【桜、咲け】
桜がまた、儚く舞い散るまるであの人の死を悼むように「・・・ばらしーちゃん」何故彼女が死ななければならなかったのだろう?私には理解できなかった。「お母さん?どしたの?」娘の声を聴いてハッとする。話は、今から5年前に遡る。
5年前の暮れ、妹の薔薇水晶がまた入院した。彼女は元々体が丈夫ではなかったため、入退院を繰り返していた。今回は、3週間ほどの検査入院・・・のはずだった。「・・・お姉ちゃん、無理しないで」「何言ってるのばらしーちゃん?貴方の方が大変なんだから。気にしないの」「・・・でも、もう8ヶ月でしょ?」「まだ大丈夫よ。」「・・・無理しちゃだめだよ?」「ありがと、ばらしーちゃん」彼女は、自分のコトほったらかしで私のことを気にかけてくれた。自分の病気が、どんなに重くても・・・
検査入院と聞いていたので正月までには帰ってこれると思っていたが、その認識は甘かったのかもしれない。彼女の身体はその病魔に酷く侵され、もうどうにもならない状態だったと知ったのはその1ヵ月後。「・・・お姉ちゃんの子ども、早く抱いてみたいな」「焦っちゃだめよ?ばらしーちゃんも元気になってもらわないと、ね?」「・・・うん♪」私も毎日見舞いに行っていたが、自分の体のこともそろそろ考えなければならない時期にきていた。それは、夫であるジュンにも言われていた。だが、夫は「行けるなら行けばいいよ。でもあんまり無理はいけないよ?」と理解を示してくれた。ある日の事、妹がこんなことを呟いた・・・「・・・桜、見れるかな」「桜?見れるわよ」「・・・だといいね」「あなたは大丈夫よ?」「・・・うん」彼女はなんとなく元気がなかった。
彼女はその時既に悟っていたのかもしれない。年も明け、正月も過ぎたある日。彼女の様態が急変した。「・・・お、姉ちゃん」「なぁに!?ばらしーちゃん」「・・・ごめん、ね」「謝らないで!あなたはまだ生きるのよ!」「・・・さ、くら」「桜がどうしたの?」「・・・見た・・かったな。お姉ちゃんの・・子供も・・・見れなくてごめんね」「そんなこと言わないで!」「・・・最後の・・・お願い・・・聞・・・いて?」「何?ばらしーちゃん?」「・・・火葬・・・はしないで・・・煙になって消えるのは・・・嫌だ」「ばらしーちゃん・・・」「・・・埋葬・・・したらその上に桜の木・・・植えて?」彼女のバイタルサインが、途絶えた。「ばらしーちゃん?ばらしーちゃん起きて?ねぇ・・・起きてよばらしーちゃん・・」私はただただ泣くことしかできなかった。
彼女の遺言どおり、火葬はせずに埋葬という形を取った。場所は私たちが幼い頃によく遊んでいた別荘の裏山。桜の木も、その上に植えた。彼女が死んでから1ヶ月後、子供が生まれた。名前は、薔薇水晶。どことなく、妹に似ている。彼女もまた、桜が好きだ。「・・・紫煙にはなりたくなかった・・・ありがとう」娘がそんなことを呟いた。「いいのよ。ばらしーちゃん」頬に伝わる涙。桜吹雪がかすんで見える。「・・・ありがと、お姉ちゃん」貴方のコトを忘れることはない。この桜が、あなたなのだから。毎年、あなたに会うことができるのだから。また、逢いに来るからね?
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