第四十六話 JUMとお化け屋敷
「一つ屋根の下 第四十六話 JUMとお化け屋敷」
「ふぅ……さすがに一般公開してるだけあって、凄い人ね。」僕は真紅姉ちゃんと手を繋ぎながら校内を歩いていた。そう、確かに人が多い。まぁ、逆に言えばこれが高校の文化祭の醍醐味なんだろうケドね。ある意味、出会いの場所とか言うけど僕には全く関係なさそうだ。「なぁなぁ、あの金髪の子ってアリス候補の子じゃないか?」「だな。やっぱり候補なだけあって、綺麗な子だよなぁ。あ、でも胸が少し(ry」ひそひそと声が聞こえてくる。胸が(ryは真紅姉ちゃんには幸いにも聞こえてないようだ。或いは、すでにフィルターでもかかってるんかな。「評判いいな、真紅姉ちゃん。」「そうね…JUM、光栄に思いなさい。そんな私と手を繋いで校内を歩けるのだから。」少しだけ珍しく得意気に真紅姉ちゃんが言う。「はいはい……せいぜい一緒に歩かせて貰いますよ、お姫様。」「あら、卑屈ね。貴方は充分魅力的な男性よ?そこらの格好だけの男よりもね。私はちゃんと知ってるのだわ。」真紅姉ちゃんが言う。僕は何だか照れくさくなって、でも嬉しくて少しだけ真紅姉ちゃんの手を強く握った。「あら、真紅ちゃんにJUM君じゃない。」特別教室棟を歩いていると、ふと声がかかった。めぐ先輩だ。「こんにちは、めぐ先輩。店番ですか?」「うん、水銀燈もいるよ。どうかな?よかったら入っていかない?お化け屋敷。」お化け屋敷と聞いて、僕の手に感じる力が強くなったのを感じる。ああ、そういえば真紅姉ちゃん怖がりだったな。「こ、こ、こ、子供だましなのだわ。JUM、他の場所に…」「あらぁ?真紅ったら怖いのぉ?高校生にもなってお化け屋敷がぁ~。」真紅姉ちゃんは心底退散したかったようだが、そこにお化けよりもある意味怖い悪魔がやってくる。「そ、そんな訳ないのだわ!いいわ、入ってあげるのだわ。」そして、ムキになる真紅姉ちゃん。普段から翠姉ちゃんに「貴方は短気すぎるのだわ。」とか言ってるけど、姉ちゃんもあんまり人の事言えないよね。
JUM君と真紅ちゃんをお化け屋敷の中に誘導する。お客さん待ちが少しあるね。私は、少しだけ待っててねと言うと中でスタンバイする。すると、水銀燈が企み顔でやってきた。「ねぇ、めぐぅ。真紅とJUMの時にさぁ、とっておきでいきましょうよぉ~。」とっておきってのは、余りに演出がヤバクて没になった案の事。一応、肝っ玉が強そうな人にお勧めしてるけど、真紅ちゃん大丈夫かな?何か、お化け屋敷苦手そうだったけど……「いいのよぉ~。せっかく私がJUMと歩きたかったのにぃ……まぁ、店番だから無理だけど。とにかく、真紅をびびらせるのよぉ。そうねぇ……失禁するくらい!」「水銀燈、それはさすがにやりすぎじゃないかなぁ?」私は熱くなってる友人を諌める。悪い子じゃないんだけど、たまに行き過ぎるんだよね。「そぉ?じゃあねぇ……お漏らしするくらいにしましょうかぁ。」「それ、言い方違うだけで意味は一緒だよ。」私はヤレヤレと溜息をつく。それと同時に、少しだけ私の中のSッ気が笑った。「ね、水銀燈。真紅ちゃんにヤキモチ妬いてるんでしょ?」水銀燈が少しだけビクッとする。やった、ビンゴだ。「わ、私が真紅なんかに妬くわけないでしょぉ?早く準備するわよおばかさぁん……」水銀燈はイソイソと中に入って準備をする。ああん、もう可愛いんだからぁ~。あ、JUM君と真紅ちゃんの番だね。ふふっ、真紅ちゃんたら腕を掴んじゃって。益々水銀燈がヤキモチ妬きそうだなぁ。そんな水銀燈を見るのもちょっと楽しみかも♪さっ、私も準備しようっと~。ええっと、とっておきだから私は白装束にトマトジュース……っと。
