第七十九話 JUMと七女
「一つ屋根の下 第七十九話 JUMと七女」
「む~……………」ショリショリショリショリ……「う~……………」ショリショリショリショリ……「あぅ………駄目ですわ……」コトン。キラ姉ちゃんがガックリして包丁と、人参だったと思われるものをまな板の上に置く。何故人参だったかといわれれば、芯がオレンジだから……としか言えない。仕方ない。芯しかなくて、身は消えてしまったんだ。事の発端は大したことはなかった。休みの日、少し遅く起きた僕は姉妹が揃いも揃って出かけていた事を知った。時間もお昼近く。御飯用意してないし、どうしようかなぁと思案に暮れていた頃キラ姉ちゃんがフラフラしながらリビングにやってきたのだ。どうやら、キラ姉ちゃんだけは低血圧ぶりを発揮して僕と同様に深い眠りについていたらしい。御飯がない事を知ったキラ姉ちゃんは言いました。「そうですわ!じゃあ今日は私がお兄様の分もお昼を作りますわ!!」で、その結果がこれだ。何を作ろうとしたのかは知らないけど、まな板の上には包丁と芯だけになった人参が転がっていた。思い起こせば、僕はキラ姉ちゃんが料理してる姿なんて、今まで見たことがない。蒼姉ちゃんのエプロンをつけているが(翠姉ちゃんのだと少し胸がキツイらしい)、そもそもキラ姉ちゃんのエプロン姿なんて初めて見たような気もする。学校で同じ学年ながら、同じクラスになった事がないせいか、調理実習も見た事がない。やっぱり初めてキラ姉ちゃんがエプロンしたのを見たんだろう。「なぁ、キラ。とりあえず何をしようとしてたんだ?」「あの……野菜炒め作ろうと思いまして…ほら、豚肉がありますし。」台所におかれた食材を見る。人参、玉葱、キャベツ、モヤシ、豚肉。成る程、野菜炒めの材料だ。簡単な料理だ。野菜は皮剥いで、適度に切って肉と一緒に炒め、塩コショウで味付ければOK。が……「それで…人参から皮とろうとしましたら……芯だけに……」
キラ姉ちゃんはシュンとしてる。まぁ、皮むきの手つきを見ればある程度は予測できた事だったかもしれない。ふつ~に危なっかしい手つきだった。何時指を切るか少しハラハラしてたくらいだ。ちなみに、我が家には皮むき器なんて便利なものは置いてない。料理担当の翠蒼コンビにかかれば、包丁の方が早いからだ。「あー、まぁ……とりあえずもっかいやってみよう。な?」「はい………ム~……う~……はう……」ショリショリと音だけは軽快だ。しかし、2本目の人参はまたしても芯だけになっていた。どう見ても皮と一緒に芯まで剥いでいる。キラ姉ちゃんは僕の知ってる限り手先が不器用ってほどじゃないんだけど……「なぁ、キラ。ほらさ、何なら外食するか?」「駄目です!!今日は絶対に私がお兄様の御飯を作りたいんです!!」僕は、完成までとてもとても時間がかかりそうなので外食を切り出すが呆気なく拒否される。頑固だ。「ふぅ……しょうがない、人参の皮は僕が剥くからさ。キラは玉葱とキャベツ切ってな。」僕はジャブジャブと手を洗って翠姉ちゃんのエプロンを着ける。丈が少し短いけど問題ないだろう。「はい、すみませんお兄様。」キラ姉ちゃんは僕に人参を渡すと先ずは玉葱の皮をむき出した。さて、僕も包丁で皮を剥くか。リンゴと同じ要領でやれば問題ないだろう。ショリショリショリショリ………よし、できた。これを適当に切ってっと……「うっ……ぐすっ……目、目が……」僕が人参を切ってる隣ではキラ姉ちゃんがポロポロと涙を流していた。手元には玉葱。これはキクなぁ。「大丈夫か?僕が切ろうか?」「ぐす…だ、大丈夫れす…お、お兄様はキャベツとお肉を……た、玉葱だけは私が…そうですわ!」キラ姉ちゃんは僕にキャベツと豚肉を押し付けると、何を思ったのかバタバタと部屋に戻っていった。「ふふふっ、これなら玉葱なんて怖くありませんわ!!」そして、再び台所へ戻ってきたキラ姉ちゃん。手には、スペアの眼帯が握られていた。あ、オチ読めた……
