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「―弥生の頃―」(2006/06/02 (金) 02:07:54) の最新版変更点
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翠×雛の『マターリ歳時記』<br>
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―弥生の頃― 【3月3日 上巳】 前編<br>
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世間一般に、雛祭りと呼ばれる日の朝、翠星石はパジャマの上に半纏を引っかけ、<br>
ノートパソコンを起動していた。<br>
今日は金曜日。大学は春休みなのだが、バイトに行かなければならない筈である。<br>
けれど、翠星石は落ち着き払って、電子メールの確認などしていた。<br>
<br>
階下から、祖母の「起きなさ~い、翠星石~」という声が届いた。<br>
そう言えば……と思い出して、翠星石は席を立ち、ドアを少しだけ開けた。<br>
顔を覗かせると、階段の下で、祖母が見上げていた。<br>
<br>
「何してるの? お仕事に、遅れるわよ?」<br>
「言い忘れてたです。今日は、バイトが振り替え休暇になったですぅ」<br>
「振り替え?」<br>
「先週の土曜日に、休日出勤したですよね」<br>
「ああ! そうだったわね。じゃあ、今日はお休みなのね?」<br>
「だから、そう言ってるですぅ」<br>
<br>
若者と老人の会話は、少しばかり、時間と意志の疎通に差異が生じる。<br>
毎日、会話しているから慣れているとは言え、翠星石は痺れを切らして、<br>
扉を閉めてしまった。<br>
廊下から流れ込んでくる冷気で、足の先が、痛いくらいに冷え切っていた。<br>
<br>
「あぁ、もう。こうなりゃベッドに潜り込んで、ネットするですぅ」<br>
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手軽に持ち運べるのが、ノートパソコンの利点だ。<br>
生憎、ベッドの近くにコンセントは無かったが、バッテリーで充分に事足りる。<br>
LANケーブルの長さだけ気にしながら、翠星石は枕元にパソコンを置くと、<br>
ベッドに潜り込んで肘を突き、背を反らせた。<br>
<br>
「んん~。ぬくぬく……ですぅ」<br>
<br>
準備は万端。タッチパッドでカーソルを操作して、電子メールの着信を調べた。<br>
一通、蒼星石から届いている。<br>
履歴を見ると、翠星石が床に就いた後、昨夜遅くに着信した事が解った。<br>
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「今日は、どんなメールの内容ですかねぇ。wktkですぅ」<br>
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逸る気持ちを抑えて、ファイルを開く。<br>
内容は、蒼星石の近況と、桃の節句にちなんだ画像ファイルが貼り付けてあった。<br>
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「桃の花……そこはかとなく、意味深ですね」<br>
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桃の花言葉は『天下無敵』『チャーミング』『あなたのとりこ』だ。<br>
最初の天下無敵はともかく、後ろの二つは、非常に気になるところだった。<br>
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「蒼星石は、私を魅力的だと想ってくれてるです? それとも……」<br>
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『姉さん。ボクは、姉さんのとりこ――だよ?』<br>
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「イ、イヤです、蒼星石ぃ~。なに言いやがるですか~」<br>
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脳内で蒼星石の音声を合成して、翠星石はベッドの中で身悶えした。<br>
一頻り悶絶して、ファイルを閉じようとした時、翠星石は添付ファイルが<br>
有ることに気付いた。<br>
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「? なんですか、これは?」<br>
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ファイル名は“Triffids.jpg”――画像ファイルである。<br>
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「トリフィド? ははぁん。この前の悪戯に、仕返ししようって魂胆ですね。<br>
大方、私を怖がらせようとして、グロ画像でも貼り付けてあるです」<br>
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バレバレですぅ、と得意げに呟き、翠星石はファイルを閉じ……ようとして、<br>
ちょっと考えた。<br>
今なら外も明るいし、グロ画像と言っても、そんなに気持ち悪くならないだろう。<br>
それに、怖いモノ見てみた~い、という厄介な好奇心が、頭を擡げ始めていた。<br>
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「ちょっとだけ……ちょっとだけです。怖かったら、直ぐに消してやるです」<br>
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添付ファイルをダウンロード。生唾を呑み込み、アイコンをクリックすると――<br>
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「!? はぅあっ! こここ、これはっ!?」<br>
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液晶ディスプレイに表示された画像は、ティランジアみたいな観葉植物の<br>
クローズアップ写真と、蒼星石のバストアップ写真を合成したものだった。<br>
下着姿の蒼星石が、巨大な植物の蔓に絡み付かれている様な構図だ。<br>
僅かに眉を顰めた蒼星石の顔が、やけに艶めかしく、エッチな表情に見えた。<br>
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【姉さん、事件です。ボク、トリフィドに襲われちゃったよ♪】<br>
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そんなメッセージが、添え書きされている。<br>
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「ば、バカですか、蒼星石はっ! こんな合成写真、も……も、萌える、ですぅ」<br>
