『笑ってはいけないオーベルテューレ』 4
―あらすじ―水銀燈にゲームで負けた僕(蒼星石)と真紅、金糸雀、薔薇水晶。後日、彼女からいきなり飛騨高山に呼び出されたが……実態は罰ゲーム!ルールは何が起こっても絶対に笑ってはダメ。笑うとハエ叩きで尻を容赦なく叩かれる、キツイお仕置が!本家、ガキの使いばりの罰ゲーム!!行く先々には水銀燈が徹底的に仕掛けた笑いの罠や刺客が待ち受ける!耐え切れるのか……本気で自身がないよ、まったく。
「……羞恥プレイだね……」「言わないで、そんな事!」 薔薇水晶も真紅も下を俯きながら、他の人に見られないようにするので必死だった。 普段なら結構はしゃぎまわっている金糸雀までもが、押し黙ってじっと俯いている始末である。 ふんどし一丁のベジータが曳くボロボロのリヤカーに乗せられている、この状態。 晩秋の高山の風景を楽しむなんて到底無理だった。 周囲の人と顔を合わせないようにしているが、小声の噂話や嘲笑は遠慮なく耳に入ってくる。 今にでも耳を切り取って……いや舌を噛み切ってしまいたいぐらいだった。 もっとも、ここが僕らの済んでいる地元から遠く離れた地であるのが、唯一の幸いだった。さすがに僕らを知っている友人や知人は、ここにはいないだろう……。 ……と、思っていたのだが! その推測はわずか2秒で否定された。「あら、真紅ちゃんたちも……来ていたんだ」 耳に届くのは僕……いや、このリヤカーに乗せられている全員がよく知っている人物の声。特に真紅にとっては、非常に身近な女性。 本気で顔を上げる気が起こらない。 当然、何も答えない。とにかくじっと押し黙ったまま。
「蒼星石ちゃんも、金糸雀ちゃんも、薔薇水晶ちゃんまで……なんでそんなものに乗っているのかな?学校の文化祭のネタ集めとか?」 僕らの名前をひたすら呼びながら、無茶苦茶な推測をする……ジュン君の姉の、のりさん。 なぜ、あなたがここに来ているのかはしりませんが、僕らの名前を連呼しないでください。いいですから、さっさと去ってください。僕らは何も答えることができませんので。 てか、空気読んでください。お願いします。「ベジータ君、一体何やっているの?ふんどし一枚で」 のりさんは、そんな僕の思惑なんか知る由もなく、ベジータに話し掛けていた。「ははは、のり。俺はちょっとした余興に付き合ってやっているだけだ。あくまで今回の余興の主役は、彼女らなのだからな!」 ベジータ、笑いながら適当なことを言うな! 後で間違いなく去勢してやる。覚えてろ。「ふ~ん、そうなんだ。真紅ちゃん達も変わった事するのね」 のりさんはどうやら、しげしげと僕らのことを眺めている様子。 どうやら他人の振りをしても無駄かな、と思ったその時。「のり、いい加減にしなさい!」 ついに真紅が我慢できなくなり、のりさんにキレ出した。 が、その瞬間!「ぷぷぷ!のり……貴女こそ何よ……」 なんと真紅が笑いで歪んだ口元を手で塞ぎながら、のりさんを指差していた。
え?のりさん、何かやってるの?「真紅、アウトぉ!」 水銀燈の勝ち誇ったかのような宣告が下されると同時に、真紅はすかさず男達にリヤカーから降ろされて、尻にきついハエ叩きの一撃を受ける。 ビンタのような乾いた音が耳に届く。「あうっ!のり、顔を見なさい!」 お仕置きで痛む尻を押さえながらも、真紅はのりさんの顔を指差していた。 思わず、僕はのりさんの顔を見た! 眉毛が異様に太い! もちろん笑ってしまったけど!「蒼星石、アウトぉ!」 宣告と同時に、僕もリヤカーから降ろされて、きついお仕置きを受けた。「痛っ……っ」 尻をさすりながらも、立ち上がって、ふと周りを見回す。 鏡をのりさんに手渡す真紅。 それを覗き込んだのりさんは……。「いやああ!何これ!?」 当然のようにあたふたしているのだった。 その後ろを通る数人の、若い女性の観光客。 さらに近くを通っている別の、女性の観光客の集団とがが、目に入った時。
