狼禅百鬼夜行 六つ目の話 「都姫狗妖話」
このお話は、機械や鉄砲が存在せず、八百万の神々、そして森の生き物や妖怪達が、まだ人々にとってとても身近であった頃の物語
都の外れの荒れ屋敷。崩れた塀と草に埋まる庭。朽ち、倒れかけた建物群。化け物屋敷と恐れられ、今は人すら近寄らぬそれらは、しかし過去の栄華を示すかのように、月に照らされその半ば崩れかかった威容をさらしていた。
暗く、静かに、ただ虫の音のみが響き渡る屋敷の中、小さく聞こえる衣擦れの音。人など居らぬ屋敷の中で、荒く弾む息遣いは誰のものか。未だ倒れぬ離れの中に小さな悲鳴の上がる時、几帳を照らす青い炎が風も受けずにゆらめいた。
狼禅百鬼夜行 六つ目の話 都姫狗妖話 みやこのひめとてんぐのあやしげなるはなし
枕の横に聞こえるは、何処ぞの寺の名高い坊主が発する気合と念仏の声。焚き締められた香の匂いもその念仏も、「私」にはさして気になるものでもない。けれど、私の中に居る誰か。何時ものように、唐突に乱暴に私の体を占拠した何者か、は、そのどちらにもに苦しんで&勝手に人の口を使って呪詛と恨みの言葉をとめどなく吐きだしていく。時には体を大きく跳ねさせて、のたうちまわることすらあった。だのに、私は慌てて押さえる僧達の手の感触も、苦しく締め付けられる胸の痛みも、すべてはまるで、夢の中のように……遠く、遠く感じるだけ。
私と体のつながりは、もうきっと切れかけている。小さい頃、初めて何かに憑かれた時は、それこそ激しい痛みと苦痛で気が狂いそうになったほど。それが、徐々に遠くなっていく、というのは、きっと、私自身が体から剥がされかけている証拠。いつか私は完全に、この体に憑くたくさんの何かに蝕まれ、追い出され、そして消えてしまうのだ。遅かれ早かれ、いつの日か。
続く遠い痛みと叫び声を考え事で紛らわせるうち、私の体は断末魔の悲鳴を上げて倒れ伏す。とたんに体に感触が戻って、私は大きく息をついた。
「終わりました」「ありがとうございます。お礼とお食事は、母屋の方に&」
目をつぶって体を弛緩させる私の隣で、坊主と父の声が聞こえる。聞きなれたこの遣り取りも、この月に入り既に何度目であろうか。もはや叫び続けて声は枯れ、暴れ続けて疲労困憊。今は体も動かない。私に出来る事はただ、侍女たちに姿勢を整えられ、寝具をかけられるままに疲れた体を眠って休める事くらいだった。
次に目を覚ました時は、日は既に高く上り、傍には誰も居なかった。何時もの朝だ。このような、数日に一度は何かに憑かれて奇声を発する化け物憑きの娘の傍らには、侍女すら長くは居たがらない。けれど、それくらいが丁度よいと思う。私だって気味悪がられながら一緒に居るなど気分が悪い。小さく伸びをして起き上がろうとすると体の節々が痛んだが、そんなのは何時もの事だ。並べられた服を纏って、傍に置かれた膳を寄せて冷えた朝餉を口にする。……半分も食べ終わらぬうちに、面倒になって箸をおいた。このような今にも他の何かにくれてやらねばならぬ体など、いたわったとして何になる。
むせ返るほど焚き染められた、魔除けの香から逃げるように部屋を出る。自らの手で御簾を上げて格子を開いて縁側へ。見渡せる庭は、月の半分は床に伏せる私を余所にいつの間にやら夏を過ぎ、青々と茂っていた緑の木々も、今は秋の装いも色鮮やかに、周囲にそれを誇示してみせていた。誰も見ていないのをいいことに、私は廊下に腰を下ろしてその光景をぼんやり眺める。どうせ人などこの離れまではめったにやって来ないのだ。多少はしたなく外に姿をを晒したとて、注意をされる事も無い。
そうして、赤く赤く血のような色に染まりざわめく紅葉を眺めていると、ふっ、と自分のことなどすっかり忘れてしまいそうになる。中納言の姫である事も。化け物憑きであることも。この世に存在していることすらも。そう、無理に私がこの世に存在し続けたとしても、私のたった一つの所有物である体は、これからも化け物に、生霊に何度も奪われ続けるのだろう。その最中に、きっと「私自身」も消えてなくなってしまうのだ。
……どうせなくなってしまうのならば、いっそこのまま風に溶けて、紅に溶けて、綺麗に消えてなくなってしまえばいいのに。
柱に体をあずけながらそのようなことをぼんやりと考えて、一体どれくらいの時間が過ぎたのだろう。いつの間にやら夕暮れ時になり、木々だけでなく空すら朱に染まり始める頃&
ギャァ――――――――――――――!!
