「第三章~終結・約束された勝利の剣~」
「第三章~終結・約束された勝利の剣~」自然に口から大地を揺るがすが如き咆哮が出る、まるで自分の持つ力を全て出し切るが如く。ギャイン!!その音を背に聞き交差する両者、互いに後ろは振り返らない---勝負は決した。背後で人が倒れる音がする、その音を聞いてJUMは初めて剣を鞘に納めた、そう勝利の女神はJUMに微笑んだのだ。メ「完敗よ・・・さぁ、好敵手よ・・・私の首を持って勝利を叫びなさい」J「それだけは断る・・・」メ「何故?女は斬れないとかそんな野暮な事を言う人じゃないわよね?」J「無論、この手が動けばそなたの首を取るのは容易き事だが・・・生憎、もう僕の手は剣も握れぬほど痺れているという事にしておこう」メ「変わっているのね・・・貴方」J「それはお互い様だろう、好敵手」メ「うふふふ・・・負けたのに清々しい気分よ」J「あぁ・・・楽しかったぞ好敵手、それではまた闘り合おうぞ・・・メグ」メ「えぇ、また何時の日かね・・・JUM」両者は互いに手を差伸べ堅い握手を交わした、ソレは騎士としての再戦の約束・・・そして互いを認め合った強敵”友”として。J「では、さらばだ!!好敵手よ!!」そう叫びJUMは愛馬に跨りその場を風と共に去りゆく、そこに残るのは闘いの熱と再戦に燃える黒の騎士だけが残った。
味方の歓声と勝利の雄叫びが本陣へと颯爽と駆けるJUMを出迎える、その熱は戦場を包み込み更に軍の士気を向上させる。蒼「真紅、JUM君の一騎打ちは何とも天晴れな物だったね、僕も彼と手合わせしたくなったよ」翠「うぅ~・・・悔しいけど認めてやるですぅ」真「そうね、まさにあの人は天に愛されたが故にその加護を受けた男なのだわ」蒼「うん!!まさにその通りだよ真紅!!征こうか!!」翠「さぁ~て!!ちゃっちゃとこのつまんねー戦いを終わらせるですぅ!!」真「えぇ、全軍突撃なのだわ!!」真紅が剣を抜いて叫ぶ、人を殺す剣は嫌いな彼女だが号令を下す時に抜く剣は好きだ何とも言えぬ感覚に酔いしれソレが脳髄を貫く。一方の水銀帝国軍は一騎打ちの敗北のせいか、目が覚めた時に鬼の形相をした嫁が立っているのを見たように顔から血の気が引いて行った。意気消沈---まさにコレ以外に今の水銀帝国軍を表す言葉は無かった。紅翠蒼連合軍の猛攻を支えるにも先の一騎打ちで連合軍に勝利の女神の加護があるのでは錯覚した水銀帝国軍は総崩れになりたちまち蜘蛛の子を散らすように退却していった。連合軍はなおも追撃を続けるも水銀帝国軍が翠公国領を出た瞬間にその追撃の手はピタリと止まった、殿を務めるメグの鬼神が如き力もあったがとりあえずの目的は達したのでこれ以上の犠牲を出すのは愚策であった。
そして3日後、真紅・翠星石・蒼星石は戦勝軍を纏め勝利に酔いしれる翠公国の首都・オルレアーノに勝利の歓声を受けて凱旋した。花吹雪が大通りを舞い勝利の音楽が鳴り響く、笑顔で出迎える市民達を見てJUMはどこか恥ずかしくなり思わず顔を俯かせた。真「JUM、胸を張りなさい・・・この人達の笑顔は貴方が守ったのだから」J「ぎ、御意・・・」真「いい子ね、JUM・・・」真紅はそう微笑み、空を見上げた雲一つ無い晴天の日差しと空を舞う花びらが真紅の頬を撫でた。流れるような長い金髪に蒼空の如し蒼き瞳、誰の足跡も無い雪原のように白い肌、そして美味な果実の如き淡い朱の唇---美しい。JUMはそれを横目で見ながら感嘆の溜息を付いた、彼女を守る事はこの上なき名誉な事なのだとJUMは思った。