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顔が熱を帯びていくのを感じながら、蒼星石の半裸を凝視しようと、<br>
身を乗り出した次の瞬間、ノートパソコンのキーボード部分に、深紅の薔薇が咲いた。<br>
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ぽた……ぽたぽた……ぽたっ<br>
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「はわわわわわっ……はは、鼻血でたですぅ!」<br>
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慌ててティッシュを取ろうとして、翠星石はベッドから転げ落ちてしまった。<br>
その騒ぎを聞き付けたらしく、祖母が階段を駆け昇ってきて、<br>
ノックもせずに扉を開けた。<br>
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「どうしたのっ、翠星石っ!」<br>
「お、おばば……なんでもな――!!」<br>
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祖母の視線が、ベッド上のパソコンに釘付けとなっているのを見て、<br>
翠星石は慌てて、ノートパソコンを閉じた。<br>
その際に、思いっ切り指を挟んでしまったが、痛みを堪えて、作り笑いを浮かべる。<br>
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「翠星石…………今のは……」<br>
「な、なんでもねぇですっ。ただの、映画のポスターですぅ」<br>
「そ、そうなの? って、大変! 鼻血が出ているじゃないの!」<br>
「あ……忘れてたです」<br>
「パジャマ、早く脱ぎなさい! 洗濯しなきゃあ」<br>
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祖母に促されて、翠星石は鼻にティッシュを詰めてから、パジャマを脱ぎ始めた。<br>
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朝からドタバタしたせいで、すっかり目が冴えてしまった。<br>
もっとも、二度寝するつもりは毛頭なかったので、あまり問題も無いけれど。<br>
翠星石は着替えを済ませると、ちょっと遅めの朝食を摂った。<br>
洗面所で歯を磨き、自室に引き上げようと、電話の前を通り過ぎたとき、<br>
その瞬間を見計らったかの様に、電話がけたたましく鳴り出した。<br>
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「ひぇっ! な、なんです。電話のクセに、脅かすなですっ」<br>
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悪態を吐きながらも、翠星石は受話器を取って、もしもし……と応じた。<br>
受話器の向こうから届くハイテンションな声が、翠星石の鼓膜を刺激する。<br>
翠星石は反射的に、受話器を遠ざけていた。<br>
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「翠ちゃん、おはようなのー!」<br>
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耳から二十センチは離れているというのに聞こえる、雛苺の声。<br>
そう言えば、今日は三月三日。五節句の一つ、上巳である。<br>
またの名を雛の節句、桃の節句とも言う。<br>
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「あー、おバカ苺? もうちょっと、静かに話すです。声が大きすぎですぅ」<br>
「うょ……ごめんなさいなの」<br>
「別に、謝る必要はねぇですよ。それより、今日は、どうしたです?」<br>
「今日は雛祭りなのー! それで、翠ちゃんを招待しようと思ったのよー!」<br>
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静かに話すように諭した側から、このテンション……。<br>
翠星石は、キーンと高周波な耳鳴りを堪えながら、受話器に向かって話しかけた。<br>
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「わ~かったです。直ぐに行くですよ」<br>
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それだけ告げて、受話器を置いた。耳鳴りが、まだ治まらない。<br>
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自宅と一体化した時計店の開店準備をしていた祖父母に、出かけてくる旨を伝えて、<br>
翠星石は、雛苺の家に向かった。<br>
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雛苺の家では、毎年、盛大な雛祭りが執り行われる。<br>
愛娘に贈る、両親の心づくしであるのは疑いない。<br>
けれど、翠星石には『普段、あまり構ってあげられない事への罪滅ぼし……』<br>
という性格が感じられる行事でもあった。<br>
見かけは盛大でも、中身が空虚な……まるで、過剰包装のお中元みたいな、寂しいお祭り。<br>
雛苺という主賓は居ても、両親という主催者が不在では、楽しい祭典になる筈がなかった。<br>
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だから、翠星石は勿論、真紅や水銀燈、その他の友人たちも含めた賓客が主催者になって、<br>
毎年、いろいろとアイデアを出し合っていた。<br>
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「今年は、真紅がホスト役になってるですね。どんな催しを考えたのやら」<br>
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去年の雛祭り――<br>
薔薇水晶がホストで、コスプレパーティーとなった記憶が、まざまざと思い出される。<br>
くじ引きで、アッガイの着ぐるみを着せられ、屈辱的な写真まで撮られたのは、<br>
青春の1ページに記された、苦い経験。<br>
まあ、ファンタジックで肌の露出度が高い衣装の蒼星石を見られたから、<br>
結果的には満足だったのだけれど……。<br>
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「真紅だったら、妙なコトにはならねぇハズですぅ」<br>
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とは思うのだが、真紅も時々、ウケを狙いすぎた事を、やらかしてくれる。<br>
