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「―弥生の頃 その2―」(2006/06/02 (金) 02:13:00) の最新版変更点
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翠×雛の『マターリ歳時記』<br>
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―弥生の頃 その2― 【3月3日 上巳】 後編<br>
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真紅、金糸雀と相次いで轟沈する中、三番手に名乗りを上げたのは、水銀燈。<br>
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「それじゃあ、口直しに、私の甘酒を召し上がれぇ」<br>
「あぁ、助かったです。これは、まともそうですぅ」<br>
「本当ですわね。良い香りですわ」<br>
「当然よぉ。私の辞書に、不可能の文字なんてないわぁ」<br>
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ちらり……と、萎れている真紅と金糸雀を見遣って、水銀燈は口の端を吊り上げた。<br>
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「真紅や金糸雀みたいな、薔薇乙女ならぬバカ乙女とは、端っから勝負にならないわぁ」<br>
「……き、聞き捨てならないのだわ」<br>
「でも、反論できないかしらー」<br>
「二人とも、そう落ち込まないでなの。とにかく、飲んでみるのよー」<br>
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雛苺の一言で、全員が「それでは――」と紙コップを手に取り、口元に運んだ。<br>
見た目、良し。匂い、良し。あとは、口にしてみるだけ。<br>
みんな一斉に、ぐいっ……と、呷る。<br>
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そして、一斉に吹き出した。一人、水銀燈を除いて。<br>
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「ちょっ……なんですか、これはっ! メチャクチャ強烈ですぅ」<br>
「甘酒を蒸留して、ブランデーを、ちょびっと垂らしたのよぉ。<br>
何も足さなぁい、何も引かなぁい……ってねぇ」<br>
「なんで、蒸留酒なんかにしてるですっ!」<br>
「思いっ切り、足してるじゃないの! 貴女もバカ乙女の仲間入りよ、水銀燈っ」<br>
「なっ!? まさか、私がぁ? そんなぁ」<br>
「…………銀ちゃん。おバカさぁん」<br>
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薔薇水晶に口癖を奪われ、へなへなと頽れる水銀燈を、真紅と金糸雀が、<br>
おいでおいで……と手招きした。<br>
能面の『若女』を思わせる笑みを、満面に貼り付かせながら。<br>
水銀燈は、フラフラと二人の元に引き寄せられていった。<br>
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「私も……バカ乙女だったなんてぇ。ショックぅ~」<br>
「まあまあ、そう気落ちしないで下さいな。<br>
ご自身の愚かさを自覚できたのですから、寧ろ、良かったじゃありませんか」<br>
「……お姉ちゃん。フォローになってない」<br>
「平然と、奈落の底に突き落としやがったですぅ」<br>
「銀ちゃん、可哀想なの。じゃあ、四番手はヒナ――」<br>
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雛苺が名乗りを上げようとした矢先、狼狽えた様子で、翠星石が立ち上がった。<br>
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「つつ、次はっ、私の番ですぅ! これぞ正統派の味で、勝負ですぅ」<br>
「うゅ……翠ちゃん、割り込みはダメなのよ」<br>
「良いじゃないの、雛苺。主賓は、最後に登場するものなのだわ」<br>
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真紅にそう言われては、雛苺も返す言葉がない。不承不承、といった風に頷いた。<br>
四番手が翠星石と決まり、全員が、緑色のサインペンで名前の書かれたコップを<br>
手にする。見た目も、香りも、これぞ甘酒という出来映えだった。<br>
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「ミルキーはママの味。甘酒は婆の味。さぁ、イッキにいくですっ!」<br>
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お婆さんの味と言われると、なんとなく、郷愁を誘われる。<br>
しかも、翠星石の作った甘酒は、仄かな甘みと、優しい味で、<br>
懐かしい記憶を呼び覚ましてくれる一品だった。<br>
口に含むなり、みんな、しんみりと黙り込んでしまうほどの……。<br>
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「美味しいわぁ。なんだかぁ、優しい気持ちになれるわねぇ」<br>