皆、眉毛が異様に太かったのだ! 何、これ?ちょっと!! またもや吹いてしまった僕。「ふふふ!無茶苦茶かしら!」 金糸雀までも、腹を抱えて笑い出していた。「金糸雀、蒼星石、アウトぉ!」 宣告とともに、またもや罰をうける。 てか、痛みが残っているところに、ハエ叩きの一撃を喰らったら、まともじゃいられない。「ううっ!痛いかしら!」 金糸雀も尻を押さえながら、目に涙を浮かべていた。 一方で、今のところは何の反応も示さず、無表情なままの薔薇水晶。 何も言わず、のりさんのところに近寄ると、彼女の眉に手を掛けた。 なんと、薔薇水晶が勢いよく引っ張ると、眉は取れてしまった! そのまま、手にした太い眉をじろじろと眺めて……言った。「これは……海苔だよ……。のりの眉に……のり……ぷぷぷ」 冷静でいた薔薇水晶が、突如吹き出した。 なんか、自爆って気がするのだけど……。 彼女のシュールな発言に、僕は何も言えない。
「薔薇水晶、アウトぉ!」 当然のように、お仕置きが執行され、思い切り痛がる薔薇水晶。「……思い切り……痛い……」 左眼にしている眼帯から、涙がこぼれ落ちていた。「道理ですれ違う女どもの様子がおかしいと思えば!このような、食べ物を粗末にする愚行をしたのは、何奴だ!」 そんな僕らを無視して、ベジータは一人憤っていた。「ぐははははは!!愚行ではない!偉業だ! 細い眉毛など、黒く、太く、たくましくしてくれよう!海苔のように!」 どこからともなく、そんな野太い男の声がしたかと思うと、目の前には…… 空に舞う無数の海苔をバックに、黒い雨合羽で全身を多い、アイマスクをした中年の男性がこちらへと歩いてきた! 一体、何者?こいつ。「いつから日本は、こんな細い眉の女がはびこるようになったのか。今許せるのはエンクミぐらいなもの……」 そいつはなりふり構わず、訳の分からない言い訳らしきものを並べる。 てか、遠藤久美子って、思い切り古いのだけど。 そんな僕の心の中のツッコミをよそに、そいつはさらに意味不明な発言を続ける。「おかげで海苔が売れんのだ!!細い眉毛が主流の今、太い眉毛を連想させるのりは敬遠されておるのだ!」
「そんなもの、単なる貴様の思い込みではないか。自分の思想を人に押し付けるな。ますます、海苔離れさせるぞ」 ベジータにしては、まともと思える一言。 それに対して、そいつは怒りの色を露にする。「もはや許せん!強制的に海苔の素晴らしさを教えてくれよう!!」 同時に、そいつは着ていた雨合羽とアイマスクを空に放り投げた!「ぷっ!ちょっと何よ!」「あはは、本当に何なのかしらー!」「ぷぷぷ……強烈……」 途端に笑い出す、真紅と金糸雀と薔薇水晶。 僕も笑いそうになるが、なんとか踏みとどまった。 ビキニパンツ一枚だけを履いた、筋肉隆々の中年男。 胸から、二の腕から、わきの下から……そしてパンツから…… ……無数の海苔を生やしていた!! 食べ物を粗末にする以前に、思い切りセクハラだよ!これ! 僕は思わず目をそむけたのは、言うまでもない。 のりさんに至っては、そいつの姿を目にした途端に、気絶して倒れてしまった。「金糸雀、真紅、薔薇水晶、アウトぉ!」 3人にはもはやお約束の罰が執行されるのをよそに、ベジータとそいつとのやりとりは、なお続く。