大きな悲鳴が響き渡る。それは人ではない何か別の生き物の声。我に返って空を見上げると、何かがどさりと屋根に落ちる音。程なくそれは端から転げ落ちて、その姿を現した。
「からす…?」
その鳥は、落ちかけたところで羽ばたいて、再び空に舞い上がろうとする。しかし、矢に貫かれた羽ではそれも無駄であったのだろう。必死の羽ばたきも空しく、私のすぐ近くに落ちた。烏は地に落ちてなお羽ばたこうと足掻き、もがき苦しんでいる。その姿に興味をそそられた私が、近寄ろうと柱から身を起こしたとき&塀の外に、馬のいななきと鎧兜の鳴る音。そして男たちの騒がしい声。
屋敷に落ちたぞ!物の怪め!また中納言様に祟りを為そうと言うのか!早く屋敷の者に伝えて捕まえねば!
次第に遠ざかってゆく声を聞きながら、私はひざをついて烏に近づいていく。羽を貫かれて、無様にのた打ち回るかの鳥は、やっと私の姿に気付いたようにこちらを見上げてきた。
そこにあったのは赤い瞳。普通ならば黒く濡れ、漆器のように光るはずのその瞳は、今の空のように、庭の紅葉のように、血のように赤く光っていた。思わず引き込まれて手を差し伸べるが、烏は威嚇するようにコウ!と一声。しかし躊躇せずに、私はその体を抱き上げた。暴れて辺りに黒い羽が飛び散ったが気にしない。片手で押さえて背中をなでてやるうちに、烏は次第に大人しくなっていった。
そのうちに、ドタドタと騒がしい足音が近づいてくる。見れば、屋敷に仕える侍女の一人が渡り廊下を急ぎ足で歩いてこちらにやってきた。
「何をやっておられるのです!御簾の中へお入りください!今からこちらに人が参ります!」
抱いた烏を長い上着の袖で覆って振り返ると、あれよあれよという間に御簾の中に押し込められてしまう。程なく庭をどかどかと歩く数人の足音が聞こえて、外から声がかけられた。挨拶の口上のあとに続いたのは&
「私が先ほど射落とした、物の怪と思しき黒い影がこちらに落ちてゆきました! 姫はご無事であらせられるか!?」
案の定、先の烏のことと思しき話。武士の言葉に、侍女がこちらを振り返る。私は静かに頷いて、おかしくない意思を伝えた。すると侍女は向き直って、御簾の外へ言葉を放つ。「姫様はご無事で居られます!」
「ならば、落ちた黒い影をお見かけになりませんでしたか?」
振り返る侍女に、今度は小声で言葉を伝えた。
「悲鳴をあげて落ちてきた影は、のた打ち回った後に再び空を飛び、 西の空の彼方へ消えた、とおっしゃっておられます!」
逃げたか!物の怪め!と男達の色めき立つ声が聞こえてくる。しかしそれは直ぐに先ほどの呼びかけの声によって静められた。
「わかりました!ご協力感謝いたします!」
良く通る、張りのある声が響いた後、足音は、どかどかと音を立てながら再び遠ざかっていった。その気配が遠くへ消える頃、残った侍女はひとしきり心配して、物の怪に中てられていませんか、体の調子はおかしくありませんか、などと聞いて来る。しかし何時もと変わった所は無い、とうんざりしながら告げると、すぐに離れを出て行った。
やっと部屋に静寂が戻る。袖の陰に隠した烏の様子を見てみると、なにやら憮然とした様子でこちらを見上げていた。
「……私はただ助けたかったから貴方を助けたの。別に感謝なんてしなくてもいいけれど 少なくとも怪我が治るまではここにいたら?」
物の怪だ、と男達は言っていたけれど実はただの鳥であるかもしれない。そんな事などわかっている。けれど、その物問いたげなその様子に、私は思わず語りかけてしまっていた。烏は、そんな私をあの赤い瞳で見上げて…思い出したかのように、鳥らしく小首を傾げて見せた。
―――
故郷の里から山を渡り谷を渡り、風に身を任せ天を舞う。日の沈む方角へと流れゆく風に乗りまたひとつ山を越えた時、そこは、やっと姿を現した。この日の昇る国において随一の都と称される場所。たくさんの人間と、それを糧とする魑魅魍魎達のための都。
