下僕と幼馴染み
真紅 「ジュン、紅茶を入れて頂戴」ジュン「ティーセットまで持ってきて……何でわざわざ学校で飲もうとするかなぁ」真紅 「ほら早く。休み時間が終わってしまうわよ?」水銀燈「真紅ぅ、あんまりジュンをこき使ったら可哀想じゃない。別にあなたの彼氏ってわけじゃないんでしょ?」真紅 「ジュンが私に尽くすのは当たり前じゃない。ジュンは私の大切な……下僕だもの」ジュン 「だから違うっていってんだろ!?仕方ないから面倒見てやってるだけだ!」翠星石「その割にはいつも一緒に居るし……怪しいですぅ」真紅 「しつこいわね。ジュンとは何でもないって言ってるでしょう?」水銀燈「あらそう?じゃあ……わたしもジュン狙いでいっちゃおうかしら」真紅 「――っ!?ちょ、ちょっと人の下僕を誘惑しないで頂戴!」水銀燈「人使いの荒い真紅なんかよりぃ、べたべたに甘えんぼで胸も大きいわたしの方がいいわよねぇ?」真紅 「ジュン!こんな胸の大きいだけの泥棒猫、きっぱり振っておしまいなさい!!」ジュン「そりゃあ……付き合うなら水銀燈の方が楽しそうだけどさ」真紅 「そ、そんな………!?」水銀燈「ほらぁ♪ やっぱり真紅なんかもうお払い箱なのよ!」
ジュン「でも、真紅は一人じゃ何もできないもんなぁ。やっぱり僕が居てやらないと…」真紅 「な、なによそれ……私が子供だっていうのっ?」ジュン「だってそうだろ。一人で街に出るとすぐ迷子になるし、何でもかんでもすぐ人を頼るし…」ジュン「お嬢様ぶってるけど、基本的にぐうたらなだけなんだよなぁ。誰かがお守りしてやらないと」真紅 「お、おだまりなさいっ! ……なによ、下僕の癖に皆の前でレディを馬鹿にして…っ!」真紅 「あなたの力なんか借りなくても、私一人で……っ!」真紅 「ジュンッ、今日をもってあなたは解雇よ!!後で泣いて謝っても遅いんだから……っ」ジュン 「え、ほんとにいいのか?じゃあお言葉に甘えて、久々にのんびりするかな~」真紅 「………え?」ジュン「何だよ真紅、やっぱり一人じゃ寂しいのか?」真紅 「そ、そんな訳ないでしょ!もうあなたとは何の関係もないんだから、気安く話しかけて来ないで頂戴!」ジュン 「はいはい…」雛苺 「はぅ~~真紅ぅ! 宿題忘れてきちゃったよぉ!ノート見せて~?」真紅 「あら、私もうっかりしてたわ。ジュン!ノートを…………あっ」ジュン 「あれ?もう僕には頼まないんじゃなかったっけ?」真紅 「くっ……! ひ、雛苺!ジュンのノートを奪ってきなさいっ」雛苺 「うよーい」ジュン 「結局僕の見るのかよっ!?」
きーんこーんかーんこーん…。翠星石「やっとお昼ですぅ……ジュン、さっさと机をこっちに移動させて一緒に食うです!」真紅 「やめて頂戴。…あんなのと一緒だと、おいしい食事も台無しだわ」翠星石「まだジュンとケンカしてるですかぁ?でも真紅のお弁当、いつもジュンから…」ジュン「そうだよなぁ~。庶民の味をたしなむとかいって、毎日僕の姉ちゃんに作らせてんだもんなぁ」真紅 「――っ!」ジュン 「どうする?弁当の為に謝るか、意地張り続けて弁当無しか…」真紅 「兵糧攻めだなんて……卑怯なっ!」水銀燈「うるさいわねぇ…落ち着いてヤクルトも飲めやしないわ。もう謝っちゃいなさいよ真紅…」真紅 「………いいもの持ってるじゃない、水銀燈…?」水銀燈「ひっ!? ………わ、わたしのヤクルトがぁ!?返してぇ――!!」真紅 「水銀燈の物は真紅のもの、真紅の物は……真紅のものよ!覚えておきなさい」水銀燈「わたしの乳酸菌がぁ……返してぇ………かえしてよぉっ!………ひっく…」蒼星石「……なんかしんみりとしちゃったね」翠星石「せっかくの昼食がぶち壊しですぅ。さっさと謝っちまうです真紅!」蒼星石「ジュン君が居なくて困るのは君じゃないか真紅。学校以外でも、家族ぐるみでしょっちゅう一緒な訳だし…」雛苺 「放課後は真紅一人になっちゃうよぉ?独りぼっちはかわいそうなのぉ~」真紅 「な、仲直りなんて必要ないわ!別にジュンがいなくても、わたしにはくんくんさえ居れば…」翠星石「そういえばくんくんの再放送、確か今日の今頃だったですね。真紅は録画……って、してる訳ねぇですか」真紅 「ぬかりないわよ。昨日のうちに、ジュンに任せ……………はっ!?」蒼星石「…何でもジュン君任せなんだね君は」ジュン「一応予約はセットしてあるけど……見る人がいないんじゃ、消すしかないなぁ」真紅 「ちょ、ちょっとジュン待ちなさい!?約束したのはケンカする前の昨日だから……まだ約束は有効のはずっ!」ジュン 「そんなへ理屈が通るわけないだろ」真紅 「うぅ……くんくんと会えないなんて、そんな…………ひっく……」蒼星石「泣く程悲しいなら謝っちゃえばいいのに…」
