エピソード012 魔女ケレニス
「放てっ!!!」槐の声が響き渡る。それと同時に、矢が文字通り雨のように降り注いだ。ヒュンヒュンと音を立てながら多くの矢が、門下のブラックナイトに降り注いでいく。その中で一際異彩を放つのは、白い矢だろう。その矢を放つ主。魔力の篭った矢要らずの弓スィドリームを持った翠星石だった。翠星石の矢は、これ以上の精度があるかと言うほど正確に、ブラックナイトの黒い甲冑の、丁度隙間の部分に矢を命中させていた。その隣で背中に大剣を携え、矢筒は腰に装備して矢を放つ蒼星石。余り見ない姿ではあるが、彼女もエルフだ。人間とは比べ物にならない精度と発射速度を備えている。「ええい!!これしきの矢、恐れるな!!突撃せよ!!」対して、反王軍は白い甲冑を来た軍団長のような男が後方で指示を飛ばしていた。肝心のケレニスはさらに後方でくつろいでいる。さて、ここで反王軍について少し説明しよう。反王軍の一般兵は全て装備が決まっている。彼らがブラックナイトと呼ばれる由縁。それは、黒一色に染められた全身鎧のせいの他ない。黒の鎧で全身を固め、大きな黒い盾。そして同じく黒いランス。全身黒ずくめの姿と、その勇猛さから彼等はブラックナイトと呼ばれた。ちなみに、隊長クラスになると一転して鎧は白に代わり、武器も剣が認められる。一般兵は集団戦で最も有効と言われる槍の所持しか認められていない。そのブラックナイト達は、門目がけて矢が雨のように降る中、盾を掲げて突貫する。中には、盾が耐え切れずに鎧と一緒に矢に撃ち抜かれる者もいる。しかし、それでも彼らの突撃は止まらない。この死をも恐れぬ勇猛さ。それが反王の軍団の恐怖の象徴の一つでもあった。「槐、奴ら門破壊にこぎつけたぞ。どうする?」「岩石を落とせ!!なんとしても侵入を許すな!!」槐の指揮の元、門に群がるブラックナイトに用意してあった岩石が次々と落とされる。結構な大きさと高さから落とされる岩石を防げるほど、盾を持ち主の体は丈夫じゃない。次々と門を攻撃する兵は潰されていく。「くっ……ケレニス様……このままでは我が軍は被害だけ出てとてもじゃありませんが攻め落とせません…」軍団長がケレニスに言う。素人目に見ても、このまま攻めても落城どころか門を壊せるのも怪しい。「……もう少し待ちなさい…あと少し……うふふっ…」しかし、ケレニスは全く慌てる素振りも見せず戦いの流れを。いや…倒れていく兵を見ていた。
「よし……このままなら相手が攻めあぐねるだけだ。真紅様、我々は内門まで下がりましょう。」槐が戦況を見て言う。前途したが、ギランの門は二重になっている。今、戦場となっているのは外門。万が一ここで突破されても内門を突破しなければ、城内まではいけないのだ。「分かったわ……JUM、みんな行きましょう。翠星石と蒼星石はどうするの?」「翠星石と蒼星石は残っとくです。一人でも弓は多いほうがいいですから。」翠星石は、黙々と矢を放ちながら言う。真紅は蒼星石に視線を移すが、彼女も同じようだ。「そう。大丈夫だとは思うけど……気をつけて……」「真紅も気をつけてね。」真紅達は、蒼星石の言葉を後に内門へ下がっていった。外門の下は、黒い鎧で埋め尽くされていた。だが、門が破壊される感じはまるでない。実際、あるのはもう動かない屍と化した鎧だけだ。見た感じ、梯子も用意されてない。このまま矢の雨を浴びせかければ反王軍の撤退は時間の問題だったろう。しかし……急に攻めていたブラックナイトが後退して行く。それだけならよかった。それと交代するように全面に出てきたのは、周りをより一掃大きな盾を持った兵に囲ませた魔女、ケレニスだった。「魔力補充完了………それじゃあ、いきましょうか……」ケレニスはゆっくり歩いて近づく。城兵が矢を放つが、堅い守備隊に囲まれて矢が届く感じがしない。「星を巡りし流星よ……彼の地より来たれ……」ケレニスは、門の少し前で立ち止まり魔力を集中させて詠唱を始める。元々、魔法と言うのはエルフから人間に伝えられたと言う。今では、魔法の技術は人間が追い越してしまったが、魔力を感知するエルフの能力は未だに衰えていない。ケレニスに集まる言葉で形容しがたいほどの魔力を、双子のエルフは感じていた。「!?な、何ですかぁ!?この魔力……気持ちわりぃくらいデカイ…!?」「まさか……いけない!!みんな、門から離れて!!早く!!!」蒼星石が大声で叫んで捲くし立てる。状況の掴めない兵はオロオロするばかりだ。「汝は飛来せし灼熱の業火……ここにその力を見せよ……」「っ!!翠星石つかまって!飛ぶよ!!」蒼星石が翠星石の手を掴み門から飛び降りる。それと同時に、ケレニスの足元に巨大な魔方陣が浮かぶ。「……メテオストライク……!!」