遥か高みの天空から、四角四面に碁盤の目のように張り巡らされた道と、そこを行き交う小さな人々の姿を見て、私は小さくため息をついた。里の大天狗からの命とはいえ、此処は明らかに私たち天狗の領域ではない。そんな場所で有象無象の他の妖怪や鬼達と競り合って人々に害を成し都で天狗の名を高める、などというのはまったく無謀というものだ。
「面倒ねぇ……」
ため息とともについて出る本音の言葉。さりとて何もせず帰るというのも自らの無能を証明するようで。さらに並居る烏天狗の中からこの難しい使命に選ばれた事とて、決して悪い気がしているわけではないのだ。たとえ、それが大天狗の気まぐれだけで選ばれたもので、期待などまったくされていなくとも。
私は背の漆黒の翼を羽ばたかせ、ゆるゆると高度を下げて都へと近づいていく。人に姿を怪しまれぬよう、烏に姿を変えながら。
しばらく経って適当な屋根に降りて立つ頃には、沈みゆく夕日に照らされて、都の全てが赤く染まりはじめた。豪奢な作りの家々に、そこで笛や歌に興じる煌びやかな服装の人々も。神社の境内に開かれた市場や、今にも倒れそうな足取りで歩く疲れきった民の背中も。
そんな、赤一色に染められた都の景色を物珍しく見渡している時。がしゃり、と武器の立てる物騒な音とともに、武士の一団が近くの通りを歩いてゆく。それらは、あたりまえのように私の目の前を通り過ぎるはずだった。しかし。珍しい短髪の女武者がふとこちらに振り返る。視線の先には、屋根の上に佇む烏……つまり、私。
まずい。目が合った。そのまま徒の烏の振りでもしていようかと一瞬迷ったのが徒になったか。慌てて飛び立つ寸前に、飛んできた矢が羽を散らす。運良く羽先を掠めただけであるものの、あと一寸遅れていたら、それこそ体のど真ん中を射抜いていただろう。逃げる間もなく第二射が飛んできた。この調子ではあっという間に矢ぶすまだ。これはかなわぬ、一旦上空へ逃れようと、再び高く舞い上がった。しばし後、再び上空から見下ろした時には、流石に弓も届かぬと見たのであろう武士達が、怒声を上げて地団太を踏んでいる。いい気味だ。所詮空も飛べない人間どもなどこの程度。思い、笑った途端に聞こえてきたのは風を切る音。右翼に衝撃が走った。
一体何が起こったかわからない。口が、意図しない悲鳴を上げていた。激しい痛みとともに体勢が崩れ、地面が急速に近づいてくる。慌てて羽ばたこうとしても、右の翼が動かない。……飛べない!愕然としたときには、既に視界の大半がどことも知れぬ屋根の瓦で占められている。それしか見えなくなる直前にかろうじて目に入ったのは。一際大きな強弓を構えた、私を撃ち落したのであろう老武者の姿だけだった。
屋根瓦に体を強く打ち付けられた後は、ごろごろと屋根を転がってゆく。貫いた矢がどこかにあたる度、翼に強い痛みが走る。しかし烏姿でいくらもがこうが、この頑丈な矢は刺さったままで、折れることも抜けることも無い。程なく地面にまで叩きつけられた私は、地をのた打ち回りながらも朦朧とした頭で考える。まずい、まずい、この怪我で人間どもにつかまれば、まともな応戦をする間もなく殺されてしまう。逃げなければ。
そこに黒い影が差した。その影の主は、まだ若い人間の女……
もはやこれまでか、そんな言葉が浮かんで、消えた。その女が膝をついて伸ばした手に威嚇をしながら、その人間を下から観察してゆく。その顔、しっかり覚えて死んだらきっと呪ってやる。こいつもさっきの武士達も。
低い視界から見えたのは、貴人と思しき豪華な衣と、流れるような黒髪と。そこまで認識した所で、その胸に抱き上げられた。放せ!ともがき暴れた私を、彼女は押さえてなぜか静かに撫ではじめる。……攻撃の意志はない、ということ?
