翠なす黒髪
J「あー、黒髪分がたりないぞよー!」読み終えた単行本を本棚に戻したところで小さく叫んだ。そういえば久しく黒髪ロングの女の子見てないな。真紅の金色にたなびく艶やかな髪も翠星石の流れるようにサラサラとした亜麻色の髪も水銀燈の妖しく神秘的に輝く銀髪もそれぞれに良さはあるんだけど僕はやっぱり日本人だな。日本人なら黒髪だ。黒い髪が大好きです。ベッドでごろごろ転がっているところに雛苺がやってきた。雛「JUM、一緒に遊ぶの。」J「ん、雛苺か・・・そうだ!柏葉のとこに行くか?」雛「巴?うん、遊びに行くの!」柏葉はショートだけど美しい黒髪だからな。それにショートにはショートの良さがある。ちょっと黒髪分をチャージしに行こう。雛「JUM、うにゅ~買っていくの。」J「ああ。」雛「JUM、疲れたから肩車してほしいの。」J「ああ。」雛「JUM、しりとりしながら行くの。」J「ああ。」普段はこういった子供子供した雛苺の言動にイラッとさせられることもあるが今日は不思議と気にならない。
それほど柏葉に会いに行くのが楽しみでならなかった。
雛「トゥモエー!遊びにきたのー。」巴「いらっしゃい雛苺、桜田君。さ、上がって。」J「・・・。」雛苺と一緒に苺大福を買って柏葉宅を訪ねると何故か柏葉は浴衣姿。不意を突かれたお出迎えに押し黙ってしまった。巴「どうしたの?」J「・・・あ、いや、なんで浴衣なのかなって。」巴「天気が良いから一度干しておこうかと出したんだけど。 サイズを見ておこうかと思って。雛苺の浴衣もあるのよ。」雛「ホント?浴衣着てみたいの。」柏葉は雛苺を伴って隣の部屋へと入っていった。柏葉のショートが見られるだけでも良かったが+和服とは思わぬ収穫。今日は存分にチャージできそうだ。などと考えている間に着替え終えた雛苺が飛び込んできた。雛「どうJUM、似合う~?」白地に赤の花柄でかわいらしい雛苺にはぴったりなんだが浴衣の帯で胸が強調されてしまい、そこだけなんともいえない違和感が漂う。J「え、ああ、似合ってるよ。」雛「えへへ、ありあと。」巴「私はどうかな?」柏葉はなぜか先程のものとは違う、薄紫の浴衣を纏っていた。なぜ着替えてきたのかよく分からないが柏葉の雰囲気によく合っていた。J「ああ、柏葉もよく似合ってる。きれいだ。」巴「そう、ありがと。」雛「うー、JUMだけ浴衣じゃないの。」J「持ってきてないからな。」巴「・・・そうね、父の若い頃の浴衣があるから着てみたら?」J「いいよ、別に。」雛「JUMも着るの!」しつこく迫る雛苺に負けてしまい仕方なく着替えることにした。浴衣なんて旅館くらいでしか着たことがないな。ま、部屋で着るだけだし細かい点は後で柏葉に直してもらえばいいか。浴衣を羽織り帯で留めたところで柏葉を呼んだ。J「どうだ、着れてるか?」巴「ホントはもっと色々あるけど今日は形だけ整えておくね。」J「すまない。ところで柏葉の脇のとこなんだけど破れてる?」巴「ううん、女性の浴衣はもともとこうなってるの。桜田君にはないでしょ?」J「ほんとだ。僕のにはない。」巴「これはね『身八つ口』っていうのよ。」J「へー。」巴「どうしてこうなってるかわかる?」J「そうだな。帯の違いから動きやすさを重視してのことじゃないのか? あ、あと風が通るから涼しいってのもあるかなぁ。」巴「一応着るときに形を整えるのに使うんだけどね。 あと、あまりはっきりとはしてないけどこういう説もあるの。」そういうと柏葉はそっと僕の右手を取りそこに導き入れた。J「え、あ・・・、柏葉?」巴「ね、わかった?」もう片方の手も取られ柏葉の帯にかけられた。帯を解けとでもいうのだろうか?1本でも解くと、そのまま左右に割れて、柏葉の生まれたままの姿が表れてくるような期待を抱く。触れなば落ちんといった風情。美しさと気品の中に潜む妖しさ。そこに気付いた僕は完全に和服に魅了されてしまった。雛「JUM遅いの!早くするの!」巴「あ、雛苺が呼んでる。」雛苺の呼びかけに反応して柏葉は抱きとめようとした僕の腕から抜け出した。名残惜しそうに見つめる僕の視線を感じたのだろう。柏葉は襖に手を掛けたところで振り返った。巴「・・・つづきはまた今度ね。」桜色に頬を染め、はにかむように微笑みながらそういうと雛苺の待つ部屋に戻っていった。終わる
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