第六話 「せめて麗しいままに桜のように散り」
第六話 「せめて麗しいままに桜のように散り」何十年か過ぎた春の刻今日はジュンが死んだ日にち、月は違うものの私は墓場へ向かう。いつも通り杖を着いて家から十分ほどの道のりを歩いていく。もう昔に喫茶ローゼンメイデンの辞め暫く経ち今じゃあ暇な日々だ。全く忙しかったあの頃が懐かしい。雛苺も退職し今では元々の金糸雀と白崎さんの二人だけという状態にとなっている。そんな事を考えている内に墓場へと着く。この辺りはやっぱり昔と変わってないわね。墓の周りの景色を見ながら思った。目線を前に戻すと彼の墓が見えてくる。私は墓に近づき一言紙に書いて墓に置く。“また来たのだわ。“一ヶ月に一回はこうやって水銀燈のように墓参りに来ている。そしていつもなら墓場にミスマッチな薔薇が一輪供えられているはずだが今月に限っては花が無い。代わりに隣に見覚えのある名が刻まれた墓がある。水銀燈そう刻まれている。
そうね、あなたはもう居ないのね。私は隣にある墓を見ながら思う。今月、水銀燈が亡くなった。死因は老衰、たまたま来ていた親戚に話をしながら死んでいったらしい。その親戚によると幸せそうに死んでいった。死ぬ事に悲しみを感じてなくて良かったと思うと言っていた。幸せそうに死んでいくなんて本当に“麗“しい人ね、あなたは。私は二人の墓に水をかける。49日には早いけどね、水銀燈いいでしょ?もう時間が無いから許して欲しいのだわ。もう・・・時間が無い。それを考えて少し悲しくなるが二人の前でそんな顔を見せる訳にもいかない、すぐにいつもの顔に戻す。私は墓を磨きながらそんな事を思っていた。そして墓を磨き終わりいつも通り千日紅を供える。私はジュンの墓の前で手を合わせた後、水銀燈の墓の前に行き手を合わせる。そして一通り祈り終えた後私は二人の墓の前をぶらぶらと歩く。特に意味は無いのだが私は二人の事を考えながら歩く。
ジュン、水銀燈に会えたかしら?水銀燈、ジュンに会えたかしら?私は疑問に思う。いいえ、会えてるわねきっと。空を見上げながら思う。そしてジュン、あなたに言う事があったのだわ。私は視線を千日紅にと移しメモに色々と書き始める。そしてメモを墓へと置く。・・・さよならなのだわ。また逢いましょう。そんな事を思いつつ私は墓を後にした。
私は墓から家に帰らず直接そのまま駅にへと向かう。そこのタクシー広場へと行きタクシーを拾い東京駅まで行くように頼む。タクシーからは色々な景色が見える。思い出深いローゼンメイデンや学校など様々な所。そんな景色も一瞬で過ぎ去り20分ほど経った頃に東京駅にへとついた。私はタクシーを降り、運転手に料金とは違うチップを渡すと駅の改札へと歩いていく。そして事前に買っておいた券で駅の中へと入る。券には京都という文字が記されていた。そして関西方面の新幹線が出るホームに行くと暫く私は新幹線が来るのを待つ。15分ぐらいいして新幹線が来たのでそれに乗る。新幹線に乗るのは久しぶりだ。どのくらいぶりだろう?恐らく高校の時の修学旅行以来でしょうね。私はそんな事を思いつつ発車するのを待つ。一瞬ドアが閉まろうとしたが再び開きだす。誰か駆け込み乗車でもしてきたのだろう、全くそそっかしい乗客だ。私はそんな事を考えると京都までの間寝る事にした。
暫く電車に揺られながら寝ていると京都に着いたようだ。私は急いで杖とバッグを持って新幹線を出る。新幹線を出た後、私は駅の入り口にへと降りていく。エスカレーターの歩く人の位置が東京とは違うのねなどと思いつつ関西人が立ち止まってる右側に並びエスカレーターが降りきるのを待つ。そして私はタクシー乗り場へと行こうとしたが近くに喫茶店があったのでそこで少しティータイムを過ごす事にした。私は店に入ると開いてる席に座りお気に入りの紅茶の葉を言う。3分ほどして店員が紅茶を持ってくる。中々美味しい。自分で煎れるのとはまた違った味がする。こうやってたまにはちょっと違う味を味わうのもいいわね。私は10分ほど紅茶を飲んで、レジで勘定を払いそして店員にチップを渡すとタクシー乗り場へと急いだ。そして京都のとある桜のある場所へと向かう。隠れスポットなるものを必死になって探したんだから人が居たらショックなのだわ、そんな事を思って暫く道に咲く桜を眺めていた。30分ほどしてその場所の近くにへと来たのだが山中な為運転手も道がわからないようだ。私はチップを渡しもっと急ぐように言う。さっきから人にチップばっかやってるわね私。
