第三話 やくそく
メグ:そこで呪いをかけられた女の子の前に天使が現れてましたいまメグが読んでいるのは絵本その表情はとても穏やかでどこか幸せそうですメグの隣では水銀燈が微笑んでメグと一緒に絵本を読んでいますいつもとは違う二人の距離時計の長い針がいまから半周ほど前のお話になります銀:こんにちは、…メグ?その日はいつものように水銀燈がとびらを開けても返事が返ってきませんでした一瞬だけ水銀燈は不安になりますメグはまるで元気な女の子のようだけど本当は心臓に重い病気を抱えた女の子だということを知っているからですでも、すぐに自分の勘違いだと分かりホッと息を吐きます銀:お昼ね…してたんだねすぅすぅと心地よさそうに寝息を立てて眠っていますメグ:う…んnn、すい…ぎ…とう水銀燈は起こしてしまったのかと思いましたしかしどうやら寝言のようです普段メグが自分のことを嫌っているんじゃないかと不安な水銀燈はたとえ寝言でも自分の名前を呼ばれることに嬉しさを感じましたメグ:うぅ…ん…あ、来てたの目を覚ましたメグは目の前に嬉しそうにしている水銀燈がいることに驚きましたメグ:来たなら起こせばよかったじゃないメグは言います銀:ごめんね、でも寝顔が幸せそうだったからくすくすと笑っている水銀燈にはてなマークを浮かべるメグそして水銀燈の手元、さらにいうなら手の上に抱かれている1冊の本に目が向きましたメグ:きょうは何を持ってきたのメグが尋ねると水銀燈は笑いながら銀:絵本を持ってきたんだ、わたしの大好きな絵本だからメグにも読んでほしくて持ってきたのメグはふ~んと答えるだけで余り興味はないようです一方の水銀燈はにこにこしながらメグに絵本を差し出していますメグ:そういうの興味ないの、だって所詮はつくり話でしょしかし水銀燈は夢があって素敵なの、と少しだけ抗議しますがメグに遮られますメグ:それに最後には主人公は幸せになるようにできてるんでしょ、現実はそんなことないのに、私みたいなのは誰も助けてくれずにすぐに死んじゃうのにね部屋の中が静かになります少しだけの沈黙の後水銀燈がぽつりと話し始めます銀:そんなことないよ、きっとメグは大丈夫だよ この絵本読むと元気が出るのだからメグも読んで元気になろうよ、そうすればきっと大丈夫だからすぐに死んじゃうなんて…ぜったい…ぜったいないからメグ:だって本当のことよパパやママはお見舞いにだって来ないお医者さんはまともに治療しようともしない、点滴でぎりぎり生かされてるだけもう諦められたの、私が死んで悲しむ人なんて誰もいないの銀:ないよ…突然の大声にメグは驚きます水銀燈の瞳には大粒の涙がぽろぽろと流れ落ちています銀:悲しむ人がいないなんて…そんなことないよ…わたしが…グス…わたしが悲しむもんメグが死んじゃったら…ひっく、わたしが泣いちゃうもん水銀燈は声をあげて泣いていますいつも笑顔で控えめな水銀燈がこんなに感情を出してわめくのは出会ってから初めてのことですメグ:そんな…どうしてメグは驚きましたなんで水銀燈は泣いているんだろう自分がすぐに死んじゃうのはホントのことなのに自分が死ぬのは全然怖いことでも悲しいことでもないのにメグ:どうして泣いちゃうのよ、私は死ぬことなんか怖くないわむしろ死ぬことはとても魅力的に感じるのそれに私が死ぬのとあなたにはなにも関係ないでしょけれど水銀燈は泣きながら呟きます銀:関係なくないよ…だって…友達だもんと・も・だ・ちメグにとってこの言葉は生まれて初めてかけられたことばですメグには友達がどういうものか分かりませんずっとずっと一人だったからメグは友達の本当の意味を知らなかったのですメグ:わ、私は…あなたとはお見舞いのついでに話しているだけで一緒に遊んだり、おでかけしたり、何かをしたことなんてないのに…その言葉に水銀燈は泣きながら、それでもメグのために笑顔を作り答えます銀:違うよ、何かをしたかどうかなんて関係ないよ二人でおんなじ時間を過ごして離れたくないって思うこと、お互いがお互いを好きって思うことそれが友達だよだから、わたしは友達と思っているよメグのこと…好きだからずっと、一緒にいたい…もしメグに嫌われてたら…メグに好きになってもらいたいの…素直な気持ずっとずっと言えなかった気持ち自分はメグに嫌われてるんじゃないかって怖かったメグの気持を聞くのが怖かっただから今まで言葉にできなかった友達という言葉メグ:すい…ぎんとう…メグの大きな瞳からそれに負けないくらいの大粒の涙が流れています感情をほとんど出さないメグが見せた初めての感情泣きじゃくりながら声を出しますメグ:私も…私も水銀燈とずっと一緒にいたい怖かった、お見舞いに来なくなったらどうしようっていつも素直になれなくて水銀燈に嫌われてるかと思ってた水銀燈のこともっと好きになったら死ぬのが怖くなるから…だから…ぎゅっと水銀燈はメグを抱きしめます銀:大丈夫だよ、メグ ずっと一緒だよメグも水銀燈に手を回して抱きしめますぜったいに話さないようにぎゅっと抱きしめます温かい久しぶりに人の温かさに包まれたメグは瞳を閉じて今まで手に入るはずだった分をいっぱい手に入れますどのくらいの時間が経ったでしょうか口を開いたのはメグですメグ:絵本、読もうか水銀燈はメグに読んでほしい、と伝えるとメグは笑顔で良いよ、と答えましたメグ:こうして女の子は助かることができました、めでたしめでたし、お終い読み終えて水銀燈の方を見るとまたも泣いていますメグ:やっぱり想像してたとおりに終わるのねそんなメグも少しだけ涙声ですそして水銀燈は頬を膨らませてメグに夢がないよ、と反抗しますそんな水銀燈の反応が可笑しくて愛しくてメグはクスクスと笑うのですメグ:ふふ、ごめんねそして水銀燈は思い出したように話します銀:ねぇメグ、覚えてるかな?明後日は私達が初めて出会った日なんだよメグは上を向きながらそうだっけ、などと惚けています銀:そんなぁひどいよ、大切な日だから忘れないでほしかったのに…本当にショックを受けて表情を曇らせる水銀燈そんな水銀燈を見てメグはある提案を思いつきますメグ:じゃあ明後日はお祝いしようか、1周年記念っていうのかな?その一言で水銀燈の顔がパアッと明るくなります銀:うん!一緒にお祝いしようね、今年もメグと一緒に雪が見られるといいなメグは雪が好きじゃありません雪は全てをただの白に変えてしまうから昔は景色が白くなるのが嫌だったけど今は、水銀燈といるおかげで雪の白さがとてもキラキラしたまるで神様がくれたプレゼントのようなものに感じられそうな予感がしてとても楽しみですでもメグ:うん、約束だよこの約束は守ることができませんでしたその夜、メグは体調が悪化して運ばれますそして集中治療室のランプが点きました
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