第八十七話 JUMとホテル
「一つ屋根の下 第八十七話 JUMとホテル」
ゆさゆさゆさゆさ……ゆさゆさゆさゆさ……「………がれですぅ~!!……M!……ですぅ!!」体が揺れる。耳に声が入る。ん~……変な感覚。ああ、そういえば……僕はスキーに来てるんだったな。それで、バスの中で寝てて……椅子はリクライニングで倒してあるけど、座りながら寝てるから違和感あるのか。「JUM!!さっさとおきやがれですぅ!!大変なんですよぉ!!ええい、かくなる上は……起きろです!!」ビッターン!!そんな激しい衝撃音と、痛みが頬に走る。「うぎゃ!?ううっ……ふぁぁ…何だよ翠姉ちゃん?」「大変なんですよ!!真紅が居ないんですぅ!!!バスの中から消えたんですよ!これは事件です!!密室です!トリックですぅ~!!」混乱して意味不明なことを言い出す翠姉ちゃん。とりあえず落ち着いてください。真紅姉ちゃんがいない?そんな事はないでしょう。だってさ、真紅姉ちゃんは……「あふ……朝から騒々しいわよ翠星石。私がどうしたの?」「し、真紅ぅ!!って……なんでJUMの腕からヒョッコリ顔出してるんですかぁ~!?」僕の腕の中で寝てたんだから。前話を読めば分かるけど、昨日の夜僕は真紅姉ちゃんを抱っこしたまま眠った訳で。んで、防寒用に毛布も大きい、モフモフした奴だったから小柄な真紅姉ちゃんが布団に包まってて分からなかったんだろうな、と。真紅姉ちゃんは息苦しくなかったんだろうかね。「何でって…決まってるじゃなにの。私は昨日JUMに抱っこされて眠りについたのだから。」翠姉ちゃんの額にピクピクと血管が浮き出てる気がする。相変わらず気の短い人だ。「おはよ~……あららららら、私お邪魔だったかなぁ~?愛を育む際はご近所に聞こえないように、ね♪」めぐ先輩が、僕と真紅姉ちゃんを見ながらニヤニヤして言う。そのめぐ先輩の言葉が着火となり、とても短い翠姉ちゃんの堪忍袋の導火線は、油でも塗ってあったかのように燃え上がった。「~~~~っ!!JUMの……JUMの……JUMの馬鹿~~~!!」翠姉ちゃんダッシュ。真紅姉ちゃんが「騒がしい子ね。」とか言ってたけど、原因は貴方なんですがね。
「わ~、真っ白~!!雪なの雪なの~!!ねぇねぇ、遊ぼうよぉ~!!」かくして、騒がしい朝を越えて僕らを乗せたバスは、遂にスキー場へ到着した。あたり一面は白銀の雪景色。「うえぇ、さっぶぅ。スキー場なんだから当然なんだろうけど……」矢張りというべきか、当然というべきか。スキー場は寒かった。元気に駆け回ってるのは、ヒナカナコンビと犬くらいではなかろうか。「はいはい、ヒナちゃんも金糸雀も。先ずはホテルの部屋行こうね。遊ぶのはそれからだよ~。」めぐ先輩が、すでに雪まみれのヒナカナコンビをなだめて、僕らをホテルへ先導してくれる。「JUM、私の荷物持って行きなさい。」「JUM!!翠星石の荷物も持ってけですぅ!!中身覗いたら殴るですよ?」「あらぁ、じゃあ私もJUMに荷物持ちお願いしようかしらぁ?」「あのな……僕は持つなんて一言も言ってないぞ。」が、そんな僕の言い分を聞いてくれるわけなく、姉ちゃん達は僕の前へ荷物を置く。僕はヤレヤレと溜息をつきながら荷物を持とうとする。が、その瞬間僕の手は伸びてきた白い手と触れた。「あっ……」その手の主は柏葉だった。寒さのせいか、頬を赤く染めている、「ご、ごめんね。でも、桜田君大変そうだから私も手伝おうかなと思って。迷惑だった……かな?」「い、いやそんな事ないけど。あ、ありがとう……柏葉って優しいんだな…」「そ、そんな事ないよ……」自分で言うのも何だけど、無駄に初々しいやり取りをしてしまう。そんな僕らを見て、何故か姉ちゃん達は結局自分で荷物を持って行った。めぐ先輩が笑いっぱなしだったけど、何がそんなに面白かったんだろうか。
「へぇー、なかなかいい所ねぇ。何階なのぉ?」僕等はエレベーターでホテルの上へと向かっていた。エレベーターは硝子張りになっていて、外の景色が綺麗に見えた。こんな朝から滑ってる人もいるし、元気な事だなぁ。「はい、ついた~。ここ最上階が丸々一部屋なの!!いいでしょいいでしょ??」めぐ先輩が少し興奮気味に説明してくれる。エレベーターを降りて、部屋のドアをくぐると、そこは大きな部屋だった。確かに、この広さなら最上階を丸々一部屋ってのも頷ける。たださ……一個だけ疑問が……「あの、めぐ先輩?一部屋なのはいいんですよ。綺麗な部屋ですし……それで、僕の部屋は?」「ん?ないよ。だって、JUM君私達と一緒に寝たいんでしょ?」平然な顔で返された。ちょっと待ってくれ。何ですか、それ?「え、ちょ……僕はそんな事一言も……」「そうなの?水銀燈に聞いたら、JUM君も同じ部屋でいいって言うから……水銀燈に聞いてないの?」一言たりとも聞いておりません。