結局、その人間の少女は私を袖の陰に隠したまま、武士達を追い払った。助けられた、ということになるのだろう。私には、無事床の上に降ろされた後も未だにそれが信じられない。
「私はただ助けたかったから貴方を助けたの。別に感謝なんてしなくてもいいけれど 少なくとも怪我が治るまではここにいたら?」
憮然と見上げる私に対し、彼女が言うのはこんな言葉。まったく変な人間だ。
かくして、私はこの不可解な少女の元で、しばらく暮らすことになったのだ。
―――毎日の退屈な日々に、少しの変化が訪れる。先日拾ったこの烏、なんとも不思議な烏だった。
矢を折り羽根から抜くときも、じっと我慢をするように、暴れず傷を睨んで耐える。もちろん、水をかけてさらしを巻いた時にも暴れなかった。まるで、自分が治療されているということを、きちんと理解しているかのようだ。それに、観察している私を逆に観察するかのような視線。そこらの鳥がくるくる首を回しているかのような定まらない目線とは明らかに違う。さらに時には、人の言葉を理解しているかのような、賢い振る舞いを見せることを考えると、武士達の言っていた、この烏が物の怪だ、というのもあながち間違っていないかもしれない。
そう、物の怪……もしもこの烏がそうであるのなら。いつかはやはり、牙を向き、私の体を求めるだろうか。私の体にとり憑いて、体を奪いに来るのだろうか。
くすりと笑う。それならそれで、いいかもしれない。そんな事をふと思った。いい加減にこの世で生を続ける事にも飽きてきていた所。どうせ自分のものではなくなるならば、気まぐれにこの鳥にくれてやるのもいいかもしれないな。無理やり奪われるのではなく、くれてやる。そこに自分の意志があるというのなら、結果的には同じであっても気分が違う。そう、それは愉快な考えだ。この鳥が、怪我を完治させて物の怪の本性を現したとき、その時私は、素直にこの烏に体をくれてやろう。食うなり、成り代わるなり、私の体を好きにつかう様を、私自身が消えてなくなるまで面白おかしく眺めて過ごすのだ。
そこまで考えた所で、烏の頭に手を伸ばし、ゆっくりとなでる。私の気持ちをしってか知らずか、烏はただ、素直になでられつづけていた。
それから数日が過ぎて。今のところは、何時もの悪霊も鬼もまだ何もやって来ない。烏もただ、怠惰に日々を過ごす私の隣で、同じようにただ大人しく座っているだけだった。
日が天頂を超え、庭の木々と空を眺めるのにも飽きた頃。ふと思い立って立ち上り、部屋へ戻る。視線を左右へめぐらせて…あった。古びた琴が納められた、同じく古びた花模様の袋。もう長い間触りもせずに放って置いた代物だ。それを手にとって、縁側へと運んでゆく。床に置いて袋から出して…琴柱を納めた箱を忘れた事に気がついて、慌てて取りに戻った。私の様子に首をかしげて見上げる烏を横目に、横に置いた箱から出した琴柱を立てて、調弦していく。昔と音が少し変わってしまったような気もすけれど、戯れに少し弾くだけなのだ。かまわない。
あらかたの準備が終わった後、深呼吸をして、弾き始めた。祖母から習ったあの歌を。昔に比べてぎこちないけれど、ある程度は体が覚えていてくれたらしい。それと共に、歌を小さく口ずさみはじめる。弾きながら歌うのは少し難しかったが、昔隣で歌ってくれた祖母はもういないのだ。
しばらくぶりに小さな離れに響く琴の音と歌。朗々と響くような美声でも無ければ、演奏も拙いもの。それでも、久しぶりに弾いた琴は随分と楽しかった。
最後の一音が終わり、ふうとため息をついて姿勢を戻す。久しぶりに物事に集中したうえ、歌まで歌ったので疲れてしまったようだ。ふと横を向くと、目を細めていた烏がカァ!と控えめに一声鳴く。何を言いたいのかまではさすがにわからなかったのだけれど、私はにっこりと烏に微笑んで見せた。そして、そのまま柱に体を預け、疲れのままに軽く目を閉じた。
それは夢だった。なぜなら、私はまるで眠る前の繰り返しのように拙い指の動きで、あの古びた琴を弾いていたから。ただ、先ほどと唯一違ったのは爪弾き歌う私の隣に、見慣れぬ人影があったこと。自分の手元に集中していた私は、そちらにはほとんど目を向けることが出来なかったが、ただ、その人の髪がまるで老人のように銀に染まっていた事だけがかろうじて見て取れた。
一体誰だろう。老人のような髪ではあるが、しかし祖母ではない。私の記憶にある祖母の髪は銀ではなく、白。そんなことを頭の隅で考えるうち、最後の一音が空に消え、私は隣のその人物を振り返って……
とたん、視界に入ったその人物の姿が急速にぼやけていく。
「…ま……さま!」
体が揺れる。いや、揺らされている。なんだろう。揺れと共に徐々に意識が覚醒し、寸前まで見えていた彼女の姿が記憶から跡形もなく消えていく。
「ううん……」
