第二十六話 荒野の出会い
「超機動戦記ローゼンガンダム 第二十六話 荒野の出会い」
「アリス・・・ガンダム・・・貴方がアリスなの・・・?」真紅がその眼前に現れたMSに向かって言う。アリスはその怪しく光る目でシンクを見る。「そう、私がアリス。お父様、ローゼンの作りし人類を導く神。お前は・・・・5号機か。ふっ・・・」その声は真紅が驚くほど流暢で、そして少女のような声だった。「何が可笑しいのかしら?」「可笑しいな・・・そして貴様は愚か極まりない。その汚らわしい右腕がな!」シンクの右腕。それはバラスイショウの形見、半身となっている紫の腕。「汚らわしいですって・・・?どういう事かしら?」「お父様のくださったパーツを失くし、挙句そのような粗悪品で補うとは。何たる侮辱か!」真紅の頭にアリスの声がキーンと響く。憎しみの篭った声。感情を持つというのだろうか。この人工知能は。「貴様はジャンクだ・・・この私自ら壊れ物にしてやろう・・・後悔しながら死んでいくがいい。」アリスガンダムがガーデナーシザーを掲げシンクに向かっていく。驚異的な加速性だ。「っく!」シンクはビームサーベルでそれを切り結ぶ。何段にも重ねられる斬撃を必死で防ぐ。もう少し出力の低いビームサーベルならば断ち切られていたかもしれない。「お父様の機体をそんな劣悪で美しさの欠片もないものにしおって・・・!」「くっ・・・美しさの欠片もない・・・?貴方、カメラのレンズが曇ってるのではなくて?貴方こそジャンクなのだわ!」「貴様・・・・この私がジャンクだと!?」空中に閃光が乱れ飛ぶ。「そうよ。貴方は世界の、人類の為にローゼンに作られた。ならば・・・貴方のしている事は何かしら?人類に害をなすだなんて、貴方のお父様の思惑から外れてるのだわ!」「外れてなどいないさ!お父様は人類に絶望していたのだ!」
「・・・何?そうか・・・仕方がないな。白崎、梅岡!」雪華綺晶と交戦していた槐が何かの通信を聞き、渋い顔をした。「フランスの守備隊がスペインから攻めてきたレジスタンスに敗北、ドイツも危ういようだ。残念だが、ここは退くぞ。ドイツをとられるわけにはいかんからな。」「待て!槐!逃がすか!!」追いすがるキラキショウにスペリオルが背部ビームカノンを放ち、さらに頭部インコムで牽制し一気に離脱する。「ふん・・・決戦は全ての始まりの地か・・・・皮肉なモノだな。焦るな、雪華綺晶。ベルリンの空で会おう。」「くっ・・・槐・・・」既に大きく距離は離れた。追撃は無理と判断し、雪華綺晶は他の交戦地域に向かう。「へぇ・・・仕方ないねぇ。残念だったね。仇を討てなくて。」翠星石と戦っていた白崎も後退していく。「逃げやがるですか!?」スイセイセキがガーデナーシザーを振るう。ラプラスはそれをサーベルで防ぎ、ラ・ビットを射出する。「はははっ、兎は危機に鋭い生き物ですのでね。そう簡単には捕まりませんよ?」踊るようにスイセイセキの周りを飛び交うラ・ビットがスイセイセキの行く手を遮る。「ちぃ・・・鬱陶しいやろーですぅ!」スイセイセキがGSのライフルモードでビットを撃墜する。しかし、肝心なラプラスは後退した後だった。「ほらぁ、貴方も御主人様が呼んでるわよぉ?帰ってきなさぁいってね。」スイギントウのダインスレイブとプラムのゲイボルグは何度も打ち合い、何度も火花を散らしていた。しかし、一向に決着が付く気配は無い。「そうみたいだね。今回は桜田と話せなくて先生少し寂しいよ。でも、命令だからね。」梅岡のプラムがディアーズに向かっていく。「追撃しないのかい?天使さん。」「やぁよ、どうせあの手この手で逃げ切っちゃうもの。弾薬と労力の無駄よぉ。さっさと行きなさい?変態教師さん。それからぁ・・・私は天使じゃないわよぉ。」水銀燈は梅岡が去っていくのを見送るとサクラダに帰還していった。
「ちっ・・・お父様の聖地を奪われるわけにはいかぬ・・・運が良かったな。5号機。」シンクと交戦していたアリスがその動きを止める。「あら、思ったより槐に従順なのね。」「勘違いするな。槐も私の下僕に過ぎぬ。貴様には分かるまい。ドイツは私にとって特別な地。貴様ら人間風情が易々と踏み入れていい地ではない。」アリスガンダムが下がっていく。真紅は追撃しようと思ったが、背部の有線ビーム砲が8つ全てこっちを向いている事に気づき、思いとどまる。「・・・思ったより抜け目ないのね。」「さらばだ5号機。次こそが貴様の死する時だ。」こうして、アリスの軍勢は思いも寄らない形でドイツに引き上げていき、レジスタンスはポーランドを手中に収める事ができた。しかし、今のメイデンはその喜びよりも遥かに心配事があった。「出血がひどい・・・輸血だ!」サクラダの医療室が騒がしい。アリスの攻撃で重症を負った雛苺の治療が行われていた。「雛苺・・・お願い・・・死なないで・・・!」巴が雛苺の手を握る。雛苺は呼吸器で口をふさがれながらも苦しそうに息をしている。「とぅ・・・もぅ・・・え・・・JUM・・・ひなが・・・まもるから・・・」うわ言のように言葉を発する雛苺。呼吸器のせいか、かなりドモって聞こえる。「待たせたな!医者も連れてきた!」べジータが医者と血液を持ってすっ飛んで来る。「よし、これで何とかなるはずだ・・・申し訳ないが、部外者は外でお願いします。」医者の言葉にみんなが外に出て行く。しかし・・・「と・・・も・・・え・・・いっしょ・・に・・・いて・・・と・・・も・・・え・・・」意識があるのかないのか。はたまた、本能か。雛苺の懇願する声が聞こえる。「雛苺・・・大丈夫だから・・・お願いします!私も・・・側に居させてください・・・!」巴は再び雛苺の手を強く握った。
