第七十二話 JUMと八人の妹
「一つ屋根の下 第七十二話 JUMと八人の妹」
ピピピピピと時計のアラームが鳴り響く。その音に起こされるように体と脳が覚醒していく。カーテンから光が漏れてるのも感じる。朝……だ。まだまだ眠い。そういえば、昨日の夜は明日、つまり今日の晩御飯のオカズ争奪戦で遅くまでゲームやってたんだったな。まったく、だから桃鉄はやめようって言ったのに。バタバタと足音が聞こえ、ドアをバンバンたたかれる。誰か起こしに来たんだろう。バタン!!とドアが開かれる。と、ほぼ同時に僕のお腹に何かが乗ったのを感じた。「ごぶっ!!?」僕は思わずそんな声をあげる。こんな起し方は一人しかいない。ヒナ姉ちゃんだ。ヒナ姉ちゃん……だと思ってたんだが……「朝なのぉ!!起きるのよ~、JUMにい~!!」「ふあ……起きたよ…起きてるって、ヒナ姉ちゃん……」ん?僕今何て呼ばれた?何か違和感感じたけど、まぁいいか。僕はムクリと体を起こす。すると、ヒナ姉ちゃんが不思議そうに目を丸くして僕を見ていた。「?どうしたの?ヒナ姉ちゃん……」「うよ?JUMにいお寝惚けなの。ヒナはJUMにいの妹なのに。ヒナ姉ちゃんなんて変なのぉ~。」ああ、そっか。僕が兄ならそれはおかしいな。違和感は僕が兄って呼ばれた事か。OKOK、自己解決。「って!!僕が兄ぃいいいいい!!??」ちょっと待て。僕が何時兄になったんだ?ええと、頭の整理。僕は桜田JUM。5歳のときにローゼン家に薔薇姉ちゃんと一緒に養子に貰われて、長男ではあるけれど姉弟では末っ子のはず。「え、ちょ、ま……僕がヒナ姉ちゃんのなんだって?」「う~、だからヒナはJUMにいの妹なの。JUMにいは、この家の長男なのよ?」ヒナ姉ちゃんは当然のように言う。ちょっと待て、何だこれは?「雛苺?何時まで手間取ってるのぉ?」ネグリジェ姿の銀姉ちゃんが現れる。少し足元がフラフラしてるのを見ると、寝起きなんだろう。「はっは~ん、分かったぞ。これ、銀姉ちゃんの悪戯か何か……」「ふぁ……えへ~、おはようお兄ちゃん♪」が、その肝心の銀姉ちゃんはバッと僕に飛び掛ってきたのだ。急な出来事だったせいか、僕はそのまま後ろ。つまりベッドにボフッと倒れた。
「ちょ、ちょっと銀ねえちゃ……」「ね、お兄ちゃん。水銀燈はもうすっかり大人よぉ。ほら、胸も……ねぇ?」銀姉ちゃんは僕の手をつかみ、自分の胸を揉ませる。不可抗力ね、間違いなく。さて、こんな意味不明な状況だが安心したことがある。やっぱり銀姉ちゃんは銀姉ちゃんって事だね。「わー!わ!分かったから!ヒナ姉ちゃんも銀姉ちゃんを止めて!!」「う~……水銀燈~。さっきからJUMにいが変なのよぉ。ヒナをお姉ちゃんって。」「そういえば、私の事も銀姉ちゃんなんて呼んじゃってぇ。お兄ちゃん姉萌えだったのぉ?でも、ごめんなさぁい。これだけはどうしようもないのよぉ。ねぇ、いつもみたいに銀って呼んでぇ?」ゴロゴロと猫のように甘える腕の中の銀姉ちゃん。何時もならここらで、ドッキリ看板あたり出てきそうだけど、今回はそんな気配がまるでない。そう、まるで夢の世界か、平行世界にでも来てしまったかのように。「と、とりあえずさ。学校あるでしょ?ヒナ姉ちゃんも銀姉ちゃんもリビングに……」「だからぁ、お兄ちゃんは我が家の長男なのよぉ?一番上なのよぉ?」「えーあー、じゃあヒナも銀も朝御飯に行こう?な?」僕がそう言うと、ようやく二人は納得してくれたようだった。二人に両腕をしがみつかれながらリビングへ行く。「ね、お兄ちゃん。今日の一時間目一緒にやりましょぉねぇ?」「一時間目……って何だっけ?」一緒に?てことは、僕は銀姉ちゃんと同じクラスなのか?3年生か?「美術よぉ。今日は人物画でしょぉ?お兄ちゃんが書きたいなら、水銀燈制服も脱いじゃうわよぉ?」「あー、ヒナも美術の授業受けたいのぉ。美術は週に2時間しかないから、ヒナつまらないの。」よかった、とりあえず一時間目は頭は使わないで済むらしい。もっとも、二時間目以降は分からないが……
