《のりが宇宙の平和を守るようです》1
それは、桜田のりがデュエルアカデミアを卒業しプロデビューを果たしてから数ヶ月の時に起こった。 “ドローの女神”とあだ名され、恐れられたデュエルアカデミア屈指のデュエリスト、桜田のり。 そのあだ名の通り、彼女は常人を遥かに越えるドロー力を持つ、天才的デュエリストだった。 デッキ構築は平凡で、それほど特筆すべき点も見当たらず、安定はしていたが爆発力に乏しいという批判も確かにあった。だが、彼女がアカデミアで常勝していたのは、その持ち前のデスティニー・ドローによるところが大きかった。 初手には高確率で理想的な手札を揃え、劣勢時にはその場に合ったキーカードをドロー。 圧倒的な“人間力”を備えた、ある意味では最もデュエルキングに必要な資質を持つデュエリストだ。 そんな彼女が、卒業後あちこちの企業からスポンサーの申し出を受けるのは自然な成り行きであり、実力派女性プロデュエリストとして華々しいデビューを飾ったのは当然の帰結であった。 その晩、のりは午後8時から組まれたエキシビジョン・マッチを制し、帰路についた。 のりはプロリーグでは半ばアイドルに近い扱いを受けていた。平均以上の美貌に、彼女特有の柔和で暖かい印象とデュエリストとしての実力とのギャップは、多くのファンを獲得していた。 これは余談だが、眼鏡が野暮ったいからやめろ、とマネージャーに言われて外してみたところ、試合の後にスポンサー企業に苦情が殺到したというエピソードがあり、プロとしての桜田のりには変えがたいキャラクターが定着していた。『ホッとするような暖かさ』が受けているのだという。 そうしたこともあって、のりは極めて多忙なプロ生活を送っていた。実際、都内某所の彼女の部屋に帰るのも、もう一週間ぶりである。 のりはシャワーを浴びてパジャマに着替えると、のりは倒れこむようにベッドに横になった。 程なくして、のりは夢も見ない深い眠りについたのである。 そして、事件は起こった。
ギャアギャアと聴き慣れない物音に、のりは覚醒を余儀なくされた。 それはどう考えても人間の発する音声ではなかった。決闘盤の立体映像で映し出されたモンスターの咆哮に酷似していたが、防音壁のマンションで、しかも6階の部屋にまで響くような大音声は、決闘盤のシステム上ありえないものだ。 ともあれ、夜中にこんなにうるさくしているのは近所迷惑だろう、と怒鳴りつけてやるつもりで、のりは 身体を起こした。 と、のりはおかしなことに気づく。自分が身にまとっているものが違うのだ。彼女はさっきまで泥のように眠っていて、当然パジャマを着ていたはずだ。しかし、今彼女が着ているのは、アカデミア時代から着ているブルーのコートなのである。いくら疲れていたとはいえコートを着たまま眠った覚えはない。 そしてもう一つおかしな点がある。 ここは、どう見ても都内のマンションの一室ではなかった。 世界中どこを探しても、床も天井もない一面の闇の中に小さな星々が明滅していて、その上身体がふわふわと浮かんでいく無重力の物件などありはしまい。 どう見ても宇宙空間です、本当にありがとうございました。 「ここは……そっか! 私ったら空を飛ぶ夢じゃなくて、宇宙を飛ぶ夢を見てるのよぅ!」 だがそんな時にも、どこまでも暢気なのりであった。 「残念ながら夢ではないんだ、闇の力を持つ者よ」 背後から投げかけられた言葉に、のりはハッと振り向く。 果たしてそこにいたのは――
________ | | | / ̄ ̄ ヽ, | | / ', | | {0} /¨`ヽ {0}, ! |.l ヽ._.ノ ', | リ `ー'′ ',| | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 5代目住職 N エア・ハミングバード「こっち見んなwwwwwwwwwww」「これは失礼、闇の力を持つ者よ。イッツ・ネオスペーシアンジョークさ」 それは、赤い身体で嘴やら羽やらのあるよくわからない生物だった。 2本の足で立っていて腕もあるが、背中に翼も生えている。毒々しいまでに全身真っ赤だし、地球の生物でないことだけは一目見ただけでわかるものの、何を狙っているのかサッパリ読めない姿だ。 「あ、あ、あの……」「『ここはどこだ?』と聞きたそうな顔だね、闇の力を持つ者よ……説明しよう、ここはネオスペース。 僕達ネオスペーシアンの住まう別次元の宇宙さ」「ネ……ネオスペース?」「そうだ。ここには僕達ネオスペーシアンと、宇宙の平和を守る光のHEROがいる」
別次元の宇宙? 宇宙の平和を守るHERO? 赤い鳥型の生物から宇宙規模のよくわからない電波話が飛び出すので、のりは困惑しきりだった。 「あの、ジュウシマツさん……突然そんなこと言われても……」「だが、事実なんだ。