さて、予想通りと言うべきなのだろうか。キラ姉ちゃんは左目にも眼帯をした。しかしまぁ、スペアって机にでも閉まってあるのだろうか。例えば、どっかの変態仮面のように。眼帯を両目にしたキラ姉ちゃんは当然のように視界は暗闇で覆われているはずである。その結果、自分の位置さえ把握できずにフラフラ歩き……「あうっ!!?う……お、おでこ打ちました……いたっ!!??ううう……」柱におでこを打った後、屈みこんだ際に流し台で更におでこを打った。まるで三文コントだ。「やれやれ…大丈夫か?」僕はキラ姉ちゃんの眼帯を両目とも取る。涙目…と言うか半泣きの目が僕を見ていた。おでこが赤くなってる。「あーあー……ほら、後は僕がやるからさ。玉葱も眼鏡してる僕なら多少はマシだろうし。キラはお米を洗ってさ。御飯なくて野菜炒めだけってのも味気ないだろう?」僕はキラ姉ちゃんの声も聞かずに玉葱を切り始める。うん、眼鏡効果で多少はマシだ。うずくまってたキラ姉ちゃんは、服の袖でゴシゴシと涙を拭うとお米を洗い出した。さすがにそれくらいは出来るらしい。「ごめんなさい、お兄様。私、お兄様に迷惑かけっぱなしですわ……」ジャラジャラとお米を洗う音と一緒にキラ姉ちゃんがポツリと言う。「別に構わないよ。キラが僕に作ってくれようとした気持ちで充分だからさ。」よし、玉葱切り終わった。後は全部入れて炒めるだけっと。えーと、肉から入れるのが普通だったな。僕はフライパンを温めて油をひく。そして肉を投入。二人で豚肉1パックだけど、まぁ問題ないだろう。何せ、もう一人は食欲魔人のキラ姉ちゃんだ。ある程度肉が焼けたら野菜投入。火が通りにくいのは人参かな?そして玉葱、キャベツ、もやし。そして塩コショウを入れて味を調えて完成。お皿に半分に……もといキラ姉ちゃんに大目に盛り付ける。少し遅れて御飯が炊き上がった電子音が響き渡る。『いただきます!!』さて、それから御飯を盛ってリビングで僕はキラ姉ちゃんと昼食となった。何時もは指定席で食べるキラ姉ちゃんだけど、今日は通常銀姉ちゃんの席である僕の隣に座って、僕に引っ付いたまま食べていた。「キラ、ちょっと食べにくいぞ?」「ふふっ、私も実は少し食べにくいです。ですから、お互い食べさせっこしませんか?」ニッコリ笑って言う。しっかしまぁ、妹なキラ姉ちゃんって結構甘えん坊だったんだなぁ。
「廻る~廻る~と世界~は廻る~♪」渋い歌を歌いながら僕の腕をギュッと抱きしめながら歩くキラ姉ちゃん。冬の癖に、腕だけは温かい。僕らは昼食で消耗した食材を買いにスーパーへ来ていた。まぁ、勝手に使ったのが今日の晩御飯の食材だったら不味いしね。僕は右手に買い物籠を持ち、左手はキラ姉ちゃんに掴まれてる。キラ姉ちゃんは、肩を出した白い長袖にミニスカート。そしてブーツと相変わらず冬でも露出の多い格好だ。普通の男なら間違いなく振り向くような美貌をキラ姉ちゃんは持ってる。顔も綺麗だし、スタイルもいいしね。「お兄様?何かエッチな事考えてませんか?」「そ、そんな事はないぞ!?そ、そ、それよりさ。何でキラは今日昼食作ろうとしたんだ?」何時ものキラ姉ちゃんなら間違いなく外食コースだったはずだ。実際以前(8話)では外食だったし。「そうですわね……お料理に関しては何時も翠星石と蒼星石にお株を奪われてますから、私でもできるって事をお見せしたかったのですけど……」結果はご存知の通り、散々になったわけだ。まぁ、それはそれでよかったんだけどね。「ははっ、そっかそっか。キラって結構ヤキモチ妬きだったんだな。」今日はキラ姉ちゃんの意外な一面が見れた。僕的にはそれだけでも結構満足だったりする。キラ姉ちゃんもクスッと小さく笑うと、さっきより強く僕の腕を抱きしめて言った。「はい、ヤキモチ妬きですよ。だって、私もお兄様の事……」スッと耳元に顔を近づけるキラ姉ちゃん。フワッと香水の匂いがする。サラサラと流れる綺麗な髪。「大好きですから。」小さな声でキラ姉ちゃんは言って、そのまま僕の頬にキスをした。僕は一瞬で顔の体温が急上昇したしたのを感じた。いや、本当。一気に上がったよ。きっと、顔も真っ赤だろうな。END
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