それから20分してようやくその場所へと着いた。隠れスポットなだけあって人はまったく居なかった。というよりもこんな山中だから誰も来ないのだろうけど。私はくたくたな様子の運転手にチップを渡し礼を言うとタクシーが去っていくのを見届ける。もうこれ以降私は人にあう事は無いだろう。そんな事を思いながら桜にへと近づく。・・・綺麗。“麗“しい。私は桜を見て思わずそう思った。一時間近くもの間ずっとそうしていただろうか?私は桜の木に腰かける。そしてバッグから携帯できるミニコンロを出す。小さなやかんにペットボトルのミネラルウォーターを注ぐ。そして暫く湯が沸くの待つ。やがて湯が沸く。私は湯が沸くと自分の一番お気に入りの葉に湯を注ぐ。そして少しの間冷ます。一分程してそろそろいいかなと思うと私はバッグから小ビンを取り出す。ビンの中には粉みたいなものが入っている。私は小ビンの中身を全て紅茶に注ぐ。そして暫く目を瞑りただずっと思っていた。さようなら。また逢いましょう。そう思い紅茶を飲もうとした瞬間、最愛の親友、下僕の姿。そこには雛苺がいた。
私は驚いて目を思いっきり開ける。雛苺は無言で私に近づきそして殴った。私を殴った。人を殴るなんてしない雛苺が私を殴った。そして雛苺は殴った後涙を流し始め語りだした。「何を考えてるの・・・?真紅!」“雛苺・・・。“私はいつもの様にメモで返事を書く。雛苺はいつもの数倍の速さで喋りだした。「どう言う事なの真紅・・。なんでまた死ぬなんて考えたの・・? あの時も言ったじゃない!そんな事考えたら駄目なのって!」・・・そうだ。私は今日自殺を図る為この京の地まで足を運んだ。紅茶に入れた粉は安楽死する為の毒薬。理由は水銀燈が死んだからじゃない。確かにあの子が死んで本当に悲しい・・。でも本当の死のうと思った理由は・・。
“せめて・・・せめて“麗“しいままに逝きたかったのだわ。“「せめて・・・?」“そう、もう時間が無いのだわ。“「何の時間なの?」“私の・・・体、もう持たないのだわ。“「それって・・・。」“ええ・・・癌よ。“雛苺は驚いた顔はせず泣いたまんまの顔で私をずっと見つめてきた。“癌がどんな病気か知ってるでしょう?忘れもしないでしょう? ジュンもこの病気で死んだ、そしてもうこの病気に助かる手立ては無いの。 私は末期なのだわ、ジュンと同じ様にね。“「だからって・・・なんで死のうと考えたの!?」“・・・雛苺、癌の苦しさって知ってる?私は病院も行ってないし 薬すらも飲んでない、そのせいか毎晩毎晩体が痛い、熱いの。 思わず悲鳴が出ちゃうのだわ。無様でしょう。 それでも私は闘病生活を送っていたのだわ。 数週間前まで。“「それって・・・。」“ええ、水銀燈が死んだあの日までずっと私は頑張ってきたの。 けどあの日を境に病院も行かないし薬も飲まないようになった。 後を追いたいからって訳じゃなかったの、けど・・・水銀燈の死の間際の話を 聞いて私をこうする事を決心したのだわ。“「死の間際の話・・?」“水銀燈は・・・たまたまその日来ていた親戚の子どもにある話をして 死んでいったらしいわ。“「何の・・?」