そのことにかすかな不快感を覚えながら、ゆっくりと目を開ける。…すぐに視界に入ったのは、見慣れた侍女の顔。私が目を開くと、ほっとしたように息をついた。何かあったのか、と見上げたまま侍女に問いかける。
「なあに……?」「このような場所でお休みになってはいけません。 そろそろ寒くなってまいります。中へお入りください」
気がつけば、空は既に赤から紫、青へと変わっていく所。高く広く広がる空は、しかし塀や木々に邪魔されて此処からでは狭くしか見えなかった。侍女に押されて縁側より一段高い造りになっている部屋へと戻る。再びむせるような香の匂いに包まれて、侍女の用意した寝具の上に横になった。
「夕餉はしばらく後に持ってまいります」
言って部屋を出てゆく侍女を見送ってから、思い出して烏の姿を探す。すると、いつの間について来ていたものか、枕元に運び込まれた琴と並んで座っていた。くわあ、と一声ないた烏は、くちばしで琴を小さく突く。何を言いたいかはわからなかったが、居ることがわかればそれでいい。手を伸ばして少しなでてから、私は再び眠ることにした。あわよくば、先ほどの夢の続きを見ることが出来るように祈りながら。
そしてその晩……私は再び鬼に憑かれた。
―――何だこれは。ナンダコレハ。目の前で、私を拾った少女が奇声をあげて、暴れている。
「ダイジンサマ、ダイジンサマ、オミカギリデスカ!? ワタシハ コンナニ アナタヲ オシタイシテ オリマスノニ…ウラメシヤ…ウラメシヤ……!」
口から吐き出されて行く金切り声は狂ったような愛の言葉。
「セメテ カナワヌ オモイナラ…ワタシハ アナタノ ミライヲ ウバッテ……!アハハハハハ」
そしてそのまま、彼女は自分で自分の首を締め始める。面食らっている私を他所に、人間達は、慣れているかのように淡々と準備をすすめていく。侍女たちが、少女を押さえつけ、寝所に縛った。普段より数倍は濃い香が焚かれて、駆けつけた祈祷師達は思い思いに獲物を掲げて、悪霊払いのまじないを紡ぎつづける。踏まれそうになり、部屋の隅へと逃れながら、私はただ呆然とその様子を見つづけていた。
それからしばらくたっても、状況は一向に変わらない。見ている限り、鬼のような形相をした女の霊は、憑いたまま一向に彼女の上から退く気配は無い。それどころか、それに押されて何かが少女の体から押し出されていく。恨み辛みで大きく膨れた霊にくらべて牛と子供ほどサイズが違うそれは、今にも切れそうな線で少女の体と繋がるそれは……
……仕方が無い。不本意だけれど、人間に手を貸そう。恩ある相手の危機を見捨てるなどというのは、天狗の沽券にかかわる話。
それにしても、これで彼女の居室の謎が理解できた。屋根を支える柱には様々な守りの札が貼られ、たちこめるのは強い魔除けの香のにおい。その徹底振りといったら、そこらの弱い霊くらいならば部屋に近づいただけで消滅しかねないんじゃないかと思えるほど。一体何故ここまでガチガチに守りを固めているのやら、ずっと不思議に思っていたのだ。私にとっては強いにおいと風が通らない事さえ我慢すれば、空気自体はきれいで良い環境であるのが幸いであったのだが。それらはすべて、彼女を憑き物から守るため、ということなのだろう。
隅からそっと歩き出し、彼女の元へ近づいてゆく。一心不乱にまじないを唱えつづける祈祷師達は、私の存在に気づいていない。易々と横をすり抜けて、近づく事が出来た。見上げれば、彼らまじないを聞くことなく、嘆き、怒り、喚く鬼女の姿。……聞くことなく?もしかして、聞こえていない?古今東西、恋に溺れた生き物は、多かれ少なかれ人の話など聞く耳持たないものではあるが、払うまじないまでも聞く耳もたないとは中々に面倒な悪霊だ。だからこそ、この物々しい警備を突破して彼女に憑くことができたのかもしれないが。
ため息をつく。このままでは何かきっかけでもない限り、鬼女は退いてくれそうに無い。きっかけ。周囲をぐるりと見渡すと、目に入ったのは清めの炎。あれならば。そう思って近寄っていく。ばさりと羽根を広げ、飛び上がろうとするが・案の定、広げた翼は動きが鈍く、飛ぶ事など出来そうにない。もう少し高さがないと……まさか、この状況で天狗の本性を出すわけにもいかないし。そんな事をすれば、払ったら払ったで次は私が攻撃される羽目になりかねない。考えた所で、目に入ったのは炎の前で一心に念仏を唱える一人の坊主頭。丁度いい位置に居るその彼に駆け寄って、金糸で織られた袈裟に爪をかけ、一気に駆け上った。最後に頭を蹴って飛び上がったところで大きく翼を開いて風を起こす!もちろん、周囲の几帳などには飛び火しないよう注意を払った。踏み台にした坊主頭に焦げ跡が残るくらいは、別にどうだっていい。
そうして、一瞬広がった炎が元に戻る頃には、鬼女は服に火をつけられて驚きと苦しみの声を上げていた。