蒼星石「じゃあジュン君、また明日」水銀燈「ジュン、明日までに真紅と仲直りしなさいよね。わたしや皆が迷惑するんだから…」真紅 「……ふんっ」
ジュン(んなこと言ったって…向こうが勝手にへそ曲げてるだけじゃないか)ジュン 「…ただいまー」のり 「あらジュン君、聞いたわよ?真紅ちゃんと喧嘩しちゃったんだって…」ジュン 「何でお前が知ってるんだよ?」真紅 「あら、遅いじゃないジュン」ジュン 「な―――っ、何でお前が居るんだよ!?」のり 「真紅ちゃんね、家の鍵落としちゃって、今晩ウチにお泊まりすることになったから」真紅 「いつ来ても代わり映えのない狭い家だけど……一晩だけ辛抱してあげるわ」ジュン「偉そうだなお前……っていうかっ!僕に頼らないとか言っておいて、よく顔出せたもんだな?」真紅 「別にあなたに頼った覚えはないわ。のりに相談しただけだもの」ジュン「こいつ……自分から近づくなとか言った癖に、何かにつけて僕の近くに寄ってくるな」真紅 「……気のせいよ。わたしの通り道に、ジュンがぽーと突っ立ってるだけなのだわ」ジュン「ああそうかよ…ったく付き合ってられないよ」ジュンは真紅と離れた場所にあるソファーにどっかりと座り、正面のテレビを付ける。すると、真紅がその後を追うように、ジュンの隣にちょこんと座る。ジュン 「…………ついてきてるじゃん」真紅 「くんくんを見るのに、この場所が絶好の角度なだけだわ。文句があるなら、あなたがどきなさいな」ジュン「僕が先に座ってたじゃないか!?っていうか押してくるな!か、体が密着して…っ」真紅 「あらやだ、幼なじみに欲情するなんて……節操ないわね」のり 「昔は一緒にお風呂入った仲なのにねぇ」ジュン 「関係無い話すんな!!!」
真紅 「いいお風呂だったわ、のり」のり「あらぁ、お風呂上がりの真紅ちゃん色っぽぉ~い!ねぇジュン君?」ジュン「僕にふるなよ…」ジュン(……まあ、可愛いのは認めるけどさ)真紅の濡れそぼった長い髪、シャンプーと混じって香る女の子の匂いに、ジュンはつい意識してしまう。ジュン(いつもは僕が、あの綺麗な髪をすいてあげてたんだよな……)自分は喧嘩中だから、やってあげる必要なんてない。真紅は髪の手入れも人にやらせる、筋金入りのお嬢様だ。絶対自分からはやらないだろう。なら、のりに頼むのだろうか。これからもずっと、自分以外の人に……?真紅の髪のことで延々と悩む自分に、ジュンは呆れてしまう。ジュン(……っていうか、何で喧嘩なんかしてたんだっけ…)真紅 「なあに?人の髪をじろじろと……まるで、わたしの髪を梳きたくて、たまらないって顔ね?」ジュン「だ、誰がっ」真紅 「……してくれないの?」ジュン「だぁっ! そういう顔するなよな! …ったく」のり 「真紅ちゃーん、お電話よぉ~」真紅は少し残念そうな顔を見せ、受話器の方へ駆けていった。入れ違いにのりが入ってくる。のり 「真紅ちゃんのお父さんからだわ。また遅くなるから娘を宜しくですって」ジュン「…なんで僕に話すんだよ。関係ないだろ」のり 「ジュン君…仲直りしてあげられないかな?真紅ちゃん、きっと寂しがってるだけなのよ」のり 「いつも広いお屋敷に独りぼっちだもの。その分、一杯いっぱいジュン君に構って欲しいのよ…」ジュン「あいつからは、そんなこと一言も言わないじゃないか…」のり 「これ、真紅ちゃんの制服のぽっけに入ってたの……ジュン君に渡しておくね」ジュン「これって……家の鍵? なくしたんじゃ…」のり 「周りを心配させたくないから、自分から寂しいなんて言えないのよ。他の人は無理でも、ジュン君だけはわかってあげて…」ジュン「……あの意地っ張り」
