第十一話 姉妹の目
「超機動戦記ローゼンガンダム 第十一話 姉妹の目」
メイデンのみんなには驚くような光景じゃないかもしれないな。周囲は火の海、人が焼け焦げてたり銃弾に撃ち抜かれてたり。建物は大抵燃え盛りいつ崩れるか分からない様な物ばかりだったな。私と薔薇水晶は奇跡的に生き残っていた。父上と母上は死んでいたよ。父上は銃弾に撃ち抜かれていたんだろうな。父上だったモノは全身を穴だらけにして穴という穴から血液があふれ出ていた。思えば穴だらけとは言えどこも千切れたりしてないのは死体の中でも綺麗なものだったのかもしれないな。母上は・・・もはや母上と分からなくなってたよ。近くにミサイルだかバズーカだかが落ちたのかもな。爆発したと思ったらもう母上の体は存在しなかった。私は薔薇水晶の手を引いてとにかく逃げた。奇跡的に生きていた私達。もしかしたら父上と母上が守ってくれたのかもしれないな。しかし、どこにいっても火・火・火・・・気が狂うかと思ったよ。とにかく他に生き残った人と同じように逃げ回った。その時だったかな・・・比較的近くに機体が落ちたんだ。その衝撃で近くの家の大きなガラスが割れたんだ。そして、そのガラスの破片はあろう事が薔薇水晶に向けて降り注いだ。私は何も考えずに動いた。薔薇水晶を突き飛ばし私自身も何とか避けようとした。でも・・・疲労かな。足が動かなかったんだ。
「うっ・・・・く・・・・」私はそんな声を漏らしたらしい。ガラスは私の皮膚を所々切り裂いた。何、大したことはなかったさ。私の右目を貫いたガラスが私の感覚を全て麻痺させたせいだろうな。しかし、私はそこで止まるわけにはいかなかった。留まっていては死ぬ。痛がるのは後だ。私は右目に突き刺さったガラスを引き抜いた。夏候某のように眼球は出てこなかったがな、恐らく眼球は割れていただろう。私は持っていたハンカチで薔薇水晶に醜くなった右目を見せないように隠し、再び逃げた。そして・・・私達は何とか保護された。私と薔薇水晶はしばらく病院に押し込められたよ。薔薇水晶は守ったつもりだったが・・・随分怪我を負っていたらしい。そして、私も・・・体に進入したガラスも案外多かったらしい。でも、そんな事は問題じゃないさ。問題があるとすれば、やっぱり・・・私の右目はなくなったよ。そりゃそうだろうな。あれはもう・・・目としての機能を果たしてくれないだろうからな。そして、私の右目は空洞となった。何もない、何も映さない・・・ぽっかりと開いたアイホールに。私はそれを見られるのを嫌って眼帯をした。それ以来かな・・・病院がどうも苦手でね。水銀燈の見舞いのときも行かなかったろ?薔薇水晶には泣いて謝られたよ。自分のせいだってな。全く、自分は私が突き飛ばさなきゃ命を失ったかもしれないのに。それ以来、薔薇水晶は左目に眼帯をした。もちろん、見えているぞ?ただ、あの子は言ったんだ。「お姉ちゃんの右目には私がなるね。だから私の左目にお姉ちゃんがなって。私たちは二人で一つだよ・・・」ってな。私はもう何も言えなかったよ。何より・・・とても嬉しかったからな。
それからしばらくして、あの兎のパイロット・・・白崎と槐という男が私達を引き取りに来た。二人は私達に力を与えてくれた。MSの操縦とかをな。今思えば奴らはアリスへの憎しみを原動力とする私達に力を与え成長を促し、育ったところで洗脳しアリスの兵とさせるつもりだったんだろう。奴らは表は反アリスを掲げておきながらその実、アリスの信奉者とするのが目的だったんだろう。ただ、彼らには私達は計算外だったんだろう。私と薔薇水晶に根付いているアリスへの憎しみは全く消えていかなかった。そこで奴らは私達を消そうとしたんだ。覚えているか?私と薔薇水晶がメイデンに加入したときの事を。あの時、私と薔薇水晶はキラキショウとバラスイショウを与えられて単独で任務を与えられていた。しかし、それこそが奴らの罠だったんだ。奴らの計画通りに配置された兵力は私達を倒すには充分な戦力だったはずだろう。しかし、ここでまた誤算が発生した。それは、メイデンが偶然通りかかった事だよ。そして、奴らの本性に気づいた私達はメイデンと行動する事にしたんだ。話が一区切りしたのか、雪華綺晶がお茶を飲んで乾いた喉を潤す。「覚えているのだわ。私がシンクとの初陣だったのだから。」真紅が紅茶を飲みながら言う。「一つだけ気になるですぅ・・・それだけバレテながら何で奴らは二人を尚引き込もうとするです?」翠星石の言葉に薔薇水晶が少し体を震わせる。しかし、一人でウンと決心すると口を開いた。「それは・・・私から話すよ・・・私のバラスイショウを作った槐という男が・・・関係してるんだ。」