そこから先はすぐだった。最初、何が起こったのかとびっくりしていた祈祷師達だが、状況を見てすぐに、今が時とばかりにまじないに力を入れた。対して、火をつけられたことでやっと周囲に気がつきはじめた鬼女は、湯も沸かせないほどの短い間に追い散らされてしまったのである。
その後、祈祷師達が息を吐くのと同時に、やっと離れに安堵の空気が流れはじめた。それから程なく、彼女の父と思しき貴人が渡り廊下を越えてやってきて、ねぎらいの言葉をかける。けれど私はそれを他所に、彼女の……父親に「めぐ」と呼ばれていたこの離れの姫の、その枕元へと近寄って、顔を覗き込んだ。一時期は苦しげな表情を浮かべていたが、今は安らかな寝顔だった。この少々奇矯な、命の恩人である少女を守れた事に少しほっとする。傍を離れると、侍女の一人が縛り付けていた紐を解いて、寝具をきちんとかけなおしていった。
私もこのまま寝てしまおうか、と近くの寝床に歩き始めた時。背中からがしりと捕らえられて、ひょい、と持ち上げられた。
一体何かと振り向けば、そこには先ほど踏み台にした坊主の姿。流石にアレは腹に据えかねたのか、と思いきや。すぐに他の祈祷師達の所へ連れて行かれて……それから数刻後、私はぐったりと疲れた体を、改めて寝床へと横たえる事になった。
術で風を起こしたことを見咎められて、祈祷師達に悪いモノではないかと怪しまれたのだ。おかげで、籠に入れられて悪霊払いの色んな札を貼られたり、香の焚かれた袋の中につっこまれたりなどなど散々だった。しかし、あたりまえのようにそれらは私に効くことはない。私は憑き物の類などではないのだから。追い払いたいならば、いっそ素直に刀や槍を持ってきたほうが、はるかに効果があるだろう。……思った所で、翼の矢傷を思い出して気分が沈む。
ともかく、それらが私に何も効果が無い事を思い知った後には、次は一転して「クマノの御使い」扱いされた。無礼を謝罪されて拝まれたまでは気分が良かったが、しかし疲れてうんざりすることに変わりは無い。結局、彼らに解放された後は、寝る以外にはもう何もしたくないような有様だった。
相も変わらず香の匂いにつつまれた、部屋の寝床で眠りについて。その夜私が見た夢は、彼女の歌の、夢だった。
―――願った通りに、昼間と同じ夢を見た。歌い終わって振り返っても、今度は誰にも邪魔されない。其処に座ってこちらを見るのは……
「やっぱり、ただの烏じゃなかったのね」
言って私はくすりと笑う。驚き顔でこちらを見るのは、黒い翼を生やした麗人。銀の御髪に赤い瞳が良く映える。
「これは夢よ。あなたの言ったその烏が、私である証拠は何処にも無い。」
薄く笑みながら彼女は言う。しかし私は、この姿に見覚えが合って、だから彼女を烏と呼んだのだ。
「先ほど憑かれていたときに、あなたの姿を見かけたわ。 烏の姿が一瞬ぶれて、あなたの姿が重ねて見えた」
赤い瞳でしばらくじろりとこちらを見つめ、肩をすくめて烏がつぶやく。
「……まさか、あの状況で周囲が見えているなんてねぇ」「もう、とっくに慣れてしまったわ。憑かれるのなんて」
そう、慣れてしまった。体の痛みも自らの首を締める苦しみも、何もかもがもう遠い感覚。体から追い出されかけた魂は、痛みなどもう感じない。
「そんなに憑き物に好かれているなんてね。あなた、よほど美味しそうなんじゃなぁい?」
言葉を聞いて、烏ははぁっと息をつく。そして言うのは、そんな冗談めかした言葉。けれどもそれは、きっと真実なのだろう。私は、もう疲れてしまったのだ。そんな体と付き合っていくことに。つまり、生きていくことに。
だから私は、烏に向かって言ったのだ。
「そうね。きっと美味しいのよ。だから……」
そこで一旦言葉を切って、私は彼女に向き直る。
「あなたに私の体をあげる」
一体何を言っているのだ。この娘は。困惑する私に向かって、彼女はさらに言い募る。
「あなたも物の怪なんでしょう? それなら、欲しいと思わない? 私の体」
楽しげに、あくまでとても楽しげに、彼女が傍によってくる。柱に背中を預けた私に、圧し掛かるように身を寄せて、下から私を見上げてくる。少し気圧され憮然としながら、私は言う。
「何か勘違いしていなぁい? 私は、あの女の霊みたいな憑き物の類じゃないわ」
しかし、彼女はまったく表情を変えることが無く、
「それならいっそ、殺して食べるでも、何でもかまわないわ」
笑いながら言い切った。
まるで、手に持つ菓子でも差し出すような気軽さで、彼女は私に命を差し出しているのだ。何故だか少し苛立ちを覚えて、眉をしかめて彼女を見下ろす。
「私はもう疲れたの。押し込められた暮らしにも。自由にならないこの体にも」
言葉を続ける彼女の笑顔に陰りが見えて、視線が床に落とされた。
