第九十話 JUMと雪
「一つ屋根の下 第九十話 JUMと雪」「行くわよぉ~!!」下にいる僕とめぐ先輩に向かって、銀姉ちゃんがシャーっと音を立てながら滑ってくる。「結構様になってきたね、水銀燈。」「ですね。それでも、銀姉ちゃんにしては成長が遅い気がするけど。」午前中、ミッチリと練習に練習を重ねた銀姉ちゃんは、それなりに滑れるようになってきていた。初めはかなり大きく蛇行していたが、今ではなかなか小さく滑っている。「きゃー!早いの早いのぉ~!!」「ちょ、ちょっと雛苺!?カナを置いていくなんて……うぅ、早いかしらぁ。」銀姉ちゃんが滑ってくる横を、直滑降で滑るヒナ姉ちゃん。あの人には恐怖心はないのだろうか。軽い体重を物ともせずに、あっと言う間にヒナ姉ちゃんは僕の元へ来た。「到着なのぉ~!ねぇ、JUM~!ヒナお腹すいたよぉ。」「ハァハァ……雛苺ったらあんなスピードで降りて……」次にカナ姉ちゃん到着。さっきから静かだが、柏葉もヒナ姉ちゃんとカナ姉ちゃんについて滑っている。「時間は……もう13時かぁ。んじゃあ、真紅姉ちゃん達に電話してみよっか。」僕は携帯を取り出して、真紅姉ちゃんに連絡を入れようとする。しかし、最近のスキー場は案外電波が飛んで便利だ。少し昔は、基本山の中って事もあって携帯は余り役に立たなかったものだが……プルルルルルル プルルルルルルと、携帯から呼び出し音が鳴り響く。「あ、真紅姉ちゃん?今どこ?え、山頂に登ったばかり?僕達お昼食べようと思うんだけど……うん、うん。分かった、待っとくね。うん、それじゃ。」ピッと音を立てて、通話をきる。それと同時に銀姉ちゃんが滑り降りてきた。「うふふっ、やっと1回も転ばずに滑れたわぁ。JUM、真紅達と電話してたのぉ?」「お疲れ、銀姉ちゃん。うん、そろそろお昼の時間だしね。どうする?もう一回くらい滑る?」それくらいの時間はあるだろう。何せ、真紅姉ちゃん達は山頂から滑るわけだし。「そうねぇ……午前はこれくらいにしましょぉ。折角だし、待ち時間は遊びましょ?」
そんな訳で、僕等は銀姉ちゃんの提案で板やストックを置いて雪遊びを興じていた。さっきからカナ姉ちゃんがヒナ姉ちゃんと柏葉。さらにめぐ先輩に雪玉の集中砲火を浴びて撃沈気味だ。「そういえば、キラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃんどこだろ。電話してみようかな。」僕がそう思って、再び携帯を取り出そうとすると僕を呼ぶ声が聞こえた。「あら、JUM達じゃないですか。今探そうと思っていましたの。」と、雪と間違えそうなほど真っ白の少女キラ姉ちゃんが居た。なんていいタイミングなんだろう。キラ姉ちゃんが作ったのだろうか、隣には大きな雪ダルマが置いてある。「僕も探そうとしてたんだよ。お昼、みんなで食べようよ。」「ええ、もちろんですわ。ですから、私屋台のラーメンを3杯しか食べずに待ってましたの。」ニコリ笑うキラ姉ちゃん。すでに3杯ですか。と、そういえばさっきから姿が見えない人が……「そういえばさ、薔薇姉ちゃんは?一緒じゃないの?」「薔薇しーちゃんなら居るじゃないですか。」「え……?どこに…『JUM…ここ…』……?どこだ?声聞こえたけど。」確かに薔薇姉ちゃんの声が聞こえた。しかし、その姿は見えない。「ここ……きらきーのトコに来れば分かる……」僕は声に導かれるままにキラ姉ちゃんに近づく。そして……薔薇姉ちゃんは僕の想像を遥かに絶するトコにいた。「JUM……やっほ~……」「……ナニソレ?」「可愛いかなと思って……雪ダルマの気持ちになってみました。」キラ姉ちゃんの隣に置いてあったのは、雪ダルマじゃなく。強いて言えば薔薇雪ダルマだった。