「槐は・・・私と恋仲だった。私がそう思ってただけかもだけど・・・」「そんな!?まさかそれを餌に・・・?そんな事・・・」蒼星石が飲んでいたお茶の湯のみを叩きつけて言う。「私にとって槐は餌だったんだろうね・・・大丈夫、気にして・・・ないから・・・」気にしてはないと言うが、薔薇水晶の面持ちは暗い。「いいじゃなぁい?そんな男に薔薇すぃーは勿体ないわぁ。」水銀燈が薔薇水晶の髪を撫でながら言う。「うん、ありがとう銀ちゃん・・・もしあの人が戦場に出てくれば・・・私は戦うから・・・」「まぁ、この辺だな。私達の過去とあいつらの関係は。」雪華綺晶が話をまとめる。その時、通信が入る。「JUM。センダイはご苦労だったな。」「ああ、全くだよ。それよりお前は何をしてたんだよ。サボりか?」通信の主はべジータだった。確かに、ベジータはセンダイの戦いには来ていなかった。「そう言うな。SAIYAは次の攻撃目標を定めてきたんだ・・・日本もある程度戦力が充実してきたしな。」確かに、センダイはアリスの攻撃が激しかったせいか苦戦したが他の都市では快勝だったようだ。「世界で反アリスの風潮が強くなっている。そこでだ・・・我々は中国を狙う。中国は今アリスの最大の武器工場だ。ここを奪えばこちらに物資もはいるし一石二鳥だ。」「中国か・・・でも攻めきれるのか?前線の朝鮮半島にはミサイルが配置されているんだろう?」「メイデンにも来て貰う。サクラダにはピチカートがあるだろう?それに、策もあるんだ。」べジータがニヤリと笑った。
一方、アリス軍の総本部であるドイツはベルリン。極秘工場で少し長めの金髪の男がある機体を眺めていた。「やぁ、槐。すまないね。あの二人はやっぱりダメみたいだよ・・・・ガンダムかい?それは。」「白崎か・・・いい機体だろう?スペリオルと言うんだ。」槐と呼ばれた男は機体の脚部をさする。それは正にガンダムだった。「君、MSの操縦できたっけ?それとも誰かの新型かい?」白崎がスペリオルを見て回る。パッと見でもかなりの銃器が積んであるのをみると、火力重視なのだろうか。「問題ない、私のだ・・・何故なら、これにはアリスが積んであるのだからな。」「アリスを!?成る程ね・・・・恐ろしいモノを作ったもんだ。」白崎はハハハっと笑う。「もっとも、私の作った擬似アリスだがね・・・そうだな。ALICEとでも名づけようか。梅岡がどうした?」「いますよ?いやぁ~僕も失敗しちゃいましたよ。どうも空回りして・・・先生悲しいなぁ。」いつの間にか現れたのか、梅岡が姿を現す。どうやら、まだJUMを引き込もうとしているようだ。「ああ、そうだ。レジスタンスの奴らが中国を攻めようとしてる情報はいってるけど・・・どうするの?」白崎が損傷したラプラスの修理を命じながら言う。「放っておけ・・・工場の大半はこっちに移してある。それに・・・あの七機が最終段階に入っている。」槐の言葉に白崎と梅岡が反応を見せる。「早いね・・・確かにあの七機ができるなら中国なぞ必要ないね。レジスタンスを鎮圧した後に取り戻せばいい・・・・これは忙しくなりそうだ。」「じゃあ先生もパイロットの最終調整に入った方がよさそうだね。先生、頑張っちゃうぞ♪」
白崎と梅岡がそれぞれ仕事に戻ろうとする。と、その時白崎が思い出したように言う。「ああ、そういえば槐。薔薇水晶はどうするんだい?一応聞いとくけど。」白崎の言葉に槐は振り向き白崎を見据える。「白崎・・・人形というのはな、思い通りになるから好まれるものだろう?」槐が近くにあった小さな人形を手に持つ。「思い通りにならぬ人形など・・・・いらぬ!!!」そして・・・その人形を握りつぶし粉々にした。その冷たいながらも何かを燃やすような瞳を見た白崎は戦慄する。「わ、分かったよ・・・儚いものだね。愛情ってのは。」白崎が足音を響かせて部屋を出て行く。「愛情だと・・・そんなモノは初めから存在しない・・・」
次回予告 ベジータの作戦に無理矢理付き合わされる形になったメイデン。自動迎撃装置ピチカートを使用しながらミサイルを潜り抜ける二隻。そして、べジータの作戦が明かされる。次回、超機動戦記ローゼンガンダム 静かな戦い 戦いの鍵は金糸雀と雪華綺晶に・・・
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