そして、どれだけ時間が過ぎただろうか。医療室から巴と医者が出てきた。「!?柏葉、雛苺は?」「大丈夫。しばらくは絶対安静だけど。命に別状はないって。」巴の言葉に全員が安堵の息を漏らす。「よ、よかったかしら~・・・」金糸雀がヘタリと座り込んでしまう。「ただ・・・雛苺はきっともう・・・MSには乗れないわ・・・」「それって・・・どういうことですか!?チビ苺がもうMSに乗れないって・・・」翠星石が巴に言う。巴は苺医療室を見ると、少し頷き言った。「じゃあ、どっかの部屋に・・・少し長くなると思うから・・・」
そして、向かった先はミーティングルームだった。みんなの手元には飲み物が用意されている。「雛苺はね、専門的なことは私は分からないけど・・・体に未発達の部分があったの。それで、MSに乗るたびに少しずつそれが悪影響を及ぼしていて・・・今回の事で体が限界近くまで弱りきったらしいの。だから、もし今後MS戦などでショックを受ける事があれば・・・体が限界を超えてしまって・・・」巴が言葉を止める。その後は言う必要もないのだろう。「そ、そんなのってないかしら・・・」金糸雀はショックを受けていた。今まで共に戦ってきた雛苺がもう一緒に戦えない。「未発達って・・・確かにチビチビは小さいですけど・・・何が原因なんですか!?」翠星石の言葉に巴は一度カップに口をつける。そして、一度目を瞑るといった。「あくまで予想だけど・・・私と雛苺が出会った時・・・多分その時から原因はあったのかもしれない・・・」
私が雛苺と出会ったのは何もない荒野だった・・・アリスの乱がはじまって1ヶ月したくらいかな・・・私の住んでた所はかなり初期に戦地になってね。私は両親と荒野を歩いてたの。そんな時だった・・・砂や泥、血にまみれた服を着た金髪の小さな少女が荒野で一人、歩いていたの。私は思わず駆け寄ったわ。そしたらね・・・その子とても怯えた様な目を私に向けたの。ただ、少しずつ話すたびに警戒を解いてくれてね、名前を教えてくれた。『雛苺』って。それが雛苺との出会いだった・・・私と両親はとりあえず雛苺を保護して一緒に暮らした。そして、私は知ったの。雛苺がどれだけの地獄を歩いてきたか・・・雛苺の両親は、すぐに死んでしまったらしいわ。でも、雛苺だけは奇跡的に生き残ってたの。そこから彼女は私に出会う1ヶ月間・・・小さな女の子が一人でだよ・・・一人で歩き続けたの。きっと、雛苺が一人を極端に怖がるのはこの時の事でだと思う。あの日以来、雛苺は必ず誰かが側にいないと恐怖で怯えてたから。多分・・・雛苺の体が未発達なのは、この一人の一ヶ月に原因があると思うの。幼児期に一人で荒野を彷徨い、食べるものはそれが食べ物と認識できるか怪しいモノ。液体ならばそれは全て飲み物・・・きっとそんな一ヶ月。ただ、生き延びるためだけに・・・それがきっと、雛苺をこんな体にした・・・・そう思うの・・・巴は再びカップに口を付ける。話は終わったようだ。「怖い話だな・・・」雪華綺晶が身震いをする。「確かに私たちはアリスの乱でみんな地獄をみてきた・・・だが、私たちには側に誰かがいただろう?私には薔薇水晶が・・・翠星石には蒼星石。真紅にはJUM。金糸雀にはみっちゃんさん。水銀燈にはめぐさん。一人じゃなかったから何とか生き延びれた。だが・・・雛苺は一ヶ月も一人だったんだ。当時、私たちよりさらに幼い子がだぞ・・・?傷を負わないわけが無い・・・」「へ、ヘビーかしら・・・相当ヘビーかしら・・・」金糸雀は自分を雛苺の過去に当てはめてみたのか、恐怖で怯えていた。
「とにかく・・・今は僕らも出来る事をするしかない。幸い、後はドイツだけだ・・・アリスさえ倒せば戦いは終わる。雛苺は戦いのない世界で生きればいいんだ。」JUMが言う。「そうね。あの子にはその権利があるのだわ。そうと決まればさっそく修理や補充をしましょう?」真紅が紅茶を飲み干して言う。「そうですぅ!準備は完璧にするですぅ!JUM、一応ヒナイチゴも直しておくですよ?誰か乗れれば戦力には違いねーですから。」「分かってるよ。それじゃあ、みんな。持ち場に戻ってくれ。あ、柏葉。」JUMがブリッジに戻ろうとする巴を呼び止める。「お前はあいつの側に居てやってくれ。それが一番いいからさ。」「桜田君・・・・ありがとう。」巴はペコリと頭を下げると医療室へ向かっていった。
次回予告 最終決戦を目前に控え準備をするレジスタンス。中国基地からの補給で全てを整えドイツに侵攻する予定だったが、アリスによって補給艦が襲われてしまう。これを落とされると全てが水泡に帰してしまう。何とか撃退する面々だが、後一歩の所で梅岡が急襲してくる・・・次回、超機動戦記ローゼンガンダム 絶対防衛戦 その戦いは、全ての希望を守るため・・・
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