第八十五話 JUMと冬休み
「一つ屋根の下 第八十五話 JUMと冬休み」
「俺はいつも思う。冬ってのは嫌いなんだ。」「そうなのか?何でだ?お前くらい暑苦しかったら寒くもないだろう?」僕は体育館で立っている。そう、お馴染みの校長の長話のせいだ。「ヴァカか!!冬ってのはな、みんな寒くて厚着するだろう!?」「まぁ、寒いからな。」僕は、その長話の中べジータと小声で呑気にくっちゃべっていた。「見ろ!!夏なら薄着と汗で、式の最中ブラ透け鑑賞できたのに!!ああ、ちくしょー!ちくしょー!!」そして絶叫。とりあえず他人のフリをしとこう。うん、他人他人。「やぁ、べジータ。担任の梅岡だよ。そんなにブラ透けが見たいのかい?じゃあ、先生の見せてあげるよ。さ、こっちこっち。先生思うんだ。ブラ透けっていうのは頑張る元気の……」「え、ちょ、何で着けて……こ、ここからが本当の……」ズルズルと梅岡に引っ張られていく馬鹿。ツッコミ所があったが、スルーしとこう。「……JUMは……見たいの…?」「あのなぁ、あいつと一緒にしないでよ薔薇姉ちゃん。」隣から小さな声がする。言うまでもなく、薔薇姉ちゃんだ。薔薇姉ちゃんは少し寒そうに手を擦り合わせてる。「そう…でも…夏の式の時は…何気に鑑賞してたよね…」「うっ……あれはタマタマで……」「JUMのムッツリ…」多分僕にしか聞こえてこないだろう声で喋る薔薇姉ちゃん。まぁ、これがある程度大きな声だったら色々僕がヤバイ訳だけど。そう思ってると、急に僕の手が温かくなる。「JUMの手…温かい…暴露されたくなかったら……式の最中手を握ってて……」薔薇姉ちゃんが少し企み顔で言う。まぁ、悪くない条件かな。手も温かくなるし。だから、僕がギュッと薔薇姉ちゃんの手を握った。やっぱり、それまでより断然僕の手は温かく式を過ごす事ができた。
「さぁ、みんな!!通知表を返すよ!!」梅岡がテカテカしながら教壇に立っている。手元には学生の恐怖通知表。無駄なハイテンションで次々に梅岡は通知表を渡していく。どっからそのエネルギーが出てるんだろうと思う。多分、近くで何故かグッタリしてるべジータからだな。べジータよ、永遠に。安らかに眠ってくれ。「JUM……見せあいっこしよう?」「ん?ああ、いいよ。でも薔薇姉ちゃん成績いいからなぁ~。」「JUMだって結構いい……家庭科とか私じゃ勝てない……」それは男としてどうなんだろうとも思うけどね。僕は薔薇姉ちゃんの前で通知表を広げる。薔薇姉ちゃんも僕の前で通知表を広げた。見事なまでに8や9と高い数字が並んでいる。「むぅ…やっぱり家庭科勝ててない……国語もJUMのほうがいい……」後は薔薇姉ちゃんの方がいいんだけどね。ともあれ、我が家は通知表を親に見せる恐怖のイベントがないから、相当成績が酷くなければ問題ない。「じゃあ、みんな!2学期もこれで終わりだよ!!次に会うのは年が明けてからだね!!それまで我慢できずに先生に会いたい人がいたら、何時でも僕の家に来ていーんだよ?グリーンだよ!」誰もそんな人いないと思います。よりにもよって暑苦しい梅岡に会おうなんて人はいないだろう。多分、補習とかで運悪くコイツに会う人はその日の運勢は悪いと思ったほうがいい。「先生、みんなが来てくれたら餃子やキムチ鍋パーティーでもしようと思って、食材沢山買ってあるんだ!何時でも来てくれよ!!」バチコーンとウインクをする。多分、冬の間一人でその食材を処理することになると思いますよ。さて、こんな感じで戦死したべジータを教室に残して、僕と薔薇姉ちゃんは学校を後にした。次に来るのは短い短い3学期、かぁ……
「あ……あれ、銀ちゃんと真紅じゃない…?」帰り道。僕は薔薇姉ちゃんと街をブラブラしながら歩いていた。その時、大きな袋を抱えている銀姉ちゃんと真紅姉ちゃんを発見した。とりあえず、近づいてみると二人は少しイライラしている様子だった。「はぁ、おっもぉ~い。何で私がこんな事しなくちゃいけないのかしらぁ~。」「不本意なのは私も同じよ。仕方ないでしょう?昨日ジャンケンで負けたのだから。」どうやら、ジャンケンで負けて沢山買い物させられているらしい。「銀姉ちゃんと真紅姉ちゃん。どうしたの?」僕が後ろから声をかける。すると、まるで二人はいい獲物が来たと言わんばかりに僕を見た。「あら、JUMと薔薇水晶。丁度いいわ。この荷物持ちなさい。」真紅姉ちゃんが僕が持って当然といった感じに袋を押し付ける。