“・・・思い出よ、沢山の思い出、幸せな思い出、そんな話を一杯して 話終わった頃、その親戚の子に笑顔で別れを告げて死んだらしいわ。 あの結婚式とかね。“「・・・。」“それを聞いて思ったの、本当にあの子は麗しい子だと。 幸せに埋もれて死ぬなんて“麗“しいんだとね。 私はそれに密かに憧れた、そして安楽な・・・自殺を望んだ。 知ってる?末期なんていくら頑張っても直らないのだわ。 最終的には苦しんで苦しんで無様な姿を人に見せて死んでいくのだわ。 私はそうなりたくはなかった、せめて・・・せめて“麗“しいままに死にたかった。 最後ぐらい綺麗に終わらせたかった。“「・・・。」“それでね、最後だから折角はこの京の地で死のうと思ってね。 綺麗な花が散る中良いでしょう?こんな死に方も。“真紅は毒の入った紅茶と桜を指差し答える。そしてふと疑問が浮かんだような表情を浮かべる。“そういえば・・・何故此処に来ると知っていたの? 誰も知らない筈なのだわ。“「・・・これ読んだの。」雛苺はそう言って私の目の前に手紙を差し出す。その手紙は私が朝に墓場に二人の墓に置いて来た手紙だった。中にはこう記されている。
私の親愛なる友達へ水銀燈、ジュン、あなた達は今頃あの世で幸せに暮らしているでしょうね。あなた達が幸せなのを想像するととても嬉しいわ。そしてジュン、あなたに言う事があるの。いつもあなたに捧げてた千日紅、花言葉は“変わらない思い“なのだわ。あなたへの感謝と愛は未だに変わらないわ。けどもう一つこの花を捧げる理由があったの。それは・・・この思いは変わってはいけなかったから。 私はあなたの事が好き、それは下僕として友として。けどね、死んだ後でもあなたの事をよく思い出していた。そしてその度にあなたへの愛が強まりそうだったの。私はあなたを・・・一人の男として好きになりそうだった。けどいけないわ、あなたには水銀燈がいるもの。だから私は月に一回はこの花を供えて自分の気持ちを鎮めていたわ。それが言いたかった。私はあなたを一人の男として愛しそうなぐらい好きだった。そしてありがとう。・・・そして二人にもうすぐ逢えるかもしれないわ。私にはもう時間が無い、だからせめて“麗“しいままにあなた達に逢いたい、だから私は今日にでもあなた達の元に行くかもしれない。その時はよろしく頼むのだわ。ではまたね。あなたのご主人、友達より
「なんで・・・死のうと考えたの?」」“言った通りよ、私はせめて麗しいままに死にたかった。“「そんなの・・・そんなの麗しくなんかない!」雛苺が大声で叫んだ、辺りに声が木霊する。「ジュンは・・・自分が死ぬまでずっと戦っていた。 そして最後に苦しんで死んだ。 あの人は自分の死という運命と戦って死んだ! 運命っていうのはもしかしたら有るのかもしれない。 だとしたら何の為に私達は生きてるの? 運命の手の上で人形のように踊る為に生きてるの? 違う、人は皆運命と戦う為に生きてるの・・・。」そこで今まで泣きながら立って真紅を見下ろしていた雛苺が地面に座った。「あなたがやってるのは逃げてるだけ・・。 それが本当に無様なの・・!」!心に思いっきりその“言葉“が響いてきた。瞬間、私の目から涙が落ちてきて頬を伝わる。
「生きてるってのは戦う事なの。 それが勝利であれ、敗北であれ 人間は戦う事にだけ意味を持って生きている。 戦う事が美しく、逞しく、“麗“しいの・・・。 今の真紅は全然“麗“しくなんか無いの・・。 だから・・死ぬと決まってても戦おう? それが本当に“麗“しいの・・。」流れていた涙が量を増し一気にこぼれ落ちた。涙を流しながら思う。この子の目の前で泣いたのはこれで二回目だな・・・と。あの時もこうやって説教されたのだわと。私は黙って立って紙に“言葉“を書く。“ほんと無様ね・・私、御免ね。“私は紅茶を桜の木の根元に捨てるとミニコンロなど全てを捨てた。それを見て泣きながらも笑顔を浮かべつつ立ち上がった。ほんと御免ね、雛苺。私は帰り道へと歩き始めた。
タクシーで20分ほどの道は病気の私には3時間もかかった。雛苺も歳であるせいか私と同じ様なペースで歩き続けてた。雛苺は駅へ行って東京へ戻るように言ったが私はそれを断った。“無様な私はあの子等に顔見せ出来ないのだわ、私はこの京の地で 戦って死んでいくわ。“雛苺にそう書いた紙を渡すと彼女は私も一緒に居る!と言ってきた。断ろうとするが雛苺も退かない、結局は一緒にここに残る事になった。そしてタクシーを拾い入院する為、京都の病院へと向かった。その途中私は疑問になって聞いた。“何故そこまで私といたがるの?“雛苺は勢いよく答えた。「私はあなたの親友で下僕だから。」全く、この子はと思ってしまう。だがそれがこの子のいい所なのだ。私は病院に着くまでそんな事を考えていた。