「本当に、お世辞抜きで美味なのだわ」<br>
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水銀燈と真紅を始め、誰もが口々に褒め称えた。<br>
これで優勝は間違いない。翠星石が、ニヤリとほくそ笑む。<br>
しかし、そうはさせじと、さり気なく金糸雀の妨害が入った。<br>
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「美味しいけど、普通すぎて特徴が無さすぎかしら」<br>
「言われてみれば、その通りですわね」<br>
「…………平凡かも。だから、保留」<br>
「なっ!? なんで、そうなるですっ!」<br>
「気にしたら負けですわ。次は、私の甘酒を召し上がって下さいな」<br>
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五番手は、雪華綺晶。こちらもまた、見た目だけは、至って普通の出来である。<br>
翠星石の後という事もあり、全員、なんの警戒心もなく口に含んだ。<br>
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そして――――吐いた。<br>
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「み、皆さん?! どうなさったのですか?!」<br>
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一人、狼狽える雪華綺晶に、みんなの非難が殺到した。<br>
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「どうしたも、こうしたも……しょっぱいのだわ!」<br>
「そ、そんな……私は、ちゃんと砂糖を――」<br>
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甘くしようと砂糖を加えた筈が、塩でした! という、お約束のオチらしい。<br>
真紅、金糸雀、水銀燈のバカ乙女トリオが、雪華綺晶を手招きした。<br>
お前も、こっちの人間だ。そう言わんばかりの笑みを浮かべながら――<br>
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「みんな……ダメダメ。次、私の」<br>
「六番手は、薔薇しぃですか。まともなヤツを頼むです」<br>
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薔薇水晶の名前が書かれたコップを持ち上げ、みんな、自棄気味に呷る。<br>
酷いものばかりなので、誰もが、投げ遣りな感じだ。<br>
もう、どうにでもして! そんな雰囲気が、室内に漂っていた。<br>
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直後、部屋の空気が一変する。誰の瞳も、驚愕に見開かれていた。<br>
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「こ、これって、お酒かしらー?!」<br>
「間違いないわぁ。甘酒じゃなくて、どぶろくよぉ」<br>
「どーいうコトです、薔薇しぃ!<br>
本物の酒を出すなんて、正気の沙汰じゃねぇです!」<br>
「……らぷらす印の濁り酒……おいしいよ? 秘密の酒屋さんで売ってる」<br>
「確かに、口当たりがまろやかでぇ、んまぁ~い……って、大丈夫なのぉ?!」<br>
「これって、密造酒……よね、水銀燈。まさか、密造酒を密売?!」<br>
「そ、そう言えば……最近、執事さんを見てないかしら……」<br>
「ば……薔薇しぃ。ラプラスさんは、いま何処に居るです?」<br>
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狼狽える一同に、薔薇水晶と雪華綺晶は、事も無げに、こう言った。<br>
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「…………拘置所。もう、三日も留守」<br>
「一人でバカンスなんて、ズルいですわよねぇ」<br>
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そりゃ逮捕されたんだよ……とは、誰も言わない。言える訳がない。<br>
どんよりと重苦しい空気に包まれて、雛苺を除いた六人は、がっくりと項垂れていた。<br>
けれど、まだ終わりではない。<br>
最後の審判が下される瞬間が、訪れようとしていた。<br>
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「それじゃあ、いよいよ、ヒナの甘酒を飲んでもらうのよー!」<br>
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しかし、その色は薄桃色で――<br>
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「あー。なんとなく、味の予想が付くですぅ」<br>
「どう……なさいます?」<br>
「主賓の出してくれたものは、戴くのが礼儀だけどぉ」<br>
「じゃあ、銀ちゃん……お先にどうぞ、ですぅ」<br>
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ご機嫌を窺うように、みんなで雛苺を一瞥する。<br>