おもっ!中身は大量のお菓子?「JUM~、お姉ちゃんのも持ってぇ~。そしてら、家でイイコトしてあげるからぁ~。」「いや、別にそれはいいけどさ。なに、このお菓子の山は。」僕は銀姉ちゃんの色仕掛けを適当にスルーして両手で二つの袋を持った。うわ、これは重い。「感心感心……ちゃんと買ったんだね…二人とも……」袋の中身を見て薔薇姉ちゃんが満足気に言う。「不本意だったけれどね。でも、負けたのだから仕方ないわ。それに、JUMが来たお陰で楽になったわ。さすがは私の下僕ね。なかなかの働きよ。」女王様は自分の鞄だけを持って身軽に歩いてる。あのさ、せめて僕の鞄くらい持ってくれないかなぁ?「ほらぁ、JUM頑張ってぇ~。帰ったら水銀燈がマッサージしてあ・げ・る♪」何の、どこのマッサージなんでしょうか、銀姉様?僕に必要なのはマッサージなんかより、鞄を持ってくれる人なんですが……
「そういえばさ、まだ聞いてなかったけどこのお菓子は結局何なのさ?」僕は両手にお菓子が山ほど入った袋を持って家へと歩いていた。鞄は気を利かせた薔薇姉ちゃんが持ってくれてる。『エロ本入れてないかな…』とか言って鞄を漁ったのはこの際目を瞑っておこう。「何って。今日の夜から旅行じゃなぁい。そのお菓子よぉ?」銀姉ちゃんがサラリと言う。ん?旅行?何だソレ?「え、ちょっと待って。旅行なんて僕は聞いてないぞ?」「……JUM、貴方聞いてなかったの?先週くらいから水銀燈が言っていたじゃない。」真紅姉ちゃんが言う。あれ?もしかして、聞いてないの僕だけ?そういえば、先週くらいから家の中が慌しいというか、姉ちゃん達が色々買ったり荷造りしてたりしてたような……「はぁ、聞いてなかったようねぇ。帰ったらすぐ荷造りしなさいよぉ?夜には迎えが来るんだからぁ。」さすがに銀姉ちゃんが呆れたように言う。話を纏めると、こういう事らしい。何でも、めぐ先輩の家が経営するスキー場があるそうで。めぐ先輩も、うちの銀姉ちゃんとカナ姉ちゃんも一足先に受験が終わってるので、気晴らしに遊びに行かないかって事らしい。それに便乗して、僕らローゼン一家も一緒についていくと。つまり、そういう事らしい。スキーかぁ……正直行くのは久しぶりだ。一応、多少は滑れる……はず。このお菓子は、その旅行中で食べる奴か。そこでようやく辻褄があった。しかし、相変わらずお嬢様だなぁ、めぐ先輩って。
「はぁ~、荷造りやっと終わったぁ~……」僕は一気に荷造りを終えて荷物を持ってリビングへ降りていった。あ、携帯の充電器忘れないようにしないと。「お、JUM間に合ったですね。まぁ~ったく、ちゃんと話聞かないからそうなるんですよ?」全くもってその通りだなぁ。これは耳が痛い。と、銀姉ちゃんの携帯が鳴り響く。「あ、めぐぅ?うん、うん……分かったわぁ~、すぐに行くわねぇ。」どうやらお迎えとやらが来たようだ。「じゃあ、行くわよぉ。戸締りもOKねぇ?」とりあえず家を一回りして戸締り確認。うん、おっけーおっけー。最後に玄関のドアに鍵をかけて門を出る。門の前には、一台の少し小さなマイクロバスが止まっていた。プシューと音を立ててドアが開く。僕等は順番にそのドアから車内に入っていった。しかし、凄いな。もしかして、これ柿崎家の所有物か?「あ、みんないらっしゃい。ささ、適当に座ってね。」「こんばんわ、みんな。」車内に居たのはめぐ先輩は当然。そして、もう一人。「トゥモゥエー!!」ヒナ姉ちゃんが駆け寄って抱きついた人は、言うまでもなく柏葉だった。どうやらお呼ばれしたらしい。「御邪魔します、めぐ先輩。それから、こんばんは柏葉。」僕は適当に挨拶を済ませて荷物を置き、適当に椅子に座る。「水銀燈、家の鍵は大丈夫?いいなら出発させるけど。」出発させるって事は、やっぱりこれ柿崎家のバスか。しかも、お抱え運転手。夜に出発って事は多分明日の朝にはスキー場に到着してるって事だろう。ん?ってことは……もしかして、このバスの中で。男は僕一人で一夜を過ごすのか?それ、改めて考えなくてもヤバイのでは?「いいわよぉ、それじゃあスキー場へ出発よぉ~。」銀姉ちゃんが言う。バスがブルルルと音をあげて発進する。その中で僕は思った。冬休みは明日から。つまり、今日はまだ冬休みじゃないのでは?いや、どうでもいいんだけどね。END
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