「い、い、い、いい事JUM!?私とはぐれたら承知しないのだわ。」お化け屋敷の中は真っ暗だった。怪しげな効果音と、微かな提灯なのか火の玉なのか。その光だけを頼りに僕たちは進んでいく。真紅姉ちゃんはガッチリと僕の腕をホールドしている。『ううううぅぅぅぅううう……はぁあああああぁぁぁぁぁ……』効果音なのか、うめき声のような低音が聞こえる。その声が聞こえるたびに僕の腕がビクッと震えるのが分かる。本当、怖がりだよなぁ。暗いだけで真紅姉ちゃんは怖いって以前言ってたもんな。ギャップって言うのかな?普段の優雅さと気品を持った真紅姉ちゃんとは全く違う真紅姉ちゃんは何だか物凄く可愛く感じた。ふと、『カンカンカンカンカン………ゴオオオオオオオオ』と踏み切りの音がする。何だ?電車か?そう思ってると『みぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!』と女の人の叫び声が響く。「きゃっ!?」真紅姉ちゃんが体を震わせる。うん、今のは僕もびびった。そして、びちゃっ。びちゃっと何かを引きずるような音と共に、女の人が出てきた。白銀の長い髪。銀姉ちゃんか?だが……胴体部がすっぽりと抜けていた。「しぃんくぅ……JUMぅ……お姉ちゃん……胴体なくなっちゃった……ちょうだぁい……ちょうだぁい……」銀姉ちゃんが顔を上げると、顔に血糊だろうが血がついている。深紅の眼と相余って怖すぎる。「いやああああああああああ!!!水銀燈がジャンクにぃいいいいいい!!!!」真紅姉ちゃんが甲高い声で叫び声をあげる。ジャンクって言いすぎ。てか、普通に考えて銀姉ちゃんが本当に胴体真っ二つなわけないんだが、真紅姉ちゃんはすでに冷静な思考回路を失っていた。「ねぇ、真紅のお腹……ちょうだぁい…貧乳でも我慢するからちょうだぁい……」さっきまで立っていた銀姉ちゃんが前のめりになるように倒れると、こっちに向かってホフク前進で近づいてくる。ああ、まるでアニメ第一期のラストシーンみたいだ……「て、てけ、てけ、テケテケーーーーーー!!!!」真紅姉ちゃんは意味不明な叫び声を上げると、僕の腕を引いて一気に走り出した。「ちょ、ちょっと真紅姉ちゃん!?」後ろからは銀姉ちゃんの声が聞こえる。よくみれば、足も一緒についてくる時点でおかしいと思おうよ……多分、お腹の部分にだけ真っ黒の布でも巻いてたんだろ。こんだけ暗ければ、迷彩効果バッチリだ。
「はぁはぁ………た、大したことなかったのだわ…だから一刻も早く出ましょうJUM。」真紅姉ちゃん……強がるのはいいけど、明らかに一杯一杯ですよ?でもまぁ、さすがに真紅姉ちゃんは軽く涙目だ。火の玉の光が真紅姉ちゃんの顔に当たるとよく分かる。早く出よう。そう思ったが……そう簡単には通してくれそうになかった。白装束の黒髪の女性が後ろ向きで立っていた。「J、J、JUM…無視して行くのだわ。どうせろくな事が……」「酷いなぁ、真紅ちゃん。」その白装束はめぐ先輩だった。めぐ先輩はいいんだけど、何だか顔色がもの凄く青白い。「め、めぐ先輩?」「ねぇ……私ね……血が足りないの……人の血を飲んでも飲んでも…だから…ゴフォゲブファヘブシ!!」めぐ先輩が口から血のような赤い液体をゴボゴボと吐き出す。先輩、女の子なんだからさ……「だから……貴方の血を頂戴!!」口の周りが赤い液体で赤く染まり、白装束も真っ赤に染まってる。うあ、本当の血みたいだ。目を見開き、狂気に滲んだ顔をしためぐ先輩はマジで怖かった。「きゃあああああああああああああああ!!!!!」真紅姉ちゃんが再び叫び声をあげる。そして、急に走り出す。「ちょ、ちょっと真紅姉ちゃん!?」僕は余りに急だったので、腕のホールドを外してしまう。すると、真紅姉ちゃんは一人で走り去ってしまう。「ああ、もう!真紅姉ちゃんたら……って!?」僕の首に後ろから腕が回される。見れば満面の笑みの銀姉ちゃんと、めぐ先輩がいた。「はぁい、JUMも一緒に楽しみましょう~?この真っ黒の布を被って真紅ウォッチング開始よぉ♪あ、拒否ってもいいけど、その時は暗闇に紛れてJUMに襲われたって言うわよぉ?」ああ、神様。世の中にはお化けよりも怖い人間がいるんですね。僕らは、真っ黒の布をまとって真紅姉ちゃんの後を追っていった。