二人きりのリビングで、お互い話すこともなく、ただ流れるテレビを眺めていた。ジュン「…もう寝ないと明日辛いぞ」真紅 「…ここで寝る」ジュン「部屋はちゃんと用意してやっただろ?」真紅 「だってあの部屋、ひとりだと薄気味悪くて…とても寝られないのだわ」ジュン「…僕はもう寝るからな」真紅 「………」ジュンが部屋に戻り、真紅はリビングに一人取り残される。テレビの音だけが響く寂しい空間に、真紅は堪えきれなくなり――。真紅 「……………待って!ジュンッ……まって…っ」泣きそうな顔を隠す余裕などなく、泣き声を堪えることもできず、必死にジュンのあとを追うと…、リビングを出たすぐ先の所で、ジュンが待っていた。ジュン「泣くほど寂しいなら、何で最初からそう言わないかな………」真紅 「――ッ!? ジュン!! だ、騙したのね!?」ジュン「騙したのはお前が先だろ。ほら、鍵」真紅 「か、返しなさい!!馬鹿!バカ!このっ………おばかぁ!!」ジュン「はいはい、どうせ僕がわるうございました…。お詫びに紅茶いれてやるから………もう泣きやめよな」真紅 「なによっ………自分で泣かした癖にっ!あなたって本当に最低の下僕だわ!!」真紅 「まったく…なんでわたしは、こんな気の利かない下僕なんかを………ジュンなんかを…っ」ジュン「…下僕って、お前が勝手に言ってるだけだろ。僕はお前の考えてることなんか読める訳ないし……」ジュン「下僕なんかじゃないから、ちゃんと口に出して言って貰わないと、気持ちなんて判らない」真紅 「………言葉にさえすれば、してくれるのね?」ジュン「……ものによるけどな」真紅 「じゃあ、今日は……一緒の部屋で寝てちょうだい…」
真紅 「おやすみ、ジュン」ジュン「…ったく、高校にもなって何で一緒に寝ようとか言い出すかな…」真紅 「……」ジュン「…真紅、寝たのか?」真紅 「ん……ジュンッ」ジュン(ッ!? 寝言で僕の名前を……?)真紅 「探偵を辞めたくんくんなんて……くんくんじゃないわ………ただのノラ犬よ………すーすー…」ジュン「何て寝言だよ……ほら、毛布乱れてるぞ」親に抱かれた子供のように、安心しきった真紅の寝顔をじっと見つめる。ガキの頃なら可愛いですんだかもしれない。でも、今は幼なじみでもあり、男と女でもある。ジュン(意識するのはいつも僕ばっかりだ……)真紅 「ん…」ジュン「――ッ!?」突然、真紅の両腕がジュンの首に絡まる。寝ぼけているのか、瞳は閉じたままだ。ジュンは真紅に抱きしめられ、唇がくっつく寸前まで顔を近づけることになる。ジュン「お前は……何でいつもそうなんだよッ」言うこと聞いてやってるのは、可愛いから。自分だって男だ。下心がない訳無いじゃないか。ジュン「僕の気持ちなんか知らん顔して、人を下僕だのなんだのって……」
真紅の小さな唇から目が離せない。ジュン「下僕だなんて油断してるから……」ジュンの唇が吸い込まれるように近づいていく。真紅 「……ご褒美、欲しかったの?」ジュン「っ!? し、真紅! お前起きて…」慌てて飛び退こうとするジュンを真紅は離さず、ジュンの唇を奪う。子供の頃から見慣れた真紅の唇が今、自分の目の前に…。真紅 「ん……あっ……はぁっ…………………ジュンのキス、妙に手慣れてるけど…まさかあなた」ジュン「…初めてに決まってるだろ」真紅 「そう……なら、こんな甘くておいしいキス……今後も他の娘になんかしては駄目よ?」ジュン「何でお前にそんなこと、決められなくちゃならないんだよ。付き合ってる訳でもないのに…」真紅 「あら、わたしに仕える報酬としてキスを望んだのはジュンの方じゃない」ジュン「ぼ、僕はそんなこと…っ」真紅 「もう遅いわ。報酬を受け取ってしまったのだから……これから一生かけて働いて貰わないと」ジュン「一生って、お前…」真紅 「…言い方が気に入らないのなら言い直すわ。ちゃんとお願いすれば、聞いてくれるんでしょ?」真紅 「これは命令じゃなくて真紅からお願い……ジュン、ずっとわたしの側にいてちょうだい?」
完
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