「寒くない?」「寒い……そろそろ出ようかな……JUMのリアクション見れたし……」そんな事のために、雪ダルマの中身をやっていたんでしょうか、この人は。唇まで紫にして……「あーもー!キラ姉ちゃんも手伝って。このままじゃ冗談抜きに他界しそうだし。」「ちょっと悪ノリが過ぎましたかね?テヘ♪」ぺロリと舌を出しながらキラ姉ちゃんは薔薇姉ちゃんの雪を取り除き始める。悪ノリってレベルじゃねーぞ!って感じです、いや本当に。ようやく雪を取り除き、薔薇雪ダルマから何時もの薔薇水晶に戻る。「うっ……寒い……」薔薇姉ちゃんはそう言って、腕で体を抱きしめてガタガタ震える。当然といえば当然か。「だから……JUM、あっためー」「はいはい、キラ姉ちゃん。先に薔薇姉ちゃん連れてホテル行っててね。席も取っておいてよ。」「了解ですわ。じゃあ、行きましょうか薔薇しーちゃん。」薔薇姉ちゃんがお約束を言い終わる前に僕とキラ姉ちゃんは強引に話を摩り替える。「う~……JUMのイケズ……」そう言いながら引きずられていく薔薇姉ちゃん。どうやら、寒さで本当に体力がないようだ。そこまで命を賭ける様なギャグだったんだろうか。まぁ、いいか。薔薇姉ちゃんってどっちかって言えば、どうでもいい事に情熱を燃やすタイプだしな。そんな事思ってると、ボスッと僕の後頭部に雪が当たった。
「あははははは!!ぼーっとしすぎよぉ、JUM!!」銀姉ちゃんの声に振り向くと、さらに顔面に追撃がくる。「ぐあっ!!」顔が冷たい。複数個の雪球が僕の顔や体に容赦なく当たる。「JUM君、オマケ♪」さらにボンっと大きな衝撃。雪が顔からズルズルと落ちていくと、めぐ先輩の満面の笑みがそこにあった。「あははっ、一回やってみたかったんだよ。顔面パイ!!まぁ、雪だけど。」あ~、バカ殿とかのあれか。それを認識すると同時に、僕の闘争心にも火がつく。「そうですか……じゃあ、一回やられるのも……いいんじゃないですか!?」スッと足元の雪をすくうとめぐ先輩の顔面にそれを叩き付けた。先輩?そんなの最早関係ないね。そう、スキー場は戦場なのだ。「わぷっ!?や、やるじゃない……だったら私の実力を見せて……うひゃあ!?背中!!背中に何か!?」「油断しすぎよぉ、めぐぅ?ほ~らぁ、もっと入れてあげるわぁ。」「や、ちょ、水銀燈!?背中はダメ……ひゃあん…」銀姉ちゃんが、悪戯顔でめぐ先輩の背中に雪をドボドボと入れていく。うわぁ、鬼だ。でもまぁ、めぐ先輩も結構鬼だし、鬼同士勝手に戦っててもらおう。共倒れを期待だ。
「……貴方達何をしているのよ。」銀姉ちゃんとめぐ先輩の死闘と、ヒナ姉ちゃんと柏葉VSカナ姉ちゃんの軽い苛めを見ながらぼーっとしてると声がかかる。ようやく山頂から降りてきたらしい。「ん、時間つぶし。キラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃんは先にレストラン行ってるからさ。」「そう。じゃあ、私たちも……きゃあ!?」僕と話してた真紅姉ちゃんの頭に雪が直撃する。「へっへぇ~ん!なぁに油断してるですかぁ?真紅はまだまだ甘ちゃんですねぇ。」その犯人は、さっきボードで降りてきたばかりなのにまだまだ元気な翠姉ちゃん。早速参戦してるらしい。「っ……いい度胸じゃない、翠星石。いいわ、ここらで格の違いを教えてあげないといけないわね……」頭に雪をぶつけられたのがよっぽど屈辱だったのか、真紅姉ちゃんがその目に闘志を宿して戦場へ向かう。「元気だよね、みんな。それに楽しそう。」ニット帽を脱ぎながら、蒼姉ちゃんが言う。僕と蒼姉ちゃんは、目の前で行われている戦闘を見ながらぼーっとしている。「まぁ、僕らの住んでるトコって雪あまり降らないからね。珍しいからつい遊んじゃうんだろうね。」「ふふっ、そうだね。そういう意味では、雪って不思議な魔力があるよね。楽しくなって、遊びたくなっちゃう。」クスリと蒼姉ちゃんが笑う。そして、足元の雪を手に取るとそれを僕の顔に押し付けた。ヒンヤリする。「そ、蒼姉ちゃん!?」「えへへ、折角だし僕らも少し遊ぼうよ!ほらほら、ぼーっとしてると雪まみれになるよぉ?」蒼姉ちゃんが笑いながら僕と距離をとって雪玉を投げつけてくる。「うおっ、まぶし!じゃなくて冷た!!よぉし、僕だってやられっぱなしじゃないぞ!!」僕も雪を投げて応戦する。御免ね、キラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃん。レストラン行くの、少し遅くなりそうだよ。END
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