスクラム中に味方が倒れ込んで足が複雑骨折だっけ?「ありゃあもう勘弁な」
で、今回もラグビーで足を折ったと「本当に、なかなかどうして怪我ばっかりするんだろうな」あなた病院に好かれているんじゃない?「確かになぁ…でも、命に関わる怪我は絶対にしないんだぜ」まるで自分は死なないみたいな言い方じゃない「何言ってんだよ。人間てのはいつか死ぬんだ」私は早く死にたいけどね「馬鹿」なっ…何よ「命は大事にしとけよ。保険は利かないんだぜ」あなただって知ってるでしょ? 私は心臓病で長くは生きられないことを「努力が足んないだけだろ」そう言うけどね…
「柿崎…お前は死んでいい奴じゃないだろ」…「お前には心配してくれる奴が居るんだからさ」じゃああなたはどうなの?「俺か? 俺にはいないよ。みんな、死んじまったからさ」え…?「だから、まわりの人を大切にしろよ」ちょっ、何を…「おやすみ、柿崎」またそうやってはぐらかす…確かに私は死にたい。でも、そういう時に限って彼は入院してくる元々彼は怪我の多い人間で、年も近いせいかよく話す「…柿崎…死ぬんじゃねぇぞ…」何を言ってるんだか
で、もう彼は退院「じゃあな柿崎」もう2度と会いたくないわね「うっさい」そうは言っても、顔はにやけてるわよ「へへっ…どうせまたすぐにそこに舞い戻って来るから、ちゃんと空けとけよ?」はいはい、今度はせいぜい死なないように「へーい」彼はそう言い残し、退院したこのペースだと次は2週間後だろう。そう、彼はすぐに戻ってくる看護婦「大変よ。めぐちゃん」あらどうしたの? 看護婦さん看護婦「あの子が…あの子が…」彼が?看護婦「さっき車に…跳ねられた…」
え…何質の悪い冗談を言ってるの?看護婦「それでね…めぐちゃん…実は…今夜が峠なんだって…」嘘よ…嘘よ嘘…そう言いながらも集中治療室に足が向かう「俺には心配してくれる奴がいないよ」ううん、それはちがうだってここに居るもの。あなたの心配をする人が…先生「…」先生、彼は…先生「大丈夫だ。奇跡的に助かったが…」先生「もう2度と、まともには運動できない」
え…、あの超が付くほどのラグビーバカの彼が…先生「とりあえず、また入院だ。君のベッドの隣になるよ」「…」ねぇ…「なぁ、柿崎…俺さ…」「俺さ…何でもかんでもいい方向にしか考えらんなくてさ、入院するのも、お前に会えるからいいやって思っていたんだ」「でもさ…今回は流石に辛いわ…死に…」-ピシッ「おい柿崎…」聞こえる? 私の鼓動が…「ああ」こんなに不定期な鼓動なのに、生きたいから常に動いている
もし君がさ、死ぬっていうなら…私も死ぬ…「…バーロ…何言ってんだよ…」だってさ…私辛いもん。君が居ないと辛いもん「…何か柿崎変わったな」そう?「ああ、前より辛気くさくなくなった」ねぇ…「ん?」君は、私の心臓が治るまで待っててくれる?「ああ、いつまでも待つよ。その代わり、俺が死ぬまでには治せよ?」大丈夫よだって君は、あの世に嫌われてるんだもん「そらお前もだな」終
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