エピソード016炎の魔人 イフリート
「……成る程ね。これじゃあ並みの冒険者では近づけないはずだわ。」真紅が火竜の棲家、通称火山の麓で一言。そこは尋常ではない熱気が漂っていた。「火山って言うくらいだし、ある程度覚悟はしてたけど……まさかこれほどとはね。」巴が、溝を流れている溶岩を見ながら言う。所々に溶岩の池も見受けられる。「ここだと、僕の火の精霊魔法も役に立ちそうにないね。純粋に剣技で勝負かぁ。」少し遠くに見える、火山を闊歩しているモンスターは、大抵が炎にその体を覆われていた。「まぁ、だからって行かない訳にはいかないだろ?注意して行こう。」JUMがチャキっと音を立てて剣を抜き、盾をしっかりと構える。「そうね。私達が止まってる間にも、熱病は進行するものね。気を引き締めて行きましょう。」真紅もホーリエを腰から抜く。そして、JUMを先頭に真紅達は火山を登っていく。「はぁ~あ……まさかこれほどなんて思わなかったですぅ。水くらいじゃ割りにあわねぇですねぇ。」「うゆ?翠星石は、強欲なのね~。」「なっ!?チビ!!どこでそんな言葉覚えたですか!!大体翠星石は強欲なんかじゃねぇーですぅ!!」周りの溶岩に落ちれば、無傷では済まないのは分かっているのか、翠星石と雛苺が軽く小突きあいをする。その時、ヒュン!!っと風切り音。同時に、JUMが真紅の前に盾を構えて立つ。トス!!っと音と共に盾に突き刺さる矢。言うまでもない、モンスターの襲撃だ。「みんな、敵よ!!注意して戦うのだわ!!」真紅が、JUMの影から敵を見据える。その敵は、炎に全身を覆われた人型のモンスターである『バーニングウォーリア』と『バーニングアーチャー』が複数匹だった。
「簡単にいかせてくれるとは思ってねぇですけど……結構なお出迎えですねぇ!!」スィドリームが風の矢を作り出し、それを翠星石がアーチャーに放つ。風の矢は、アーチャーの腕に突き刺さり矢の攻撃が少し止む。その隙に、JUM達近接戦部隊が一気に距離を詰めていく。「桜田君、ウォーリアの攻撃は重いから注意してね。」「了解だ……っっううおおお!!!」炎を纏った剣の攻撃をJUMが盾で受け止める。確かに、巴の言ったとおり腕にくる負担は今までの比ではない。直撃を喰らえば、大ダメージは免れそうにない。「その体のせいか、攻撃力に反して体力は脆い……ふっ!!!」JUMが盾で防いでいる隙に、巴はウォーリアの側面に回りこみ一斬!ニ斬!!「ウボアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」十字に切り裂かれ、ダメージで体の維持が不可能になったのか、ウォーリアの体は完全に燃え尽き灰になる。「僕は、普通に剣技も結構自信あるんだ……よっ!!」ガキン!!蒼星石のレンピカと、ウォーリアの剣がぶつかり合う。蒼星石の身の丈近くある大剣レンピカ。それだけの大きさだ。破壊力は全くヒケを取っていない。蒼星石とウォーリアが打ち合っていると、もう1匹のウォーリアが襲い掛かってくる。しかし、大剣の利点はここにもある。蒼星石はレンピカを振り回すと、2匹を同時に薙ぎ払った。エルフの精製する金属の中でも最も貴重と言われるオリハルコンで作られたレンピカ。その頑丈さと大きさと反比例した軽い重量。1対多数こそ、彼女の得意とする戦闘かもしれない。「雛苺、水の魔法を使いなさい!見るからに弱点でしょう。」「分かったの~!うーと、出でよ氷結の剣 汝空を切り裂き魔を滅さん…コーンオブコールドなの~!」ギランの戦いで、魔女ケレニスが多用した氷の剣で相手を貫く魔法だ。作られた氷の剣は、アーチャーに突き刺さり、一撃で相手を灰にした。「ふぅ、今ので最後ね。先に進みましょうか。」灰にあった魔物を見て真紅が言う。しかし、これくらいの襲撃は序の口。山頂付近に着くまでに真紅達は多数の戦闘をこなす事になった。