さてさて、どうなる事やら。<br>
翠星石が雛苺の家に到着した頃には、既に主立った面々が、勢揃いしていた。<br>
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「今年も、みんな来てくれて、本当にありがとうなのっ!」<br>
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雛苺の開会の言葉で、宴は始まる。<br>
ジュースで乾杯の後、ホスト役の真紅が、立ち上がった。<br>
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「えぇと。それでは……私こと真紅が、今年の進行役を――」<br>
「前置きは良いから、さくさく始めるかしらー」<br>
「うるさいわねっ! 話には枕があるのだわ」<br>
「……ヒナも、早くして欲しいの」<br>
「ま、まあ……主賓がそう言うなら、前置きは割愛するわ。<br>
と言うワケで、早速、みんなで『レッツ! 利き茶』としゃれ込むのだわ!」<br>
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その一言で、座は一気に興醒めした。<br>
この、紅茶バカ一代――<br>
口には出さないが、誰の顔にも、そんな想いが、ありありと現れていた。<br>
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このまま終了? そんな空気が漂い始めた時、救いの女神が降臨した。<br>
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「えぇ~。そんなの、つまんなぁい。<br>
どうせならぁ、みんなで甘酒を作って、甘酒コンテストをしましょうよぉ」<br>
「銀ちゃん、ナイス! それで、いくかしら!」<br>
「面白そうですぅ。おばば直伝の甘酒、とくと味わってもらうです」<br>
「薔薇しぃ。私たちも頑張りましょうね」<br>
「……ラプラス秘伝の……どぶろく」<br>
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意気揚々と台所に向かう、面々。独り、ぽつねんと取り残される真紅。<br>
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「ちょっ! 貴女たち、待ちなさいっ!」<br>
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それから、なんやかや賑やかに、甘酒造りは行われて……。<br>
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一時間後、全員の前に、各人の名前が書かれた七つの紙コップが置かれていた。<br>
中身は勿論、ほかほかと湯気の立ち上る甘酒。<br>
――の筈なのだが、妙な色をしているものも、一つ、二つ。<br>
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「それでは、甘酒コンテストを開始するのだわ。<br>
こけら落としは、私の甘酒よ。さあ、じっくりと堪能しなさい」<br>
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言われて、全員が真紅と書かれた紙コップを手に取り、くいっ……と呷る。<br>
直後、誰もが珍妙な顔になった。<br>
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「なぁに、これぇ……変な味がするわぁ」<br>
「薫り付けに、ダージリンを混ぜたのだわ」<br>
「…………真紅、失格」<br>
「薔薇しぃの言う通りですぅ。こんなの、甘酒じゃねぇですっ」<br>
「し…………失……格? そんな……ことって」<br>
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跪いて、どーん! と意気消沈した真紅に代わり、金糸雀が立ち上がる。<br>
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「次は、カナの番かしら。最強にして、妙なるハーモニー、味わってもらうかしらー」<br>
「……うぇ。酷ぇ臭いですっ! なんですか、これは」<br>
「ショウガだけでなく、ニンニク、麻黄、唐辛子などの生薬を、ふんだんに――」<br>
「…………金糸雀、問! 題! 外!」<br>
「ですわね。ドクターペッパーの方が、よっぽどマシですわ」<br>
「も……問題外?! みっちゃんに習ったとおりに……作ったのに」<br>
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哀れ、金糸雀も轟沈。<br>
けれど、乙女たちの宴は、まだ続くのだった。<br>
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『保守がわり番外編 まだだ。まだ終わらんよ』<br>
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「紅いキツネは必死に笑いを堪えながら『さあ、次はタヌ公の番よ』と、<br>
翠のタヌキを促しましたとさぁ」<br>
「次は、タヌキが変身するのね~。ヒナ、ワクワクしてきたなのー」<br>
「頭に葉っぱを乗せて、翠のタヌキは、こう言ったのよぉ。<br>
『見て驚けです。月光蝶である! ですぅ』<br>
突然、もやもやもやーっと、凄ぉい煙が周囲に立ちこめたわぁ」<br>
「ご……ごくり、なのー」<br>
「……絶好調?」<br>
「……違うです、真紅。激昂腸とは、十二指腸の別称です。ランゲルハンス島ですぅ」<br>
「貴女たちって……ホントにホントに、おばかさぁん」<br>
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「――ともあれ、煙が晴れた時、そこに立っていたのはヒゲのモビ……じゃなくてぇ、<br>
真っ白な後光が眩しい、千手観音の仏像だったのよぉ。<br>
翠のタヌキは、いきなり<br>
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――――っ! ですぅ』<br>
と、紅いキツネをタコ殴りにしてしまったの」<br>
「ひ、ひいぃぃ。翠のタヌキ……悪逆非道なのよー!」<br>
「ちょ……それって死亡フラグじゃないの?」<br>
「まず、間違いなくフラグktkrですぅ。やっぱり紅より翠の方が強ぇのです」<br>
「何を言うの! 卑怯な不意打ちで勝ったって、強いだなんて言えないのだわ」<br>
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「勝利を確信した翠のタヌキが、殴る手を止めてみるとぉ……。<br>
紅いキツネは、藁人形にすり替わっていたの。いわゆる、空蝉の術ねぇ」<br>
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・・・まだまだ続く