「JUM…JUM……?どこなの?JUM……」真紅姉ちゃんは少し先にいた。きょろきょろと不安そうに周りを見ている。「ふふっ……まずはうめき声よねぇ……エイっと。」銀姉ちゃんが小型の音源のスイッチを入れる。すると、うめき声がながれてきた。「きゃっ!?JUM……どこなの?お願い…JUM…来て…JUM!!」真紅姉ちゃんの声が若干泣き声だ。しかし、銀姉ちゃんは止まらない。「次はぁ~……水鉄砲よぉ~。とう!」真紅姉ちゃん目掛けてピュッと水鉄砲を放つ。水は見事に真紅姉ちゃんを濡らした。「いやぁ!?グスッ……JUM…エグッ…お願いよ…一人にしないで…JUM…ウッ…助けてよ…JUM…グスッ…」真紅姉ちゃんはペタンとその場に座り込み……そして、遂に泣き出してしまった。「……もういいだろ、銀姉ちゃん。僕行くから。」僕が布を取り、真紅姉ちゃんに向かっていこうとする。「……まぁ、今回はやり過ぎちゃったわね…ごめんね、JUM。」珍しくシュンとする銀姉ちゃん。普段からコレくらい素直ならいいんだけど。「僕はいいから、真紅姉ちゃんに言っておきなよ。じゃあ、行くから。」僕は真紅姉ちゃんの下へ向かった。「真紅姉ちゃん!!」「ぐすっ……JUM…?……お、遅いのだわ!何をやっていたの!主人の護衛もしないで…使えない下僕ね!」真紅姉ちゃんは目をゴシゴシ擦ると、怒った様に言った。さっきまでの涙はどこへ?「ほら……出口まで抱っこなさい。罰なのだわ。」「はいはい……ごねんね、真紅姉ちゃん。」僕は真紅姉ちゃんをお姫様抱っこする。真紅姉ちゃんがギュッと僕に体を預ける。ははぁ、まだ怖いんだ。「でも……でも、来てくれて有難う……JUM……大好き…」小さな声で真紅姉ちゃんがそう言う。そして……僕の唇に温かい感触が触れた。
「ふふっ、大失敗だね水銀燈。ほら、キスしちゃったよ?」私はニヤニヤしながら水銀燈に言う。どうやら、今回のは真紅ちゃんを苛める所か、見事なアシストをしてしまった感じだ。まぁ、ある意味自業自得だよね?「べ、べっつにぃ~。私は気にしてないわぁ~…」ふふっ、強がっちゃって可愛い~。どれどれ、少し遊んでみようかな。「あ、JUM君からキスした。長いなぁ~……きっと舌入れてるんだよ。あ、暗闇だからってそんな事!?」「!?ちょ、ちょっと待ちなさぁい!!……あれ?」「えへへ~、う・そ♪も~、水銀燈ったら素直じゃないんだからぁ~。かぁわいい~。」水銀燈は私に騙された事を知ると、顔を真っ赤にして言う。「うぅ……お、おばかさぁぁぁん!!」脱兎の如く逃げ出す水銀燈。これだから水銀燈で遊ぶのはやめられない。あ、まだ店番の時間だから遠く言ったらダメだよ?
「あ、真紅とJUMなの~!」お化け屋敷から出ると、ヒナ姉ちゃんと柏葉に出会った。「およ?真紅の目が真っ赤なの……お化け屋敷から出てきて目が真っ赤……」真紅姉ちゃんがビクッとする。そして、鬼気迫る顔でヒナ姉ちゃんの肩を掴んで言った。「いい事、雛苺。コレはね、翠星石と蒼星石の目を借りたの。」「うよえー!?じゃ、じゃあ翠星石と蒼星石の目は……?」「今は緑と青のオッドアイなのだわ。それじゃあ、返しに行って来るわ。いい?絶対に他の姉妹に言ってはダメよ。」真紅姉ちゃんはしっかりと念を押してダッシュで2年生の教室棟に向かう。多分、きつ~~~く口止めしに行くんだろうなぁ。「うい……真紅凄いの…翠星石と蒼星石もすごいのぉ~……」ヒナ姉ちゃんはしきりに感心してる。馬鹿と無邪気は紙一重…か。「ふふっ……そうだ、桜田君。よかったら一緒に回らない?」「そうなの!JUM、ヒナとトモエと一緒に回ろうなのよ~!」ヒナ姉ちゃんが僕の手をギュッと握る。まぁ、一人よりはいいかな。さて、どこに行こうか…END
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