それから、僕の名はエア・ハミングバードという」「エア・ハミングバードさん、ご丁寧に説明して下さってありがたいんですが、何がなんだか……」「うん、そうだよね……なら、順を追って説明しよう。僕達は……」「そこからは私が説明しよう」 のりの背後から、第三の者が声をかけた。のりとエア・ハミングバードはそちらを振り向く。 「ネオス! 来ていたのか!」「ネオスって……あのコスモスが放送休止してた時の(ry」「オトナの事情は抜きにしてくれ、闇の力を持つ者よ。私が宇宙のHERO、ネオスだ」 その宇宙を守るHEROの名は、E・HERO ネオス――銀色の身体を持つ人型モンスターだ。 その姿はどう見ても光の国から僕らのために来た例の宇宙人のパクリです、本当に(ry 「闇の力を持つ者よ。まずは、君の名前を聞かせて欲しい」「さ、桜田のりです……さっきから何なんですか? 闇の力って……」「それはこれから説明しよう。のり、あれを見たまえ」 そう言ってネオスが指差した先には、銀色の巨大な円盤があった。 のりは夕飯時に何となしにつけたTV番組で、ああいうタイプの円盤がアダムスキー型円盤といって紹介されていたのを覚えていた。
「あれは、宇宙の平和を脅かす恐るべき侵略者、エーリアンの円盤ムスキーだ」 エーリアン……。 幾多の星々を侵略し、植民星としてきた悪魔のような侵略者である、とネオスは語った。 この宇宙において最も恐れられる者達の一人であり、宇宙の平和を守るネオス達と対立している。そして、エーリアンはこの次元の宇宙から、別次元の宇宙にまで侵略の魔の手を伸ばそうとしている。 次元転移装置を発明したエーリアンは、次元の裂け目から別の次元へ転移し、エーリアン大軍団で以って、それを征服するつもりでいるのだ。 「我々の仲間のブラック・パンサーが掴んだ情報によれば、次の標的は太陽系だ」「太陽系って……私達の世界を!?」「そうだ。とりわけ、奴らが狙っているのは太陽系第三番惑星……君の故郷の、地球だ」「そんな……でも、それと私とどんな関係が……」「奴らの力は強大だ。残念ながら、我々だけではエーリアンの侵略を止めることは出来ない。しかし、 一つだけ、エーリアンの侵略から地球を救う方法がある」「それは……?」「宇宙の摂理が定めている……決闘の儀式に敗れし者、勝者に全てを捧げるべし、と」「決闘の儀式……まさか、それって」「そうだ。君の故郷では、『デュエル』と呼ばれている」 そこからは、それ以上に信じがたい話だった。 この次元の宇宙にも、地球のデュエルモンスターズに酷似したカードゲームが存在し、しかもそれは宇宙の争いごとを収めるための神聖な儀式に用いられているという。 “決闘の儀式”と呼ばれているそれによって、この宇宙に生きる全ての者は裁かれるのである。
「だが我々に決闘の儀式を行う力はない。決闘の儀式は、聖なるカードに封じられた精霊と心を通わす 正しき闇の力を持つ者でなければ出来ないことなのだ。その力は、我々には持ち得ないものだ」「そ、それが私なのぅ?」「そうだ。君の持つ闇の力が、宇宙を救うために必要不可欠なのだ」 のりは相変わらず混乱していた。しかし、心のどこかで納得も出来た。 確かに自分は、人間ではない何か――そう、モンスターの声が聞こえるような気がすることがある。ここぞという時に、的確にキーカードをドローするデスティニードローは、まるでデッキのカード1枚1枚と心を通わせているようだ、とは、アカデミア在学中もよく言われたことである。 しかし、宇宙を救うなどという大それた責任を、単なる一デュエリストでしかない自分が負えるかと言われれば、ハッキリ言って『NO』でもあった。 「だが、君が戦わねば地球はエーリアンに征服されてしまう。奴らは決闘の儀式を断ったりはしない。 唯一、こちらから仕掛けて勝てる方法が、この決闘の儀式なんだ」「のり、私達ネオスペーシアンも君をサポートする。頼む、戦ってくれ!」「でも……」「……いきなりこんなことに巻き込んでしまったのは、すまないと思っている。だが、誰かが行かねば ならないんだ。このままでは、君の愛する者達も、エーリアンの手にかかってしまうぞ」「!!」 ネオスの言葉に、のりの脳裏に最愛の弟の顔が浮かんだ。 弟のジュンはひねくれ者で、でもとても優しくて、繊細で、引きこもりで……。 プロデビューして初のデュエルで、普段外に出るのが嫌だと言って聞かないジュンが、最前列の席を取ってまで応援しに来てくれたのは、とても嬉しかった。 そしてのりは、そんなジュンを失いたくなかった。かけがえのない、たった一人の大切な人だから。
