第二話 「第0世界」
第二話 「第0世界」ラプラスの後をついて行くとそこには黒い黒い何も無い世界が広がっていた。そして中に光がさまよっている。「ここは第0世界、人間の魂の還る場所、 死後の世界を作ろうとしない魂が“無“となるべく 来る場所、死者の最後の思いが溢れ、消え行く場所です。」つまりはこれは人間の魂って事?もう死後の世界でも生きようとは思わない人間の・・。私はさまよっている光を見つめる。光は暫くすると薄れていき最終的には豆電球ぐらいになりそして消えた。今光が漂っていた場所にはあったような形跡も何も無い。完全な“無“となっている。「・・・無くなったの?」「ええ、“無“から“有“は生まれないと言いましたね。 彼らはその“無“へとなったのです。 従って“有“となる事は無いのです。」つまりは完全に終わったって訳なんだね・・。見てて考えていて哀しくなってくる。しかし光は絶える事は無い。
「少し覗いてみましょうか。」ラプラスはそう言うと杖を振る。瞬間、一つの光がパシュッ!と音を立てるとより光り輝く。そして私はその光に呑まれる。「-!」光が消えたと思ったらそこには病院の景色が広がっていた。何やら声がする、「心拍低下!」などと医者が叫んでいる。ああ成る程、この人の死の瞬間なのか・・。私はじっと見つめている。そして言葉として発されてはいない筈のベッドに横たわる人の声が聞こえてくる。「終わりなんだな・・・私は。」その人の思念とでも言うのだろうか?それが聞こえてくる。「ふぅ・・・疲れたな、もう眠ろうか。」横たわっている人の思いがそう言うと人は目を瞑る、瞬間「心拍停止!」などという声も聞こえてくる。暫くした後、医者が措置をやめ死亡時刻を告げだした。横で遺族が泣いている。体からは光が出て空へと昇って行った。その時にまた声が聞こえた。
「おやすみ・・・。」その声が聞き終わると同時にまた光が輝きまた第0世界へと戻ってきた。「今のはこの人の死の瞬間の“思い出“ですね。 少しばかり覗かして貰いました。」ラプラスが解説をしてくる。まぁ言わなくとも見たから大体わかるのだが・・・。ふと光を見るともうほとんど見えないくらいに小さくなりそして他の光と同じ様に消えた。「死の瞬間とは色んな思いが巡るものです。 この人の場合は人生の終わりを素直に受け入れ もう眠りたくなったのでしょうね。」「・・・みたいだね、凄く冷静な人だったよ。 死が怖くないのかな・・?」私がそう言うとラプラスはまた杖を振る。さっきと同じ様に漂っている光がさらに輝き光に呑まれていく。光が消えてみた景色はまた病院の個室だった。その中一人の若い女性がベッドの上に座っている。さっきの人もそうだったからまさかこの人も・・。そんな事を考えていると女性がしゃがみバッグの中から小瓶を出す、ラベルにはよく聞く毒の名が書いてある。この人は自殺しようとしているのだろう。
「だ、駄目・・・!」叫ぶが声は届かない。これは過去の思い出の灯りなのだから。自然の死なら兎も角、自分を殺す姿ってのは見るに絶えない。そう思っていると女性は薬を飲んだ。瞬間、さっきの声のようにまた聞こえてくる。今度はさっきと比べてかなりの数の声。一つ一つ聞いていってみる。「10歳までしか生きれません。」「12歳までしか生きれません。」「15歳までしか生きれません。」「18歳までしか生きれません。」「22歳までしか生きれません。」どうやらこれは昔の“思い出“・・。走馬灯という奴か?医者の声が何度も聞こえる。他の話も聞いた所どうやらこの子は心臓病のようだ。子どもの頃からずっと・・。そして伸びる死の宣告。何時死ぬかわからないという恐怖がいつの間にかその子の思いから消えていた。そして何回目かの死の宣告を受けた年齢になった今年。自分と同じく22歳、この子は死を決意し自分の命を手にかけた。「私は死ぬ為に生きてるのね、天使さん。」
思いの声ではなく口から発したその声を最後にその子は目を瞑り眠りについた・・。さっきと同じ様に光が天へと昇って行く。そしてまた第0世界へと戻ってきた。「どうでしたかな?今のは死に恐怖を覚えない一人の思い出です。 死に恐怖を覚えないというのがどういう事かわかりましたでしょうか?」「・・・。」私は黙っていた。何も言えなかった。人が自ら死ぬ姿というのは初めて見たから。余りに哀しかったから。そんな事を考えていると光が消えようとする。しかし、瞬間さっきとは違ってまた輝き始めた「!」光は数分間輝き続けそして他の光のように消えていった。「おやおや珍しい、時々ああやって死ぬ直前に光を増す魂もあるのですよ。」ラプラスが解説を入れてくる。自分と同じ歳の子がこうやって自分の命を手にかけるのを見るのは哀しかった。
「そういや一つ質問をしたいのですが、何故あなたは 自分が事故にあったという説明を聞いた時あんなに冷静だったのですか・・? 仮にも死んではいないとは言ったもののかなり冷静な方でしたが。 あなたは死を何と思ってるのでしょう?」私は少し間を置いて答える。「説明を聞いた限りじゃ・・・お姉ちゃんは怪我していないから・・。 だから冷静だった・・・。 死ぬのは哀しい事だと思うけど・・・私は死んだっていい子だから。」私はそう答える。そう、私は死んだっていい子・・・。「また哀しい返答ですね、さて・・・そろそろ次の世界へと行きましょうか。」ラプラスはまたさっきの様に空間をジッパーのように穴を開ける、そしてその中に入っていった。「次は・・現の第1世界でございます。」私はさっきと同じ様にラプラスについて行った。今度は哀しむような事が起きない事を祈ろう。私は宙を移動しながらそう思った。
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