京都の病院に入院してからは前よりも辛い生活だった。しかし一緒に雛苺が居たからそんな事はどうでも良くなった。一つ驚いたのは雛苺がお見舞いではなく入院という形で一緒にいる事になったからだ。彼女は昔から注射やら病院やらが嫌いなせいで薬だけを飲んでいたらしい。状態は私と同じ末期、この子は改めて凄いと思った。自分と同じ末期ながら頑張って生きてたのだから。そして一週間後、私は病院で雛苺のみに見取られながらこの世を去る。そしてその一ヶ月後、雛苺も後を追うように死んでいった。私達は誰にも知らせず死んだ為恐らくみんなは謎の失踪をとげたとでも思ってるだろう。私達は桜のように健気に散り行く運命と戦って“麗“しく死ねた、私はそれを誇りに思う。そして親友に感謝している。
「ここはどこなの?」雛苺は辺りを見回すが回りは変な風景でそこかがわからない。そんな中、最早忘れそうになった声が聞こえてきた。「ここはあの世よ。」そこには真紅、若い頃の真紅が居た。「真紅なのー!」「一週間ぶりなのだわ。」ここで私は肝心な事に気付く。「声・・・出るの?」「ええ、死んでも出ないんじゃ洒落にならないわ。」「確かにそうなのー!」「ふふ・・・しかしあの世ってのは昔のような姿にもなれるのね。」真紅は若い自分の体、そして雛苺の方を見る。真紅が見てるので自分の体を見て気付いたが私も若くなったいる。「うゆー!凄いのー!」「ふふ・・・そうね、じゃあ逢いにいきましょうか。 あなたと一緒に行くのを待っていたのだわ。」「うんなのー!皆に逢うのー!」
「二人とも久しぶりだな。」「888時間ぶりぶりくらいねぇ。」「みんな久しぶりだね。」「久々ですぅ、遅いですぅ。」かつての友達が私達に喋りかけてきた。確かに水銀燈とは一ヶ月近く前に別れたばかりだから確かにそれぐらいの時間ぶりだろう、それにしても懐かしい。「久しぶりなのだわ。」「久しぶりなのー!」雛苺は皆の方へと走っていく、私もそれについて行く。「ふふ・・・そうだわ皆、紅茶を煎れてあげるのだわ。」「どうしたんだ真紅?お前が紅茶を煎れるなんて? お前は飲む方だろ?」「失礼なのだわ!あなたが居ない間に修行したのだわ!」「ほーう、あのノートを見たのか?」「え・・あ、うん・・・あ、ありがとなのだわ。」「楽しみだな真紅の紅茶を飲むの、さて皆飲もうぜ。」「はいですぅ」「うん、たまには緑茶じゃなくて紅茶もいいね。」「はぁい、真紅早く煎れてねぇ。」「うゆー!」「わかったのだわ。」
私はいつも喫茶でやってたように紅茶を煎れる、そして全員へと配る。「おいしいな。」「あなたのノートがあったからなのだわ、礼を言うわ。」「こんな旨い紅茶が飲めるようになるとは思わなかったよ、 ノートを残してて正解だったな。」「あ、当たり前なのだわ!下僕の世話をするのも主人の仕事! その為には紅茶だってなんだって煎れるのだわ!」「ふふ・・・そういや下僕だったな俺。」ジュンがそう言うと他の皆も笑う。「それとみんなでうにゅー食べるのー!」「いいわねぇ。」「太るですぅ」「死んでるんだから関係なんかないのじゃない?」「それもそうなのだわ。」そんな会話を笑いながらする彼女らは幸せに満ち溢れていた。幸せに満ち溢れた彼女らは“麗“しかった。
此処には桜の花が舞っていた。しかしここには散り行く命が無い。桜はずっと舞い続ける。尽きる命が無いから、永遠に、幸せに、麗しく。桜の花言葉“精神美、優れた美人““麗“しく生きる事を望んだ乙女が最も好きだった花。彼女はその花の如く死んでいった。そして死後、永遠に大好きな友達と幸せに溺れ“麗“しく有り続けた。fin
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