それは、まさに戦術破壊と言って間違いなかっただろう。誰がこんな事を思いつくのか。そして、実行できる力を持ちえているのか。『魔法』の存在するこの世界では、魔法で城門を打ち破ろうとするのは、誰しも考える事である。しかし、だ。防衛の際、最重要とも言える門というのは、基本的に耐魔力防御を施されているのが基本である。よって、魔法の存在するこの世界でも、門破壊は原始的に叩き壊すしかないのだが……飛来した幾つもの隕石か、火炎弾か。それは、完膚なきまでに門と。そして城壁までも破壊していた。ケレニスが自軍の兵を一旦戻させたのはこの為。わざわざ巻き添えを食わせる事はない。自分達が多数で攻撃してもビクともしなかった門を、たった一人で開け…いや、破壊したケレニスに兵達はただただ感嘆していた。壊れた門…いや、城壁を見ながらケレニスは満足気に言う。「言ったでしょう?私には門なんて関係ないって…さ、貴方達の出番よ?早く皆殺しにしてあげなさい?」門に苦戦していた反王の兵達が、一気に勢いをつけて城内に侵入していく。それを見ながら、ケレニスは小さく笑う。「流石はケレニス様……進まれないのですか?」軍団長の言葉に、手を口元に置き何かを考えているような顔をするケレニス。「……思ったより城門に居た兵は巻き込まれてないみたいね。私も行きましょうか。」「?あの魔法で生存者が多いと仰るのですか?そんな馬鹿な……」「ええ、少なくとも私が思ってたより死者は出てないわね…誰かが察知したと言うの…?」本当は、門を開けて一休みでもしたかったのだろうが、どういう手段でか守備兵の被害が少ない事を知ったケレニスは、ゆっくりと破壊された城門を突破し城内に侵入して行った。恐らく、彼女の好奇心だろう。この門の先には、退屈している自分を楽しませてくれるものが必ずある。その直感で彼女は歩いた。
パラパラと破片が舞い、空を覆う。天から飛来する何かに気づき、間一髪で難を逃れた翠星石と蒼星石は、前が見えないほどの煙の中でただ驚愕していた。「信じられない……門だけじゃない……城壁さえも一緒に破壊するなんて……」「あの化け物じみた魔力を持った奴の仕業……本当にこれが…人間なんですか…?」二人は辺りを見回す。あと少し、魔力の感知が遅ければ自分達も城門に居た守備兵も全滅に近かっただろう。城門を破棄してでも脱出したのは正解だったと言える。しかし、戦いは終わっていない。徐々に荒々しいほどの叫び声と走ってくる音が聞こえる。ブラックナイトだ。「翠星石立てるね?門を壊された以上、少しでもここで止めないと…」「分かってるですよ。それに、魔力の主の顔も拝んでおきてぇですからね……蒼星石!!」ようやく舞い上がった煙と砂埃が晴れてくる。それと同時に自分達が囲まれている事を知る。ブラックナイトのランスが、蒼星石の顔目がけて繰り出される。蒼星石は、それを上体の体重移動だけでかわすと、腰に携帯していた矢を持ちそのまま相手に突き刺す。「ぐっ」とうめき声が聞こえる。蒼星石は、その矢を抜くとそのまま弓を引き、放つ。至近距離で矢を受けたブラックナイトは後方へ吹っ飛ぶ。「蒼星石、後ろです!!」翠星石も懸命に矢を放ち応戦してるが、人の事まで手が回らない。蒼星石は、そのまま体を捻り弓で相手を殴った。同時に、弓が折れるが何も問題ない。そもそも彼女の武器は弓じゃない。殴って怯めばそれで充分。背中から大剣レンピカを抜くと、蒼星石は一刀の元に相手を切り捨てた。「2対多数……切り抜けれるかな……?」「問題ねぇですよ。翠星石と蒼星石は、二人一緒なら200人力ですぅ!こ~んな10人程度なんて相手になるわけねぇです。」強気な発言をし、弓を引きながら相手を睨みつける翠星石。蒼星石もクスッと笑うとその大きな剣を構える。「ふふっ、そうだね。さ、本気でいかせてもらうよ…!!」
「槐、門が……いや、城壁ごと破壊された。反王軍が乗り込んできてるぞ!!」「何だと……くそ、梅岡は交戦中か!?」内門の城壁で報告を聞いた槐は唖然としていた。どんな手で城壁を破壊したのか。それも気になるところだが、今はそれどころではない。矢継ぎ早に指示を出す。内門を突破されるわけにはいかない。「JUM!巴、雛苺!私達も行くわよ!!翠星石と蒼星石が心配だわ。」「ああ、それがいいな。二手に分かれて探そう。僕は真紅と。柏葉は、雛苺についてやってくれ。」真紅達は、急いで門下へ行き戦場へ向かっていく。完全に混戦状態だ。敵味方が入り乱れている。「巴、雛苺……死なないでね……」「真紅と桜田君こそね……行くよ、雛苺。」巴がカタナを片手に走る。雛苺も杖を持って懸命に走って巴についていく。二人の姿は砂埃にかき消され見えなくなった。真紅は、ただもう一度会えることを信じてJUMと共に翠星石達を探した。
「くそっ、どいてろよ!!」ブラックナイトの突きをJUMが盾で受け止める。そして、そのまま相手の首元を狙い全力で突き刺す。手に皮膚を貫いた感触が伝わる。JUMは剣を引き抜くと、そいつには目もくれずに周囲を見回す。「JUM!?あまり自分の周囲の注意を散漫にさせてはダメよ。」真紅が、ランスの突きを受け止めそのまま体重を乗せて肩口からバッサリと切りかかる。所詮は一般兵の鎧と言うべきだろうか。バターでも切るようにすんなりと切れる。真紅とJUMは、迫り来るブラックナイトを蹴散らしながら、二人の仲間を探す。そして……「あれだ……あんな馬鹿デカイ剣はあいつしかいない!……あいつ…まさか……」JUMの視線の先。そこには、双子のエルフの姿と。そして……黒髪の女ウィザート。ケレニスが対峙していた。To be continued
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