炎に包まれた大型獣ホーンケルベロス、溶岩で作られたラヴァゴーレム。体に炎を宿す大型のトカゲサラマンダー。そして、異常に発達した燃え盛る豪腕を持つアシタジオ。どのモンスターも、今まで真紅達が戦ってきたモンスターよりも強力なモンスターだった。しかし、それも何とか撃破を続けようやく山頂付近に達した。「山頂ともなると、熱気が麓とは大違いね……さっきから眩暈がしそうだわ……」「大丈夫か、真紅?ほら、水飲めよ。脱水しかかってるんじゃないか?」JUMが真紅に水を手渡す。真紅はその水を少しだけ飲む。最早、水も生温いお湯に近い。「山頂に近づくにつれて、火竜の影響を大きく受けてる気がするね。モンスターも手ごわいのが多いし。」火の精霊と契約してるせいか、一番熱気にもバテていない蒼星石が言う。「うぅ……あっちぃ…干からびるです……早く……鱗取ってかえるですよ……」「私も同感……ちょっとコレは厳しいね……」翠星石と巴にも明らかな疲労が見て取れる。長くここに留まるのは得策ではないだろう。「う……ねぇねぇ、あそこ何だかキラキラしてて綺麗なのよ~!」雛苺が指差す先。そこには、紅く燃えるように輝くモノ……それこそが火竜の鱗だった。「きっとあれね。さ、早くあれを持って帰りましょう。」真紅が鱗を拾いに行こうとする。そのときだった。近くの溶岩の池からボコボコと音がする。「!?真紅、離れて!!」巴が言うが早いか、真紅はその場から離れる。それと同時に、溶岩の中から現れたモノが投擲した炎の槍が直撃。爆発と共に地面は抉れる。「な、な、何ですかぁ!?こんのデカブツは!」「……これが……イフリート……」蒼星石が唾を飲む。溶岩の中から現れた筋骨隆々とした炎の魔人。それこそがイフリートだった。
「くそっ、番人か!?どの道、やるしかないっ!!」JUMが真紅達の盾になるように前に立ちはだかる。イフリートは再び炎の槍をJUMに投げつける。その灼熱の槍は盾と接触すると大きく爆発し、JUMを吹き飛ばす。「うぐわあっ!!っ……冗談じゃないぞ、この威力……」「チビ人間!!っとに……見るからに暑苦しいマッチョな野郎ですぅ!!」翠星石がイフリートに数発の矢を放つ。しかし、イフリートはその逞しい腕で矢を振り払う。そして、翠星石に目標を定め槍を投擲。翠星石は回避するものの、同じように地面は抉れる。「こ、こんなのマトモに喰らったら消し炭確定です……っ……」抉れた地面を見て翠星石はツッと冷や汗を流す。その横を蒼星石が駆ける。「僕がいく!!僕なら多少の火なら……はあああああああああ!!!」レンピカが唸りをあげてイフリートに襲い掛かる。しかし、イフリートは拳で斬撃を受け止め逆の手で蒼星石を押しつぶそうと、拳を叩きつける。「ぐっ!!?っつああ……」蒼星石もレンピカが受け止めるが、腕力も相当のレベルのようでジリジリとガードが下がっていく。「蒼星石、少し我慢しなさい!!巴、貴方は逆から!!」「分かった…!!」真紅と巴が左右から攻撃を仕掛ける。二人は交差するように腕に剣撃を叩き込む。「グオオオオオオオオオオオオ!!!!フンッッッッッッ!!!」二人の攻撃に蒼星石への攻撃は中断する。しかし、イフリートはその巨大な拳をガッシリと組むとそのまま地面へ叩きつける。「まずい……はなれ……!!」ドゴオ!!!という轟音。巻き起こる煙。そして、その破壊力を物語る大きな穴。その穴から少し離れた所で真紅、巴、蒼星石は倒れ伏していた。
