「第一章~狂気の夜~」
対峙する二人、JUMは剣の柄をギリッと握りしめると彼女を睨み付けた。彼女の笑顔、だがそれはとても無機質で殺人を唯一の快楽としてるかのような顔だ・・・きっと彼女は心躍らせているだろう・・・これから目の前にいる男を血祭りに上げてその血を浴びる事に。J「女・・・名を名乗れ、騎士と対峙するのであるからそれぐらい礼儀だろう?」?「メグ・・・柿崎メグ、水銀帝国『黒の騎士団』団長・・・」J「柿崎・・メグか、良い名だ・・・僕は紅王国第一近衛騎士団長の桜田JUMだ」メ「ふふふ、生憎だけど・・・私は殺した相手の名前は覚えない事にしてるんだ♪じゃあ死んで♪」そう言うとメグは手に持ったゲイボルグを薙ぎ払った、流石に槍を相手にするは間合いが遠すぎる。槍を相手にする際は相手の間合いに入らないようにするか・・・逆に相手の懐に飛び込むのが定石である。素人は槍を避けて隙を狙うが、戦場では既に自分は死んでるだから死など怖くは無いと決意している騎士に殊更それは愚策でしかなかった。間合いが長いのであれば・・・懐に飛び込むまで!!JUMは地面を一度強く踏みつけると勢いよく前に飛んだ、突きにかかる槍の穂先を剣の柄で弾き返す手でそれを上に弾き上げる。だが・・・それは突然の不自然な気配でJUMは横に飛び退かざるを得なかった、戦場で培ってきた勘がそうするように脳に働きかけたのだ。
自分が元いた場所に突き刺さる槍の穂先、JUMは思わず我が目を疑った上に弾き上げられた槍の柄から鋭角に穂先が地面に突き刺さっているのだ。メ「へぇ、いい勘してるじゃないの・・・私のゲイボルグの一撃を避けたのは貴方が初めてよ?」J「不思議な槍だ、まさか鉄の槍が鋭角に曲がるとはな・・・そのような代物は初めて見たぞ」メ「この槍は持つ者の思った方向に曲がり確実に貫く槍、故に魔槍と名付けられたのよ」J「ほぉ・・・(と言う事はあれは魔力を供給して曲がる・・・と言う事か、この女も魔術師か)」メ「頭から貴方を貫こうとしたのが良くなかったのかしら・・・じゃあ確実に心臓を貫くわね?」そう言うとメグはググッと体を沈ませるかのように槍を構えた、その目はJUMの心臓を確実に捉えていた。JUMは剣を構えると決して避けることが出来ない槍と対峙した、その瞬間何かの声が頭の中に聞こえてきた。『少年、剣に己が身を委ねよ---さすれば道は拓かれん』どの道今の状態ならアレに勝てる見込みが薄い・・・ならば。---いいだろう、好きにしやがれ。そう心の中で呟いてJUMは目を閉じた、目を閉じたはずなのに見える・・・ゲイボルグを渦巻く何かが---見えた!!自分の心臓目掛けて繰り出される槍の穂先がスローモーションに見えた、JUMは自分でも信じられないスピードで剣を薙ぎソレを弾いた。J「見切ったあああ!!」メ「ちぃ!!まだまだよ!!」ゲイボルグは弾かれる度に穂先が軌道を変えてJUMへと何度も襲いかかる、まるでソレを恐れているかのように。
だがJUMには全てが見えていたまるで視界が360°展開してるかのようにどこから穂先が襲いかかるかが見えていた、体勝手に動くどう捌きどう避けるのかを・・・。明らかにメグは動揺していた、ゲイボルグが避けられる・・・そんな事あってはならない事であった。桜田JUM---この男の力量を見誤ってしまった、この男は私より確実に強い!!J「こんなもんか・・・ならばこちらから参る!!」メ「くっ!!」一瞬の隙を突いての連撃、如何にゲイボルグであろうとも高速で斬りかかる透明に近い刃は見えない、弾くにも反撃の術を知らない。J「そこっ!!」メ「ちっ・・・(状況は不利ね、それに魔力も底を突きそう・・・ここは退くしかないわね)」J「!?