彼女は無邪気な笑みを浮かべて、自分の甘酒を飲んで貰える瞬間を、今か今かと、<br>
心待ちにしている様子だった。<br>
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(早くっ♪ 早くっ♪ 感想、聞かせて欲しいのよー♪)<br>
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誰の耳にも、雛苺の、心の声が聞こえていた。頭に電波が飛んできていた。<br>
正直、飲みたくない。でも、飲まなければいけない。<br>
拒否できない空気が、場を占めていた。<br>
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「覚悟は良い? 遺書は書いた? じゃあ……みんなで、一斉に飲むのだわ」<br>
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それでは……と、誰もがギュッと目を閉じ、コップの中身を呷った。<br>
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予想どおりの味? いいや、もっと酷い。<br>
雛苺の甘酒には、すり下ろした苺が、たっぷりと溶け込んでいたのだ。<br>
殺人的な甘さに、誰もが口元を抑えて、目に涙を浮かべていた。<br>
正確には、雛苺と、薔薇水晶を除いた五人が――<br>
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「うゆー。甘くて、おいしいのっ♪」<br>
「……うん。おいしいね」<br>
「薔薇しぃ、おかわりなら、いっぱい有るのよー」<br>
「それじゃあ…………マヅイ~っ! もう一杯ぃ!」<br>
「ええっ?! 美味しいって言ってくれたのは、嘘だったのー?」<br>
「…………言葉のアヤ。気にしちゃダメ」<br>
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やおらコントを始める二人を余所に、真紅たちは口直しにと、<br>
翠星石の作った甘酒をガブ飲みしていた。<br>
ある程度、酔いが回ってくると、だんだん味も解らなくなってくる。<br>
結局、金糸雀の漢方甘酒だけが売れ残り、他は全て、飲み干されてしまった。<br>
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そんなハイペースで飲めば、甘酒と言えど、泥酔いするワケで――<br>
乙女達は、思い思いの姿勢で、眠りに就いていた。<br>
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ふと、目を覚ました翠星石は、座布団を敷いて寝転がっている雛苺に目を向けた。<br>
楽しそうに微笑みながら、眠りこけている。みんなの寝顔も、幸せそうだ。<br>
今年の雛祭りに、蒼星石が居なかったのは残念だけど……これはこれで、面白かった。<br>
心安らぐ、ひととき。たまには、こんな雛祭りも良い。<br>
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翠星石は微笑すると、再びテーブルに突っ伏して、微睡みの世界に旅立っていった。<br>
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『保守がわり番外編 ターンエンド。そして・・・』<br>
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「みなさーん、お待ちかねぇ。ガンダムファイ……じゃなくてぇ、<br>
紅いキツネと翠のタヌキの化かし合い、レディーッゴー! よぉ」<br>
「水銀燈、貴女……キャラが変わってない?」<br>
「マイク持って、眼帯までしてるし、いつもよりハイテンションですぅ」<br>
「そんな事より、早く続きを聞かせてなのー」<br>
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「紅いキツネは、いつの間にか翠のタヌキの背後に立っていましたぁ。<br>
『間抜けなタヌ公ね。私を出し抜こうなんて、百年早いのだわ』<br>
『……そうこなくっちゃ面白くねぇです。さあ、次はお前の番ですぅ』<br>
言って、二匹は黒い笑みを浮かべたのよぉ」<br>
「ど、どうなるのー? ヒナ、wktkが止まらないのよー」<br>
「血で血を洗う惨事になりそうなのだわ」<br>
「でも、そうならない様に、化けくらべで勝負してるですよ。きっと平気ですぅ」<br>
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「一見、冷静を装っていたけれど、紅いキツネは精神的にショックを受けていたわぁ。<br>
タヌキ風情が、あんなに神々しい姿に化けるとは、思ってもみなかったのね。<br>
勝利を掴むには、相手より優れたものに化けなければダメだわぁ」<br>
「まあ、そうね。紅が翠なんかに負ける訳には、いかないのだわ」<br>
「紅いキツネは考えたわぁ。それこそ、おつむが熱暴走するくらいにぃ。<br>
そして閃いたの。<br>
『キツネは神の遣いよ。となれば、アレしか無いのだわっ!』<br>
頭に葉っぱを乗せた紅いキツネが、白い煙に包まれましたとさぁ」<br>
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・・・性懲りもなく続く<br>