第三章『弱さ』
また壁だ。ネットでいろいろと検索してみる。必要ならば掲示板も覗く。流石にに情報量はすごい。でも必ず壁にぶつかる。「青酸カリ、トリカブト、砒素…どうやって手に入れるんだよ。足つくだろ…没」「河豚…釣りは苦手だ。第一どうやって食わせるんだ?」「毒殺は厳しいかもしれない。足がつきやすい…。」必死に考えるが、高校生という壁、一般人という壁…。「まず殺人がどういうものから考えるとするか」『殺人学』と検索バーに打つ【殺人学 の検索結果 約 547 件中 1 - 10 件目 (0.34 秒) 】片っ端から覗いていく。わかったことは至極当然のことなのだが、犯罪を犯すに当って問題となるのは警察をはじめとする捜査側の出方だ。「どこまで出来るかわからないが、やらないよりましだな…」検索バーに『法医学』と打つ。【法医学 の検索結果 約 1,430,000 件中 1 - 10 件目 (0.33 秒) 】これは骨が折れそうだったから本を買うことにする。関係性のありそうな本を三冊ピックアップする。三日以内には届くだろう。本の注文を終え、再び殺害方法について考える。出来るならば直接手を下したくない。精神的に耐えられるか未知数だからだ。でも、死ぬところはこの眼で見届けたい。マウスから手を離し目を閉じる。聞こえてくるのは鳥の囀りと、犬の鳴き声。平和だ。この桜田家にも平和を作ってやる。
コンコン「なに?」「大丈夫ぅ?」昨日のことだろう「平気だよ。朝ごはんあるかな?」「よかった。支度しておりて来なさぁい♪準備してるわ」姉も眠れなかったのだろうか?声が疲れている。「わかった、すぐいく!」着替えを済ませ、顔を洗う。少し気が晴れた二人で食事を済ませ、早めに家を出る。
家の前には真紅が待っていた。「あらぁ、お久しぶりね真紅ちゃん」「こちらこそお久しぶりです、のり先輩」「どうしたの?」「どうしたの?ですって?レディーを待たせるのは紳士じゃなくてよ」真紅が腕を絡ませてくる。「ちょ、ちょっと!?」「嫌かしら?」「あらあら、お熱いこと♪おねぇちゃん先に行くわねぇ」結局腕を組んでの登校に…。ちょっと早い登校のおかげで双子には見られなかったが「真紅、みんな見てるよ(汗」「そういえば!昨日のくんくんの推理で理解できなったことがあるの、教えてくれるかしら?」「人の話ぐらい聞け!」「うるさい下僕ね、私が質問してるのだわ!答えて頂戴!」
放課後、いつのまにか放課後。考え事をするとあっという間に時が過ぎてしまう。「ねぇジュン?」「なに?」「授業中なに考えていたの?顔が引きつってたわ…。何かいけないこと?」心配そうに僕の顔を覗き込む少女。どうして女という生き物はこうも勘が鋭いんだ?特に真紅は鋭い。真紅の前では嘘なんて意味を成さないんじゃないかと思う時もある。 「真紅のことだよ」「嘘つき!」顔は怒ってるが嬉しそうだ。「私とっても幸せなのよ?ジュンと再会できて、そしてこうしてまた一緒に帰れる。こんなに幸せなことはないのだわ」「よ、よせよ恥ずかしい。」「誰も聞いてないわ」「そうじゃなくて…」男としては当然の疑問が浮かび上がる。聞かずに入られない「なぁ、真紅。僕のどこが好きなの?」「…難しい質問だわ。たとえば優しいところかしら?ジュンは気づいてないかもしれないけども、あなたは周りのみんなから慕われているわ。それも嫉妬してしまうぐらい。人間としても彼女としても…」 「……」「なに悩みがあるのなら遠慮せずに打ち明けて。ジュンの力になりたいの…」「…」「それじゃぁ、また明日ね?7時30分頃迎えに来るわ」薄い微笑を浮かべて彼女は去っていった。もし、もし僕が計画している事を実行したとする。僕は彼女に隠し通せるだろうか?そしてそれが世間に知られた時、彼女にどれだけの重荷を架すことになるだろうか?今は彼女も姉と同じぐらい大切な存在だ。事件の発覚は僕の人生の終わりだ。でも、そんなこと彼女たちの悲しみに比べればなんてことはない。
僕は弱い人間だ。悲しませるかもしれないのに、彼女といたいと思ってる。発覚しなかったとする。でもそれは穢れた手で彼女に触れるということだ…。
この弱さが今の事態を引き起こしたのかもしれないというのに…。
「ただいま」姉は部活で帰ってなかったが癖で挨拶をする。二階に上がると奥からかすかな鼾が聞こえてくる。このまま首でもしめてやろうか?本気でそう思う。簡単に宿題を済ますとPCを立ち上げる。殺人だの薬だのと検索し、ためになりそうなサイトはお気に入りに入れる。漠然とだが方向性が見えてきた気がする。簡単に言えば、他殺の証拠を残さず事故に見せかければいいのだ。出来るならば死体も消し去りたい。でもそれは多大なリスクが付きまとうから、やはり事故で片付けるのが一番らくだ。明日には本が届くだろう。それから本格的に殺害方法を考えるとしよう…
調べ物に一段落をつける。下からいい匂いが漂ってきておなかが言うことを利かなくなったから。「今日はハンバーグよ♪特製なんだから!」「いただきます」そう、これが本来あるべき風景。決めたじゃないか、やるって。僕はもう迷わない。絶対に見つからないし、悲しませない。一人で全て背負って墓まで持っていく。
弱い心に鞭打って残り少ない穏やかな日常を噛み締める。
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