「それに、きっともうすぐこの体は他の何かに奪われて、私自身は消えてしまう。 だったら、せめて……渡す相手くらいは選びたいものじゃない?」
再び私を見上げる顔には、何かのタガが外れたような静かな微笑みが浮かんでいる。そのまま、何の音もしないままに、ただ時間が過ぎていく。風に揺れる木々の音すら聞こえないのは、此処が夢の中だから。この、まるで時が止まっているかのような風景の中で、私が出した彼女への答えは……
一月ほどが経ち、射抜かれた翼の痛みもほとんど無くなった。この調子ならばもう十分に飛べるだろう。夕暮れ時、試しとばかりに飛び上がり、屋敷の上を一周してみる。うん、そろそろ大丈夫か。思いつつ、離れから見える松の大枝に降りた所で、声がかけられる。
「そろそろ傷はほぼふさがったんじゃない?」
振りかえると、縁側の手すりにひじと顎を乗せた娘…めぐの姿。少しばかりの期待を込めた楽しげな表情で、私を下から見上げている。「そうね」と、答えたつもりで、クワァ、と烏の声が響く。残念ながら、烏の咽喉では人の言葉は話せない。
「楽しみね」
それをどう受け取ったのか、彼女はそれだけ言って再び口をつぐんだ。
あの日、夢の中での会話からこっち、彼女は毎日私の傷の具合を確認する。まるで、祭の日を指折り数えて待つ子供のように。その楽しげな様子に私は思わず嘆息する。
こんなことなら、変な気を起こすのではなかったな、などといまさらながらに思ったりもする。けれど、約束してしまったのだから仕方が無い。いまさら考えた計画を止めたとしても、彼女の言う通りのことをそのまま叶える気など無いのだから。
松の枝から、彼女が座る縁側の、その手すりへと飛び移る。すると、彼女は私の背中を一撫でしてから、何時ものように歌い始める。最近彼女は良く歌うようになった。琴は出すときは出すし、面倒なときは出さずにそのまま歌う。どういう心境の変化なのかは解らないが、少なくとも、私は彼女の歌が嫌いではない。だから素直に耳を傾ける。
静かに歌が終わる頃には、満月も近い月が早々と昇り、橙は山の際に僅かに残るのみとなった。そろそろかな、と私は思う。
動くなら、次の満月の晩あたり。つまり、明後日。
―――私を変えた、始まりの夜。満月が照らす、明るい夜。数日前、その日は家で宴を開く、と父が言っていた。最近は調子がよいのだから、お前も出なさい、そんな事も言っていた。しかし、私は断った。見栄と体面のために、憑き物憑きの我が子を離れに隔離して、守っている風に世間に見せる父親。このような出来そこないの娘でも可愛がるやさしい男だと世に思わせたいのだろう。しかし私の元に現れる鬼の、ほとんどが父への恨みを吐くのを私は知っている。本当は、もう次の子を、次の丈夫な子を作って帝や他の大臣に、嫁がせたいのを知っている。私に宴に出ろと言うのも、烏のおかげで此処しばらく憑かれていないのを良いことに、他の貴族達に私をお披露目し、あわよくば、高官の目にとまらせようようと言う事だ。そんなのは、嫌に決まっている。あなたの役になど立ちたくない。私はもうすぐ烏に殺されるだろうが、その後はあなたが政略結婚の材料を失って困る所を見て笑おう。ふと気がつくと、烏が隣に座っている。なんとはなしに、頬が緩んだ。苛々を収め、私は静かに歌い始める。祖母に習った古い歌。こんなきれいな月の晩には特に良く合う静かな歌。雲ひとつ無い明るい夜空。その中心で大きく輝く月に向かって、ささげるように歌を歌った。歌の途中で、庭を近づいてくる足音がする。烏がそれに反応し、首をくるりとそちらへ向ける。私もすぐに歌を止めて、そちらの方へと体を向けた。
「若君、お止めください。宴の方へ戻りましょう」「何時までも若君と呼ぶな、巴。もう元服は済ませたのだぞ。 宴などより、こちらの方からきれいな歌声が聞こえたのだ。 きっと、離れで暮らす美人と噂の姫君に違いない」声が聞こえて、姿が現れる。一人は、若君などと言われる割には少し額が広すぎる、太い眉毛の男が一人。そしてもう一人が、巴と呼ばれた、珍しいほどに髪の短い女武士。二人がこちらの姿を見つけた。「おお……なんという可憐な姫君なのだ!」なにやら感動している男を他所に、女の方は、すぐに顔を険しくした。その視線は、私のほう、いや、烏の方に……?思った途端、視界がふうっと暗くなった。見上げれば、黒く大きな翼が広がり月の光を遮っている。「姫君、その化け物から離れて!」叫んだ女の声とともに、砂利を踏んで走る音、カチャリと鳴った鉄の音。それらが近づくその前に、体がふわりと持ち上げられた。白銀の輝きが視界の隅をよぎったと思う一瞬後には、私が居たのは屋根の上。腕の中から見上げると、厄介そうに顔をしかめた人の形の烏の顔。様子を見るに、斬られたわけではなさそうだ。少し安心しながらも、その嫌そうな表情に、思わずくすくす笑ってしまう。