逃げるかメグ!!貴様それでも騎士か!!」メ「お互い生きていればまた会う事もあるでしょ?それに貴方の後ろから来る連中まで相手にしたく無いわ・・・それに今日は小手調べに過ぎないの♪」J「小手調べだと!?貴様は先ほど僕と真紅様を殺すつもりだと言ったじゃないか!!」メ「気が変わったの♪じゃあね・・・あぁ、そう貴方は絶対私が殺すんだから勝手に死んだら許さないからね♪」そう言って女は漆黒の闇夜に消えていった、恐らく黒魔術の一種だろうがJUMはあえて追わなかった、自分の仕事は凶刃を防ぐまで・・・刺客を消せとまでは命令されていなかった。
真「JUM!!無事だったのね?」J「真紅様、ご無事で何より・・・真紅様、泣いておられるのですか?」真「か、勘違いしないで欲しいのだわ!!走ってきたから目に汗が入っただけなのだわ!!」J「左様で・・・」JUMは一瞬この少女が自分の身を案じて将軍達より速く走る少女の姿が脳裏に浮かんだが、そんな事を口にすれば自分のアゴを砕かれるかもしれないなと自嘲気味に笑った。真「水銀帝国の黒の騎士団長・柿崎メグ・・・確かにそう名乗ったのね?」J「御意に」真「将軍、伝令を・・・JUM、とりあえずその傷の手当てをするのだわ」J「真紅様の手を煩わせる程の傷ではございません、これ位自分でできます」真「王を守った騎士には褒美を取らせる・・・それが普通なのだわ」J「・・・解りました、ではお願い致します」で、JUMは真紅の寝室に連れて行かれた、真紅の側近達は真紅の命を受けて何やら城中騒がしい。真「JUM、鎧を脱いでここに腰掛けるのだわ」真紅が自分のベッドの上をバシンバシン叩いてそこに座るように命ずる、JUMは黙って鎧を脱ぐと傷口を真紅が見やすいように腰掛けた。J「恐らくゲイボルグの初撃を避けた時の傷でございましょうな」真「えぇ、恐らくね・・・まったく厄介な傷なのだわ、ちょっと染みるけど我慢するのだわ」そう言って真紅は消毒薬をJUMの背中に塗り始めた、少し染みるがそれも大した痛みでは無かった。ふと真紅の手がJUMの背中に触れるとその手を止めた・・・その手から伝わる振動。----震えている、あの気丈な真紅様が震えておられる?
J「如何なさいました、真紅様?」真「ごめんなさい・・・JUM、黙って聞いてて欲しいのだわ・・・」J「?」真「私はローゼン帝国の秩序と誇りを守る為に戦ってきたのだわ、その度に大勢が傷つき死んで行ったのだわ・・・」J「それが戦争にございます・・・」真「解っているのだわ・・・でも誰かが気付くのが怖くて仕方なかったのだわ・・・」J「真紅様、貴女は優しい・・・ですが・・・」真「えぇ・・・解っているのだわ、王の公務に私情は必要ない・・・」J「・・・・」真「さぁ、終わったのだわ・・・午前5時には登城するのだわ、いいわね?」J「御意に・・・」そう言ってJUMは静かに部屋を出た、狂気の夜は終わった既に外は朝日が差し込み一日の始まりを告げた。徹夜か・・・JUMはそう呟いて城を後にした、この日の朝は一日の始まり以外にも戦乱の拡大を告げる朝となるのをこの時JUMは知らなかった・・・。
<<次回予告>>狂気の夜は明けた、しかしその翌朝水銀帝国が隣国・翠公国に侵攻したとの報告を受ける。同盟国を救う為に真紅は本土に軍を進める---今壮大な戦記”サーガ”が動き出す!!。次回、薔薇乙女大戦・・・「第二章~衝突・ルベール会戦~」・・・これはほんの壮大なサーガの序章に過ぎない・・・。
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