「おせえですよぉ、おにぃ!!さっさと手伝えですぅ!!」リビングに入ると翠姉ちゃんの怒鳴り声が聞こえてきた。「おはよう、兄さん。水銀燈。雛苺。ちょっと手伝って貰えるかな?」そして、蒼姉ちゃんも朝ご飯の準備をしてる。とても見慣れた光景だ。そう、二人が僕を兄と呼ぶ以外は。「あー、うん。手伝うよ。翠姉ちゃん。蒼姉ちゃん。」僕がお皿に手をかけようとすると、二人は不思議そうに僕を見る。やばい、癖だな。ええっと、このパターンから察すると二人の呼び方は……「へ、へぇ。今日は翠特製のフレンチトーストかぁ。蒼は相変わらず和食なんだな。」多分こうだろう。実際その通りだったようで、二人はすぐに笑って作業に戻る。「お兄ちゃんは今日姉萌えなんですってぇ。」銀姉ちゃん、とりあえず黙っててね。そんな事思ってると次女がやってくる。「おはようかしら、皆々様ぁ。今日はフレンチトーストかしら?」カナ姉ちゃんだ。さすが、卵には敏感だ。こう考えると、どうやら僕が兄って事以外は僕の記憶の世界と変わってない気がする。「兄ちゃん、おはようかしらぁ~!」「ん、おはようカナ。今日もテンション高いな。」カナ姉ちゃんからの呼び方は兄ちゃんか。てか、何となくだけど姉ちゃん達はわざわざ、呼び方変えてそうだ。そういう、無駄な競争心あるしね。自分の呼び方こそが一番!とか、考えてるかもしれない。そう思ってると、今度は二人組みが現れる。
「ふあぁぁぁ………おはようですわぁ………」「おはよう……」低血圧なキラ姉ちゃんと、薔薇姉ちゃんの登場だ。寝起きだからか眼帯はつけておらず、お揃いの金色の瞳が美しい。フラフラしながらキラ姉ちゃんは自分の席に座る。「おはよう、キラ。薔薇。」多分こうだろう。今までのパターンからして。もう、某芸人ばりに間違いない!「ふぁ…おはようごじゃあますぅ…おにい様…」「うん…おはよう……兄貴…」ドンピシャのようだ。そんな事思ってると、コトコトと朝食がテーブルに置かれていく。「あれ?薔薇しーはまた、おにいの呼び方変えたですかぁ?」「うん……お兄たまは…萌えてくれなかったから…今は兄貴…」ああ、よかった。薔薇姉ちゃんは薔薇姉ちゃんだ。無駄に安心する。「朝食の準備は出来た様ね。おはよう、みんな。」最後に、マイペース優雅様真紅姉ちゃんが登場する。おろした長い金色の髪が揺れる。「おはよう、真紅。相変わらず遅いんだな。」「ええ、この時間がベストですもの。お兄ちゃん、紅茶を淹れて頂戴。」あれ、兄も顎で使うんですか真紅姉ちゃん?しかも、呼び方かぶってない?「ちょっとぉ!いい加減真紅はお兄ちゃんの呼び方変えなさいよぉ!水銀燈がずっと使ってるじゃなぁい。」「いやよ。私はこれがいいの。気になるなら貴方が変えなさい?」真紅姉ちゃんと銀姉ちゃんの軽い口論が始まる。僕が姉ちゃん達の兄。それ以外は何も変わらない日常。果たしてこれは、夢か。或いは幻か。ただ、ひとつだけ言える事。それは……僕が兄だろうが、弟だろうが。僕はこの八人と一つ屋根の下で住むことだけは変わらない事柄らしい。END
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