「烏、あなた一体何をやらかしたの?」あれだけの剣幕で斬りかかられるのだ。きっと、ここにくるまえにでも、何かすごい騒ぎでも起こしたのではないかと思った。「……残念ながら此処に来てからは何もやってないわぁ。」片ひざ立ちで私を抱えたそのままに、疲れたように烏が答える。それは残念、などと少し思ったのは心の奥に仕舞っておこう。「貴様、何者だ! 姫君をどうするつもりだ!」額の広い男が、女と同じように剣を抜いて怒声を上げる。それを聞いて、烏は少し考えてから、如何にも面倒そうに立ち上がった。「私は東の国の霊峰、狼禅山に住まう天狗、水銀燈!」そこで小さく一呼吸。「柿崎の大臣の姫はもらったわぁ!」下の二人にも十分届くような声でそこまで言い終えると、すぐに彼女の背中の翼が大きく羽ばたいた。周囲に風が吹きすさぶ。そのままあっという間に地面、そして家の屋根が遠ざかっていった。数瞬後には、刀を抜いた二人の姿など、まるで小さな人形のようだった。羽で大きく空を打つ烏は、しばらくの間は一直線に高い場所へと向かっていたが、ある時急に向きを変え、月の昇る方角へと風を切って飛び始める。
徐々に離れていく都。遠くから見れば意外ときれいに見えるもの。その中に居たときは、息苦しさと無常感しか覚えなかったものであるが。けれど離れてみる今は少し、ほんの少しだけ、わくわくとしたこれからへの期待感を、象徴するような物に見えなくも無い。その気持ちは、烏によって連れて行かれる先へのものなのか。それとも純粋な、長年思い描いていた、命の終わりへの近づきに対するものであるのだろうか。私には、残念ながらそのどちらであるかがわからなかった。満月が照らす空の下、私は小さく微笑んで、落ちないようにと改めて彼女の首へと手を回した。やっと都の上を過ぎ、広がる野原を飛び越えて徐々に山へと近づいていく。西から流れる夜風は少々冷たく感じるけれど、おかげで飛ぶのは随分楽だ。ここまで来れば、地面を進んでくる限り、中々追っては来れないだろう。これでやっとこ一安心、と言った所。それにしても、と考える。よもやいまさらあの女武者と鉢合わせする事になろうとは。これが他の武士であったり、あの一緒にいた男一人だけであったのならば、飼い烏だと誤魔化せただろう。それ以前に、姫君の傍に居る烏などには目もくれなかった可能性もある。しかし、あの女武者の目だけはどうにも誤魔化せないようだった。
考えてみれば、あいつに邪魔をされるのもこれで通算二回目か。本当なら、朝になったらどこにも居ない、神隠しにでも見せるつもりだったというのに。こんなに堂々さらって逃げたというのでは、追っ手がかかってしまいかねない。名乗りをあげたことについても、「都で目立って天狗の名を広めろ!」という命令をいまさらながら思い出して咄嗟にやったのものであり……正直、今は少し後悔している。そんなせんない事を取りとめも無く考えていると、今まで大人しく腕の中に収まっていた彼女が、不意に話し掛けてきた。「あなた、水銀燈って言う名前なのね」一体何を言うかと思えば、いまさらと言えばいまさらの話。「そうよぉ。あなたがあんまり烏烏呼ぶものだから、訂正も面倒で言っていなかったけどねぇ」なので視線も合わせずにそう答える。すると、彼女は何が面白いのかまたくすくすと笑った。「仕方が無いわ。ずっと烏の姿だったんだもの。なら、これからは、水銀燈って呼ぶわ」そして、そのままこんな事を言う。「後少しの間かもしれないけどね」いや、確かに体を受け取る事は、約束したかもしれないけれど。今の所は彼女を殺して食べたりするような気持ちは、一応まったく無いつもり。なので、適当にはぐらかしつつ話題変更を試みる。
「どうかしらねぇ……とりあえず、今から向かうのは知り合いの所よぉ。」「知り合い? やっぱり烏なの?それとも別の鳥?」私の知り合いと聞いて、少し興味を惹かれてくれたらしい。楽しげな顔で聞いてくる。「残念。にょろにょろ長ぁいちょっと豪華な蛇の親分みたいな生き物よ」「へぇ。それは面白そうね。一体どんな顔なのか見てみたいわ」言いながら楽しげに笑うめぐ。案外普通に笑えるのだな、などといらない所で感心した。「それは重畳。案外と面白い顔よぉ? 怒らせたらだけど」「そう。それは楽しみね。都合よく怒ってくれるかな?」「大丈夫。私が顔を見せただけで怒らせる自信があるわぁ」「ああ、それなら大丈夫ね。どのくらいかかるの?」「まあ、この追い風なら、着くまでそんなにかからないんじゃない」緊張感に欠けた雑談が、秋の冷たい夜空に響く。朝日が昇ってくる頃位に、着けるといいなと速度を上げた。目指しているのは山奥の、小さな村の、小さな神社。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。