「ふふふ、貴様も悩みがあるのではないか?特にその頭」「何?」 ベジータはそいつに指摘されると、とたんに自分のM字禿を触り出す。 そして一瞬落ち込むものの……すぐに立ち直った。「貴様の悩みである、そのM字禿も、このたくましいのりを無数に生やせば、瞬時に解決!さすれば、海苔のすばらしさを思い知らされるであろう!」「何を馬鹿なことを言っているのだ!貴様のような愚者の誘いには断じて乗らん!」 てか、ちょっとは誘いに乗りたかったんだね、ベジータ。 言葉尻に本性が出ているよ。「おお、あなたは大先生!あなたもこの馬鹿なふんどし男に一言言ってください!」 そいつはいきなり僕の方を指差した。 僕の後ろに誰かいるの? そう思って振り返った……そして、直後に思い切り後悔した。「ははは。自分に素直になりたまえよ、ベジータ」 そこにいたのは。 ビキニパンツ一枚で、胸や、二の腕や、わきの下や……パンツからも、無数の長い海苔を生やして、爽やかに笑う梅岡先生。 ちょっと!勘弁して! 思い切り笑ってしまった。 もちろん、真紅も金糸雀も薔薇水晶も然り。
「金糸雀、蒼星石、真紅、薔薇水晶、アウトぉ!」 4人に漏れなく下される、ハエ叩きの一撃。 痛さのあまり、全員その場を走り回った。「い、嫌だ!絶対に嫌だ!」 いつのまにか、梅岡先生と、その中年男に両肩を捕まれていたベジータ。「さあ、貴様も海苔の素晴らしさを、とくと教えようぞ!」 「君も海苔で、若くたくましくなろう!そして僕の理想人物になるんだ!」 梅岡先生と中年男は、脇の下の海苔を、ベジータの額や眉に張付ける。「さ、最悪だ……!」 ベジータはもはや半泣き状態。 だが、それでも梅岡先生と中年男は満足しない様子だった。「だが、これは応急措置に過ぎぬ。やはりたくましくなるには口からの摂取が欠かせん」「まったくですね、のりおさん。海苔に含まれるミネラルを摂取するのが一番かもしれません」 そんな彼らのやり取りを耳にしながら、僕はふと思う。 あの……海苔のミネラルと、育毛には現時点では何ら関係性がないといいますけど……。 そんな突っ込みなぞ知る由もない二人が次に取った行動は、なんと! 海苔を手にしてベジータの口に近づけた……股間から生やした海苔を!
「ぷっ!いい加減にするのだわ!」「……食べ物粗末にしすぎ……ぷぷっ!」 そして、その光景に抗議の声を上げながらも、真紅と薔薇水晶は笑いを押さえ切ることができずにいた。「真紅、薔薇水晶、アウトぉ!」 そして、罰の執行にともなう乾いた音が二つ、空しく周囲に木霊する。「こ、これからが本当の地獄……ぐふっ!」 ベジータは泣き叫ぶながらも、何かを言おうとしたが、その前に変態二人に特製の海苔を口に押し込められてしまう。 本当に合掌だよ。「さあ、ここでは衆人の目もあることだし、場所を変えて僕とのりおさんで、海苔の素晴らしさを君に味わってもらおう」「そうですな、大先生。では行きましょう!」 梅岡先生と中年男の変態どもは、気絶寸前のベジータを引きずりながら、彼方へと走り去っていった。 後にはただ……路上に散った海苔と、ようやく自分の眉の異様さに気付いて、絶叫したり、気絶したり、泣き出したりする、若い女性の観光客が残されただけだった。 僕らはただ……その場で呆然とするしかなかった……。 -to be continiued-(蛇足)今回の特別出演 のりお(元天才塾(生涯学習成人の部)のり養殖コース)@かってに改蔵
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