「真紅!!くそっ、雛苺!僕はいいから三人の手当てを!!翠星石、お前もだ!!」「あうっ!?わ、分かったの……」「わ、分かったです……」JUMは二人に怒鳴りつけるように言うと、再びイフリートに向かっていく。その隙を突いて雛苺と翠星石はダメージを負った三人の手当てをする。「トモエー、しんくぅ~。しっかりしてなのぉ~。えっと…癒しの光よ 汝は優しき女神の抱擁…グレーターヒール…」「蒼星石もシッカリするですよ!!癒しの水よ かの者を再生させよ ウォ ヒーリ リプロ…ネイチャーズタッチ。」雛苺と翠星石の回復魔法が三人を癒していく。先に全快になったのは蒼星石。「っ…ごめん、助かったよ。このまま二人の手当てを……僕もいってくるから。」蒼星石はレンピカを握り締めると、イフリートと戦闘中のJUMの元へ向かう。「蒼星石!もう平気なのか?っっっとぉ!!」イフリートの拳をJUMは盾で受け止める。その間に蒼星石が剣撃を叩き込む。「うん、僕は火に多少は耐性あるからね……たああああ!!!」しかし、その頑丈な体のせいか致命傷にはほど遠い。イフリートは未だに衰える事なく戦闘を続ける。対して、JUMと蒼星石は徐々に体力を消耗していっている。イフリートの強さもあるだろうが、何よりこの熱気。嫌でも体力を奪われていく。そんな中、イフリートが再び手を組んだ。「ヌアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」「!?JUM君、離れて!!さっきのがくるよ!!」直後、爆音。再び煙が舞い上がる。その煙が晴れるとイフリートと離れた場所で身構えているJUMと蒼星石がいた。回避に成功したんだろう。しかし、イフリートの狙いはそれだったのだろう。「フンハアアアアアアア!!!」炎の槍を作り出し、それを目標に向ける。それは、蒼星石でもJUMを狙ったものでもない。「しまった!?真紅!!」
JUMの声で真紅は目を覚ます。しかし、眼前に迫るのは炎の槍。「なっ!?いけない……っ……」真紅が巴と雛苺。翠星石を何とか跳ね飛ばす。そして、自身も避けようとする。が………「くっ……からだが……動かない……」大きなダメージと極度の疲労。真紅の体は、命令どおりに動かない。JUMが真紅の前に駆けつけようと走る。イフリートはその腕を振りかざし投擲体勢。蒼星石も攻撃させまいと剣を振るうが無駄。間に合わない。(……死ぬ…?こんなとこで……?)あと2,3秒もすれば真紅はその体を吹き飛ばされる。真紅はグッと目を瞑る。そして、真紅の体がその場から飛ぶように離れる。しかし、熱さは感じない。寧ろ温かく柔らかい。死とは、案外こんな感覚なんだろうか……「真紅!!」JUMの声がする。真紅はうっすらと目を開ける。そこにはJUMの顔。何故?あの距離じゃあJUMは間に合わないはず……なのに、どうして……?真紅が不思議に思うと少女のような声が響く。「何やってるかしら!カナの魔法も長くは持たないわ!!早く体勢立て直して!!」真紅が声の方向を見る。黄色のローブを着込み黄色の宝石が埋め込まれた杖を持った少女。一方、イフリートはといえば白く光る鎖にその体を拘束され、振りほどこうと必死に暴れている。「これは……一体……?」「分からない。ただ、槍が投げられる瞬間。あの子が発した鎖でイフリートの動きが封じ込められたんだ。」「っ……限界……くるかしら!!」イフリートが鎖を振りほどき真紅達を見据える。「そう。そこの貴方!!誰か知らないけれど、コイツを倒すの協力して頂戴!!」「任せるかしら!!この象牙の塔の魔術師、金糸雀にかかればあっと言う間かしら~!」To be continued
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