「……わかりました。戦います! 私達の世界を守ります!」「よく言ってくれた……では、早速円盤ムスキーに乗り込もう。仲間達も向かっているはずだ」「君は飛べないから、僕に掴まってくれ。じゃあ行くよ!」 そして、ネオスとエア・ハミングバードは円盤ムスキーに向けて飛び立った。 宇宙の平和を、そして大切な人を守るために……。 円盤ムスキーの内部は、小さい頃見たB級のSF映画のようだった。 チカチカと明滅を繰り返すランプや、変な音を立てている機械、まっさらな銀色の壁や天井……。 『これぞ宇宙船』とでも言わんばかりの、変な方向に自信たっぷりな内装だった。 円盤に突入する直前、ネオスとエア・ハミングバードは仲間のネオスペーシアンと合流した。 変身能力を持つ闇のN、ブラック・パンサー。手札破壊効果を持つ水のN、アクア・ドルフィン。相手フィールドの魔法・罠によって強化される炎のN、フレア・スカラベ。強力なバウンス効果を持つ地のN、グラン・モール。そして、多彩な効果を持つ光のN、グロー・モスである。 「俺達ネオスペーシアンがお前を最大限サポートする。安心して決闘の儀式に集中してくれ」 とは、ブラック・パンサーの言である。 「だが、エーリアンの親玉は決闘の儀式では負けなしらしいが……」「大丈夫、正しき闇の力を持つ者が我々の味方なんだ。きっと勝てるさ!」「そう。のりの闇の力は、エーリアンなどには負けはしない」「あれ、グロー・モスいたんだ」「(´・ω・`)」
円盤内部を進んでいくうち、『総司令のお部屋』とプレートがかかった部屋に行き着いた。エーリアンの親玉はここにいるらしい。 「よし、みんな突入よぅ!」 地球人一人とHERO一人とネオスペーシアン六匹は、『総司令のお部屋』に雪崩れ込んだ。 因みにドアは普通に自動ドアだった。 /^ヽ ,ィ : ', (ノ : () l l : / | よっ。 イi : ,ヘ、 | |lll|、/ l }.: ト、/⌒i { ) ,l.}.: l-/ /、l ヽ_ノ" }ヨ.:__{ニ_ム } , - 、 ノ、 三__`ノ _ /___`'- .V /⌒ヽ_______ (二旦__  ̄二) 、 ノ / // / | |ー---- =-イi、 ⌒)ー'"/ // / ̄ |_| Ll |_| |_|`''' " / // /___________/___ // ー--------------------------------- 部屋の真ん中でちゃぶ台に座っている人物。 彼こそが、ちゃぶ台をこよなく愛するエーリアンの総司令、メトロンである。
「メトロン! 貴様の地球侵略の野望を砕きに来たぞ!」「ハッハッハ、やっとHEROのお出ましかね」 メトロンは軽く笑うと、のりに座布団を勧めて座るよう促した。「別次元の宇宙からご足労だな。まあ座りたまえ」「あ、ご丁寧にどうも……」「それで、君の用件を聞かせてもらいたいな。まあ、わざわざ別次元の、しかも地球人類を召喚したと いうことは、答えは一つしかあるまいがね」「はい。私とデュエルをして下さい!」「デュエル……? ああ、決闘の儀式のことか」「私とデュエルして私が勝ったら、地球侵略はやめて欲しいんです」 メトロンはのりの申し出にも動ぜず、『目兎論茶』の缶のプルタブを開けると、一息に飲み干した。目兎論茶を一気飲みした後、少し間をおいて、静かにこう問うた。 「私は、今まで決闘の儀式を挑まれて逃げたことはない。そして、負けたこともない。言わば、勝率 100%の生涯負けなしのチャンピオンだ。それでも君はやるのかね?」「はい」「臆さないか……覚悟は十分のようだね。ならばいいだろう。その申し出、受けようじゃないか」 メトロンは部屋の隅のタンスの引き出しから、平たい盾のようなものを取り出した。宇宙人っぽい装飾が施されてはいるが、紛れもなくそれは決闘盤だった。 「では始めようではないか……地球の運命を賭けた、闇のゲームを……」
「のり、君の部屋からこれも持ち出させてもらった。決闘の儀式には必要だろう」 そう言ってネオスはのりの決闘盤を取り出し、のりに手渡した。しかし、決闘盤にはデッキがない。昨日は疲れてすぐに眠ってしまって、デッキは鞄に入れたままなのだ。 「大変、どうしよう……デッキがなきゃ、デュエルは出来ないわ」「安心しろ。我々が力を貸すと言っただろう」「え?」 そう言うが早いが、ネオスとネオスペーシアン達は、全身から眩い光を放った。 のりは『うおっ、まぶしっ』と目を細めたが、光はすぐに収まり、のりの手に数枚のカードが飛ぶ。それをキャッチして見てみると、それはネオス達のカードだった。 『我々がカードとなって、君は我々を使って戦ってくれ。我々自身と、我々のサポートに必要なカードは 40枚揃えてある。安心して戦うんだ』「わかったわ……お姉ちゃん、頑張っちゃうわよぅ!」 左腕に決闘盤を装着、デッキをセットし、待機モードから戦闘モードに切り替える。 互いに10m以上の距離を置き、向かい合い、叫んだ。 のり 【ネオスと愉快な仲間達デッキ】 vs メトロン 【恐怖のエーリアンデッキ】 「「デュエル!!」」
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