『 秋の夜長の酔っ払い(×2) 』
「そこに。」
随分と涼しくなって来た秋の夜空には大輪の月地には銀杏の木
でも、彼女蒼星石はそのどちらでも無く自分と僕の間何も無い空間を指差し言った
「愛はあるかい?」
『 秋の夜長の酔っ払い(×2) 』「はあ。」溜め息なのか呆れた声なのか分からない声を上げつつ蒼星石を見る。「そこに愛はあるかい?」相変わらず僕と自分の間を指差し僕を見ている。その顔には若干赤みが掛かっており普段に比べ表情に少し締りがない気がする。ああ、そう言えば今日飲んだワインの中にロゼもあったな。などと思考を先程まで参加していた飲み会に飛ばしてみたりするも……。
「JUN君!」
あえなく失敗。「酔ってるだろ?お前。」蒼星石はそれほど酒に弱いという訳では無い。決して、大酒飲みだとかザルという事は無いが普通に飲める方ではある。それに今日は別に二人とも然程飲んだつもりは無い。「……そうだよ。酔ってるよ。僕。」不意に真剣な顔になり、僕の眼を真っ直ぐに見つめる蒼星石。「酔ってるから不安になる。酔ってるから聞きたくなる。僕は君が凄く好き。誰よりも。JUN君、君の事が好き。好きで好きで仕方ないから不安になる。好きで好きで仕方ないから疑ってしまう。好きで好きで仕方ないから聞きたくなる。ねえ?JUN君。『そこ』に愛はあるかい?」彼女は捲し立てる様に言うと再び自分と僕の間を指差した。それに対して僕が言えることは……。
「なあ、蒼星石。」僕も蒼星石と同じ場所を指差して言う。「僕も君の事が好きだ。誰よりも好きだ。でも『そこ』に。僕と蒼星石の間に愛が有るかは分からない。だってもしかしたら僕の愛は君と違う方を向いてるかも知れない。君が僕を愛していてくれても、もしかしたら僕には届いてないかも知れない。だから、『そこ』に、僕と蒼星石の間に愛が有るかは分からない。」僕の言葉を聞き俯いてしまう蒼星石。そんな彼女を僕は引っ張り少し強引に抱きしめる。「でも、間にあるかは分からないけど、こうやってくっ付いてる僕と蒼星石にはきっと愛が有ると思うんだ。」さっきよりも少し強く抱きしめる。すると僕の腕の中で抱き締められるだけだった蒼星石が僕の背中に手を回してきた。
「ねえ、JUN君。」「ん?」「ごめんね。変な事聞いて。」「別にいいよ。」「ごめんね。僕、酔っちゃたみたいなんだ。」「うん。」「だから、普段、聞けない様な事聞いちゃったんだ。ごめんね。」「良いよ。別に。」「うん。ごめんね。」「別に良いって。それにな、僕も酔ってるんだ。」「うん。」「でないと、あんな恥ずかしい事言えないよ。」「うん。」
僕は蒼星石の髪を撫でながら、通り抜ける風とサラサラと音を発てるススキに秋の夜を感じていた。
了
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