いやさ、本当にやばいです。姉妹なら百万歩譲ってまだいい。んでもさぁ……「い、いいわけないじゃないですか!それに、今回はめぐ先輩や柏葉もいるんだし……」「やだなぁ、JUM君。そんな事?私は別に構わないよ?」「あ、私も桜田君なら……ゴニョゴニョ…寧ろ同じベッドでも……」「う、や…と、とにかく僕は廊下ででも……」「あ、それは止めた方がいいよ。多少は暖房入るけど、リアルで凍死しても知らないよ?」場所が場所だけにリアルすぎて怖い。もう、学習しない僕が悪いって事にするしかないんだろうなぁ。「はぁ……分かりましたよ。」「あははっ、観念したね。でも、大丈夫だって~。私JUM君の事信じてるから同じ部屋で寝れるんだし。」めぐ先輩が言う。信頼……かぁ。それなら、悪くはないかな。「だってさ、JUM君未だにチェリーでしょ?あんな可愛い姉妹が8人もいながら。私や巴ちゃん襲う甲斐性ないの分かってるって~!!」うわぁ……嫌な信じられ方だなぁ……僕、人間不信になっちゃいそう……
「さぁて、荷物も置いたし早速滑りに行くですよぉ~!!」さて、この部屋は最上階を丸々一部屋にしただけあって、部屋の中でも扉である程度仕切られてる。ベッド用の部屋があったり、みんなが集まれる大部屋があったり。ベッドの部屋でウェアに着替えた翠姉ちゃんは、すでに滑る気満々で出てきた。緑のカラーを基調として、頭にはニットを。すでにゴーグルも頭にセット済み。「待ってよ、翠星石。ほら、めぐちゃんがくれたフリーパス。」続けて蒼姉ちゃんも出てくる。翠姉ちゃんと同じようにブルーを基調のウェアだ。ニットの色は二人とも同じ色だ。この二人は、毎年何回かスキー行ってるみたいだし、ガンガンすべりまくるんだろうなぁ。「雪……綺麗ですわね……私、同じ字が名前に入ってて、何だか嬉しいですわ。」「きらきー……苺シロップ持ってスキー場の雪食べたらダメだよ?」キラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃんが出てくる。そういえば、キラ姉ちゃんの名前『雪華綺晶』ってさ、全部綺麗なモノを連想させる字で出来てるような。まぁ、ご本人様も綺麗だしね。名前負けはしてないな。「トモエ~!かなりあ~!早く行って遊ぼうなの~!!」「ふふっ、はいはい。沢山遊ぼうね、雛苺。」「全く、ヒナはお子様ね~。カナは淑女らしくシットリ行くかしら。」続けてきたのは、ヒナ姉ちゃん。カナ姉ちゃん。そして柏葉だった。ピンクのウェアで可愛らしさ前回のヒナ姉ちゃん。そんなヒナ姉ちゃんに付き添うような柏葉。海の時の使いまわしだろうか、相変わらず全く似合ってないサングラスをしてるカナ姉ちゃん。なんとも愉快な面々だ。この三人は、ホテル近くで雪合戦とか、雪だるまとか平気で作りそうだ。でも、そんな光景を想像すると何だか随分微笑ましい。
「あら、JUM。貴方は行かないの?」赤のウェアに身を纏った真紅姉ちゃんが出てくる。「ん、行くよ。銀姉ちゃんとめぐ先輩は?」「まだ部屋よ。何だか知らないけど、水銀燈がヤケに行くのを渋っているの。まぁ、めぐ先輩に色々脅迫されて渋々ウェアに着替えているようだけれど……」銀姉ちゃんが行くのを渋ってる?随分旅行楽しみにしてた気がするけど……なんかあるんだろうか。「おっまたせ~!ほらほら、水銀燈~?」「引っ張らないでよぉ~、ちゃぁんと行くからぁ~……はぁ……」と、そんな事思ってるとお揃いの黒のウェアを着ためぐ先輩と銀姉ちゃんがやってきた。確かに銀姉ちゃんの顔は何故だか浮かない感じだ。「銀姉ちゃん?調子悪いの?」「そぉいうわけじゃないけどぉ……他の姉妹はもう行った?」「ん?ああ、姉ちゃん達ならもうスキー場じゃないかな。特に翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんはすでに滑ってそう。」それはもう、リフトとかで山頂まで行ってそうだ。ちなみに、あの二人はボード派らしい。「そぉ……まぁ、少しはマシねぇ。それじゃあ、行きましょうかぁ~。」そう言ってイマイチ元気なさげに銀姉ちゃんはエレベーターに乗る。僕らも、鍵を確認してからエレベーターに乗った。グイーンと音を立てながらエレベーターは1階へ降りていく。硝子張りの外を見ると、下でヒナ姉ちゃん達が雪合戦をして遊んでるのが見えた。「私も雪合戦でも混ぜてもらおうかしらぁ……」「?何か言った?水銀燈。」「な、何でもないわぁ。ほ、ほらもう着くわよぉ?」さっきから妙に挙動不審な銀姉ちゃん。エレベータが開き、フロントを経由してスキー場出る。白銀の雪が、太陽に照らされて眩い輝きを放っていた。さて、久々に滑ろうかな。END
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