俺の嫁
いつのまにか。始まっていた終わり。婚約の約束までしていた僕ら、気が付けば彼女の病気は進んでいて、会う場所も病院になっていた。それに気付くのにお互い時間はかからなくて、それが潤滑油となってさらに二人の関係をギクシャクさせていて。それでもなんとなくお互い離れるのが恐くて、会える日は何時もどおり接してみたり。ムリにきっかけを作ったりして。
それでもわだかまりや不安はやっぱり隠しきれない。弱い自分を見つめて、いつまでも癒着していることを激しい嫌悪を感じることには慣れてきて、自分でも嫌な奴と思う。もうすぐ離れ離れなのに。予感がしたんだろうか。不意に彼女が僕の手を離した。バイバイと呟いて消えていく彼女を黙ってみているべきなのか、必死で追い掛けるべきなのか。ムリに大人のふりしてきた僕にはわからなくて、哀しげな表情で失われていく燈はあっさりと消えた。その時の僕はとても現実感がなくて、失ったものの重大さを感じるには少し時間がかかった。「すぐ行くから」そう心に決めて、息耐えた彼女の手を握り締めた。その時の僕の顔は以外に落ち着いていて。もっとあとで消えた彼女が聞こえた気がした。僕は今日も彼女との約束を語る。多くの言葉はいらない。すばらしい文章力もいらない。消えてしまったあなたの生きた証を残すために『――――は俺の嫁』
終わり
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