その晩は王宮で勝利の宴が翠星石の主催で執り行われた、市民達にも酒や肴が振る舞われ音楽が鳴り響いていた。さすが芸術の都と呼ばれるに相応しき独創性溢れる物でロイエンタールではなかなか耳にする機会が無かった。翠「あるぇ?JUM~どこ行くですか~?」J「少し・・・風に当たりに・・・」翠「テラスならそこを右に曲がった突き当たりにあるですぅよぉ?」J「有り難うございます、翠星石公爵様」頻りに酒を勧める蒼星石やその他将軍達から逃げるようにその場を後にするJUM、祭り事は好きだがあぁも飲まされれば真紅の護衛など出来やしない。
蒼「ちっ・・・逃げられた・・・」翠「・・・(ちょww蒼星石の目が座ってるですぅ・・・)」蒼「翠ー星ー石ーぃ!!」翠「は、はいですぅ!!」蒼「今日は徹底的に飲むよ!!」翠「はい?いや、あの蒼星石・・・樽は止めるですぅ!!そんなに飲めな(ry」遠く翠星石の悲鳴を聞いたような気がしたがJUMは全く気にしない、JUMはテラスの戸を開けるとそこには既に先客がいた。青白い月を背に立つ紅の少女、如何なる画家や詩人でもこの美しさを表す言葉や筆は無いであろう。真「あら?JUM、貴方も風に当たりに?」J「はい、少し酒が過ぎまして・・・」真「そう・・・貴方もそこに立ってないでここに座ればいいのだわ」そう言って真紅がテラスに置いてあったベンチをペチペチと叩いて自分の隣に座るように命じた、どこが見たようなデジャブにJUMは襲われたが気にしない。J「はっ、では失礼します・・・」真「ん、素直でよろしいのだわ」春の夜風がJUMの頬を優しく撫でるその心地よい風と城下や王宮から聞こえる音楽にJUMは酒とは違う酔いにかかった。
その時ふと真紅の手がJUMの手に重ねられた、JUMは驚いて真紅を見ると少し酔ってるのか虚ろで涙ぐんだ瞳が自分の瞳をまっすぐに見つめられていた。J「し、真紅様?」真「JUM、今からする事はあくまで酒に酔った戯れだと言う事にするのだわ、いい?」J「はっ、御意にございます」鼻を突く目の前の少女の薔薇の香り、徐々に近づく少女の顔、耳にその少女の息づかいが・・・そして---唇と唇が重なった。それはどれくらいの時間だっただろう、少なくともJUMにはソレが永遠に感じられた---この時間が永遠に続けばいいのに。そして唇が離れ、紅潮した頬を見られたくないと言わんばかりにその少女は顔を背ける、そしてその少女は名残惜しそうにポツリと呟く。真「少し・・・飲み過ぎたのだわ」J「そのようで・・・寝室までお連れしましょうか?」真「いえ、いいのだわ・・・それくらい自分の足で歩けるのだわ、それより貴方・・・もう少し風に当たったほうがいいわ、まだ顔が紅いのだわ」J「ッ!?・・・御意」JUMは自分の顔に手を当ててその熱さを実感した、そして消え入るような声で呟き俯いた。---・・・一時の平和な夜は更けていく・・・。
<<次回予告>>ルベールの会戦は終わった---騎士には休息を、魔術師には平穏を---今は只、謳歌すればいい。だがその一時の平和ですら戦乱の騒音にかき消される、遙か西方--リンボンにて戦乱の火種が起きようとしていた・・・。次回、薔薇乙女大戦・・・「第四章~勃発・リンボン叛乱事件~」・・・例え修羅道に落ちようとも貴女は私が守り抜く・・・。
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